スネイルちゃんはルビコン3で生き残りたい。   作:VERRILLを崇めよ

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V.Ⅱ スネイル

 

ヴェスパー第二隊長、スネイルです。(挨拶)

 

アーキバス経済圏において企業の為に頑張っていたら突然いつもの偉い人から通信が来ました。

 

アーキバスの偉い人は嫌いです。特にあの上官は突然無理難題を持ってきては押し付けて、達成したらまた無理難題に放り込む。

 

確かに私は企業戦士です、企業の持ち物です。ですが―――さすがにあんまりじゃありませんか?

 

「これは、アーキバス部隊に遠征を……目的地はルビコン3?コーラルはアイビスの火で燃え尽きた筈、いえ残っていたのですか?」

 

「話が早いなスネイル、お前達ヴェスパー部隊にはルビコン3にて燃え残ったコーラルを確保してもらう」

 

「ヴェスパーの一部隊だけで、ですか。現在ルビコン3は惑星封鎖機構が管轄している筈です、ルビコン3の制圧はともかく政治的に問題なのでは?」

 

「お前にも政治が分かるようになったのか、だが本質が未だ見えていないようだな」

 

「誠に申し訳ございません、浅学非才の身ではございますが是非ともご教授を頂ければ幸いです」

 

「フン……要は勝てば正義という事だ。かつてのルビコン3が栄えたのはコーラルがあってこそ、まさに黄金時代とも言える繁栄だった」

 

新資源物質コーラルが齎した影響は大きく、只管に消費し枯渇していく各種燃料や太陽光等の自然エネルギーの活用を鼻で笑うようなエネルギー革新。

 

情報導体と表現されるCパルスは人類を新たなステージへ向上させるとして強化人間と呼ばれる存在を多く生み出した。

 

それはルビコンとはまた違った場所で大きな戦乱を生むことになったが、それはまた別の話。

 

そしてルビコン3を含む星系がコーラルによって焼き払われた大災害である「アイビスの火」、それはおおよそ半世紀も前の事。

 

自分は勿論の事、目の前の偉そうな上官もまた生まれる前の話なのだ。

 

しかしコーラルの存在は現存する伝説として今も語り継がれており、こうしてロマンスに狂う人間が未だ多く残っている。

 

或いは彼の脳を焼いたコーラルがルビコン3のコーラルを求めているのかもしれないのだと、ふとそう思うのはこの上官のロマンスに影響されているのだろうか。

 

「コーラルを手にすれば、人類は再び黄金の如き祝福と安寧を手に入れるだろう。そして新たなる世界を開いた先で人類を導くのは――――」

 

「我々、アーキバスです」

 

「分かっているならそれでいい、後ほどルビコン3遠征にあたっての会議を開く。スケジュールは後ほど通達する」

 

「かしこまりました」

 

言うだけ言うと上官は踵を返して私の執務室から出ていった。足音が遠くなった事を確認すると髪留めと伊達メガネを外し、ついでに制服の胸元のボタンを幾つか外すと大きな溜息を吐いて椅子の上で体を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

「こ、怖かった~」

 

アーキバスの人間は大抵恐ろしいが特にあの上官には随分と扱かれた事があるので本当に怖い。

 

脱力して腑抜けた体に鞭を打って手探りでPDAを手に取ると秘匿通信用の回線を呼び出してメッセージを打ち込む。

 

 

 

 

『Die Büchse der Pandora wurde geöffnet』

 

―――パンドラの箱は開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間もなくして響くノック音に驚愕から体が飛び跳ねる、続いて聞こえて来た声に安堵の声を漏らすと来客者を招き入れた。

 

「ようこそホーキンスおじ様、何か急用でも?」

 

「いや、偶には君の様子を見ないと安心できなくてね。……それより、スネイル」

 

「なんでしょう」

 

「嫌な事があったんだね、随分と草臥れている」

 

「……まあ、そうですね。誠に申し訳なく」

 

「恰好も乱れている、私には随分と目に毒だ」

 

フムン、これはこれは……。

 

「おじ様……もしかして、私が上官殿に凌辱されたとか考えてます?」

 

「いやぁ、そこまでは言っていないさ。とは言え君も女性だ、不埒な事を考える男もいるだろう」

 

まあ確かにいるにはいるが、アーキバス部隊の隊長格に喧嘩を売る様な輩はそうそういない。

 

しかし気遣いが出来る人間というアーキバスにおいて一握りの存在に心が洗われたのは確か、これは上官として褒美を与える必要がありますね。

 

「おじ様……!素敵です、今度の休暇にデートでもしましょうか。きっと―――刺激的な一日になりますよ?」

 

乱れた服装を直すのが面倒だったのでそのままおじ様の腕に抱きつき下へ赴き、見上げるような形で甘えた声で誘うもおじ様は渋い顔したままだった。

 

「スネイル。君はそういう所を直した方がいいよ、本当に」

 

二人で工場へ行って新しい兵器開発の進言をするというのは、やはり余りよろしくない事でしょうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネイルの部屋を出た上官は自分の歩容が足早になっている事に気づきつつも、一刻も早くあの場所から離れるために必死であった。

 

ヴェスパー、アーキバス専属の強化人間部隊。実質的な総隊長であるスネイルは見た目こそは幼いが、あれでも自分との付き合いは長いものだ。

 

初めて会った時は特に目立たず、身体能力も強化人間としては目を見張るものはなかった。

 

一定の訓練期間を終えて木星戦争に強化人間たちが駆り出された時、機体は当時としては最新の第一世代ACを貸与したが武装は普遍的なものだった。

 

ある意味での最終試験、結果を出す事だけを求められ、強化人間の生還は重要視されなかったが企業に損失を出すことは許されなかった。

 

それはつまり英雄のみが生き残り、名誉の戦死以外は反逆者として処罰されるという事だ。

 

恐ろしい時代だった、もしも人々が豊かで分け与えられる世界であればあのような悲惨な戦争は起きなかっただろう。

 

ともあれそんな戦争の最前線に送られた強化人間達は背部ハンガーにシールドを装備し、残りは遠距離戦に特化したアセンブルを組む中でスネイルは違った。

 

「うーん、艦隊と直掩の部隊が相手ですか。その程度であればこれで十分でしょう」

 

強化人間部隊が出撃する前に彼女のACを見た。背部ハンガーにレーザータレット二基、両手にレーザーハンドガンの計二丁。

 

目を疑った、即席の強化人間部隊では連携は期待できない、スネイルは自殺に等しい装備で前線に向かうのだ。

 

止める間もなく強化人間部隊は出撃する、それを見送って指令室に戻るとモニターに戦況が表示される。

 

ベイラム戦艦が計五隻、一隻につき八機のACが直掩として付くので計40機、数と火力で場を制圧するベイラムの基礎ドクトリンだ。

 

対してこちらは強化人間部隊八機で強襲を仕掛ける形だ、母艦として航行するこの艦が撃墜されれば強化人間部隊が帰投する場が無くなる為に積極的な支援は出来ない。

 

突如としてアーキバスの通信回線が開かれる、発信源はスネイルからだ。

 

『掩護不要!掩護不要!総員カモを討ちなさい!狙い撃ちです!!』

 

スネイルが駆るACはアサルトブーストを吹かして単騎で艦隊に突撃した、無論迎撃網が薄い所を狙って突き進むがそれでも普通ではない。

 

ACにはパルス技術を応用したバリアが機体表面に張り巡らされている。これをAPと呼ぶのだが攻撃を受け続けると所謂スタッガーと呼ばれる状態に陥り、行動不能になると共にバリアの出力が落ちてAPの損傷が激しくなる。

 

故に艦隊から放たれる機関銃ですら油断は出来ない、一度足を取られればそのまま摺りつぶされるだろう。

 

 

 

 

―――彼女は、歌っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「I can fly」

 

「I fly high」

 

「watch the sunrise,into down」

 

 

 

 

 

 

 

『ベイラムの戦艦が一隻撃墜』

 

『艦隊が進路を変更している、逃げているぞ!!』

 

『直掩のターゲットがアイツに集中している、狙うなら今だ』

 

 

 

レーダーは届かないが、後にデブリーフィングで判明したのは以下の通りである。

 

・スネイルは戦艦に肉薄したのち艦尾付近でタレットを展開し、同時にビームを連続して放って敵艦の脆弱な推進器を狙った。

 

・敵艦の目的は別のエリアにおける戦場への増援であると予測される、故にベイラムの艦隊は目的地に到着不能になった時点で任務失敗に陥る。

 

・戦艦が足止めになった時点で敵部隊はそれ以上行動できない、後続の別動隊によるアウトレンジからの攻撃で撃墜可能である。

 

・また戦艦の直掩から外れて行動するACには活動限界距離が生じる為、やはり隊列から逸脱した敵機は各個撃破可能である。

 

四方八方から来る雨のような迎撃を全て躱し続けられるなら、それは可能だろう。

 

 

 

 

 

『アハハハハハハ!!!』

 

 

 

 

―――彼女は、正気ではない。

 

 

―――彼女は、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

ヴェスパー第二隊長、スネイル。

 

後にそう呼ばれるようになった彼女は木星戦争において多大な功績を遺すこととなる。

 

木星戦争において猛威を振るった当時のミシガンを戦場の外から嘲笑いながら手玉に取った幼い魔女。

 

 

 

スネイルには曰く付きの噂話がある。

 

彼女は笑わない、彼女がもしも笑うことがあれば――――誰かしらに終焉が訪れる。

 

 

 

上官の足は止まらない、脳裏に浮かぶ恐怖から逃れんとする為。

 

本当は会いたくなかった、仕事だった、仕方なかった。

 

何度も死線に送り込んだ、死ななかった。

 

戻ってきた彼女はいつも笑顔だった、常に相手には不幸が訪れた。

 

もしも先程任務の話をした時にスネイルが私に微笑んだなら―――その時点で気絶していたかもしれない。

 

 





スネイル「怖いよ~」

上官「怖いよ~」

(自分が死ぬ分には問題ないから)掩護不要!
(むしろ他の仲間が死んだら怒られるから)掩護不要!
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