ウマ娘がTRPGを遊ぶだけのはずだった。   作:稗田之蛙

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2.唐突に現れた"悪意"

そうして時間軸はフォーエナーの失踪事件を、ほぼほぼ完全無欠のハッピーエンドとして解決してみせた後の話に差し戻される。

 

「カレンね、あの事件の後気づいちゃったの。ラウディーちゃんが髪染めてた理由って、最初こそは妹に濡れ衣かけさせない為だったんじゃないかなー……って」

 ノボジャックと一緒に食事している折に、カレンはそういう話題をする機会があった。

「……まぁ、最初から濡れ衣着せる魂胆なら髪なんて染めませんよね」

 その推察も、今のノボジャック相手には喜びの一助になる。おそらく彼女経由でフォーエナーにも伝わるのではないだろうか。そんな事が思い浮かぶくらい、ジャックは妙に嬉しそうな笑みをしている。

「でしょ? だからね、今度面会の機会があればラウディーちゃんに聞こうと思うの☆ カレンはあれだけ赤く綺麗に染められる方法、カレンも知りたいし。既製品、じゃないよね。どこか行きつけのお店かなぁ?」

 あの事件の怪我が全治するくらい月日が経った時期。ラウディーの罪に対しての本格的な判断が始まり、面会する機会は限られてきた。

 

 ラウディーはまぎれもなく13歳の少女だったので、やや専門的な話をすれば13歳以下は罪を犯しても"法律上は"罪には問われない。刑法にそういう規定がある。

 ただ、当たり前ながら無罪放免だから何やっても許されるというわけではもちろんなく。児童相談所や医療少年院などそういった機関と連携して対処に当たる。精神的に疲弊して事件を起こしたならちゃんと相談出来る環境に置いてやらないといけないし、非行に走れない環境に一時的に押し留めておく必要性だってある。

 

カレンチャン『罪には問われないけど……前みたいな生活を続けられる環境にはない。って事だよね?』

 ――そうだな。非行に走った原因が環境にあるのかもしれないし。だとしたら、環境を変えるのは必要な事だ。もう大丈夫だと判断されたら、元の生活に戻れるかもしれない。

カレンチャン『まぁ、前回の事件の最後になんか不穏な情報があったし……ラウディーちゃんを保護しておく為にはちょうどいいのかもね。もしかしたら彼女の周囲の誰かが悪い人だった可能性もあるわけだし』

 ――ただその"不穏な情報"について、ついぞ本人に問いただせる機会はなかった。

カレンチャン『みたいだね~。はぁ~……カレンもスカイさんみたいにパッとすぐ犯人像思い浮かべられたらなぁ~』

 ――………………。(GM独白:……カレンチャン十二分に推察力高い気がする……)

 

 ――と、一通りの話が終わったところでキングヘイロー達。事前に渡してた情報からロールプレイ頼む。

キングヘイロー『……開始時の状況情報からして過酷でシリアスなお話になりそうな予感がひしひしとするわ』

ライスシャワー『……前回、すごく楽しかったし……それに、その、お話はシリアスだったけど、とっても暖かいお話だったし……』

ハルウララ『今回も、きっとウララ達がみんな一緒に協力してたくさんたくさんがんばれば、ハッピーエンドに持っていけるよ! 前回みたいに楽しい物語にできるように、がんばろう! おー!』

ライスシャワー「お、おー!!」 

 ――――…………。

 

 キングヘイロー達は急ぎ足で歩いていた。カレンやノボジャックもそれらに注意を惹かれるだろう。

 カレンチャンを見つけるなり、彼女達は近づいてくる。何事か用事を伝えようとしているのだろう。普段は気丈に努めてくれるキングヘイローですら言葉を選ぶ精神的な余裕はなかったらしく、その内容は、ほぼ直球的だった。

 

「ファストヴィクティムさんが、その……ビルから――えっと……い、今ICU(集中治療室)にいる」

 

 

 

 カレンチャンは青褪めた顔のまま、チームトレーナーの車へ無理矢理乗り込んで共に病院へ向かっている。

「……ごめんね、カレンが突拍子もない行動したら、止めてあげてね……」

「はい……」

 キングヘイロー達は今にもぶっ倒れそうなカレンを精神的に支える目的でついてきたのだが、もはやトレーナーと喋れる状況にないように見受けられる。

「……カレンのせいだ……きっと、カレンのせいだ……」

 そんな事を、誰にも聞こえないほど小さな声で繰り返し呟くカレン。

「カレンさん……? どうしたの?」

「え、あ、うん。なんでもないよ。なんでも……」

 

セイウンスカイ『ハルウララと同じく、何か秘匿で仕込まれましたな? これは』

 ――伝えてもよい。

カレンチャン『うーん、でもキャラクター視点だと、自分のせいと思い込むのは荒唐無稽すぎるかな……? ……GMを信じるならば絶対言う機会があるだろうから今は秘匿継続で……うーん、プレイヤーの視点が……』

セイウンスカイ『……経験あると先読みで変な推理しちゃうよねぇ……気持ちはよく分かる。だからこそ経験ない他三人の意見や行動が本当に「強い」んだけど』

 

 かすかに呟いたのをライスシャワーが気にしていたが、当のカレンは咳払いをして誤魔化す。

「お姉ちゃん……トヴィちゃんがそんな事になるって……どういう事なの……?」

 

 ――トヴィ?

カレンチャン『ファス"トヴィ"クティム。……ファストちゃんは語呂悪いし、ヴィクティムは……ほら……』

 ――愛称だな、了解した。

 

 カレンは、ファストヴィクティムの愛称を使いながらトレーナーに訊ねた。

「そうね。あなたはチームを引っ張ってくれてるリーダーだし……」

 そういって、キングヘイロー達にも状況を説明する事も兼ねて、まずはその子について語り始めた。

 ファストヴィクティムはそれぞれの資料に渡した通り、カレンチャンと同じチームに所属しているメイクデビュー前のウマ娘だ。

 カレンの後輩だから、カレン以外も少しばかりの親交はあった事だろう。ただ、フォーエナーの例ほど親しいわけではない。カレン以外は名前と顔は知っている、程度の仲だ。

 

 トヴィは、少し気弱な部分があったが、明るく優しい性格の持ち主。ただ、"気弱な部分"が日に日に強くなっているような気がした。

「……フォーエナーさんの例と近しいものを感じるわね」

 とは、キングヘイローの言。

「エナーさんのお話は聞いてるわ。でも、エナーさんと違ってあの子はデビュー前だった。練習の成績だっていい方よ。むしろ、将来有望ってくらい調子がよかった。……って、かなり失礼な言い方ね。ごめんなさい」

 彼女もこんな状況で余裕がないだけで、悪気や嫌味でないのは伝わってくる。むしろ不必要に言葉を選ばない人物だから、情報を得るなら話が早い。トレーナーは話を続ける。

「ただエナーさんとの共通点としては……"悩みを抱え込むような子"だった。とはいっても、ちゃんとお友達か誰かに相談してるみたいで、そこは消化出来る子だから――いえ、私が、トヴィが消化出来る子だと思ってた……だけなのかしら……」

 

 ともかくとして、チームトレーナーにすらその原因は判然としないらしい。念のため付記しておくと、チームを率いているトレーナーであるだけに優秀な人物であるのと、明確な味方である事はここで確定させておく。ただ、担当して面倒を見ているウマ娘が複数人なのもあって、情報量は君達と同じようなものかもしれない。

 今回のシナリオは移動する場面が多くなるだろうし、彼女の車を移動手段として使うといい。事件解決までは共にチームを率いている男性トレーナーがチームを受け持つだろう。

 

 ――カシュッ。

カレンチャン『お姉ちゃん車で来たでしょ!!###』

 

 通過儀礼(お約束)をプレイヤー会話で済ませつつ、君達は病院へ辿り着いた。

 集中治療室の前には、老人が一人。その人の顔を見るなり、トレーナーは「申し訳ありませんでした!」と頭を下げる。

「いえ……あたしも、トビーちゃんの事に気づけてやれなかった側ですから……」

 年齢、そして話しぶりとトレーナーの態度から察するに、トヴィの祖母だろう。そういえばトヴィは両親に先立たれて、年老いた祖母がいるから寮を使わずに家から通っている立場だった事をカレンは覚えている。

 

 ――ん、そういえば接触した事のない前提で書いてたが、カレンだけは接触くらいはしててもおかしくないな。何度か顔合わせは済んでいるという設定でいくかい?

カレンチャン『うん、そのほうが感情移入できそうかな。お願いします』

 

 集中治療室の前で沈黙と、時間だけが流れる。それを胸が痛くなるほど各々が味わってから。老婆はウマ娘達に言葉を向けた。

「カレンちゃん以外の子は、初めまして。私は『有栖川 ハル(アリスガワ ハル)』っていうんだ。気軽に、ハルおばあちゃん、とでも呼んでくれたら嬉しいね、ハハ……」

 

ハルウララ『あ、ウララと名前似てる!』

 ――……まずいな、素でやらかした。

ハルウララ『じゃあアリスおばあちゃんって呼び方は……他人行儀かな?』

 ――いや、すごくいい案だ。それでいこう。

ハルウララ『じゃあ言い出しっぺのウララから言ってみるね!』

 

「ウララは、ハルウララ! アリスって、カワイイ名前だねっ。絵本に出てくる登場人物みたい!」

「はは……若い頃はよく言われたねぇ、でも。こんなにしわくちゃになっちゃあ、アリスどころか絵本に出てくる魔女がお似合いさ」

「そ、それはそれでステキかも、しれません……わたしは、ライス……ライスシャワーです」

 ウララの一言で、一瞬だけ、緊張が解けた。他のウマ娘もそれに続く。

「私は、キングヘイローです。アリスさん」

「セイウンスカイです……よろしくおねがいします、アリスおばあちゃん」

 自己紹介を聞き届けてからニコリと笑う。しばらく間を置いて、アリスおばあちゃんは話を向けてくる。

「……明るいこの子が、そこまで追い詰められてるだなんて……近くにいたアタシでさえ……あたしゃ、その理由を知らないのが悔しくて、悔しくて……」

 それぞれが何か知らないか、訊ねられてはいるようだ。だが、具体的に何か原因を知っているわけではない。

「……ら、ライス達。アリスおばあさんが、ご迷惑でなければ……私達の方で、調べられる範囲で調べてみます……成果があがるか、わかりませんが……」

 そういって、まっすぐアリスおばあさんの顔色を伺った。ライスの顔には怯えもあるが、それ以上に真剣な顔だ。

 

 ――おぉ、実にいいロールプレイだ。こういうヒーロー寄りなロールプレイはGMもやりやすくて助かる。

ライスシャワー『えへへ……』

 

 アリスおばあさんはトレーナーや他のウマ娘の方を見る。彼女たちは、ライスの言葉に同調を示している。

「そう、かい? ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかね……」

 アリスさんは、その礼儀とばかりにひとまずあなた達の質問に答える形で自分が知る限りの情報を君達に情報提供しようとするだろう。

 

ライスシャワー『な、なに聞こう?』

カレンチャン『……カレンは、SNS使っていたか真っ先に聞きたい。あるいは動画投稿サイトとか……』

セイウンスカイ『じゃあそれでまず一つ。Ho1情報の事だろうし。他には……アリスさん視点で、本当に変わった様子はなかったかどうかとか?』

 

 うむ、ではまずはそれらを処理していこう。

「アリスおばあちゃん。トヴィちゃん、SNSについて何か言ってなかったですか?」

「え、えすえぬえす……?」

 世代のせいか、そこらへんはよくわかっていないらしい。しかし携帯を使う何かしらというのはわかっているようで。

「こんな事態になる直前は、携帯を使ってる姿は見なくなったねぇ……どこにやったのか聞いたら『失くしちゃった。おばあちゃんに携帯代払わせるの悪いし、もういらないよ』って言っててねぇ……」

 

キングヘイロー『……私達の学業とか競技の事とか考えたら、携帯は無いとかなり不便よね?』

カレンチャン『うん、SNSは扱わなくてもどうにかなるかもしれないけど……なんだかんだ時間厳守や大人たちとの報告・連絡・相談とかは大事だし……』

(プレイヤー会話で「明らかにこれはおかしい」となったようで、キャラクター視点でもほぼ同じ台詞を言い合う)

 

「あぁ、やっぱり無いと不便だったのかいあれ。いっつもピコピコ弄ってるから、目が悪くなるよーって注意した事もあったか……」

「えぇっと、アリスさん、それは――――」

 それだけ大事な事なら邪魔しなきゃよかったかねぇ、とも考え込むアリスおばあさん。……この辺りについてはケースバイケースだから、トレーナーが噛み砕いて説明するままに任せよう。

 さて、次の処理だ。

「トビーちゃんで唯一気づいた変わった事といえば、やっぱり携帯の事くらいかねぇ」

 そうして、しばし考え込み。「事件に関係ありそうな気がかりな点」というより「普段から気になってた事」を君達に打ち明けてきた。

「トビーちゃんはね、歌うのが大好きな子だった。家に帰った後も、「皆に聞いてもらうんだ!」なんて言って、自室に籠もって大きな声で歌ってたから頻繁に注意してたけんども……一体どうやって皆に聞いてるんだろうねぇ……まさか隣家の人に聞かせてるのかい?」

「……うーん、お歌の配信系……いや、録音して編集とかしてからじゃないとだいーぶヘビーだよねー……ぶっつけ本番は一発撮りはカレン達でも難易度高いもん」

 カレンチャンが一人で納得している。その独り言で、トレーナーも周囲のウマ娘も理解しているのだろう。アリスさんの証言は「部屋に籠もって歌っていたのは機材で録音か配信していた」と理解できた。

 その情報をくれたお礼に、アリスさんへもその説明するライスシャワー。

「そういう、機材を使ってたんだと思います……たぶん、お小遣いで買える範囲の……」

「へぇ、時代は変わったねぇ……」

 しみじみとしているアリスおばあさん。さて、ここでAPP判定をお願いする。そうだな。Ho1だし、カレンやってみてくれ。

 

カレンチャン:CC<=80 (1D100<=80) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 71 > 71 > レギュラー成功

 

 ハルさんはカレンチャンの方をちらりと見てから、また周囲のウマ娘達を見た。

「……まぁ、トレーナーさんは元より、カレンちゃんの知り合いさんだし……この人達も、きっといい子達よね」

 そう言った手前、ある一つの事柄を話す。

「トビーちゃん。実は両親を亡くした時期に、だいぶ荒れてね……お店からモノを盗んだ事があるの。あの時は叱りに叱って、反省したみたいだから今回の事件には関係ないだろうけど……」

 

 そんな会話を終えて、看護師やお医者さんと言い争いをしているのが聞こえた。

 言い争ってるのはヘラヘラと笑っている若いウマ娘だ。君達にとっても見知らぬ人物。トレーナーも怪訝そうにしているから、少なくとも学園の生徒ではなさそうだ。

 

 彼女はスマートフォンを片手に、こちらに近寄ってくる。

「質問いいですかー? インタビュアーでーす」

 看護師や医者が止めようとする言葉を無視して、君達の姿をカメラに捉える。

「……なぁに?」

「……」

 これにはさすがのキングヘイローとセイウンスカイも露骨な態度を示すが、ハルウララだけは"ふんいき"が読めない。

「なになに! なんでも聞いて!」

 ラウディーの件があったせいだろうか。誰かの役に立ちたいという気持ちが強くなっているのだろうか。

 

 

 だが、そんな純朴な善意は、くだらない悪意で塗り潰される結果となる。

 ニコニコとしたハルウララに対して、ヘラヘラと笑うウマ娘はこんな質問を向けた。

 

 

「あなたは『Tby(トビィ)』が死んだらどんな気持ち? ねぇねぇ、どんな気持ち?」

 

 

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