ですが、皆さん。実際のPMCもミラージュやチーターといった戦闘機を十数機単位で運用してるところもあるんですよ。
――ハスミside
言いたいことは色々あるが、先生は凄いという言葉では収まらない人だった。
キヴォトスの外からやってきて、常識外だらけの世界に驚くばかりかと思ったら、外でも同じだったとばかりにこの環境に順応し、私たちの指揮を執る。
驚くべきことに、ヘイローがないにも関わらず、ホローポイント弾で撃たれてもほぼ無傷、腕からワイヤーを発射して建物に突き刺し、私を抱えてビルの屋上までひと飛びするなど、キヴォトス人たる私から見ても凄まじい身体能力。
不良程度なら即座に鎮圧してしまうだろうと思わされる先生だが、やはり万一のことが起こらないとも限らないため、あまり戦ってほしくはない。
だが幸いにも、先生はマシロと同じ対物ライフルの使用者らしく、前線では戦わないようだ。後方支援なら危険も少ないため、私は何も言わなかった。
マシロが使うものと同じような、普通の人間1人が使うには身に余る大きさの得物を手慣れた様子で確認していることから、それなりに使いこなせてはいるのだろう。
「さて…生徒指導、とやらの時間だな」
先生がそう呟くと同時に、引き金を引いた。
……瞬く間に3発を。その全てが、1.5キロほど先の通りへ陣取る2両のテクニカルと1両の軽トラックのボンネットに命中、榴弾若しくは焼夷効果のある弾丸を使用しているのか、爆発と共にそれらは燃え上る。
銃手が慌てふためいて逃げ始め、突然車両が炎に包まれたことに不良たちが動揺し、銃撃が幾らか弱まった。
「ッ!?」
当然だが、対物ライフルの反動は凄まじい。
マズルブレーキやリコイルスプリングなど、反動を抑える機構が取り入れられているとしても。
先生のライフルは、明らかに50口径以上の弾丸を用いる、対物ライフルの中でもかなり大型の部類。威力は勿論、反動もかなり大きいはずなのに、立ち撃ちの状態で3発を瞬く間に連射、しかもその全てを1.5キロ離れた異なる目標へ命中させている。
反動への耐性、照準速度の速さ、純粋な狙撃のセンス…全てにおいて、練達という言葉では言い表せない技量だ。
「っ…!私も…!」
先生の常軌を逸した狙撃に驚愕しっぱなしだったが、私も任務を果たさなければならない。
指示通り、カフェ近くに展開している敵分隊…その指揮官を次々と狙撃していく。指揮官の指示に依存していたのか、強烈な狙撃を受けて昏倒した指揮官の戦線離脱によって、他のメンバーは見るからに動揺しだした。
「今だスズミ。突っ込め」
『はいっ!!』
通信機の向こうにいるスズミさんへけしかけるように指示を飛ばす。
即座に、カフェに身を隠していたスズミさんが、店名が書かれたガラスを破って大通りへ飛び出した。
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――スズミside
『今だスズミ。突っ込め』
「はいっ!!」
先生の、素っ気なくも背中を押してくれるような声が聞こえると同時に、私は
…先生は、何とも物好きな方だと思った。
私はツルギさんやハスミさんほど強くないし、正義実現委員会の方々のような立派な志を持っているわけではなく、ただ己の正義感に駆られて設立した、小さな自警団のメンバーに過ぎない。
ついでに言うと、愛想がないし、可愛くないし、地味だし、女の子らしくないし…。
そんな私に、先生は大きな期待を掛けている。
あれほどの規模の不良集団と対峙した経験がなく、不安を正義感で無理やり押し殺していた私に呆れたり、怒るなんてせず、安心させるような、けしかけるような言葉を掛けていただいた。
どういうわけか、先生の素っ気ない言葉には謎の安心感と説得力があった。出会って間もなく、お互い何も知らないはずなのに。
それに、こんな私を信じ、敵部隊への切り込みという大役を任せていただいたこと、自警団活動を褒められたことは、とても嬉しかった。
先生のお陰で、先ほどまで感じていた恐怖や不安はもうない。
…カフェから出て10秒と経たずに遭遇した、5人の分隊。
指揮官らしきSMG持ちの不良はヘイローが消えて気絶しており、周りのミニガンや自動小銃、スナイパーライフルを持った少女たちが慌てふためいて辺りを見渡している。
先生の言葉は本当だった。不良たちは狙撃により指揮系統が瓦解し、戦闘など思いもよらない状態である。
「天罰の光を!」
すぐさま、閃光弾を取り出して分隊の直中へ放り投げ、被害を免れるべく自らは瓦礫に身を隠す。轟音と閃光が一帯を席巻し、不良たちの悲鳴も聞こえてきた。
直後に私は突進し、目と耳を抑えて呻く不良たちに向けて、
突然の奇襲に対応できるわけもなく、5.56ミリ弾のヘッドショットにより次々と倒れ、10秒足らずで一個分隊は戦闘不能となった。
『上等だスズミ。手際が良いな』
「はい!ありがとうございます!」
どこからか見守ってくれていたのか、さっきと同様、褒めてくれる先生。
褒められる経験に慣れてないが、嬉しいというか、どこか心がほわほわする。不思議な感覚だ。
『敵一個分隊当たりの戦闘所要時間を最低20秒以内に収めろ。無理して全員倒そうとするな、一撃離脱で行くんだ』
「はい!」
不良たちの練度は高くないが、いつ側面攻撃に気付くかは分からないため、一個分隊あたりの戦闘に時間はかけられない。
それに、統率が取れずダメージも大きい分隊は、ユウカさんと共に前線を張っているゲヘナ風紀委員の方々が容易に拘束していくだろう。
自分は、全ての敵分隊に満遍なく攻撃を加えていけばいい。とにかく敵を混乱させ、前進のきっかけを作るのだ。
「これは痛いですよ!」
戦闘不能になった敵分隊を横目に、新たな敵へ吶喊。先ほどと同様、閃光弾を投擲して目をくらまし、愛銃での射撃と体術で制圧。
今回は、時間内に分隊全員を倒しきれずに、狙撃銃を持った不良1人を逃してしまったため、彼女の制圧は後から前進してくるであろうゲヘナ風紀委員に任せることにした。
「よくもやってくれたな!喰らえッ!!」
「ッ!?」
不良の1人が、テクニカルに搭載している機銃を私に向けている。
マズい、これは確実に1~2発喰らう…そう直感した瞬間。
――ドォンッ!!
遠くから聞こえた、対物ライフルクラスと思しき巨大な銃声。刹那、不良の構える機銃が弾け、引き千切られた銃身や銃床、グリップが四方へ飛び散った。
「ぐぼぇッ!?!?」
ほとんど同時に、不良の胸元で小爆発が発生して吹き飛ばされ、30メートル程宙を舞って外壁に叩きつけられた。
遠距離狙撃が銃を直撃して破壊し、それだけでは飽き足らず不良の胸を穿ったようだ。ヘイローがある限り、こんな派手な一撃でも死ぬことはないが、暫くは起き上がれないだろう。
『スズミ、大丈夫か?』
「はい…今のは、先生が?」
『あぁ。…ハスミ、あれでも死んでないのか?』
『はい。あの程度で死亡することはありません』
先生が、狙撃によって私を助けてくれた。
周りを見渡しても姿が見えないため、相当な長距離から狙っていたのだろう。
キヴォトスの住民の頑丈さに驚いている様子だったが、ではホローポイント弾を喰らってケロリとしている先生は何なんですかと問いたい。
もしかして、キヴォトス外の大人は皆あのような感じなのだろうか。だとすれば、キヴォトスと同等かそれ以上の魔境だ。
「スズミ、足を止めるな。敵はまだいるぞ」
「は、はいッ!ありがとうございました!」
先生の呼びかけに我を取り戻し、私は新たな敵へと向かっていく。
「大人しくしろッ!」
「うわぁ!?何だお前ら!放せっ!」
「ゲヘナ風紀委員会だ!お前たちを拘束する!」
私が散々に引っ掻き回した敵分隊に向け、チナツさんが連れてきた風紀委員が突入し、サムカフで不良たちを拘束、武器を没収し、後続の車両へと放り込んでいく。
ここはヴァルキューレの管轄であるため、矯正局へと送られるのだろう。
戦闘のダメージが著しい不良たちは、真面な抵抗ができずに風紀委員たちの餌食になっていき、最早ただの作業であった。
(先生、凄い…)
相応の被害が出るのを覚悟していたのに、先生の指示の下戦闘を行った結果、此方には目立った被害を出さず、戦略的な勝利を収めつつある。
先生の采配には、驚くばかりだった。
この分だと、今回の騒動も早く済みそうだな…と、戦闘中にも拘わらず、余裕のあまりそんな考えが心の片隅に浮かんでいた。
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――???side
「ったく。いつの間にか全く知らない不思議世界に放り出されたと思ったら、カワイ子ちゃんたちが街を破壊しまくってるってどこの世紀末だ?ゼウスの奴も消えちまうし…あ、もしかして俺がニューリーダーか?」
「うるさいです。それに、元の世界も大概世紀末でしたよ?」
「…ゼウス様」
広々とした作戦室。
オペレーターたちが忙しなくコンソールを操作するその裏で、大きな机に黒づくめの男女が3人座り、その周りを十数人の組織幹部が立って囲んでいる。
久しぶりに全員がこの拠点に集まったことを記念し、昨日行われたパーティーで飲み食いし過ぎて二日酔いになってしまった者もいたが、この非常事態の中、そんなことで休むわけにはいかず、不調を抑え込んで任務に当たっていた。
組織の中でも、殆どの幹部クラスが軒を連ねている机に座る、3人の男女。
男は金髪をオールバックにした青年。丸レンズのサングラスをかけ、ゼウスと同じ漆黒の革製ロングコート、その下には黒のカッターシャツとズボン、純白のネクタイを纏っている。
彼の左隣には、長い黒髪で黒い肩出しのロングワンピースを纏い、耳や口元にピアスを開けた若い女が座っている。
右隣に座るのは、黒いレザーブラウスとショートパンツ、黒いコートを羽織り、黒い刀を携えた、先端が赤くなっている黒髪を腰まで伸ばしている若い女だ。ゼウスのことをかなり慕っているらしく、様付けだった。
「しかし副総帥。設備や装備、そして我々がいきなりこの場所へ転移したとして、何故ゼウス総帥だけが行方不明に?あの御方も、外出せずに此方へ留まっておられたというのに…」
「そこは分かんねぇな…。何でゼウスだけがハブられたか…ま、あいつなら何とかやってるだろ」
周りの幹部の1人から投げられた質問に、サングラスの男はバツが悪そうに応えた。人によっては適当そうに感じる応答だが、この場の全員が「まぁ、総帥のことだしな」と納得した。
「だけど、全部隊の帰還後での転移騒動…このタイミングは何かありそうですねぇ…」
「…何者かに呼ばれたと?施設や私たち全員…いや、"エリュシオン"そのものが?」
「その誰かさんが敷地全部を別の場所へ移動させることができる超能力者だってか?…まぁ、とにかく。今は情報収集だ。おい、何か新しい情報はねぇか?」
男は席を立ち、コンソールを操作するオペレーターに近付く。
先ほど小型ドローンを飛ばし、情報収集にあたらせていたのだ。結果、元の世界でも見られない高層建築が乱立する街と、そこで女子高生が銃を撃ちまくっている現場を確認することができたわけである。
因みに、このドローン"ポダルゲ"は民生のクワッドロータードローン――4つのプロペラを持ったドローンのことである――に、バッテリー・モーターの改良や高解像度カメラへの換装、サーモグラフィーの搭載といった改造を施したもので、ドローンとしては高い速度性能、長い航続時間とそこそこのペイロード、優れた偵察能力を兼ね備えた代物だ。
先にゼウスが吸っていた無害タバコ同様、前の世界では様々な国・組織に売りつけ――ゼウスが直々に相手を注意深く見極め、信用に足ると判断した勢力のみと取引をしている――、少なくない活動資金を得るのに成功している。
「第二勢力と思しき集団が参戦しています。こちらも少女ばかりですね」
「どちらかに介入すべきでしょうか…?」
「いや、今んとこは静観…ん?おい、あの5階建ての屋上」
男の指示を受け、オペレータはドローンのカメラを操作し、指定されたビルの屋上にカメラを向け、ズームした。
モニターに映ったのは、狙撃銃を構える長い黒髪の少女。そして…。
「…さっき言ったことはなしだ!第二勢力に着くぞお前等ぁ!!あいつが理由なく味方してるわけがねぇ!!」
「「「はっ!!」」」
ひとまず、無駄な戦闘は避ける方向で行こうとしていた男だが、少女と行動を共にしていた人物を確認するや、音速で自らの考えをひっくり返した。自らが慕う人物を認めた幹部たちも、それにすぐさま追随。
総帥の行方不明に焦りを禁じえなかった彼らだが、今やテンションは鰻登りだ。それからの彼らの動きは速い。
「第3航空団から1個小隊頼む。ビョンホン、お前んとこの
「了解」
「私も同行します」
バッコスと呼ばれた偉丈夫が返答し、副総帥の右隣に座っていた刀持ちの女が、ゼウスの下へ向かうべく有無を言わさない口調で言う。
「言うと思いました。…あの不良みたいな娘たち、私たちのところに来てるみたいですね。私は基地の防備を固めておきます」
「OK。…さて、仕事熱心な総帥殿をお迎えに上がるとするかねぇ」
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