「………ふきんしーん……」
「さすがのセイちゃんでも怒りますよ?」
「……言葉は選ぶべきよ」
「………………ら、ライス……あなたの事嫌い……!!」
Tbyがファストヴィクティムを指しての事だと予測したウマ達は、一斉に怒りを露わにした。それとはよそに。ウララは間髪入れず言いのける。
「もちろん悲しいよ? そうなってほしくないから、こうやってお祈りしてるんだー」
悪意のある質問に対して、怒りを返すでもなく平然と、なおかつ当然のように答えを返したハルウララに対して、質問を投げかけたウマ娘は少しつまらなそうな顔を見せてから、集中治療室の方へ踏み込もうとした。
「あ、こっちのシーン撮影させてもらった方が視聴者バカ受けになるかな。ハートのメーターの数値が少なくなるたびに、視聴者数やコメント数が爆増――」
……いよいよトレーナー含めて堪えかねた。アリスおばあちゃんとハルウララ以外、止めに来た病院の関係者達を含めたその場の皆々がその不謹慎なウマ娘を取り押さえようとしたり、胸ぐらを掴もうとしたりする行動にはしる。
ここに至り、ようやく分が悪すぎると悟った若いウマ娘は、抗おうとでもしたのか携帯をカレンチャンの顔面に携帯を投げてきた。
「正当防衛ッッ!!」
「きゃっ……」
カレンチャンの鼻先に携帯の角が当たり、撫でる。警備員や看護師といった大人のウマ娘に若いウマ娘が取り押さえられるのを見届けながら、カレンチャンは――汚らしいモノを触るような手付きでおそるおそる携帯を拾い上げた。
そこには配信用の画面と、コメント欄の特有の文字が流れるのがわかった。先の発言と併せて、カレンチャンにはコイツが生配信を行っていたのだとすぐに分かった。
『ファストヴィクティムが死にそうなところを見れてラッキー』
『実況の邪魔をするな!』
そんな言葉が流星群のように流れている。カレンチャンは今まで味わった事のないような怒りと悲しみで、強い吐き気と目眩が込み上げてきた。
カメラの部分を指で覆い隠しつつ、すぐに配信を切ろうとする。
切ろうとしているその一瞬、流星群の中に多く混ざったこういうコメントが印象に残った。
――特定してやる!
……切る間際、そういう言葉ばかりが流れてきて、不気味に思えたね。
ライスシャワー『ライス……ちょっと、すごく、グロッキーかも……』
――休むかい? 中断して他の、最初から最後まで暖かいシナリオに切り替えるのも選択肢に入れてある。
ライスシャワー『ううん、大丈夫……個人的な問題だから……あと、前回も、ラウディーさんがナイフ持ち出したりして乱暴働いてたし、お話もとっても真面目で驚いたけど……その分、不安が、ハッピーエンドに終わって一気に解消された時はとってもとっても、感動したから、今回もきっと……』
――……成る程、ではお言葉に甘えて続けよう。辛ければいつでも相談してくれ。(GM独白:純真な子の純粋な信頼が心に痛い……!!)
ハルウララ『はわー……前回のお話とだいぶ雰囲気が違うねぇ』
セイウンスカイ『世界中の子供たちに愛と勇気をね! 与えてあげる前提で──まず怖がらせるだけ怖がらせてあげちゃうよーーん!!』
キングヘイロー『一生残る恐怖と衝撃で、一生残る愛と勇気をね!! お~っほっほっほ!!』
――仲いいねキミタチ。(※GM、上記の台詞が版権キャラの有名な台詞だと思い出したのはリプレイ執筆中)
配信を切った直後、別の画面がフルスクリーンで現れる。
画面にノイズが走っている為に分かりにくいが……黒い長い髪。にこやかに薄目で開けられている青い目。そして頭にはウマ耳……幼いウマ娘? それが映っている画面が映し出された。
カメラを指で押さえられている事に気がついたのか、その幼いウマ娘はくすりと笑った。
「誰」
カレンチャン……いや、カレンは低い声でそう訊ねる。それを受けて、相手は口を開いた。
『……これは、私(わたくし)からの挑戦状』
「……」
『あなたがたの事を【特定】して、差し上げますゆえ……どうぞ、あなたがたからも私(わたくし)がどこにいるか【特定】してみせてください……』
「……あなたが"コレ"を操った黒幕?」
取り押さえた若いウマ娘を横目に、コレ呼ばわりする。相手はにこやかな笑みをますます強めた。
『……あなた方の暖かな善意も――紡がれた《想い》も――燻った悪意を燃え上げらせて――より"完璧な感情"として昇華し、昂ぶる情動による原動力を得られるように、私(わたくし)は願っております……』
詩的な言葉を投げかけられた後、フルスクリーンの画面はぶつりと切れて、携帯が強制的に再起動された。
「……」
「な、何があったの?」
難しい顔で画面を見つめているカレンチャンに対して、キングヘイローは心配そうに訊ねた。
そんなところで、集中治療室の扉上のランプが消えて、お医者さんが出てくる。
「あ、あぁ! トビーちゃんは! トビーちゃんはどうなりました!?」
アリスおばあさんは大慌てでお医者さんに訊ねる。
「ひとまず、一命はとりとめました」
ウマ娘含めて、皆々が安堵の声。悔しそうに歯ぎしりする音が、一つだけ交じる。
「『Tby』は死んで当然だと"皆が"言ってる! 私は悪くない!!」
若いウマ娘が喚くと、その場に居た顔を顰める。キングヘイロー、セイウンスカイ、ライスシャワーは怒りの感情を相手にぶつけようとしたが、カレンは制止するように手を動かした。
そのまま、取り押さえられて地面にへばりついている若いウマ娘の前で両膝を曲げて屈み、それを支えに頬杖をついてカレンは訊ねる。
「ねぇ、"皆が"って言うけどさ。具体的には誰」
「み、"皆"は"皆"さ」
「……ふーん」
カレンは『つまらないモノ』を見るような目で、相手の得意げな顔を見つめた。
「自分や少数派の主張をさ。声高に"皆"って付け加えてあたかも『大多数がそう思ってる、そう主張してる』って印象づけようとする手法。SNSで飽きるほど眺めてきたよ」
カレンは立ち上がり、「周囲を見ろ」と言わんばかりに両腕を広げる。
「だけど、この場にいる貴方以外の人達は、ファストヴィクティムちゃんを死んで当然の子だとは1ミクロンたりとも思ってない。その時点で、貴方の言う『皆が言ってる。私は悪くない』って理論は破綻してるって気づかないの?」
若いウマ娘は、こわばった顔で周囲を見る。
カレン以外の者達は"激怒"、あるいは"悲しみからの批難"。そういった表情をしている。……ハルウララだけきょとんとした顔で場の流れを見守っている。
「う、ううう……」
若いウマ娘はここでようやく正気に戻ったのかどうか知らないが、時すでに遅く。駆けつけた警察にそのまま連れられて行く。
「……自業自得ね」
「いやー……さすがに庇いきれませんね。ラウディーが可愛げある方に思えちゃうくらいには……」
「……ライス……あぁいう人、嫌い……」
普段は他人を露骨に嫌わないカレンチャンを含めた四人でさえ、嫌悪感を露わにせざるを得ない相手だった。
ともあれ、一段落がついた後に皆は一旦帰るかどうかという話になる。
「そうだ。有栖川さん。お送りさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、いいのかい? タクシーで来たものだから、ありがたいけれど……」
「えぇ、大きい車なので。一人増えても余裕があります」
そういう形で、トレセン学園に帰る際に有栖川の家に寄る事になった。
「……それなら、えっと。トヴィちゃんのお部屋見せてもらっても、いいですか?」
「そうだね。カレンチャン以外も、よければ見てやってあげて……アタシが気づけなかった事に気づくかもしれないから……」
そのようなやり取りを経て、有栖川家へ移動する事になった……。