超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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本編と並行して此方も投稿していきます。基本は"エリュシオン"の幹部キャラと生徒との絡みを書いていこうかなと。


閑話
殺人脚と正義実現委員会①


「いいねいいね~。お嬢様たちの楽園だ」

 

 "エリュシオン"の副総帥ハデスは、座乗するK808装輪装甲車のキューポラから身を乗りだし、初めて見るトリニティの情景にそんな感想を抱いた。

 歴史がありそうなレトロな建物と、近代的な印象を抱かせる洗練された建物が共存している様は確かに美しいが…ハデスを喜ばせたのは彼の部隊を遠巻きに眺めている生徒たちの存在。

 

「ほら副総帥。そんな変態みたいな目で見てたら通報されますよ?正義実現委員会とやらにしょっぴかれるかもしれません」

「うるさいよキムちゃん!そんなことしないって!まぁ、ハスミちゃんに連れてかれるって言われると考えちゃうかな?」

 

 歩兵第一中隊所属、第一小隊のキム・イェジェンがツッコミをいれた。韓国出身の男である。

 ハデス曰く歳上の弟子兼スパーリング仲間…なのだが、彼の蹴りを改造手術も受けていない常人が喰らってしまったら骨も残らないため、直接蹴り・殴り合ったことはない。

 

「はぁ。しかし、視線が突き刺さってますな…」

 

 正義実現委員会という大口からの依頼により派遣されたハデス直率の第一中隊。

 イェジェンの言う通り、K808やK151、K711A1といった、ガチガチの軍用車両で構成された"エリュシオン"の車列は嫌でも目立つ。しかも、ヘイローを持たない人間の大人が1個中隊約200人という大所帯だ。

 トリニティの生徒は無論、獣人やロボットの大人たちもスマホ片手に撮影を行っている。

 

「うんうん。皆可愛いなぁ…。それに羽生えてるし」

「正しく天使ですね」

 

 ハデスの感想に適当に答えるイェジェンだったが…。

 

(…にしてはどす黒い何かを感じるねぇ。今のとこ銃声も聞いてないし、まぁまぁ平和っぽいけど…きな臭い場所だな)

 

 視線を向けてくる生徒たち、そして目に入る景色全体を視る(・・)と、薄っすらと黒いモノがハデスには確かに確認できた。

 表立って武力行使なり口撃なりをすることはないし、それらとは無縁そうなお淑やかな御嬢様たち。そして、治安が悪いキヴォトスにしては珍しく――あくまで今のところ――銃声も聞こえない、天国のような場所であるが…。

 

(これじゃ天使…いや、堕天使かねぇ?てかここイギリスっぽいし、数枚舌は異世界でも健在ってか?)

 

 ゼウスと同様、武術を極め何度も死にかけた――というか実際何度も死んでそのたびに活法により蘇生してきた――ことで、スピリチュアルへの造詣も深いハデスには、トリニティの闇がしっかりと視えていた。

 

「…お?」

「副総帥、何か?」

 

 常人には気付けないであろう空気の変化。平和だった空気が一瞬で殺気立ったことに、ハデスはすぐに気が付いた。

 サングラスの向こう側の瞳を僅かに細め、獣を思わせる鋭さに。

 

「…祭りの音が聞こえてきた。面白そうだからちょっと寄り道するわ」

 

 キューポラからその長身を乗り出し、車上に仁王立ちしたかと思ったら、走行中のK808から飛び降りる。

 重量級とはいえ、軍用車であるK808を簡単に引き離し、風圧で近場の窓ガラスや旗、草木を震わせながら走り去っていった。

 相当加減しているらしい。本気で走ろうものならガラスが全部割れ砕け、カフェの椅子やテーブルは吹き飛んでいただろう。

 

「…やれやれ、アンタも総帥に対して強く言えねぇだろ」

 

 少し前、ゼウスに対し「頭の回る戦闘狂」と漏らしたハデスを思い出しながら、イェジェンはため息をついて中隊の指揮を引き継ぐのだった。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 正義実現委員会副委員長羽川ハスミは、愛用のボルトアクションライフルを構え、いつも通り不良の鎮圧に当たっていたのだが…。

 

「悪魔共と手を組もうと暗躍するティーパーティーの手先を打ち払えっ!!」

「「「裁きっ!!」」」

 

 ハスミが直率する正義実現委員会の部隊と相対しているのは、白い仮面を被り、トリニティ総合学園の制服を纏った生徒たち、重火器で武装したオートマタ、そして数両のクルセイダー戦車だった。

 銃を持った生徒たちだけなら、キヴォトスのあちこちに蔓延るただの不良集団に留まっていたのかもしれないが、オートマタや戦車まで保有しているとなると話が変わってくる。

 彼女たちは最早、大抵の治安部隊を相手にできるテロリストだ。

 

「く…っ!!弾幕が、厚い…!」

 

 ハスミは一歩後ろに陣取り、部員に指示を飛ばしつつ狙撃に徹していた。

 だが、相手は敏腕スナイパーであるハスミの存在を知っているのか、狙撃手の隠れ蓑になりそうな障害物を、圧倒的火力で以て破壊している。

 その度に位置を変えて狙撃を続行しているのだが、1~2発撃った程度で狙撃場所に銃砲撃が飛んできて更地に変えられた。

 目の良い敵がいるのか、それとも狙撃手の発見を容易にする機器を装備しているのか。

 

 そんな状況で効果的な狙撃ができるわけもなく、敵戦力は中々減っていない。

 前衛の部員たちへの援護も不十分なものとなってしまっている。

 

「せ、先輩!もうダメです!突破されます!」

「不味いですね…無線も使えない…!」

 

 敵の迎撃に当たる前衛の責任者である部員が切羽詰まった声色で、ハスミの狙撃位置へ伝令に走ってきた。

 ジャミング装置すらも装備しているようで、さっきから無線が使えない。援軍も期待できないだろう。

 

 また、経験の浅い新入生メインの編成であり、大規模戦闘を想定していなかったことも不味かった。

 対戦車火器の在庫も尽き、ハスミのスキル(神秘)を纏わせた徹甲弾で何とか押し止めていたが、それも敵の火力の前には不活発とならざるを得なかった。

 

「…命令です。貴女は残存戦力を纏めて戦闘区域を離脱してください。私は戦域に留まり、貴女たちの離脱を援護します」

「え!?無茶です!あの数に重火器まであるのに私たちだけ逃げるなんて…!!」

 

 当然と言うべきか、ハスミの指示に部員は断固拒否の意を示す。

 

「いえ、貴女たちは伝令です。逃げるわけではありません。それに殆ど包囲されている現状、単独行動は危険です。伝令は多人数で出すべきでしょう」

 

 ハスミは、自分が単独で時間を稼いでいる間に後輩たちを逃がそうと考えた。

 直球で逃げるよう伝えるものなら拒否されるのは目に見えているため、「伝令」という体で。

 

 ツルギ、イチカ辺りなら彼女の考えに気付いていそうだが、まだ加入して間もない新入生だ。彼女の真意には気付かない。

 それに無線が使えない今、人間が直接伝えに向かわねばならないのは確かである。

 

「わ、分かりました!直ぐに援軍を呼んできます!」

「お願いします」

 

 素直にお辞儀をして仲間の元へ走る部員を見送ると、物陰から敵情を改めて観察。

 

(クルセイダー、オートマタに…ゴリアテまで…!?)

 

 全高4メートルはありそうな二足歩行兵器…ゴリアテまで引き連れている。

 連射が効かない代わり、1発あたりの火力が高い自分のスキル(神秘)。最も効果的と思われる目標を仕留めたいと思っていたが、件の兵器を見て狙撃対象は決まった。

 

「撃ち抜く…っ!!」

 

 深紅のヘイローが輝きを増した途端、銃口から赤黒い瘴気が噴出し、引金を引くと同時に.303口径弾が放たれる。

 ソニックブームを思わせる形状の赤い衝撃波を残しながら飛翔する神秘を纏った弾丸は、ゴリアテの分厚い正面装甲へぶち当たった。

 

 重機関銃やグレネード、ちょっとした対戦車兵器程度ではビクともしない強靭な装甲が、まるでハンマーで思い切りガラスを叩いたかのように割れ砕ける。

 キヴォトスでも上澄みなハスミの神秘の力は凄まじく、装甲を砕かれたゴリアテはまるで空気を入れ過ぎた風船の如く、内側から膨らむように弾け飛び、辛うじて残った頭部と四肢の残骸が飛び散った。

 

「なっ!?ご、ゴリアテが一撃!?」

「狙撃手だ!探せ探せ!」

「…あっちです!一斉射撃!」

 

 虎の子のゴリアテが破壊されたことに動揺する敵。だが、すぐさま狙撃地点を特定してありとあらゆる銃砲を向けてくる。

 銃声や味方が撃たれた様子から狙撃手がいる地点を予測する方法が鉄板だが、1発撃っただけで、しかもこんなにも早く特定することはできない。

 音響センサーによって銃声・弾丸の飛翔音をコンピュータで処理する、狙撃探知システムを装備している可能性が高い。

 

(一体どこからあのような装備を…!)

 

 得物を携え、ビルの屋上を駆けて逃げる。すぐさま無数の銃砲撃が飛来し、さっきまで盾にしていた欄干が屋上の一角毎消し飛んだ。

 爆風がハスミの目を眩ませ、炎と飛び散る石屑を浴びてしまい、思わず銃を手放しそうになる。

 

狙撃手(スナイパー)にとって狙撃銃は命だ。何があっても得物を手放すな』

 

 しかし、あの日ゼウスに言われた言葉を思い出した彼女は、絶対に愛銃を離すまいと手に力を籠める。

 下層へ通ずる階段を降りようとしたが、チラリと道路を見れば、自分がいるビルの付近まで走ってくる歩兵と戦車、ゴリアテが目に入る。

 

(今階段で降りても、1階まで行った途端に鉢合わせ…それなら)

 

 階段を使って1階まで下る頃には、既にビルへ入られている…直感でそう察したハスミは、屋上の柵を乗り越えて縁に立った。

 10階建てのビル。肝が冷える高さではあるが…。

 

「落ち着いて、私なら行けます……っ!!」

 

 震える自身に喝を入れ、意を決し飛び出した。

 同時に黒く巨大な翼を広げて揚力を確保。羽ばたいて自由に飛ぶことはできないが、グライダーのような滑空飛行は可能だ。

 

「んなっ!?飛んでる!?」

「あいつ…羽川ハスミ!」

「撃ちなさい!あいつを倒すことができれば正実の弱体化は確実ですわっ!!」

 

 直ぐ様銃撃が飛んでくるが、そもそも銃を当てること自体難しい行為だ。空中を移動する目標へ射撃を命中させるには、それ相応の訓練を受けなければならない。

 また、彼女たちの主力装備はボルトアクション式のライフルであり、弾幕を張ることができないことも、ハスミにとっては幸運だった。

 

「ターゲット確認…!」

 

 顔のすぐ近くを掠める弾丸を横目に、ハスミは愛銃を構えて再びヘイローを輝かせ、トリガーを引いた。

 狙いは勿論ゴリアテ…それも、ガトリング砲の弾薬が満載されている弾倉部だ。

 

 通常の小銃弾ではあり得ない威力を孕んだ凶弾は、狙い通り弾倉を直撃。

 大口径ガトリング砲弾が誘爆を引き起こし、連鎖するように小規模な爆発が繰り返し発生。

 飛び散った砲弾もそこここで爆発し、機甲戦力周囲を固めていた生徒たちに牙を向いた。

 

「きゃあぁぁぁっ!?」

「あっっつ!?熱っ!?」

「こ、小癪な…!!」

 

 高温の爆炎、銃弾並みの速度で飛び散る弾片により、生徒たちは大パニック。

 隊列は大幅に乱れ、ハスミを狙い撃つ暇がない。

 

「対空戦車、撃ち落としなさいっ!!」

(…!クルセイダーAA(アンチエア)…!?)

 

 しかし、混乱した敵部隊の背後から現れた車両を見て、ハスミは顔色を変えた。

 戦車砲に代えて、ボフォース40ミリ単装機関砲を収める簡易な砲塔を据えたクルセイダー対空戦車の登場だ。

 それだけではなく、オマケとばかりに20ミリ連装機銃を装備した型も履帯を軋らせながら前進してきた。

 

 装甲車両を倒すには神秘の力が必要だ。やむを得ず、ハスミは三度ヘイローを輝かせる。

 

(っ…!頭が…)

 

 神秘の乱用は心身の消耗を早める。無理矢理力を使おうとしたハスミを不快な頭痛が襲い、吐き気がこみ上げ、視界が揺れ動く。

 それによって翼の制御が一瞬効かなくなり体勢を崩してしまうが、気力で何とか耐える。

 

 40ミリ砲の太く長い砲身を向けてくるクルセイダーに照準を合わせ、再び赤黒いオーラを纏った弾丸を見舞った。

 何発か発砲したクルセイダーの砲塔を徹甲弾が貫き、弾薬を誘爆させて派手な花火を上げさせる。

 

――ドパァンッ!ドパァンッ!

「がっ!?ぐぅ…っ!?!?」

 

 だが、最後っ屁で放たれたクルセイダーの40ミリ砲弾がハスミの至近で炸裂した。40ミリ以上の砲弾に装備されている近接(VT)信管によるものだ。

 炸裂した砲弾の弾片と爆炎、爆風、そして内部に仕込まれている無数の子弾が、真横へのスコールのようにハスミの身体を打ち据える。

 至近距離の炸裂を受けて爆風に煽られ、銃弾並みの速度で降り注ぐ鉄球を浴びた彼女は、散弾銃を喰らったヒナドリのように道路へと墜ちていった。

 

「が……ッッ!?!?」

 

 受け身から最もかけ離れた姿勢で硬いコンクリートに叩きつけられる。キヴォトス人とはいえ、手負いの状態で上空数十メートルから落下すれば、それなりに痛い。

 

「う゛っ…!!ご…お゛え゛ぇぇ……っ!?」

 

 腹を強打し、胃の中のものと一緒に血を吐き出し、酸性の液体が食道と口内を焼いた。

 頭から血を流し、神秘の乱用により未だ視界も不明瞭、体中が子弾と断片に打たれ、裂かれたことで切り傷と痣だらけだ。

 うつ伏せのまま呻きながら息を整えようとするが上手くいかず、立つこともままならない。

 

「よし!奴は死に体だ!」

「やってやりましたわ!!」

「ぼさっとしない!さっさとあいつに止めを刺しなさい!トリニティの裏切り者を始末するのですっ!!」

 

 勢いを取り戻した不良集団が、最早戦闘不能なハスミへ容赦なく攻撃を下す。

 歩兵の小銃、機関銃、グレネード、クルセイダー対空戦車の20ミリ機銃、ゴリアテのガトリング砲と頭部に装備した榴弾砲ベースの155ミリ破砕砲…ありとあらゆる火力が、たった1人の生徒へ注がれた。

 剣先ツルギ、聖園ミカといった面子でなければ耐えられないであろう、圧倒的な火力によるゴリ押し。

 

「……ッッ!!!!」

 

 破局を予感し、それでもゼウスの教えを死守せんと愛銃のグリップを潰さんばかりに握った瞬間、ハスミの視界は業火で埋め尽くされた。

 

--------------------------------------------------

 

「いた!いました!こっちです!」

 

 満身創痍だったハスミに向け、たっぷりと30秒近く火力投射を続けていた仮面集団は、攻撃が終わった後の更地を捜索していた。

 

「ふぅ、手古摺らせてくれましたわね。ですが、これでいい材料が手に入りましたわ」

 

 リーダーの目の前に横たわるハスミ。

 ただでさえ痛々しい状態だったが、その傷でさえも今の攻撃によって負った深傷に埋もれてしまっている。

 瞼は辛うじて開いているが、その虚ろな瞳は仇敵の姿を映さない。

 ヘイローは今にも消えてしまいそうなほど薄く、時折明滅を繰り返していた。

 

 これでもまだ生きており、キヴォトス人の生命力の高さを物語っているが、放っておけば命に関わる状態なのは間違いない。

 

「手負いの生徒、それも正義実現委員会のNo.2を人質に取っているとなれば、ティーパーティーも正実も迂闊には動けないでしょう」

 

 彼女らの狙いは、ティーパーティーが推し進めているとある条約の阻止。

 たった今確保したハスミの身柄を盾に、締結阻止を試みるのだ。

 

「ん゛…っ!?な、指が離れない…!」

 

 武装解除のため、未だグリップを握る指を剥がしにかかるが離れない。

 意識など既に風前の灯火なのにも関わらず。

 

「ご、強情ですわね…早く放しなさい!」

 

 たが、体重をかけて指を剥がそうとしても、はたまた手や顔、背中を踏みつけても、ハスミの指は全く動かない。

 追い打ちで痛め付けられても、絶対に銃を手放さないという強い意思が浮き出ている。

 

「この、死に損ないめ…!」

「い、いえ。流石に死んでしまっては困りますわ…」

「仕方ありません。これ以上痛め付けるのは止しましょう。殺人犯に堕ちるのは御免です。…取り敢えず、護送中は見張りを数人付けましょう」

 

 何をしても銃を放さず、かといって手放すまで四苦八苦していれば増援がやってくるだろう。

 結局、武装解除は諦めてそのまま護送することに決まった。部下の生徒に指示を出し、護送車の荷台へ乱雑に積み込んでいく。

 その直後だった。

 

「――ェイヤァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!」

「「「ッ!?!?」」」

 

 周囲一帯に響き渡る気合いの入った怒声。思わず"ギョッ"とした生徒たちは辺りを見回す。

 刹那、轟音と共にゴリアテの上半身が消えた(・・・)

 上半身の喪失に気付いていないかのように立ち続けている下半身は、まるで日本刀で首を刎ねたような綺麗な断面が残っている。

 

 細かな破片が周囲に散らばる中、彼女たちの目の前に巨体が降り立った。

 黒いコート、崩れた金髪オールバック、腰に差した黄金色のウィンチェスターM1887ショットガンが目を引く、キヴォトスでは全く見ない身長2メートルの、ヘイローがない人間の男性だった。

 

「ハスミちゃん!大丈夫かい!?」

「なっ!?いつの間に!?」

 

 いつの間にか、手の中へ重症のハスミを収めていた男が彼女の容態を確認。

 顔色を変えた生徒が護送車の荷台を見るが、たった今放り込んだばかりのハスミは影も形もなかった。

 

「う…あ゛…っ」

「…律儀な娘だねぇ。ゼウスの言う通りにしてやがるよ、全く…」

 

 グリップを力強く握る手を見ながら、男――ハデスは心から関心した声を上げた。

 コートに着く血を気にせず、片手でハスミの腰を抱きながら立ち上がると、サングラス越しの鋭い目を生徒たちへ向けた。

 

「…お嬢様同士の小競り合い…にしちゃあ、随分やり過ぎたねぇ。君たち」

 

 身長205センチのハデス。大きい者でも160センチが精々な生徒たちは、その巨体に見下ろされる格好だ。

 そして、数々の死線を潜り抜けてきたハデスの殺気(・・)。それに当てられた彼女たちは見るからに怯んだ。

 

「な、何なのですか貴方は!?」

「それはこっちの台詞だって。カワイ子ちゃんたちは一体何やってんのよ?中東のテロリストごっこ?」

「かっ///!?へ、ヘイローのない一般人が首を突っ込まないでください!部外者はとっとと立ち去りなさい!」

「テロリストですって!?私たちは悪魔共を手を組もうと暗躍するティーパーティーの尖兵に裁きを下しているのです!聖戦ですよ!!」

「『聖戦』はイカれたテロリストの常套句なんだよなぁ。まぁとにかくよ。俺は治安維持協力のためにここ来てんの。つまり君らみたいな犯罪者を鎮圧しなきゃならんわけ」

 

――ズダァンッ!!

「ぐはっ!?!?」

 

 瞬時に腰のホルダーからM1887を抜き取ると、手近な生徒に発砲。

 彼が好みで使用しているスラグ弾の威力は格別だ。熊等の大型動物を仕留める凶弾を眉間に打ち込まれた生徒は、プロボクサーのパンチを喰らった素人のように吹っ飛ぶ。

 

「うっわ、今ので頭ミンチにならない奴久々だわ。こりゃ喧嘩の延長線で銃持ち出すわけだ」

「い、いきなり撃つなんて…!!」

 

 生徒たちは銃を向ける…が、それだけだ。

 

「…え?撃たないの?まぁありがたいけど、俺逃げちゃうよ?」

「…っ!?あ、貴方今銃を向けられているんですよ!?」

「え?うん、そうだね。で?」

「し、死んでしまうかもしれないんですよ!?」

「それは君たちには関係ないっしょ?…てか、敵を前にしてこんなやり取なんてする?普通。ほら、敵なんだからしっかり狙って撃ちなさいって、ここをさ」

「あっ!?ちょ…っ!?!?」

 

 瞬時に間合いを詰めると、生徒の1人が構えるリー・エンフィールド小銃の銃身を掴み、銃口を自身の胸へ押し付けた。

 「ほら、撃てよ」と言わんばかりの視線を向けられたその生徒は、顔を青ざめさせてガタガタと震えていた。周りの生徒も同様であり、ハデスの行動を人ならざるモノを見る目で見ていた。

 

(あ~。銃撃たれても爆破されても死なないってことは…この世界の連中、人を殺したことはないのか。変な世界観だな)

 

 地球よりも遥かに引金は軽く、しかし殺人という罪の重さはそれ以上に重く、どんな悪党でも忌避している。

 キヴォトスの歪んだ倫理感は、ハデスにとって違和感しかなかった。

 

「おっとハスミちゃん…!そんじゃ、ここらで失礼するよ!」

 

 気息奄々なハスミをすぐさま治療しなければならない。テロリストの排除よりも優先だ。

 固まったままの生徒たちからバックステップで瞬時に距離を取ると、彼はその長い脚を伸ばしたまま真上に掲げる。

 ハスミを片手で抱えながらの片脚上げ。凄まじいボディーバランスだ。

 

――ブオッ!!

 

 ネリョチャギ…テコンドー版踵落としだ。

 "エリュシオン"幹部中屈指の蹴撃の威力を持つハデスのそれは、地面を直接蹴りつけていないにも関わらず、蹴りの風圧だけでアスファルトに蜘蛛の巣状の亀裂を走らせ、クレーターを作ってしまった。

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁっ!?!?」」」

 

 無論、至近距離で踵落としの爆風を喰らった生徒たちは残らず吹き飛ばされた。

 さらに、蹴りの衝撃波はアスファルトの地面を陥没させ、足元を取られた生徒は勿論、戦車やゴリアテですら擱座してしまった。

 

「もうやんちゃするなよ~…よっと!」

 

 "エリュシオン"最強の蹴りを生み出す脚力は凄まじく、一飛びで10階建てビルの屋上に到達。

 

「ちょっち急がないとヤバいね…持ってくれよハスミちゃん」

 

 取り敢えず学園に連れて行こう…と即断した彼は、ビルを伝って全力疾走。

 無論、ハスミや周囲に影響がない程度に加減して。

 




感想いただけると嬉しいです。
後々幹部キャラの設定書きます。
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