スネイルちゃんはルビコン3で生き残りたい。 作:VERRILLを崇めよ
ヴェスパーは密かにブランチからの手引きを受けながらスムーズにルビコン3に進駐し、電撃戦の様な速度で駐留予定の区域を制圧する事に成功した。
アーキバスが兼ねてより用意していた惑星揚陸艦がヴェスパーの本拠地ともなる施設を荷物の様に降ろすと驚異的な速度で拠点が構築され、今後はここから様々な活動が行われる事となる。
コーラルの探索、後発のベイラム部隊への牽制、ルビコニアンの対処などやるべき事は多かったが、一歩目を無事に終えた事でアーキバス部隊の面々はようやっと一息を吐く事が出来た。
補給が途絶えれば食料や弾薬が底を突く事となり、敵からの手痛い逆襲を受ける事になるだろう。
その為に惑星封鎖機構への妨害は継続しなければならない、その辺りはアーキバス本社の方に任せるしかないのだが。
「案内感謝するよ、メーテルリンク」
「いえ、これも仕事ですから」
アーキバス仮設基地の廊下を進むのは二人の男女。ヴェスパー第六隊長を任されているメーテルリンクともう一人、この度新たにヴェスパーに加わる事となったラスティだ。
アーキバスの新たな傘下企業となったシュナイダーから送り込まれた優秀なAC乗りという触れ込みで送り込まれた男だったが、メーテルリンクも諸手を上げて歓迎するという事はなかった。
ヴェスパーは特殊な成り立ちで生まれた強化人間部隊だ、アーキバスの人体実験によって結果的に生み出された強化人間達を引き受けたのがスネイルだった。
強化人間こそが兵士として優秀であると示す為にスネイルは戦い続けた、その結果として遂に強化人間達にとっての住処を手に入れる事が出来たのだ。
メーテルリンクはスネイルを敬愛している、時には母と呼んで慕う事もある、家族から捨てられたメーテルリンクにとっての唯一の拠り所なのだ。
ラスティは第8世代の強化人間だと聞いているがヴェスパーにおいては異質な存在だ、ヴェスパーとは言わばアーキバスに人生を狂わされた者の集まりなのだから。
故に渋々といった体でメーテルリンクはスネイルの下までラスティを案内しているのだ。
「こちらです。スネイル閣下に失礼な態度をとらないように」
「安心してくれ、さすがにそこまで礼儀を欠いているつもりはない」
どうだか、そう考えながらメーテルリンクはノックの後に声をかけてからスライドドアを開く。
先に入室したメーテルリンクに続いてラスティは珍しく目を丸くしてきょとんとした顔を見せる、それ程までに目の前の光景は意外なものだった。
「……いい加減、飽きないのですか?」
「………」
どうやら困惑した様子のスネイルを膝の上に乗せてスネイルの髪を弄るフロイトの姿。
「フロイトォオオオオオオオオオオオオ!!!」
物静かな雰囲気を湛えていたメーテルリンクが突如として激昂するも目の前の男、フロイトは一向に手を止めない。
それどころかフロイトはメーテルリンクの目の前でスネイルのつむじ辺りに鼻をうずめて大きく息を吸う、メーテルリンクの悲鳴が続けて響いた。
「なぁ、コレって俺のじゃないか?」
「貴様ァ!閣下を放せ!誰の許可を得てその様な狼藉をしている!!」
「俺はヴェスパー第一隊長だ」
「それ以前の問題だろう!」
メーテルリンクが即座にスネイルの両脇に手を差し込んで持ち上げフロイトから奪取する、スネイルは童女の様に高く持ち上げられたままだが気にすることなく揺らされたままでいた。
「そもそも閣下も閣下です!何故この男に好き勝手させているのですか!!躾はどうなっているのですか躾は!!」
指導だ指導!!と今はここにいないスウィンバーンの様にメーテルリンクが騒ぎ立てるも、スネイルは依然として得意げに語る。
「ふふん、フロイトは私(に対して)の初めて(の勝利)が欲しいと言っていました。つまりそれが達成されるまでは私の言う事を聞いてくれるのです」
「閣下の初めて(意味深)を!?」
あまりにもあんまりな発言の衝撃によってメーテルリンクがスタッガー状態に陥り、脱力してスネイルが地面に降ろされるとそのまま床に跪いて何度も床を殴打する。
「嫌だぁ!!スネイル閣下は穢れなく尊い神聖な存在!それがフロイトなんかにぃいいいいい!!!」
おいおいと泣き崩れるメーテルリンク、何故かメーテルリンクの髪も弄り出すフロイト、ここまで置いてきぼりにされたラスティも遂に口を挟む機会を得て堂々と踏み込んだ。
「お初にお目にかかる、ヴェスパー第二隊長殿。本日付けでヴェスパーに配属となったラスティだ」
「貴方がラスティ。ヴェスパー第二隊長、スネイルです(挨拶)」
「ACの扱いには多少心得がある、期待には十分応えるつもりだ」
アーキバスグループの傘下企業、シュナイダーからの推薦で訪れたラスティ。何を隠そう、アイランド・フォーの動乱の残党こそがシュナイダー社である。
アーキバスが是とするEN兵器には殆ど関わらずに、むしろ軽量と空力に特化したACやEN兵器を主武装とする機体に対しての武装を開発するその姿勢に彼らの思惑が透けて見える。
強化人間部隊であるヴェスパーに純粋な人間であるフロイトやシュナイダーからラスティが送り込まれた事、その意味をスネイルはうんざりする程理解していた。
端的に言えば突出した存在であるスネイルに対する嫌がらせ、あるいは扱いに困ったフロイトの人材整理、そしてかつて反旗を翻したシュナイダーの刺客の品定め。
「私の期待に応えると言いましたね?ラスティ」
「ああ、誠心誠意に熟して見せる」
つまり出来ない事は出来ないと遠回しに言われるが、元々ラスティが来た時にスネイルには頼みたい事があった。
「ではラスティ、フロイトと戦いなさい」
「え」
「やっと来たか、今日は朝からスネイルに張り付いていて正解だった」
正確には朝から抱きしめていたフロイトがメーテルリンクを解放するとずかずかと近付き、ラスティの肩を抱くとそのまま廊下へ連れ出して行った。
「メーテルリンク、何時まで遊んでいるのですか。仕事に戻りなさい」
「うええぇ……」
朝からフロイトに仕事を邪魔されていた分を取り返すべくメーテルリンクを送り返すと職務に復帰する。
フロイトも満足すればしばらくは大人しくなるだろう、今日は仕事に精を出す事が出来るいい一日になりそうだった。
「胸を借りるとしよう、ヴェスパー第一隊長」
AC名、スティールヘイズ。
シュナイダー製パーツでフレームが構成されているが、一方で武装とインナーパーツは見る者が見ればジョークとも思える構成をしている。
FCSとブースターはともかくとしてジェネレーターはBAWS製、武装はそれぞれBAWS製とVCPL製で固められており純粋なアーキバス製のパーツが一切組み込まれていない。
軽量故の速度と機動力、そして敵を追い込み刈り取る事を意識したアセンブル。
「同じはみ出し者同士だ、存分に楽しませてくれ」
AC名、ロックスミス。
企業所属のACでありながら敵対している企業のフレーム、インナー、武装を織り交ぜた異質なAC。加えて武装とインナーの相性は同じくジョークのような構成をしている。
EN兵器を用いないのにアーキバスのジェネレーターを積み、AC戦の基本戦術であるスタッガーを取りづらいがただ一点、汎用性という点ではバランスを何とか保っている。
戦場に突入し、雑兵を蹴散らし、対象を撃墜して帰還する。何者にも囚われない傭兵の様な自由とミッションをこなすエージェントとしてのプライドが一つになったかのような在り様が彼を稀代のエースパイロット足らしめたのだ。
シミュレーション空間の中で二機は互いに向かい合う、始まりの合図はラスティからだった。
スティールヘイズが両手の銃火器を構えながらクイックブーストで素早く踏み込んでくる、機体に十分な慣性が上乗せされる事でスティールヘイズの真価が発揮される。
対してロックスミスは間合いを詰めながら互いの有効射程ギリギリの位置で命中するように拡散バズーカを発射、スティールヘイズは再度クイックブーストで回避。
肌を撫でる様な僅差での回避、点対称となるようにロックスミスが回り込みながらアサルトライフルを発砲する。
スティールヘイズがプラズマミサイルを発射、大きく距離を取ってロックスミスが回避。
ロックスミスがブースターを噴射して飛び上がりながら拡散バズーカを地面に向けて発射、前後左右を巻き込む飽和的な一撃をスティールヘイズが驚異的な跳躍で回避する。
それを読んだフロイトがレーザーブレードを展開して切り掛かるがラスティはさらに高度を上げながら重火器を応射してすれ違う。
「「随分と焦らせてくれる」」
思いは同じだと両者は薄く笑う、戦いというモノはどのようなやり取りをしていてもいつも結果は同じだ。
互いにポーンで牽制し、ルークとビショップが深く切り込む、ナイトが睨みを効かせてくる、クイーンが今か今かと昂っていく。
損害は互いに大きくなっていく、遊んでやろうか、見逃してやろうか、そんな考えすら吹き飛ぶ。
体が戦いを求める、互いにゲームだと割り切っていても段々と相手を許せなくなってくる。
――――逸る思いが赤熱していき、遂に二機の距離は互いの制空権に侵入を果たした。
フロイトは熱くなる思いとは裏腹に静かに状況を見定めていた、そして互いの狙いはほぼ共通の事として一応の結論をつける。
ラスティのACは近距離に特化したアセンブル。バーストハンドガンでACSを揺らし、アサルトライフルでスタッガー値の回復を阻害しながら蓄積させ、レーザースライサーで止めを刺す。
この三つの射程の嚙み合わせを崩せばそのままラスティの戦術は崩れる。エネルギーのチャージは完了した、手加減はしない。
≪COM:レーザードローン、展開≫
左背部ハンガーからレーザードローンが射出される、これを確認したラスティの動きが明らかに乱れる。
レーザードローンに気を取られてENゲージを空にする訳にはいかない、ダメージレースに突入すれば火力に分があるフロイトが勝利する。
「縦横無尽とはお前の事だ、ラスティ」
高速かつ高機動、今はそれがラスティを苦しめている。回避を優先した結果、相対速度が速すぎるせいでフロイトを射程に捉えるもすぐさま遠くへ飛んで行ってしまう。
「空で溺れる気分はどうだ」
遂にENゲージが枯渇したスティールヘイズにレーザーブレードで切り掛かりAPを削る、シミュレーションではリペアキットを使用不可に設定されているため掠っただけの一撃とは言えど軽量機のスティールヘイズにとって手痛い一撃となる。
「君は質実剛健と言うべきかな、フロイト」
ラスティは熱くなる思いを更に燃やし、脳内から溢れるオピオイド物質が彼にかかるストレスやプレッシャーを跳ね除ける。
特化した戦術には脆弱性が生まれる、それは確かな事だ。しかしそれを余りある利益が超越する時に最大限の力を発揮する。
「そろそろ君の機体も息切れかな?」
一瞬の交叉の中でもラスティはバーストハンドガンを当て続けていた、戦闘開始直後から溜め続け、この瞬間を待ち続けて来た。
追撃のレーザードローンが再び放たれた隙にプラズマミサイルがロックスミスに襲い掛かる。
駄目押しとばかりにロックスミスを巻き込む形でアサルトアーマーを起動、ドローンを弾き飛ばし、プラズマミサイルの爆風と合わさってロックスミスの視界を埋め尽くす。
レーザースライサー起動、近接戦闘モード起動、ブースターで加速、スティールヘイズの各部アクチュエータのリミッター解放。
ブースターの噴射の追従が遅れたのかロックスミスが地面に着地したまま硬直、せめてもの足掻きとしてアサルトライフルを放たれるが回転するレーザースライサーに弾かれその勢いを留めるに至らない。
「君が一人目だ、フロイト」
「――――悪いな、ラスティ」
ロックスミスが膝を屈めて腰を落とし、今にもレーザースライサーで切り刻まれんとしたその瞬間に聞こえてくる声がラスティの体感時間を引き延ばしていく。
「俺にとってお前が何人目か興味もない」
レーザースライサーがロックスミスに触れる直前の刹那の一瞬、コックピットを襲う衝撃、モニターを埋め尽くす爆炎と警告音――――スタッガー状態。
そしてそのまま冗談の様に一瞬でAPを削り取られて試合に負けた。シミュレーションで再現された地面に大きく抉れた跡を見て何が起きたのかを理解した。
「地面に拡散バズーカを当てて簡易的なバリアを張ったのか、その使い方は初めて見たな」
「こんなものは応用ですらない、基本的な戦術だ」
シミュレーター同士の通信を切って外に出る、同じく外に出たフライトの涼し気とも見える興味を失った表情を見てどうやら上手くいった事を確信する。
「試合は俺の勝ちだが、それを含めてもお前の勝ちだラスティ」
フロイトに勝っては目立ちすぎる、しかし役立たずの烙印は回避しなければならない。高くもなく低くもない位置で情報を得るための作戦だった。
「しかしスネイルはこうなる事も予測して、既にお前に褒賞を用意している」
「プレゼントならいつでも歓迎だが、一体何が貰えるのかな?」
「ようこそ、ヴェスパー第四隊長ラスティ。スネイルから逃げられると思うなよ、アイツはお前が思う以上に狡猾だ」
ラスティは驚愕の表情を何とか堪えながらも内心で焦り、そして悪態を吐く。
武力のフロイト、支配のスネイル、諜報のオキーフがヴェスパーの三本柱と言われている中での次席の四番隊長という立場は決して軽くない。
調子に乗りすぎたか、流石に目立ちすぎる、フロイトが言う事が確かなら辞退は許されないだろう。
そしてそれは職務と責任に縛られスネイルの掌の上で操られる事を意味する、人を弄ぶ狂人に命を握られている事実にラスティは小さく身震いをした。
「少し頑張りすぎたな。医務室に医薬品のビールがある、今日は飲んでゆっくり休め」
フロイトがシミュレーター室から出ていくとラスティは一人になった、そのまま壁にもたれ掛ると目を閉じて心を鎮める。
―――これもルビコンの夜明けを開く為、その為なら己が心も裏切ろう。
次に目を開いたとき、ラスティはゆるりと笑みを浮かべた。
冷徹なる狼は自ら口枷を嵌め、気さくで朗らかなヴェスパー第四隊長ラスティはシミュレーター室を出た。
結果をスネイル閣下に報告する為、そしてアーキバスに誓いを立てるために。
スネイル
フロイトの事は犬だと思っている、わんわん。
言う事を聞いてくれる出来る人材をゲット出来てウキウキ、お礼に第四隊長にしてあげます!!
ラスティ
社畜は嫌だ…。
感想と評価と誤字報告、本当にありがとうございます!