スネイルちゃんはルビコン3で生き残りたい。 作:VERRILLを崇めよ
「621、仕事の時間だ。突入カプセルの電源を落とす、あとは合図を待て」
警戒網の隙間を縫って己を運ぶ突入カプセルの燃料供給がカットされ、慣性飛行に移行する。
かつては"ソレ"と呼ばれていた強化人間、C4-621は輝度の低いディスプレイに照らされながら指示を待っていた。
コーラルを用いた強化手術によって脳を焼かれた621にはかつての己を構成していた名前も記憶も存在しない。
「今だ 起動しろ」
最終ブースターを再度点火してルビコン3の大気圏に突入する、逆噴射を行いながら突入角を調整、脳内に埋め込まれた管理デバイスからアラートが鳴り響く。
惑星封鎖機構が配置した衛星砲、その底部に備え付けられたレールガンからの迎撃の一射。
逆噴射を中断して再度加速、レールガンからの偏差射撃による着弾予想地点を僅かにずらすも突入カプセルの推進用ブースターに命中。
最終ブースターは跡形もなく吹き飛び、残っていた推進剤に引火した為に誘爆から回避するためにすぐさまジェットソン。
加えて衝撃とデブリの影響か三基あった逆噴射用のブースターの内一つが不調を起こした為に止む無くプランを変更。
突入用カプセルのコンテナを爆砕ボルトを起爆させて強制的に開放、そのままカプセルから飛び出して距離を取る、証拠隠滅の為にカプセルは自動的に爆発する。
大気圏内では初めてのACの操縦、大気による影響を受けて空中での姿勢制御に難儀するも管理デバイスの補助を受けて立て直す。
苦難は連続する、相殺しきれなかったが故の高速の落下、そして目下にはメガストラクチャーの構造体が待ち構えている。
≪ミサイルシーカーオープン、マニュアルロック、ミサイル発射≫
手動操作よりも迅速かつダイレクトに戦闘用COMに伝達する、コーラルの情報導体として特性を活かしたカオス的思考をACの操作に反映させるシステム。
まばらに誘導されたミサイルが構造体に命中し、その爆破によって奥に空洞が見受けられる事を確認すると全く減速することなく構造体の一部を蹴り破った。
恐らくは少女であったのだろう、元々はそうだった。
第四世代型の強化人間、強化人間手術が発展を遂げるにつれての被検体の一人であったのだろう。
闇医者は『機能以外は死んでいる』と言っていたが、恐らくは機能以外を殺されたのではないかと疑っている。
「座標は…グリッド135、誤差はあるが許容範囲だ。この先のカタパルトを使え、それで帳尻が合う」
多少のAPを消耗したが、それ以外に問題は無い事を確認すると脳内管理デバイスがインターフェースを切り替える。
≪メインシステム 戦闘モード起動≫
己の網膜が捉えた光景にFCSのスクリーンフィルターを重ねて脳内に直接的に表示される。
神の目線の様に戦場を俯瞰し、視線の先をロックオンマーカーが捉える、敵を認識した瞬間に思考するその最適な行動をACの戦闘用COMは読み取り動く。
621の駆るACの引き金に重量は無く、攻撃をするという意思の発露すら621には必要がない。
それはまるで食物を口に含み、舌で食物の形や硬さを読み取り、歯で摺り潰し、最終的に嚥下するその動きが自動的に行われるように。
――――621には戦闘感覚の全てが搭載されている。
「ACの残骸を漁り、生きている傭兵ライセンスを探せ。密航者には身分が必要だ」
『ACが一機!?なんでこんな所に!?』
『アーキバスでもベイラムでもない…独立傭兵か!?』
MTと呼ばれる戦闘用に改修されたマシーンから無作為に放たれるオープンチャンネルから伝わる動揺、有象無象のルビコン解放戦線の兵士は621にとっては格好の的であった。
アサルトライフルから放たれる銃弾は数発でMTの装甲を容易く突き破る、支援用のヘリも飛行していたがマルチロックにて放たれるミサイルからは逃れられない。
「少し前に交戦があったらしいが都合がいい、敵MTを排除してACの残骸にアクセスしろ」
言われるがままにACの残骸にアクセスする、情報はACに搭載された情報解析用のCOMがリアルタイムで解析を行うがいずれもハンドラーウォルターにはお気に召さなかったらしい。
621には感情はないが、原始的な快か不快かを感じる本能は残っている。今の621を喜怒哀楽で示すのであれば哀、しょんぼりしていた。
続けて他のACの残骸を求めてマーカーの下に向かいながらMTを排除していると、突然の光源とローター音を捕捉しすぐさまACに制動をかける。
「待て621、あれは封鎖機構のサブジェクトガード*1だ。迂闊な行動はするな」
621は意思が希薄ではあるが、得られたフィードバックに対して自己判断を下す能力は持っている。
確かに目の前を飛行する大型武装ヘリという存在は今の己にとって脅威であり、巨大な建造物に隠れて巡回をやり過ごす事に異論は無かった。
「SGは去ったか。621、新たなACの残骸を発見した。マーカーの下へ向かえ」
621はマーカーの位置を確認するとアサルトブーストを実行して目的地に急行した、比較的高所であったが垂直上昇カタパルトも配置されていたので難なく向かう事が出来た。
そこで見たのは己の駆るAC『LOADER 4』とほぼ同じパーツで構成されたACの残骸であった。その末路に共感も恐怖も感じることは無かったが、621は些細な違和感を感じ取った。
これまで見つけて来たACは野晒しの状態にあったが、目の前のACの周囲には検分を行ったかのような設備が周囲を囲んでいたのだ。
ルビコン解放戦線のMTには調査で訪れたような動きは見られなかった、それではこの場で検分を行うであろう存在は――――。
「621!今すぐその場を離れろ!!」
先程遠くへ去ったはずの大型武装ヘリが戻ってきた、恐らくこの場にはセンサーが仕掛けられていたのだろう、このACに引き寄せられた者を始末する為の監視の罠が。
しかし捕捉されてしまった以上は逃げる事は叶わない、すぐさま迎撃を開始する。
武装の火力も速度も敵機の方が優れている、しかしACという存在が重要視される要因の一つが機動力だ。
ジェネレーターの出力に不安が残るが、短時間ながらも飛行と呼べる程度の推力は確保している。
敵の弾幕を回避し、動きが止まった瞬間を逃さずに最も火力の高いパルスブレードで何度も大型武装ヘリを斬り付けていく。
その内に大型武装ヘリが耐久限界を迎え、各部を爆発させながら撃墜した。
後はACの残骸から傭兵ライセンスを抜き取るだけ、今度こそミッションを終えるためにACへ近づくと再びCOMからアラートが表示される。
「俺の暇つぶしを落としたのはお前か、独立傭兵」
アサルトブーストで空を駆けるACが一機。アーキバスとベイラムのACパーツの混成、濃淡で塗分けた蒼の塗装、そして彼の存在を示すパーソナルマーク。
「……なんという事だ、621。あれはアーキバス所属の強化人間部隊、ヴェスパーの戦闘隊長。V.I、フロイトだ」
企業という国家以上の集合体の中で一番を名乗る事を許される存在、それがどれ程のモノかは今の621には想像もつかない。
「別にノルマも遺恨も無いが、俺の獲物を奪うなら代わりにお前が俺を楽しませてくれ」
ルビコン解放戦線に加えて先の大型武装ヘリとの連戦で弾薬が底を突きかけている、そして目の前には十分に戦闘可能なACがいる。
「ライセンスの抜き取りが完了した、今は逃げる事に専念しろ621」
≪オーダー承認、ジェネレーターのリミットを再設定≫
621はその場で反転、アサルトブーストでその場から撤退を開始する。
「それはないだろ、独立傭兵」
フロイトは戦士であって殺戮のみを求める狂人ではない、次第に621との距離を詰めていく中でフロイトは敵ACが作戦領域から逃走した時点で追跡を中断するルールを決めた。
そうと決まればフロイトがアサルトブーストを吹かして621を追撃、慣性を乗せた弾丸が621のACを襲う。
621のACが一度アサルトブーストで距離を引き離した後はクイックブーストとジャンプを織り交ぜ寂れた街の残骸を時に潜り、時に蹴り、時に飛び越えて進む。
「熟れた動きだ、流石は探査用のAC、デブリを避ける時の動きとそっくりだ」
しかし遅すぎる、所詮は急拵えのACか、フロイトは反撃の手段を投げ捨てた621にレーザーブレードを展開して切り掛かる。
≪オーダー承認、ジェネレーターのリミッターを解除≫
621の設定したジェネレーター出力は66.6%、これを100%に戻すと一体何が起きるのか。
66.6%の速度に慣れたフロイトにとって100%の出力は体感にして1.5倍、レーザーブレードを躱され急制動をかけたフロイトにとっては一瞬とは言え更に速く見えただろう。
その隙に再び621が距離を離し、作戦領域から逃走した事をフロイトが確認すると決めた通りに追跡を中止した。
「気が済みましたか?フロイト」
「……」
「私の方も確認が終わりました、あれは確かに
「……俺は少し残る」
「……いいでしょう、暗くなる前に戻ってきてください」
スネイルとの通信が途切れるとフロイトは映像記録を呼び出し先程の動きを観察する、何度か巻き戻してタネを解き明かすとACの戦闘用COMにオーダーを入力する。
≪オーダー承認、ジェネレーターのリミットを再設定≫
ジェネレーター出力は66.6%、そのままブーストを吹かしてグリッド135から離れるとSGの残党を発見。躊躇いもなく踏み込み、大型武装ヘリを含めて全ての動く敵を蹂躙した。
621
銀髪幼女、目が死んでる、他の機能も死んでる。
フロイト
新しい遊びを教えて貰ってご満悦、もっと遊んで欲しかった。
スネイル
レイヴンが死んでるー!何でー!!?
感想と評価と誤字報告、本当にありがとうございます!