(Ho1に選ばれたカレンチャンだけ、少しだけ早い時点からロールプレイが開始される)
いくらか前の時期の話だ。
「姐さん」
トレセン学園。カレンチャンが所属するチームの部室にて。ぼーっとした表情の、マスクをつけた舎妹が声をかけてきた。
「……なに?」
カレンチャンはいつも皆が見かけるカワイイ素振り――ではなく片肘をついてスマートフォン弄りながら「#プール #やる気絶好調! #トレーニング中~ #完璧♪」とタグまみれのコメントをつけて、水着の自撮りをウマッターにアップロードしながら、適当に受け答える。
「あいつが『面倒見てあげてくれ』って新しい子押し付けてきやがりました」
「……お兄ちゃんの紹介ならだいぶ気性難って事?」
「いえ、スイーピー姉貴のイヤイヤ期とG1が重なったみたいでデビュー前の新人ちゃんすら『イヤー、きついでしょ(泣)』ってなもんで」
だらけていた姿勢を整え、撮影カメラの前が如く"カワイイ"に務める為に手鏡で表情を確かめるカレンチャン。
「お姉ちゃんの方に任せればいいのに。カレンに任せたらさ、カナロアみたいなモノ好きな子を増やしちゃうよ?」
「……チーム全体の事で忙しいんじゃないッスかね。最近は部屋に落ちてる空き缶の量、増えてますし」
乾いた笑いしか出ない。なんにしてもカレンが頑張らなければならないわけだ。
いつの間にかチームのリーダー的存在になっていたカレンチャンは"カワイイカレンチャン♡"と"そうでない時のカレン"を使い分けるようになっていた。
このマスクのウマ娘のように、性格に難ありの相手は舐められないようにカレンとして振る舞うようにしている。
もちろん、スイーピーなど性根がいい子相手なら使う必要も無いから、滅多に見られるものでないのだが。中には「カレンチャン……うう、本当に賢い…………」などと呻きながら、女傑として振る舞う事を求めてくるモノ好きな後輩もいる。
――他四人はロールプレイ正道寄りなのに一人だけ雰囲気違くなぁい!?
カレンチャン『今更ぁ~♡』
(※ロールプレイ開始前までノリノリで話し合って設定決めしてから冷静になるGMの図)
「ま、いっか。準備できたよ。つれてきて」
そう指示されて、マスクのウマ娘は素直に件の子を部室まで連れてきた。
髪の毛の色素が薄い。カレンと同じく芦毛の子だろう。そう年の変わらないカレンチャン相手に、おどおどとした態度を見せる。少し気弱な雰囲気を感じる。
とはいえ、この手のタイプは手慣れたものだった。チームの中で海外遠征の栄誉を受けてまで弱気になった者もいる。その時には、サポーターとしてカレンがわざわざついていく事もあるほどだ。
「よろしくね、私。カレンチャンっていうの♪ カレン、カレンちゃん、って気軽に呼んでね? あなたの名前、教えてほしいなっ!」
「えっと……はい」
先輩の可愛らしい振る舞いを見て、多少気が緩んだのだろう。本来の持ち前であろう、優しい性格が分かる柔和な笑みをカレンに向ける。
「ファストヴィクティムです。これから宜しくお願いします。カレン……さん」
ヴィクティムは、少し気弱なところがあるが他人に気を使える明るくて良い子だった。
「カレンちゃんさん……SNSの使い方って、わかります?」
そんな事を聞かれた事がある。なんでも、練習動画を投稿したいだとかなんだとか。
カレンチャン『教えたくないなぁ……』(※プレイヤー、この時点で何か察知した様子)
――カレンチャンが教えてくれなかったらたぶんマスクガールかお姉ちゃん辺りに聞く。
カレンチャン『もっと悪い未来が見える……というかあの二人に押し付けたくないなぁ』
――どうする?
カレンチャン『大丈夫、カレンがやるから。……ただ、予想が確かなら、ちょっとそれを背負う事に気後れしてるだけ。ちょっとだけね?』
「――うん、教えてあげるね。まずは他人を傷つける事とかは絶対だめーっ☆」
「は、はい」
「それでね。あとは、政治的な事と宗教的な事……あとは野球とかかな? お姉ちゃん見てたら分かりやすいけど、好きな球団が負けた時を例にあげるとね――」
そんな他愛のない事を教え込む。
カレンチャンの事だ。きっと、SNSの使い方については不足なく教え込んだはずだ。
そこに一切の過失はない。――それはゲームマスターの私が保証する。
ただ、一つの事実は……幕が開ける頃には、これは既に早々と過ぎ去った日々であるという事だ。