超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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 ゼウス先生は最早人間ではなくターミネーターです。銃撃は避けられるし、当たったとしても小揺るぎもしないという絶望。
 何でゼウス先生はこんな化け物みたいな身体持ってるんですか…という問につきましては、『非人道極まる実験を受けたから』とだけ。
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生徒指導の時間

 

 ゼウスはリンの案内の元、奪還したばかりのシャーレの建物の地下へと歩みを進めていた。

 建物周辺の警戒・不良の拘束はユウカと仲間たちに任せている。

 

「戦闘の一部始終は、此方でも確認しました。…先生、『後方にいてほしい』とお願いしたはずです。なぜ自ら戦闘を行ったのですか?」

 

 その道中、リンがゼウスへそう問いかける。詰問するような鋭い口調であり、ゼウスが武器を手にして自ら戦闘を行ったことに、相当怒っているようだった。

 

「何度も申し上げますが、先生の命は貴方が思っている程軽くはないのです。今回は先生のお陰でシャーレ奪還が成功し、生徒の負傷もほぼありませんでしたが、もう二度と前線へ出るような真似はしないでください」

 

 余程先生を喪うことを恐れているのだろう、身体を震わせながらゼウスへと懇願している。

 

「断る」

 

「ッ!?…何故ですか!?何故わざわざ危険地帯へ飛び込もうとするのですか!?戦闘なら生徒たちに全て任せておけば良いではないですか!!」

 

 即答したゼウスに目を見開き驚愕するも、直ぐに怒鳴るように問いかけた。

 無垢な生徒を利用して好き勝手している利己的な大人が多くを占めるキヴォトスの常識に当てはめれば、ゼウスは異端も良いところな存在なのだ。

 無力な大人なのだから、戦闘なんて生徒に任せればいいはずなのに、自ら危険を冒そうとしているゼウスに、リンの理解が及ばない。

 

「まだ若造もいいところだが、俺だって成人している大人だ。だというのに、子供が必死で戦っている中、俺一人で安全な場所にいることは絶対にできない」

 

 冷静に、それでいて全く譲る気はない…という意思を感じさせる口調でそう言う。

 

「…俺はキヴォトスの事情も常識も知らない。『郷に入っては郷に従え』の言葉通り、ここでのマナーやルールには従うし、仲間にもそれを徹底させる」

 

 一呼吸置いて先を続ける。

 

「だが、『大人』とは子供を守るための存在だ。その考えを曲げるつもりはない」

 

 銃撃程度で死にはしないとはいえ、子供が銃を持って撃ち合うという事実に変わりはない。そんな中、自分だけ安全が確約された場所にいるのは論外。

 それが、弱冠22歳でPMCを運営し、自らも前線で戦い、戦争の悲惨さを自身の目で見てきた敏腕経営者の考えだった。

 

「……私たち生徒のことを思ってくださる先生のお気持ちはありがたいです。ただ、御自分の立場のことをもう少し考えてください」

 

 あらゆる感情が混ざったような表情を浮かべつつ、リンはぼそりと言った。

 やはり、彼女とゼウスでは彼我の常識に差があり過ぎる。ゼウスの考えを理解するには、相当な時日が必要だろう…。

 

「…この話は終わりだ。案内を続けてくれ」

 

「…はい」

 

 本来の目的を忘れ、すっかり話し込んでしまった。

 リンに案内を急かすと、ゼウスは再びその後を付いて行く。

 地下へ向かうエレベータから降り、薄暗い廊下を歩いていくと、程なくして大きな扉に差し掛かった。

 

「此方が目的地です」

 

 そう言ってドアを開けようとした瞬間。

 

「…待て」

 

 ゼウスが、ドアに伸ばされたリンの手を掴んで止めた。

 突然手を掴まれ困惑し、ゼウスへと視線をやるリンだが、当の彼はお構いなしに扉へ耳を当てた。

 

「…ん…こ……なの……せんね…こわ…にも……」

 

 蚊の羽音よりも小さいものではあったが、扉の向こうから声が聞こえる。

 頑丈そうな扉だが、見たところ鍵はついてないし、電子ロックの類もない。リンが押そうとしていたボタン一つで、誰でも開けられる造りになっているようだ。

 戦闘のどさくさに紛れ、不良が侵入した可能性が高い。

 

「…リン。ここで待っていろ」

 

「え…?」

 

「いいからここにいろ。分かったな?」

 

 疑問符を浮かべるリンに押し被せるようにそう伝えると、ホルスターに収められたオートマグに手を掛けたまま、開閉スイッチを押した。

 空気が抜けるような音と共に開かれたドア。完全に開ききる前に、ゼウスは部屋へと滑り込む。

 

「動くな」

 

「!?」

 

 オートマグの細く、それでいてゴツい銃口の先にいたのは、所々埃や煤で汚れた和服を纏い、狐面を付け、古臭い銃剣付のボルトアクションライフルを持った少女だった。

 

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「ふぅ…。酷い目に遭いましたね…」

 

 少し前、シャーレの地下へたどり着いた孤坂ワカモは、服や髪に付いた汚れを払いながら独り言ちる。

 本来なら、取り巻きの不良たちと共に建物に突入する予定だったが、謎の爆発(K9ELの長距離砲撃)によって彼女らが全滅したため、単独行動をせざるを得なかった。

 

「ふむ…見た感じではただのタブレットのようですが…」

 

 見た目は普通のタブレット端末であるが、連邦生徒会が厳重に保管している以上、ただのタブレットではあるまい。

 

「…全く分かりませんね。これでは壊そうにも…」

 

 ミレニアムの生徒なら、ある程度どういった代物なのか把握できるかもしれない。しかし、ワカモはこういった機器には詳しくないため、どう扱えばいいか思いつかなかった。

 

「動くな」

 

「!?」

 

 もたもたしていると、後ろから声が掛かった。生徒ではない、低い声だ。

 振り向くと、ワカモの身長より30センチ程高い、柳を思わせる長身痩躯の大人が、大型の自動拳銃を構えていた。

 全身黒づくめで、目元はサングラスで隠れており、口元には大きな傷があった。顔はそこそこ整っているように見える。

 

「…あらら。もしや、貴方が連邦生徒会長が連れてきた先生…でしょうか?」

 

「まぁ、そうだが。お前は何者だ?」

 

 一切の隙もない構えを崩さず、その大人…ゼウスはワカモに問うた。

 

「孤坂ワカモと申します。この建物を襲撃した首謀者…要するに、貴方の敵…ということになりますね❤」

 

 余裕そうに自己紹介をするワカモ。ヘイローのない大人相手に、警戒する必要はない…とでも思っているのだろう。

 

「名乗られたからには此方も名乗らなければな。俺はゼウスという。…お前以外の生徒は拘束したか逃げ出した。建物も完全に包囲している。最早お前に勝ち目はない」

 

「…あらら。流石は連邦生徒会長に選ばれた先生、と言うべきでしょうか。ただの不良とはいえ、あの数を短時間で制圧してしまうとは…ですが」

 

 一瞬驚くも、ワカモはすぐに愛銃を向ける。

 

「どうやら、戦える生徒は連れていない様子。ヘイローを持たない貴方一人、私が引き金を引くだけで簡単に死んでしまうのですよ?」

 

 自身の絶対的優位を疑わない口調だ。しかし、ゼウスは無表情を貫くだけ。

 

「自分の力を過信して粋がるな。器が知れるぞ」

 

「…私はあくまで"普通"のことを申し上げたまでですよ?寧ろ、自分の力を過信しているのは貴方の方では?銃を持てば、私に勝てるとでもお思いですか?」

 

 遠慮のないゼウスの物言いが癪だったのか、ワカモの声のトーンが下がった。ボルトを引き、薬室へ7.7ミリ弾を装填する。

 

「だったら、撃ってみればいい」

 

「!?」

 

 何でもないことのように発言するゼウスが予想外だったのだろう、ワカモは仮面の裏で目を剥いた。

 

「…聞き違いでしょうか。今、何と仰いました?」

 

「撃ちたければ撃てと言っている」

 

 改めてそう言い返すと、ワカモは押し黙った。

『災厄の狐』の異名を持つ超絶問題児とはいえ、殺人にまで手を染めたことはないし、そんな気もない。というより、頑丈な者だらけなキヴォトスに於いて、殺人事件は全くと言っていいほど起こらない。

 普通なら、銃を向けて脅すだけで相手はすごすごと引き下がるはずだったが、今回は違った。

 何も言えないワカモに、ゼウスは脅すように言う。

 

「仮にそうするなら、心してやることだ。痛い目を見ることになるぞ」

 

「…そんなはったりに引っ掛かるとでも?キヴォトスの外から来た貴方に、何ができるというのです?」

 

 ゼウスの真意を探るように、ワカモが訊く。実際、ヘイローを持たないキヴォトス外部の人間なら、この状況は『詰み』だ。

 ()()()()…だが。

 

「いつまでお喋りを続けるつもりだ?さっさとやれ。まさか、撃てもしないのに銃を向けたわけではないだろうな?それとも、撃った瞬間に俺に倒されるのが怖いか?」

 

 一歩踏み出し、オートマグの引き金に指を掛けるゼウス。安全装置も外してあるため、指に力を籠めればすぐさま強力無比なマグナム弾が放たれるだろう。

 

「銃を向けられた程度で、俺が屈するとでも思ったか?」

 

「……なるほど。どうやら、私が本気だということを見せなければならないようですね」

 

 数秒間考えたワカモは、直ぐに行動を起こす。

 愛銃の照準をゼウスの肩に合わせ、引き金を引いた。頭や心臓を狙わなかったのは、やはり人殺しを忌避しているためだろう。

 軽い反動と共に放たれた7.7ミリ弾は、狙い通りゼウスの左肩に命中した。

 フルサイズのライフル弾、それも10メートル程度しか離れていない距離だ。常人なら、被弾箇所を抑えて苦痛に呻き蹲るだろうが…。

 

――カラン…

 

「…は?」

 

 命中したゼウスの肩から、変形した弾丸が零れ落ちた。

 皮膚を貫通できず、肩の表面で止まったのだ。被弾の瞬間に身体がほんの僅かに揺れたものの、それだけだった。

 

「…やれやれ、撃つなら頭だろう。所詮は人殺しの経験がない半端者だな」

 

「い、一体、どういう…!?」

 

 現状を理解できず、声に出して驚くワカモ。自らの持つ知識では考えられない現象に、理解が追い付かない。

 

「驚いている暇はないぞ」

 

 思考停止しているワカモに対し、ゼウスはオートマグを連続で発砲。片手での速射だが、マグナム弾の強烈な反動をゼウスの右腕は完璧に抑え込み、銃口の跳ね上がりは全くない。

 放たれた.44AMP弾は、その全てがワカモの身体にめり込んだ。

 

「がぁ…ッ!?」

 

 右肩、左肩、腹、右足、左足…の順で撃たれたワカモは愛銃を落とし、よろめきながら後ずさり、尻もちをついた。

 .44AMP弾を5発被弾したにもかかわらず意識を飛ばさずに済むのは、流石は"災厄の狐"といったところだろう。

 

「本当に頑丈だな。どうやら、さっきの不良とは格が違うらしい…さぁ、大人しく投降してもらおう。この建物を奪還しないと、話が進まないらしくてな」

 

 弾倉内に2発が残るオートマグを構えながら告げる。ワカモは痛みに呻きつつ、どう状況を打開するか必死に思考を巡らせた。

 

(くっ…銃撃が効かない…ならば格闘戦も通じない可能性が高いですね…。ここは一時…)

 

 『撤退』の二文字がワカモの脳裏を掠めた、その瞬間だった。

 

「先生!!一体何が…なっ、"災厄の狐"!?」

 

 先ほどからの銃声で、ただならぬ事態だと悟ったのだろう、リンが部屋に入ってきた。

 彼女の声に反応したゼウスが、其方に視線をやる。

 

(…!今です!)

 

 その瞬間を、ワカモは見逃さなかった。

 一瞬の隙を衝いて転がっていた愛銃を拾い上げると、取り付けてあった銃剣の切先を真上に向けて飛び上がり、天井に銃剣を突き込んだ。

 突き刺さった箇所を中心にひびが入った直後、轟音と共に天井が崩壊、石屑がゼウスとリンの視界を遮った。

 

「…やるな」

 

 一連の動きを見せたワカモを、ゼウスは素直に賞賛する。

 不利と見て躊躇なく撤退を選ぶ判断力、頑丈であろう天井を突き破る膂力、己の一瞬の隙を衝いて武器を拾い、この場を脱した手際の良さを見、ゼウスの中でワカモの株が上がった。

 

「リン、この建物の案内図はあるか?」

 

「…え、あ、はい、此方です」

 

 リンのタブレットから建物の案内図を見せられ、暫しそれを眺めたゼウスは、すぐさま天井に開けられた穴へと一飛びし、1階へと移ったのだった。

 

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「はぁ…!はぁ…!」

 

 天井をぶち抜き、1階まで上がったワカモは、息を切らせながら走り続け、出口へと向かっていた。

 

(あんな訳の分からない方の相手なんてしていられません!一刻も早くここから…!)

 

 連邦生徒会への嫌がらせとしては十分暴れられたし、何よりもあの"化け物"から早く逃げなければならない。

 被弾の痛みに耐え、理解の及ばない現象に遭遇し精神的疲労がピークになりつつも、身体を無理やり動かす。

 建物は包囲しているとのことだが、強行突破するまでだ。流石に、あの謎の大人のような化け物だらけというわけではあるまい。

 

(これほど追い詰められたのは…あの狐たちとの戦い以来ですね…!いえ、寧ろ状況は今の方が遥かに悪い…!)

 

 嘗て、自分を矯正局へ叩き込んだ張本人である、狐耳の精鋭4人組を思い浮かべながら、内心で独り言ちる。

 あの大人は、その4人組以上の難敵だ。キヴォトスの精鋭特殊部隊一個小隊の総合戦闘力以上の実力を、あの大人一人が持っているのは間違いない。信じがたいことではあるが、戦ってみて実感した。

 

「ここを曲がれば…」

 

 前方10メートル先の曲がり角を道なりに進めば出入口だ。

 建物外に飛び出せば、包囲している生徒と戦闘になるだろう。ボルトを操作してすぐに発砲できるよう準備を整える。

 

――ドゴォォォォンッ!!

 

「……なっ!?」

 

 曲がり角の手前に到達した瞬間、真横の壁が轟音と共にぶち破られた。ワカモの視界は、飛び散った瓦礫や破片、土煙で覆われ、思わず足を止めてしまう。

 

「…ドンピシャだ」

 

 壁を体当たりでぶち破ったのはゼウス。リンに見せてもらった建物の案内図を短時間で記憶、そこからワカモの逃走経路を予測し、先回りしたのだ。

 一瞬とはいえ、動きが止まったワカモの隙を、ゼウスは見逃すわけもなく、彼女の銃を両手で鷲掴んだ。

 

「く…っ!?」

 

 しかし、ワカモも膂力に関してはキヴォトスでも十指に入る程。得物を奪われまいと、銃を握る両手に力を籠める。

 暫し、一丁の銃を巡って取り合いが続く。両者の腕力へ堪えかねているかのように、銃剣付の短小銃が軋み音を発した。

 

「…はぁッ!!」

 

 ワカモが新たな動きを見せる。渾身の力を込めて、ゼウスを銃毎押し返し、そのまま彼を背後の壁へ叩きつけた。

 壁は半球状に凹み、無数の皹が放射状に走る。

 

――ズドォンッ!!

 

「…お返しだ!」

 

 だが、ゼウスは堪えた様子を見せず、ワカモの実力に関心したかのように口角を上げる。逆に彼女を押し返し、反対側の壁に叩き付けた。

 彼女を叩き付けた壁が堪えかねたように凹み、罅割れが広がる。壁の損傷は、ワカモがゼウスを押し付けたときのものより大きい。純粋なパワー勝負でも、彼に軍配が上がっている。

 

――バゴォンッ!!

 

「ぐふッ!?」

 

 ゼウスはさらに力を込め、罅割れた壁をぶち破った。そのまま奥の部屋に連れ込まれるが、彼は押す力を緩めない。

 銃を離さずにワカモを押し続け、2枚、3枚と分厚い壁をぶち抜き続ける。

 

――ドゴォォォォンッ!!

 

「きゃあぁぁぁッ!?」

 

 最後の壁を突き破り、遂にワカモは外に押し出され、道路を二転三転した。

 

「なっ、何!?」

 

「ワカモ…!?」

 

「うおッ!?ケモ耳美少女だッ!!写真、写真ッ!!」

 

「あ!!副総帥、俺にも撮らせてください!!」

 

「頼んだら触らせてくれないかなぁ!?」

 

 突然、壁を突き破っきたワカモにユウカたちは驚き、"エリュシオン"の面々――特に日本国出身者――はアニメや漫画でしか見たことのない狐耳の少女を写真に収めようと、カメラを向けるのだった。

 





 「だが、『大人』とは子供を守るための存在だ。その考えを曲げるつもりはない」←これ言ってる奴22歳ってマ?
 まぁ、逆に言えばゼウス先生の過去と住んでいた世界が壮絶過ぎて若い身ながら自然とそうなった、そうならざるを得なかったって感じですね。
 ゼウス先生の言う『戦争の悲惨さ』とは大体少年兵絡みです。
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