スネイルちゃんはルビコン3で生き残りたい。   作:VERRILLを崇めよ

5 / 6
ヴェスパー会議

 

 

ヴェスパー会議、それはアーキバス専属強化人間部隊ヴェスパーの行く末を決める重要な意思決定会議である。

 

実質的な長であるスネイルが訪れるまで、円卓を囲んで各ヴェスパー隊長は会議の始まりを待ちながら各役職のレポートを再確認しつつ雑談に興じていた。

 

「いやぁ、いつもの顔ぶれですねぇ。第一隊長と第三隊長はともかく、第四隊長殿はいったいどちらへ?」

 

「ラスティ君とオキーフは外交だよペイター君」

 

「外交ですか?オキーフさんはともかく新参の人間に務まるものでしょうか」

 

ヴェスパー第八隊長であるペイターは嫌味もなく驚いた、ペイターはルビコンにおいて傭兵起用担当官としての役割を与えられているので猶更だった。

 

権謀術数を張り巡らすスネイルの意思を図り外交を取りまとめるのは容易ではない、それどころかしくじれば各陣営との関係性を悪化させるだろう。

 

「ふん、スネイル閣下に恥をかかせなければいいがな」

 

「まあまあメーテル君、スネイル閣下は出来ない事はさせないよ。もしもラスティ君が失敗したとしてもそれはスネイル閣下の思い通りさ」

 

それもそうかとメーテルリンクとペイターは作業に戻る、しかし外交と言っても関われるだけの勢力があるのだろうか。

 

それぞれの企業を含めた各陣営もコーラルを求めている。呉越同舟にせよ買収にせよ、コーラルを超える利益が無い以上は最後の一陣営になるまで争いは続くはずである。

 

「全員揃っているようですね、定刻通りにヴェスパー会議を始めます」

 

スネイルが会議室に入室すると席に着き、ヴェスパーの各隊長は一層気を引き締める、普段は接しやすいスネイルも任務となれば冷徹な魔女となるのは誰もが知るところだ。

 

「議題は事前に伝えた通り、ルビコン3におけるヴェスパーの方針ですが……」

 

モニターには各陣営の図が表示される。ベイラム、ルビコン解放戦線、惑星封鎖機構の三大勢力。

 

「我々がすべき事は至って単純。全ての組織をルビコン3から撤退させ、コーラルの全てを手に入れる事です」

 

「成程分かりやすい。しかしスネイル閣下、殲滅ではなく撤退と言えども三つの陣営は一つをとっても強大だ」

 

「ええ、その通りです。しかし梃子を用いてでも動いて貰う必要があります」

 

モニターに追加の情報が表示され、各陣営に番号が割り振られる。

 

「既に動いていますがフロイトには惑星封鎖機構を、ラスティにはルビコン解放戦線を、私はベイラムを担当します」

 

アーキバスの指示の下に戦い続けたヴェスパーにとって初めての三方面の同時攻勢、経験の浅いメーテルリンクとペイターは息をのむが歴戦の猛者であるホーキンスとスウィンバーンは動じない。

 

「メーテルリンク、貴女はスウィンバーンの副官として、ペイターはホーキンスの副官として動くように」

 

「かしこまりました、スネイル閣下」

 

「さて、配置を決めた事でまずやるべきことですが……まずはベイラムに出血を強いる必要があります」

 

「出血……ですか?」

 

「先程出立したラスティにはルビコン解放戦線に提案を持ちかけるように通達しました。アーキバスはルビコン解放戦線に積極的な攻勢は行わない、そしてアーキバスが惑星封鎖機構を抑える代わりにベイラムへの抵抗を強めよと」

 

「成程、それが外交という訳ですか」

 

「ええ、その通りです。この提案が通ればアーキバスは負担を軽減し、ベイラムは逆に三方面からの攻勢を受ける事になる」

 

「しかしその提案をルビコン解放戦線は受けるでしょうか」

 

「受けますよ、その為のラスティですから」

 

「失礼ですが閣下、ルビコン解放戦線とラスティには繋がりがあると?」

 

「ああ、ラスティはスパイです。正確には反アーキバス組織のエージェントと言ったところでしょうか」

 

事も無げに語るスネイルの言葉に会議室は驚愕と困惑の雰囲気に包まれ、モニター表示がラスティのパーソナルデータに切り替わる。

 

「オキーフによる裏付けも取れています。ラスティはルビコン3出身、それがシュナイダー社を経由してヴェスパー部隊に入隊。―――しかし滑稽ですねぇ、シュナイダー社は私の掌の上、それを知っていながらも送り込んでくるルビコニアンもアーキバスの役員連中も」

 

常に表情に乏しいスネイルの口角が吊り上がってうふふと嗤う、それを見た隊長達はむしろ落ち着きを取り戻した。

 

対岸の火事というべきか、スネイルが笑う時には敵が滅びるのであってヴェスパーにとってむしろ安心材料となっているからだ。

 

「メーテルリンク、ルビコン解放戦線がラスティをヴェスパーに送り込んだ理由はわかりますか?」

 

「申し訳ございません、私には想像もつかず」

 

「ルビコン解放戦線はヴェスパーを、私を敵に回すという事を恐れているのです。特に可愛い可愛いフラットウェル、どうやら彼はアイランド・フォーの動乱の悪夢から逃げられなかったようですね」

 

「フラットウェル……確かルビコン解放戦線の実質的戦争指導者でありナンバー2だったかな?」

 

「そしてかつてはシュナイダー社に所属していた、いずれ来るべきコーラルの再発見を恐れたルビコン解放戦線の密偵でもあります。そして私がラスティをルビコン解放戦線に当てた理由はわかりますか?」

 

「……ラスティは、ルビコン解放戦線に対して積極的な攻勢を行わない」

 

「その通り、ルビコン解放戦線もその方が都合がいいでしょう。しかしいずれはルビコンの民氓も、有象無象のベイラムも、厚顔無恥の惑星封鎖機構も、この私の糧となる事を光栄と思えるまで焼き尽くしてやります」

 

落日が齎した夜は未だ明るくとも、時が過ぎれば漆黒に包まれるだろう。夜明けの輝きをその手に収まるまで争いは続く。

 

最後に勝つのはアーキバスだ、その為の道筋は遠くとも構わない。しかし全てにおいて主導権を持つのはアーキバスでなければならない。

 

 

 

 

 

 

「全ては、アーキバスの為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAWS、正式名称はBELIUS APPLIED WEAPON SYSTEMSと呼ばれる企業の工廠の一つではアーキバスとルビコン解放戦線の密会が行われようとしていた。

 

「まさか貴方が私の先輩だったとは、驚いたよオキーフ」

 

「確かにお前の先達ではあるが今の俺はヴェスパー第三隊長のオキーフだ、余計な期待はするなよラスティ」

 

ヴェスパーの各隊長にはそれぞれの役職が降られているが、戦闘においては四脚タイプのACと二脚タイプのACで連携を取る事が多い。

 

二脚ACのペイターとメーテルリンクはパルス系の装備で敵をスタッガーさせ、四脚のホーキンスとスウィンバーンがそれぞれの火力で殲滅するという少数で確実な一撃を与えるのがヴェスパーのドクトリンだ。

 

ラスティとオキーフもその例に漏れず、プラズマ系の武装と実弾ミサイルで飽和攻撃を行いラスティが一撃で葬り去るといコンビネーションが採用されている。

 

フロイトとスネイルは良くも悪くもタッグは苦手の為、基本は単独で行動する事が多い。

 

ちなみにスネイルは組むなら頼りがいのあるミシガンがいいなぁとミシガンに溢した事があるが、ミシガンは苦々しい顔をした上でしばらく調子を落とした。

 

「随分とアーキバスと打ち解けたようだな、ラスティ」

 

気配無く後ろから声を掛けられ振り返る二人、目の前にはルビコニアン独自の紋様が編まれたストールを肩にかけた壮年の男。

 

「貴方は相変わらずのようだ、フラットウェル」

 

「―――フン。そしてオキーフ、こうしてお前と再び遭う事になろうとはな」

 

「感傷に浸るほどの関係は俺達にはないだろう、ミドル・フラットウェル」

 

向かい合う男たちの心境は如何なモノだろうか。敵ではないが味方でもない、しかし己の居場所に対して影を差す者達。

 

「まあいい、態々俺を呼び出した理由は何だ」

 

「ミドル・フラットウェル、我らがスネイル閣下から直々の提案がある」

 

「……聞こうか」

 

「『アーキバスは惑星封鎖機構を破壊する、よってルビコン解放戦線はベイラムを叩くべし』との事だ」

 

その言葉にフラットウェルは沈思黙考する、スネイルの思惑を図り、そこにルビコン解放戦線にとっての利益を探る。

 

「―――スネイルが笑っていたぞ、ミドル・フラットウェル。アイランド・フォーの動乱での立ち位置は違えど、俺とお前は同じくスネイルに嘲笑われた者同士。生き残りたいなら潔く跪くといい」

 

「ソレがお前の選んだ選択かオキーフ。故郷を無くし、名前を無くし、そして己の意思すら失った男が」

 

「俺は『今』を生きる、今度こそ、俺自身として」

 

「だからお前は咲けないのだ、オキーフ」

 

愚かな男、かつての優秀なエージェントだった男はただの小さい男になった。影に光が当たれば消えてしまうというのに。

 

「お前とラスティが揃ってここに来た以上は、最早正体はバレているという事だな?」

 

「貴方の狙い通りだ、ミドル・フラットウェル。スネイルと同じ筋書きの上をお前は歩んでいる、そのスネイルの描く結末はお前達の破滅だがな」

 

オキーフはアーキバスに所属しているが元は反アーキバス組織の出身、彼にアーキバスに叛意の意思があればラスティの出自を隠して共にヴェスパーの中で暗躍しただろう。

 

しかしラスティの正体がバレたとしてもそれはアーキバスとの直接的な対峙をせずルビコン解放戦線の被害を軽減する事に繋がり、そしてその目的は既に達しつつある。

 

それをスネイルがしっかりと理解しているのであればこの様な密会は必要ない、それこそがフラットウェルの思考を揺さぶるのだ。

 

「改めて聞こう、態々俺を呼び出した理由は何だ」

 

「何、お前に思う所はないが一つ伝えておこうと思ったまでだ。俺の予想が当たっていればヴェスパーは壁を攻めるだろう、それなりの準備をしておくことだ」

 

ヴェスパーからルビコン解放戦線に対して不干渉の提案をした上でエルカノやBAWSとの交易に重要な地である『壁』を攻めるという。しかしこれは意外でもなく、そしてミドル・フラットウェルは魔女の手管を知っている。

 

「スネイルはベイラムを削るつもりだな、ルビコン解放戦線を使って」

 

「その通り、陽動はヴェスパーが担当しよう。お前達はベイラムの有象無象を蹴散らすだけでいい」

 

「最低限の出血と壁の明け渡し、それを俺が呑むと思うか?」

 

「お前は『未来』を見ている、どの道お前達は受け入れるしかない」

 

不毛なチェス・プロブレムを解かされている気分だ、しかしベイラムも目障りな存在であるため無視するわけにはいかない。

 

「いいだろう、しかし壁を墓標とする同志達の恨みをいずれ思い知らせてやる」

 

「煉獄でなら付き合おう。さてラスティ、ここからはお前の仕事だ」

 

「ん、ああ。忘れられたのかと思ったよ」

 

「壁越えの三文芝居をそこのミドル・フラットウェルと練るがいい、俺は一足先に戻っているぞ」

 

そう言って踵を返したオキーフ、残されたフラットウェルとラスティは壁越えの話を詰めていく。

 

しかしルビコンを略奪する者達を駆逐するべく立ち上がったラスティによって『壁を墓標とする同志達』が失われるという事、聞いたことがないスネイルの笑い声がラスティにも聴こえてくるかのようだった。

 

誰もが彼女の振る舞うあどけなさに油断するが、スネイルという人物が誰しもが恐れる魔女というのは間違いない。

 

枷を嵌められ、それでも逃げ出さない程度には役目を果たす事を強要される。それでも獣には血が似合う、いつか魔女の喉笛を嚙みきるまで道化を演じ続けるとしても狼子野心の想いを心に秘めたまま。

 

最低限の出血というのはスネイルもフラットウェルも同じ考えなのだろう。しかし空を赤く染めるコーラルの様に、ルビコンの地を赤く血で染める事に微かに残した良心がしくしくと痛む。

 

 

―――夜明けの光に照らされたルビコンの色は、何色になるのだろうか。

 

 

 





スネイル「ラスティはスパイ!?それじゃあ有効活用しないと!!」

ラスティ「ふえぇ…」



オキーフ「(スネイル)ヤバいよね…」

フラットウェル「(スネイルは)ヤバい…」


感想と評価と誤字報告、本当にありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。