不良のウマ娘は君達にエナーの場所告げたのち、イトノコの方を見やった。
「話は以上だ。もういいだろ? おりゃこれから事情聴取の時間だ」
「……」
ライスシャワーの憐憫の視線から顔をそらすように、後ろを向く。
「おっさん、いこうぜ。話したい事が山程ある」
「きゅ、急に素直になったッスね……」
彼女が去り際、ライスシャワーはその背に言葉を向けた。
「……あのね。ちゃんと反省の時間が終わってお外に出られたら、それで困った事があったら……ライス。その時は、貴女達がみんな真っ当な道に戻れるように、一緒に考えるから、連絡してくれたら嬉しいな……余計なお節介かもしれないけど」
「…………」
相手は振り向かずに言葉を述べる。
「やめとけやめとけ。悪いヤツと関係持つと、変な噂が立っちまう」
「……」
「だから、ジャックの野郎もエナーも、オレらの事アンタ達に話さなかったんだろうぜ」
そういってから、連絡先を聞こうともせずに――去っていった。
それが彼なりの義理の通し方なのかもしれない。ライスシャワーに変な噂立てないように。
――彼じゃねぇ! 彼女だ!
セイウンスカイ『ウマ息子……実在していたのか……』
キングヘイロー『真面目なシーンで誤字はよくある事とは思うけど、これは……』
「イトノコさん……!」
「は、はいッス!!」
ライスシャワーに名前を呼ばれて、ビシっと姿勢を整える。
「これ! ライスの連絡番号! あとでこっそりあの子に渡しておいてください! あと、それがダメならあの子がお外に出られそうな前日にイトノコさんからお電話掛けてもらえれば!」
「え、あ……わかったッス! 男イトノコ。ご協力してくださったウマ娘さんの約束は、意地でも守り通してみせるッス!!」
「それと一つの伝言を」
敬礼するイトノコの前で、慎ましやかな仕草を取るライスシャワー。
「……『黒い刺客のライスに、黒い噂が一つ増えたところで、問題ないよ』……って」
カレンチャン『ヒソヒソ……イトノコ刑事ったら……あんな小さなウマ娘さんの連絡番号を……』
セイウンスカイ『しかも「イトノコさんからお電話掛けてもらえれば!」なんて熱烈ですよ~奥様……? こりゃあ、黒い噂が一つや二つ立っちゃいますねぇ』
ライスシャワー『ふ、ふぇぇぇええ!?! ら、らいすそんなつもりは……』
――黒い刺客に誰かさん達の影響が伝搬している気配がする……。
キングヘイロー『……』
ハルウララ『ライスちゃん! とってもかっこよかったよ!!』
さて、カームフェスティバル開催までいくらかの時間があるわけだが。何か準備する事はあるかい?
セイウンスカイ『ノボジャックといくらか話し合いたいかな』
――どうぞ。
「ねぇ、ノボジャック。キミはどうする?」
セイウンスカイがそう呼びかけると、ノボジャックは顔をあげた。
「無論、ついていきます」
彼女は胸に片手を当てながら、セイウンスカイの顔をまっすぐ見据えて答えた。
「……グループの子やラウディーに恨まれちゃうかもよ?」
「承知の上です」
彼女の眼鏡の奥にある瞳に、怯えはなかった。君達に触発されたのか強い決意と、覚悟が宿っていた。
「……何か策があるならば仰ってください。私は皆さんと違う立場ゆえ、何か貴方達とは違う事が出来るやもしれません」
セイウンスカイの表情をうかがってから、ノボジャックはそのように述べる。
「あ、バレた?」
「カマをかけてみました。策士策に溺れぬように……冗談さておき。それで、ご要望は?」
(その他各自、細かい用事処理)
それではカームフェスティバルが開催したらしい。まだ明るい夕焼けに花火が打ち上がり、商店街の通りにずらりと並んだ露天には客が殺到し、野外ライブでは市から招待されたウマ娘の歌声が響き渡っている。
それらに気を取られている一般人のポケットに手を伸ばすウマ娘が一人。
「ちょっと」
まだ幼さを残した生真面目ったらしい声がそっと響いた。声をかけられた側のウマ娘はパッと手を引いた。
「久しぶりだね。ジャック。これは、偶然というべきかい……?」
ノボジャックと対峙したウマ娘は、明らかに素行の悪そうなウマ娘といった風体だ。一般人達も、あわや喧嘩というこの事態にも進んで関わろうとはしないほど。だがジャックは、鼻で笑うような態度を返した。
「まだ地べたを這いずり回っているようですね。そんな事だから、所詮あなた達は揃いも揃ってトレセン学園に落第するんですよ」
生真面目なジャックらしくない物言いに、相手は眉をヒクつかせる。
「……てめ、言うじゃないか。エナーやラウディーの後ろにいっつも隠れてた"木偶の坊"のクセに……」
カレンチャン『おぉ、今のはトリプルミーミングってヤツだね☆』
――ダジャレ解説せんでいい。
不良のウマ娘の恫喝に、ジャックは強気で言い返す。
「殴ってみますか? トレセン学園で活躍する私相手にそんな度胸さえも――いいえ、資格さえも無いくせに! エナーだって、負けるのが怖くて逃げ出したそうだから、もしも会えたというならば"負け犬同士"仲良くするがいいわ! トレセン学園にふさわしくなかった貴女達にはそれがお似合いよ!」
その言葉で完全にプッツンと来たのだろう。相手は一歩踏み込んでジャックの胸倉をつかみあげようとした。そこでようやく一般の人たちがなだめに入る。
キングヘイロー『………………あれ、セイウンスカイさんの差金?』
セイウンスカイ『これ以上ない完璧な足止めでしょ? ……いや、それにしても、ジャックがあそこまで過激な事言える子とは、このセイちゃんの目をもってしても見抜けなんだ……』
注目はノボジャックへと完全に奪われてしまっている。彼女の力強い威圧によって、エナーのお目付け役だったはずの不良ウマ娘は"無力化"されてしまった。
しかし、それはセイウンスカイやノボジャック達以外には知る由もない。
(GM、各自にINTダイスを振るように指示)
セイウンスカイ:CC<=70 (1D100<=70) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 42 > 42 > レギュラー成功
セイウンスカイは目的のウマ娘を見つけて、ぴょんこと飛び出すように前に出た。
「やぁ、エナー。捜したよ」
セイウンスカイの言葉にも反応薄く、青褪めながら喧騒の方に目を奪われているフォーエナー。
「じゃっく……そんなふうに、わたしの事……おもってたんだ……あはは……」
フォーエナーは真顔のまま、むしろ少し笑いを浮かべながら、ボロボロと大粒の涙を流し始める。
キングヘイロー『ちょっと流れ弾!!!! どうするのよっ! これぇぇぇ!!?』
カレンチャン『エナーちゃん視点だとヒッドーイ!』
ライスシャワー『う、ううう……かわいそう……』
セイウンスカイ『だ、だいじょーぶだいじょーぶ……たぶん……』
とりあえず、ショックで逃げ出されたりしないようにセイウンスカイはフォーエナーを後ろから抱きしめ、他のウマ娘達は彼女を取り囲んだ。
「安心して。ジャックは、あの子の気を引くためにわざとあんな心にも無い事を言ってもらっている。グループの子の気を引いてキミを学園に連れ戻す時間を作る為さ」
セイウンスカイはそう言おうとしたが、その言葉の途中でフォーエナーはワッと声をあげた。
「私は!! 私は……もう、学園には戻らない……戻りたくない……」
フォーエナーは赤子のように声をあげてボロボロと泣き始めた。ジャックの言葉を聞いて動揺していた先より酷い。
――これには、素の状態のままならペナルティダイス二つついたAPP判定を成功させる必要があるだろう。フォーエナーに"いくらかの情報"を与えると変動しそうだが、どうする?
セイウンスカイ『じゃあ、まずはラウディーがエナーに濡れ衣をかけようとしている事を……』
ハルウララ『セイちゃん』
セイウンスカイ『ん?』
ハルウララ『ウララ、その事だけはエナーちゃんに聞かせたくない……だめ?』
――………………。
キングヘイロー『……』
ライスシャワー『……』
カレンチャン『……うーん……やっぱり強い……』
セイウンスカイ『…………うん、わかった。GM。私、この判定"想い"消費する。1回だけ強制成功だよね?』
――よかろう。では少し描写時間を貰う。
セイウンスカイ:【想い1⇒想い0】
セイウンスカイが言葉に思い悩んでいると、啖呵を切り終えてきたジャックが合流してきた。どうやら圧倒しきって、あまつさえ一般人の注目が集まりすぎたから一時的に相手は退散せざるを得なくなったようだ。
「エナーッッッッ!!!!」
「!!!」
またもやジャックらしからぬ、彼女の容姿に似合わぬ怒声が放たれる。思わず涙をピタリと止めてしまうフォーエナーは、自分を見つめる青色の瞳を見つめた。
「……エナー。もう帰ろう。大人達も、先輩達も、みんなエナーの事捜してくれてたんだよ?」
その声に促されて、周囲を見回す。キングヘイロー、ハルウララ、セイウンスカイ、ライスシャワー、カレンチャン、そしてノボジャックが一斉に集ったのを認識して……自分がどれだけ他人を心配させてたかというのをようやく自覚した出来たらしい。
「でも……わたしなんて……私なんていても、誰も嬉しくないよ……一回も勝ちも出来ないし、応援してくれる人……がっかり、させるばっかりで……」
そのように俯くエナーだった。彼女を安心させるためには、もう一声必要なのだろう。
セイウンスカイ『……その一声、ウララに譲っちゃだめ?』
ウララ『え?』
――……いや、ここはできればセイウンスカイにお願いしたい。だめか?
ウララ『うん、ウララもそう思う! ここは、セイちゃんがずばん、と言っちゃうのが一番カッコいいよ!』
キングヘイロー『そうね、スカイさんは図々しくなるべきよ。GMさんとの会話聞いてたけど、貴女は私達に遠慮しすぎなのよ』
(GMからの注釈:実卓キングヘイローもTRPGは初めてだったご様子。初めてであの口上は、実に良いロールプレイ……)
セイウンスカイ『わかった。ありがとう』
セイウンスカイはバツが悪そうに目線を上の方に泳がせて、頬を搔き、何度か深呼吸を繰り返してからフォーエナーに言葉を向けた。
「へへへ、ジャックちゃんにあぁいう事言わせた手前、気まずいですねぇ……」
「す、スカイ先輩が言わせてたんですか……?」
「そう。キミのお目付け役の子の気を引いてもらう為にね。思ったよりも口が上手かったけど……それはさておいて」
フォーエナーを抱きしめていた腕を、そっと放す。そして、そのままフォーエナーの手を取った。
自然と、フォーエナーの視線がセイウンスカイの真剣な顔に注がれた。
「エナーがいると、私達みんなが――ううん、この言い方だと勝手に皆の気持ちを代弁してるようで卑怯だね――私が嬉しいんだ。キミが笑ってくれたら、私も笑えるんだ。だから……傍に居てほしい」
――(GM、無言で俯いて膝上をバシバシと叩く)
キングヘイロー『……!!!!!!!!』
セイウンスカイ『な、なんだよう。GMもそんな小っ恥ずかしそうに、キングは真っ青に青褪めて口あんぐりさせてたり……』
カレンチャン『えーっと……愛の告白?』
ライスシャワー『わ、わー! わぁー! ステキ……! ライスも、あんな風に誰かに言えたらいいなぁ……』
ハルウララ『セイちゃんカッコいいー!!!』
(※セイウンスカイから『台詞滑った。くさすぎた。ちょっと待って』としばし台詞を喋る時間の要請)
カレンチャン『スカイさんカワイイー♪』
セイウンスカイ『……セイちゃん、横になりますね…………』
――就寝するならそのままエナーの膝枕で寝させるぞ誑し。
「す、スカイ先輩……?」
エナーはセイウンスカイのセリフ一言一句聞き届けると顔を真っ赤にして、別の意味で目尻に涙を浮かべている。
「あ、あはは。なんてね。恋愛小説で読んでみた台詞言ってみただけ!! これホント!! ……こほん、ともかく」
一旦場の空気を仕切り直すように咳払いするセイウンスカイ。
「お姉さんやグループ仲間とカームフェスティバル楽しみにきたのかもしれない。それを邪魔するのは、ちょっと気が引けるけどさ……キミがトレセン学園に居続けてほしいって気持ちは、本当に本当なんだ」
「でも……私、一回も……」
「ウララの前でそんな事言う?」
皆でハルウララの方に視線をやる。ハルウララは……何故皆の注目を集めたのか分からないが、気恥ずかしそうに「えへへ」と笑った。
「彼女はさ。一回も勝てなくても……皆に好かれてるんだ。いや、愛されてる。周囲の人たちに想われてる。だから、エナーにも"自分が居ても誰も嬉しくない"なんてネガティブな思考で落ち込んで欲しくない」
セイウンスカイは再度ハルウララから、フォーエナーへと視線を戻す。
そして、ちょっと照れ気味に頬を搔いてから――フォーエナーにこう告げた。
「――私達は、少なくとも"誰か"に愛されてこの優しい世界で生きている。だから、安心して。エナーも、きっと……」
セイウンスカイの透き通った声色の言葉を、フォーエナーは黙って聞き入っていた。
「……スカイ先輩は……」
「ん?」
「スカイ先輩は……いえ、スカイさんは、私が傍にいたら、その、嬉しいのですか……?」
「うん、もちろん。嬉しいよ」
そう答えるとフォーエナーは頬を赤らめながらも、とろんとした目つきでセイウンスカイに甘えるような目線を投げかけてきた……。
「…………つまり……エナーを、愛して、くださっているのです、か……?」
セイウンスカイ『??????????????????????????????』
――言い直した台詞でも十分落とせる台詞だぞ! 無自覚誑しめ!!
キングヘイロー『はぁぁ……ま、酷い事を聞かせた帳尻合わせとして受け止める事ね……』
カレンチャン『エナーちゃんカワイイー♪ やっぱり恋する女の子って、それだけ絵になるよね♡』
ライスシャワー『よ、よかった。これでなんとかエナーちゃんと一緒に帰れそうだね!』
ハルウララ『わーいわーい! シナリオクリアだー!!』
セイウンスカイ『ちょっとセイちゃんフラワーに見つかる前に縦になってブラジルいってきますね……』(※オンラインセッションなのでキャラクター駒を縦にして画面下に移動させる駒ネタ)
――えぇい、リプレイではわかりにくい事を。ともかく進めよう。
セイウンスカイの腕に抱きついて、甘えた素振りで身を寄せるフォーエナー。「なんで、なんで助け出した親友が他人に甘えてる場面を見せつけられてるんでしょう……私は……」などと、複雑な感情が籠もった表情で俯きぶつくさ言っているノボジャック。
そんなさなかに警察や警備員が何人かのウマ娘を捕まえているような光景が目に入った。きっとグループの者達だろう。えらく多い。……おそらく、あのグループの壊滅は寸前なのだろう。
さて、二人を連れてトレセン学園に帰るべきなのは決定事項として。君達にはここから選択肢が与えられる。
……ラウディーを追い詰めるかい? 取り巻きは、先程の通りほとんどが捕まっているのだろう。丸裸にされている機会は今しかない。
セイウンスカイ『うーん……殴り飛ばす――はないにしろ、説教の一つくらいはしてあげたいね……』
キングヘイロー『賛成。このまま放っておくのはあまりにも尻切れとんぼに御話が終わってしまうわ』
カレンチャン『カレンも賛成~! ラウディーちゃんとは、ちゃーんとおはなししなきゃね☆』
ライスシャワー『ら、ライスも……あの人には、ちょっと言いたい事がある……』
――……。
ハルウララ『ウララは、このままラウディーちゃんが捕まらないままなら、それでいいかな……』
――ほう、ウララだけ分断。成る程、ではフォーエナーとジャックをトレセン学園へ連れて帰る役割はキミに任せてもよろしいかね?
ハルウララ『うん! ウララ、ちゃんと二人をトレセン学園まで連れて帰るよ!』
――ではラウディー追う者達は例の路地裏の料理店へ向かうという事でよろしいかね?
(一同、同意する)
――……………………………………。
ラウディー達が屯していたはずの店へ向かうと、店員以外は蛻の空だった。
「……イラッシャイ」
押し入ってきたウマ娘達に対して、涼やかな声が向けられる。
「ラウディーさんは、いない……?」
「あれー? もしかして危険察知して逃げちゃった……?」
カレンチャンもライスシャワーも店の中、店の外を見回す。しかし一向に見つからない。
キングヘイローとセイウンスカイは、素知らぬ素振りの店員さんに注意を向けた。この者は、犯罪に関しては知らぬ存ぜぬの立場なのだろう。
「……」
「……まさか」
セイウンスカイとキングヘイローは、一つの可能性に気がついてだんだんと青褪めていった。
何も言う暇もなく、店から飛び出していく。
不可思議そうにするカレンチャンとライスシャワー。
「えっと、ラウディーさんはどこにいますか……?」
ライスシャワーはそう店員に訊ねる。店員は微笑みながら、こう答えた。
「妹さんを迎えにいきましたよ」
セイウンスカイ『ウララ逃げて』
キングヘイロー『ウララさん逃げて!』
――……ウララ、逃げる? 【ノボジャックとフォーエナーを放置して?】 ……本当に?
ハルウララ『…………。……逃げない』
――……では時間軸を合わせる為に描写を続けよう。
ハルウララは、トレセン学園に帰る途中だった。
恍惚とした表情のフォーエナー。やたら不機嫌そうなノボジャック。
「スカイさん……前々から思ってたけど、やっぱりステキな人なんだなぁ……」
「そうだよねー、今日のセイちゃんは一段カッコウよかったね!」
「…………放っておけばよかった……」
親友の惚気を横聞きに、ガチトーンで声を漏らすノボジャック。フォーエナーは慌てて、正気を取り戻す。
「も、もちろんジャックもステキだと思うよ! 今日も黒ぶち眼鏡がステキで……」
「……そういう露骨なおべっかはいりません……」
「け、けんかはだめだよー」
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らすジャックだった。慌てるハルウララ。しかしフォーエナーも、ジャックがどれだけ尽力しているかは理解したようで、申し訳なさそうながら、彼女に抱擁を向けながらお礼を述べる。
「ありがとう。ジャック。私、あなたの事好きよ」
「……あなたは馴れ馴れしいですね。相変わらず」
「でもウララもジャックちゃんの事は好きだなー? だって、友達想いだもん!」
「……」
不機嫌そうなのは相変わらず。しかしハルウララとフォーエナーの言葉に絆されかけている気配がする。
それに気を良くしたフォーエナーは、言葉を続けた。
「えぇ、だって。あなたはとても聡明だもの。将来はオープン……ううん、重賞を荒らし回れるくらい、すっごい大物になるって、私はそう思うの!」
「………………――――」
ノボジャックは目を見開いて、こわばった。
「ジャック? ごめんなさい、なにか気を悪くするような――」
抱擁しながら謝罪をするフォーエナーを、ノボジャックは無言で力一杯突き飛ばした。アスファルトに尻もちをつくフォーエナー。
「いったぁーい!! ちょっとジャック!? そんなに怒る事だったの!?」
抗議の声を向けるフォーエナー。ハルウララも何事かとノボジャックの方を見るかもしれない。
彼女は――ノボジャックは突き飛ばした腕をゆっくり引っ込めたかと思うと、それを抱え込むようにして、痛がり始めた。
突き飛ばした際に腕をくじいたのかと、一瞬はそう誤解してもおかしくはあるまい。
腕を抱えていたノボジャックの表情が苦痛に歪む。彼女の抱えた腕から少量の赤い液体が垂れてきた。
「……ジャック。私、ジャックをこれ以上傷つけたくない……だから、邪魔しないで……お願い……」
血の濡れた小型ナイフを片手に持ったラウディーが、君達の前に現れた。鼻先に返り血がついたのを、ナイフを握ってない方の手で拭う。
君達に脅すように誇示されたそのナイフは、カタカタと揺れていた。
「ラウディーちゃん……」
「……なんで、こんな時に限ってエナーを護送してるのがあなたとジャックなのよ。ハルウララ……」
ラウディーの動揺は強まる。エナーは恐怖に震えて立ち上がる事も出来ない。
「…………悪いけど、邪魔しないで……前線で走れない程度に、エナーに怪我させたいんだ……」
「どうして?」
ハルウララが当然のようにそう聞くと、彼女は声を荒げた。
「アンタらが邪魔したからだ!! 私達は、穏便にエナーを"リタイア"させようとしてただけなのに!! 自分の実力の見合わない目標であるトリプルティアラを獲ってやるだなんて、"無謀な夢"に囚われたばっかりに!! デビュー一年足らずでその夢はもはや絶望的!! 一握りの天才ですら足掻いて足掻いてたった年一人だけが得る事の出来る大目標を、おこがましくも一人で3つ! 出来るわけがないんだよ!」
「…………」
ハルウララとノボジャックの表情が曇る。フォーエナーは、姉の口上にボロボロと泣き出してしまう。
「そのクセ! 負ける度に誰にも打ち明けられずメソメソしてるらしいじゃないかい! この子が泣いてるところなんて、幼稚園児よりも前の時以外は本当に記憶にないのにさ!! ……それくらい辛い事なら、今すぐ、やめちまえ!!!」
そう叫んでナイフの切っ先を向けるラウディー。エナーは嗚咽を堪えようとするばかりで何も言えない。
「そうかい。そうかい。自分じゃあ、諦められないよね。そんなに辛いのに。カワイソウな、カワイソウなエナー……お姉ちゃんが、手伝ってあげるね」
そのフォーエナーに、ゆっくりとラウディーは歩み寄った。
しかしハルウララが間に立ちはだかる。
「……のいてよ。ハルウララ」
「やだ」
「ナイフ、痛いよ? とっても……ちゃんと狙いどころ選ぶけど、さ……」
「うん、しってる。お料理の授業の時に指を切っちゃった事あるから」
一歩も譲らないハルウララ。ラウディーはそれを見て大きくため息を吐き、諦観とした表情になった。
「………この世界の私達は誰もが必ず愛されてるわけじゃないし、必ずしも優しい世界じゃないんだよ。ハルウララ……」
そうして、ラウディーはハルウララに対してナイフを振りかぶった。
――戦闘処理開始――
(DEX同値。選定の結果、ラウディー先行)
ラウディー:CC<=80 (1D100<=80) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 2 > 2 > イクストリーム成功
⇒ハルウララは応戦の場合はSTRで1を出せば迎撃成功、あるいはDEXでイクストリーム成功を出せば回避成功、あるいは……。
⇒防げなかった場合の小型ナイフ 1d4+1d4(ダメージボーナス)かつ刃物の為、ダメージは12で確定。
ダメージは12で確定。