何かブルアカ熱も下火になってきました。私、結構飽き性ですね。
その分アズレン熱が戻ってきた感じです。
「それで、ハスミ先輩が1人で残ってるんです…!」
「それは…マズいっすねぇ…」
戦闘区域から何とか離脱した生徒からの報告を受けた仲正イチカは、飄々とした普段の態度を崩し、焦燥に満ちた声音で独り言ちる。その額には一筋の汗が流れていた。
現在、ティーパーティーが推し進めている条約――エデン条約の締結に反対し、実力行使する団体を取り締まっている最中だ。
新入生に経験を積ませる為ということで、副委員長ハスミが直々に部隊を率い、後輩たちのサポートに当たっている。
しかし、伝令として前哨陣地に帰還してきた生徒によれば、相手は武装した生徒に加えてクルセイダー戦車、同対空戦車がそれぞれ数両、オートマタやゴリアテまでもが出張ってきているという。
対狙撃レーダーなどの最新装備すら持ってきているらしい。敏腕スナイパーであるハスミへの当てつけと言える代物だ。
「ハスミ先輩の腕を疑ってるわけじゃないっすけど…」
「流石に数が多すぎますね…それに、狙撃手にとって相性が悪い状況です」
愛銃"レッドドラゴン"をスリングで肩に掛けながら呟くイチカに話し掛けるのは、身の丈を遥かに越える全長の対物ライフルを傍らへ置いた少女。
静山マシロ。1年生ながらハスミに劣らぬ狙撃手であり、彼女の後継者との声もある。
彼女の推測通り、火力と兵力に物を言わせた相手の戦術はハスミと相性が悪い。
「…」
「ツルギ先輩…」
奥の席に座り、心配そうに俯いてそわそわしているのは、正義実現委員会の委員長剣先ツルギ。
『トリニティの戦略兵器』の異名を持ち、戦車だろうがオートマタだろうが、敵対する全てを破壊し尽くす彼女は、親友が敵中に孤立している状況に居ても立ってもいられない様子だ。
それでも、自分が暴れれば周囲への被害が甚大になることを分かっているため、逸る気持ちを必死に抑えていた。
(最悪、ツルギ先輩に出てもらうのもありっすけど…)
イチカは心中で呟く。ツルギなら、相手の兵力など物の数ではない。1分…もしかしたらそれ以下で片付くだろう。
だが、余計な破壊をもたらすというのもまた事実。ツルギも周りへの配慮はしているらしいが、戦闘中はどうしても気分が高まってしまい周囲が見えなくなってしまう。
「…私が陣頭指揮を執るっす。動ける子は全員戦闘準備を!」
「「「了解!」」」
ただでさえ、ティーパーティーから「ツルギが戦闘した際の周辺被害」について苦言を呈されている状況。彼女を前線に派遣することは難しい。
ハスミの身の安全には代えられない、即刻ツルギを行かせて救出するべき…という意見は尤もだが、上位組織の命令を違えるわけにはいかないのだ。
――ガタンっ!!
「キ…キヒヒヒヒ…!!」
「あっ!?ツルギ先輩はダメっす!!」
我慢ならなくなったのか、愛銃"ブラッド&ガンパウダー"を両手に持ち、音を立てて椅子から立ち上がるツルギ。
こうなってしまっては、正実の誰にも彼女を止めることはできない。
「キヒャアアアアァァァァっ!!!!」
出口に飛びかかる彼女は、最早ドアノブを回す数秒さえ惜しいようだ。
右の拳を思い切り突き出し、トリニティらしい華美な扉を木端微塵に破壊して飛び出そうと試みる。
また始末書が増える…イチカはそう確信して内心頭を抱えたその直後。
「失礼しまsうえぇぇぇっ!?!?」
「――ァァァァ…す、すまない」
ツルギの拳が届く寸前に扉が開けられ、正義実現委員会の部員が血相を変えて入ってくる。扉を開けたら目の前に凄まじい形相のツルギがいたため、彼女は思わず絶叫を上げた。
ツルギも、後輩を驚かせてしまったことを詫びる。蝋燭をフッと吹き消したかのような落ち着き具合だ。
「あ。え、えっと、その…先日依頼した"エリュシオン"の部隊が到着しまして…」
「あ、あぁ…そういえば依頼してたっすね。取り敢えず、ハスミ先輩の救出が終わるまで待機してもらうっす」
ハスミの口利きで、トリニティの治安維持に協力してもらう為に依頼した組織。
一瞬、彼らにも協力してもらおうと思ったが、到着直後で戦闘準備は整えていない筈だし、長駆トリニティまで来てもらった上、挨拶もそこそこに戦闘へ参加させるのは忍びない。
「い、いえ。それが…道中でハスミ先輩を回収したとのことです。専門的な治療機関への移送が
必要だと申しています。『重症且つ、キヴォトス人の治療には自信が持てない』とのことで…」
「「「……え?」」」
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「いや~、助かったよスズミちゃん。現地民の道案内はナビに勝るってね。ハハハ!」
「い、いえ!困っている方々がいれば助けるのが自警団ですから!」
K808装輪装甲車のキューポラから2メートル越えの長身を乗り出すハデス。その隣のキューポラからはスズミが実を乗り出し、陽気に笑う彼の巨体――"エリュシオン"メンバー中最高の身長220センチ。ゼウスですら189センチである――を時折気にしながら会話していた。
(先生も背が高かったですけど、ハデスさん…本当に大きいですね。ハスミさんよりも背が高い方なんて初めてです)
ナビゲーションでは必然的に混雑する大通りを通らされ、ハデス率いる車列が通行に支障を来している中、遠巻きに第2歩兵中隊を眺めていたギャラリーにスズミがいた。
ハスミを救出して自らの中隊の合流、彼女の身柄を部隊に随伴している衛生兵たちへ委ね、トリニティへ向かうまではよかったが、渋滞にハマってしまったハデスたちを見かねた彼女が駆け寄り、道案内を提案。
キヴォトス人からすれば得体の知れない連中である彼ら。話しかけるのはかなりハードルが高いようで見て見ぬふりを貫いていたが、スズミは困っている人間を放っておくことができなかったようだ。
「にしても、今日は土曜日だぜ?折角の休日なのに物騒な物持って、スズミちゃんは何してたのよ?」
読心でスズミがおどおどしているのを察したハデスは、それとなく話題を提供。
チャラチャラしているが、読心を会得している程度には鍛えている。これでも"エリュシオン"のNo.2であり、ゼウス、テュポーンらとタメを張る強者なのだ。
「えっと、自警団として街のパトロールに…」
「…え、マジ?」
何てことないように応えるスズミに対し、本気で驚くハデス。普通の人間なら、銃弾飛び交う場所を任務でもないのに見回るなんてことはしないだろう。
それに、『自警団』ということはただのボランティア活動。どんなに頑張っても給料は出ないし、弾薬の補給や怪我の治療といった補償もない。言ってしまえば『やり損』である。
「はぁ~。でも、いくらキヴォトス人だって弾は食らいたくないんでしょ?何で態々そんなことを?」
キヴォトス人は銃撃程度では死なないとはいえ、打撲や痣ができる位のダメージは負う。痛い目に遭うリスクを負ってまで人助けをするなど、中々できることではない。
「放っておけないんです。困っている人とか、理不尽にな目に遭ってる人とか…本当に、それだけなんです」
何てことないと言わんばかりに言い切るスズミ。読心で心を覗かなくとも、それが本心なのだとすぐ分かるようなはっきりとした口調。
まるで、絵に描いたような正義のヒーローの考えだった。
ハデスやゼウスをはじめ、最重要機密部隊に所属していた過去を持つ幹部連中も、所属当初はそういった志を持っていた。
しかし、無茶な実験・手術の命令、実験に失敗したとしても当事者を処理した上で更なる禁忌に手を染めるばかりか、自国の民すらその試し斬りの材料にしようとする上層部。軍人…それも、国家に忠誠を誓った選りすぐりの最重要機密部隊員という立場上、彼らの意に沿って動かねばならなかった。
結果として、ハデスたちは『正義のヒーロー』とは程遠い活動を余儀なくされていた身だった。そんな彼らからすれば、絵に描いたようなヒーローの如き理念を持ち実行しているスズミは、立場も年齢も関係なく尊敬の対象だ。
「…」
「――ひゃっ!?!?は…ハデスさん!?何を…!?」
『お、セクハラですか?副総帥殿』
「蹴り飛ばすよ、キムちゃん?」
流れるような動作で、ハデスは脚に劣らず長い腕をスズミの頭頂部にやって撫で始める。
後続のK808に乗り組んでいるキム・イェジェンの無線も、顔を赤くしているスズミの反応も他所に、艶やかな白髪をナデナデし続ける。
「悪いね~。感動して思わず撫でちゃったよ。こりゃあ簡単には手離せないわ」
「えぇ…!?そ、そんな…恥ずかしいですし…!!その、早く離していただけると…!!」
「無理。俺もゼウスも、スズミちゃんみたいな志の娘、大っ好きだからねぇ。ハハハハ!」
「だ、大好き…っ///!?」
別に変な意味は無いのだが、『大好き』という単語に湯気が噴き出すほど顔の赤みを深し、縮こまるスズミ。
その様子に呆れた表情を浮かべるイェジェンだった。
よろしければ感想の方をよろしくお願いいたします。
次回は本編か、ハデス×正実の続きになると思われます。