超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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ブルアカ世界の戦車は1人でも、規定乗員数でも操縦できるという捏造設定です。
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哀れ不良たち④

狐の面、花柄の黒い着物、銃剣を装着した九九式歩兵銃。

 不良生徒たちを率いてシャーレ一の建物周囲一帯を占拠した孤坂ワカモは、その仮面の下で凄絶な笑みを浮かべた。

 

「フフフ…❤では、連邦生徒会が大切にしている何か…壊してしまいましょうか」

 

 今回のような凶悪事件を何件も起こし、矯正局送りになっていることを考えれば、逆恨みも甚だしい。

 

「…あらあら?」

 

 振り返り、遠巻きに見えるシャーレの建物を見据えるワカモが、疑問の声を漏らす。

 シャーレの後方に、丈高い管制塔のような構造物が建っている様がちらりと見えた。さっきまでは、あのようなものはなかったというのに。

 

 なお、この建物が出現した際、眩い光が一瞬だけ発せられたのだが、戦闘の狂騒と爆炎により全く気付かなかった。

 

「う~ん…気のせい、でしょうか?まぁ、それよりも」

 

 不自然に思い、首を傾げるワカモだったが、迫る目の前の脅威が無視できないため、抱いていた違和感を傍に置く。

 

「連邦生徒会の子犬たちがやって参りましたね…お可愛らしいこと」

 

 不良たちを蹴散らしながら、シャーレへと迫る生徒たち。

 しかし、彼女は尚も余裕そうだ。相手を挑発するような態度を崩さない。

 

「さぁ、早く大切な物とやらを破壊して帰りm…」

 

 直後、ワカモと彼女の取り巻きである不良たちの周囲で、無数の爆炎が沸き立った。

 

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『弾着…今!敵集団への直撃を確認!』

 

「全車待機。着弾地点をUAVで探らせろ」

 

 民間軍事会社"エリュシオン"――荒廃した前世界に於いて、そこらの中小国を圧倒し、大国にすら軍事行動を躊躇させる大規模民間軍事組織。

 

 それに所属する機動砲兵隊"ビルスキルニル"が保有する自走榴弾砲K9EL 16両は、第一射を放ったまま砲撃を中止した。

 砲兵隊が保有するKUS-FS/EL UAV――韓国製UAVのKUS-FS"エリュシオン"仕様による敵座標の精密測距、K9EL各車へ搭載されているデータリンクシステムの恩恵により、試射の段階で敵部隊へ命中している。

 

「うん?直撃したはずだが…」

 

 ドローンにより齎されるサーモグラフィ映像が映る端末を見ながら、"ビルスキルニル"指揮官ディミトリー・アンドレーエフは独り言ちる。

 

 彼は、元ロシア陸軍の砲兵師団に所属していた兵士だったが、核戦争による混乱に乗じ、部下と共に崩壊しかけた軍を抜け、当時まだ規模が遥かに小さかった"エリュシオン"と合流した経歴の持ち主である。

 正式に入手した韓国製K9自走榴弾砲が一定数揃った際、元ロシア陸軍砲兵師団所属という経歴に目を付けていたゼウスにより、現在の役職へ配置された。

 

 ゼウスは年下だが、彼のことは尊敬しており、寧ろ行く当てのない自分たちを雇ってくれたことに深く感謝していた。

 

「全員が五体満足…。それに何人かはまだ動いているな」

 

 前の世界の戦場なら、四肢を欠損したり、爆風で吹き飛ばされた兵士やその死体、誰のものかすら分からない肉片が散乱していたところだ。

 にもかかわらず、防弾チョッキすら着ていない少女たちが、五体満足で伸びているだけ、若しくは逃げようとしている。この世界の少女の身体はチタン合金でできているのか…そんな考えが沸く。

 

「…しょうがない。効力射を実施。取り敢えず2斉射叩き込め。敵座標の情報を逐次共有、逃すなよ」

 

 驚きつつも、指揮下の車両すべてに命じる。

 攻撃の効きが悪いことに違和感はあるものの、倒せない敵ではない…心中でそう呟く。

 

『撃ち方始めッ!!』

 

 命令一下、K9ELの52口径155ミリ榴弾砲CN98より、巨大な砲声と爆炎と共にM107榴弾が放たれた。

 

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 一方、ゼウスたちの戦闘も、より苛烈さを増していた。

 

「な、何の音?」

 

『気を付けてください、巡行戦車です…!』

 

 通りの奥から姿を現したのは、見慣れた不良たち。そして、彼女らに守られた戦車の姿だった。

 

「クルセイダーとは古風だな…。動いているところは初めて見た」

 

 少しの感動を覚え、一人呟くゼウス。

 第二次世界大戦に使われた、イギリス製の巡行戦車。復元・修復されて博物館に展示されているものや、レプリカですら希少な代物。

 核戦争により戦争博物館が焼き払われ、喪失している個体も多く、歴史的価値は爆上がりしている。

 

「クルセイダー1型…!私の学園の正式戦車と同じです!」

 

「不法に流通されたものに違いないわ!PMCに流れたものを、不良たちが買い入れたのかも。つまりガラクタってことだから、壊しても構わないわ!行くわよ!」

 

 戦争の混乱に乗じ、鹵獲や略奪・国や企業との交渉等、合法・非合法問わない様々な手段で、武装組織がMBTをはじめとした高性能兵器を入手・配備しているのが珍しくない世界に身を置いていたゼウスだが、学園が戦車を保有し、少女が乗り回しているという情報には、驚きを禁じ得なかった。

 

「しかし、戦車か…」

 

 ゼウスにとっては旧式もいいところな戦車だが、此方にはRPGをはじめとした対戦車兵器がない。有力な対戦車兵器を持たない歩兵にとっては、かなりの脅威だ。

 記憶が正しければ、クルセイダーⅠの正面装甲厚は40ミリ。ゼウスが持つIST-15.5なら、装甲の薄い側背面に回って距離を詰めれば、通用しそうではある。

 

「先生。戦車は私が狙撃します」

 

 ハスミの言葉に、ゼウスは眉に皺を寄せた。

 エンフィールド小銃は、7.7ミリ弾を用いる強力なライフルであるが、あくまで対人武器だ。

 仮に、銃口を戦車の装甲に押し当てて射撃したとしても、絶対に貫徹できない。

 

(…まぁ、そこまで言うならできるんだろうな)

 

 しかし、彼女の絶対的な口調と、自分の常識から外れたキヴォトスの人間ならできるのだろう…と考え、ならばハスミに任せようと一瞬思った。

 

「…ちょっと待て。俺にいい考えがある」

 

 だが、戦車の周りにいる不良たちの人数を数え、ハスミを抑える。

 戦車を撃破できるのはいいとして、その周りを囲む歩兵たちを倒すのが面倒だ。彼女たちをちまちま相手している間に、シャーレの建物を占拠されてしまうだろう。

 それを防ぐため、ゼウスはある作戦を考えていた。

 

「取り敢えず、ハスミはここで狙撃を続けろ」

 

「はい…?ですが先生は…?」

 

 レッグホルダーから、肉厚な刀身で見るからに頑丈そうなダガーを取り出すと、IST-15.5の太く長い銃身の下部先端に取り付ける。

 その後、屋上の欄干へ飛び乗ると、敵集団と直下の光景を交互に確認する。

 

「言っただろ、俺は白兵が得意なんだよ」

 

 一言だけ言い残すと、そのまま屋上から飛び降りた。

 

「っ!?先生ッ!!」

 

 散々、ゼウスの人外な場面を見せられてきたとはいえ、この高さから飛び降りて無事でいられるとは思えない。思わずライフルを落とし、欄干から身を乗り出して下を見る。

 

 しかし、当の本人は先ほどのフックショットを建物の壁に撃ち込み、振り子のように空中を移動していた。

 

『え!?何あれッ!?』

 

『……先生!?』

 

『何か飛んでるぞ!?』

 

『は?鳥…じゃない!?』

 

 ユウカ、スズミ、ゲヘナ風紀委員たちも、頭上を猛速で移動するゼウスを視認し、銃撃の手を止め、口をあんぐりと開けて驚愕する。

 それは敵の不良集団も同じだったようで、ユウカ達に飛んでいく銃弾が減り、視線をゼウスに向けて驚いていた。

 

『ハスミ、狙撃手(スナイパー)にとって狙撃銃は命だ。得物を手放すな。何があろうと狙撃を止めるな』

 

「…ッ!!…分かり、ました」

 

 ゼウスの有無を言わせない無線に、前線に向かう彼を咎めようとしたハスミは、何も反論できずにその言葉へ従うしかなかった。

 愛銃を構え直し、頭上に目がいっている不良の頭を撃ち抜いていく。

 

『先生を囮にするのはすっごく気が引けるけど、今のうちに前進するわよ!』

 

『あの、指揮官は私なのですが…』

 

 ユウカも気を引き締め直し、さり気なくゲヘナ風紀委員たちを率いて前進していく。なお、風紀委員たちはあくまでチナツの指揮の下行動しており、ユウカには彼女たちに対して何の命令権もない。

 それでも、前進してシャーレの建物を目指さねばならないのは間違いないし、ユウカという"壁"の後ろなら敵の銃火をある程度防げるため、風紀委員たちは彼女の後に続いていた。

 

「さて…」

 

 地上の出来事などそっちのけで、ゼウスは建物に食い込ませていたワイヤーを解除、遠心力で空中へ飛び出すと、そのまま不良たちの直中へ降り立つ。

 

「なっ、何か来た!?」

 

 驚愕する不良たちに向け、ゼウスはダガーを取り付けて槍のような外観となったIST-15.5を、目にも止まらぬ速度で突き出す。

 腹や胸、肩、額を猛速かつ連続して突かれた不良はひとたまりもなく吹っ飛び、地面に転がった。

 突かれた箇所は血が滲んでいるが、大したことはない。

 思い切り力を振るっても死人が出ないことに、ゼウスは一種の安堵を抱いていた。彼とて、少女を手にかけることに抵抗がないわけではない。

 まして、彼女たちはこれでも生徒。先生が生徒を殺めるなど、あってはならないことだ。

 

「ひっ、ひいっ!?」

 

「撃てっ!撃てっ!!この距離なら当たるっ!!」

 

 恐慌状態に陥った不良が銃を向けてくるが、ゼウスは即座にIST-15.5を横薙ぎに振るい、銃を叩き落とし、至近距離から15.5ミリ弾を速射する。毎秒4発という、対物ライフルでは考えられない早業だ。

 10メートル以下の距離で対物ライフルの弾丸を食らった不良たちは、一発でひとたまりもなく意識を飛ばす。

 …と、ここで弾切れ。

 

 リロードにより隙を晒すのを防ぐため、弾切れしたIST-15.5を右手で持ちながら、もう片方の手で腰に提げてある曲刀を抜く。

 

 これはただの刀ではなく、"エリュシオン"の研究開発班が開発した高周波ブレードだ。

 刀身を超振動させ、高周波電磁パルスを流し、原子間結合を強化して刀身の強度を増すことで、従来の刃物では考えられないほど切れ味や耐久性を向上させた代物だ。

 量産性はお世辞にも良好とはいえず、今のところはゼウスと幹部1人の限定装備となっている。

 

「う、うわぁぁぁぁっ!!」

 

 左手で高周波ブレードを構えて突っ込んでくるゼウスに向け、1人残った不良がアサルトライフルのフルオート射撃を見舞う。照準もクソもない、文字通りの乱射だ。

 

(おざなりな射撃だ)

 

 しかし、相手の服や筋肉、銃口の動き、そして読心(・・)によって正確に射線を見切り、次の行動を未来予知レベルで予測することができるほどの運動能力、動体視力、反射神経、洞察力を持つ――故意的に心拍数を上昇させ、それらへ更なるバフを掛けることも可能――ゼウスは、軽快な身体捌きで放たれる弾丸を悉く回避。

 

 瞬時に肉薄、不良の右肩から左脇腹にかけて袈裟斬りにした。

 

「ぐぎゃッ!?」

 

 普通なら、身体が両断されて鮮血や臓物が零れ落ちる所だろう。だが、真っ直ぐなミミズ腫れのような傷と僅かな出血程度で済み、気絶しているだけだ。致命傷には程遠い。

 思わず拍子抜けしてしまうが、グロテスクな光景を見ることがないのはありがたかった。血も臓物も見慣れているとはいえ、見てて気持ちのいいものではない。

 

「全員聞け。この戦車には手を出すなよ」

 

『へ?』

 

 戦車周辺の不良を一通り掃討したゼウスが生徒たちに命じるや否や、クルセイダーⅠの砲塔天蓋に飛び乗る。

 固く閉ざされたハッチを蹴り飛ばして無理やり開けると、素早く車内へと滑り込んだ。流石に、全長2メートルを超えるIST-15.5は車内に持ち込めないため、銃身をハッチから覗かせる形だ。

 

「な、何なんだアンタっ!?」

 

「ほう、乗員1名で動かせるようにシステム化されているのか。ソフト面では進んでいるらしいな。清潔で快適…本当に戦車か?」

 

 黒髪サイドテールで、自衛用なのかSMGを傍らに於いた不良が、ハッチをこじ開けて突然入ってきた長身瘦躯の大人に、恐怖と困惑が混じった言葉を投げる。

 

「こんな骨董品をこれほどまで近代化させてまで使い続ける意味はあるのか?技術体系がチグハグしているな…そもそも戦車開発の技術はそこまでではないのか?いやしかし…」

 

 天を突かんばかりの高層建築、現代のものに近い、洗練された外観の自動車、生徒たちの持つ銃器の採用年数を考慮すると、使用している戦車の技術水準がかなり低い。

 キヴォトスのチグハグな技術体系が気になりすぎ、敵の目の前にも拘らず、ブツブツと考察している。そんな謎の大人に、不良はかなり引いていた。咄嗟に、愛用のSMGへ手を伸ばす。

 

「……ところでお前」

 

「ひぃ…ッ!?」

 

 だが、愛銃へ手が届く寸前に、彼女の腕が押さえつけられ、眉間にオートマグの銃口が瞬時に突きつけられた。

 

「少しこの戦車を借りる。生徒に対してあまり言いたくないが…痛い目に遭いたくなければ、俺の指示に従え。今から俺が車長だ」

 

 僅かに口角を上げながら放たれた言葉に、ブンブンと首を縦に振る不良。

 彼女の人生で、最も長い一日が始まろうとしていた。




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