学園へ戻った一同は、ノボジャック、フォーエナーは含めて寮の談義室へと集った。
トレーナーは規則上立ち入りが出来ない為、この直前に別れている。
「それじゃあね、カレン。また明日。……危ない事はしないようにね?」
「うん、お姉ちゃんも。お酒は飲みすぎないようにね」
「大丈夫よ。ストゼロ一本だけに抑えておくから」
「…………それ、大きい方だと一本で摂取目安量的にアウトなんだけど~……」
相変わらずのトレーナーにカレンチャンは項垂れていた。まぁ、このトレーナーも変に落ち込まないだけ頼りには出来る。
改めて、寮へ集まった一同はデフォルト状態になった二つの携帯を見比べていた。
「…………たぶん、同じ状態よね。これ……」
キングヘイローがそんな言葉を発した。
あの事件直後に回収したラウディーの携帯。警察に捕まった若いウマ娘の携帯。どちらもデータが初期にフォーマットされているのか、デフォルトの状態。
若いウマ娘の携帯裏には、スーパーデフォルメされた黒髪青目ウマ娘のキャラクターシールが貼り付けられているから外見では見分けやすい。
「……偶然だとは思えないけれど」
キングヘイローの言に、他のウマ娘達も頷いた。
「それなら『挑戦状』って意味も通るしね」
「とはいえ、可能なの? 遠隔でそんな事するなんて」
そう言いながら、キングヘイローは周囲をうかがうように見回した。
――それが出来るかどうかについてはEDU判定が行える。
セイウンスカイ『あぁ、じゃあ手始めに私がやっちゃおうかな』
ハルウララ『セイちゃんがんばれー!!』
セイウンスカイ:CC<=80 (1D100<=80) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 47 > 47 > レギュラー成功
「可能だよ。リモート操作っていうのがあってね。遠隔で操作出来るの。たとえばパソコンでの事が分からなくて、困った時があったら業者さんとかと繋げて代行で操作してもらうとか……」
「スカイさん。詳しいんですね。ステキです……」
フォーエナーがそのようにセイウンスカイに言い寄る。黙って考え込んでいたノボジャックが、付け加えた。
「ですが、それらにはほぼ必ずといっていいほどの何らかの事前準備が必要です。業者に頼む場合は、遠隔操作を可能にするソフトとかセキュリティの許可とか……そういった手順をクリアしておく必要がある。でなければ、簡単に弾かれる」
「そうだね。じゃないとこんな風にデータ消去やってのけるなんて、ウイルスの類だもん。……いや、本当にウイルスとかでやってのけた可能性もあるけどさ」
スカイとジャック。賢い者同士がウンウン唸ってあぁでもないこうでもないと意見をすり合わせる。素直に感心するライスシャワーとカレンチャン。その横で目を回しているフォーエナーとハルウララ。
「どっちにしろ。その……黒髪で長い髪のウマ娘が仕込んだ」
「だろうね。で、なんでわざわざそういう事をしているかといえば……」
「データが残ってたら自分の居場所を特定される情報に繋がるから?」
「そう。おそらくそれで正解。ラウディーに入れ知恵してたのもそいつだろうね。あの若いウマ娘も何か唆されて押しかけてきたんじゃないかな?」
キングヘイローとセイウンスカイが一問一答を繰り返し、あやふやな想像を推理として固めていく。
「でも、それならそれでカレンを挑発せずに消しておけばよかったのに」
カレンチャンからそのような疑問が飛んでくる。あぁいう事をしなければ姿形は把握されなかったであろう。
「えぇっと、実際はどういう見た目だったんでしょうか?」
フォーエナーが改めて訊ねてくる。
「んーっとね、ノイズがかかってたけど。ウマ耳があったからウマ娘だとは思う」
「ふむふむ」
「確かクセがない黒い髪のロングでー」
「……ふむ」
「大人しそうな女の子でねー、目は、ちらりと見えたけどたぶん青い目で……」
カレンチャンが話を続ける内に、皆の視線がある一人に注がれる。
「……なんで皆さんこっち見てるんですか」
「犯人確保ーっっ!!!」
カレンチャンが指をビシッと突き付けて叫んだ途端、ハルウララとフォーエナーがノボジャックに飛びかかる。
「なんだかよくわからないけど、ジャックちゃん逮捕だー!」
「アイ、コピー!!!!!」
「YOU COPY!?!?」
(※駒を横倒しにされ一時的に拘束状態にチェック記入されるフォーエナー)
「ご、ごめん。ごめんて。ジャック。冗談だって。だって、あったとしたらお話の展開としてベタすぎじゃない!! ……あ、あと助けてくれた友人かつ恩人が姉さんを誑かした犯人だなんて思うわけないし?」
「…………ガチで放っておけばよかった……」
「わー、技返しってヤツ? ジャックちゃん凄いすごーい!」
ノボジャックに掴みかかろうとしたフォーエナーがプロレス技をキメられるという慌ただしいやり取りを一旦終えてから、ノボジャックは呆れ顔で反論をしてくる。
「……まぁ、容姿特徴が一部被ってるというのは別に否定もしませんが。黒髪青目というのはウマ娘にとってそこまで珍しい身体特徴じゃないです。そも撮影する前提があるなら、カツラやアイコンタクト使う選択肢だってありますし。ウマ耳だって後付で装着する事さえ可能でしょうとも」
「うーん、そうだね。見た目も、幼稚園児か小学生くらいだったし……ジャックちゃんとは全然違うかも」
「でもジャックって小さくて可愛いから小学生で通るよね? この前だって年下の子に同い年と勘違い――」
「……エナー、関係ない話でちゃちゃ入れるならこのままHP0にしますよ」
ジャックは咳払いし、カレンチャンに考えを一つ投げる。
「そも、実写じゃなかったという可能性すらあります。カレンさんに伝わり易いように言えば受肉、バ美肉……まぁ、他の方に対しては『アバター』っていう方が適切でしょう。自分の代わりに、口パクや瞬きが出来るイラストや3Dモデルを映す。ノイズがかかっていたのは、それらを判別しにくくする為。そういう可能性だってありませんか?」
確かに。カレン視点あれが平面のイラストではなかったのは当然把握出来たが、精巧寄りの3Dアバターか実写かの判別はあのノイズの状態では難しい。
「……なんにしても、相手の子にとっては容姿や声がバレても大した問題じゃなかった、って事だよね……?」
ライスシャワーの言葉に、ノボジャックは「おそらく」と頷いた。
「もしくは、異様に自己顕示欲が強い輩か。それすらも『情報の一つ』としてゲーム感覚で与えてる愉快犯か。何にしたって、それだけに囚われるのは手のひらの上です」
そうして、ジャックは先のカレンが言ってた事を思い返す。
「いや、そもそも幼稚園か小学生くらいの子がそんなだいそれた事出来ますか? こういう、他人の携帯をリセット出来る知識があって、ラウディーに入れ知恵したり、若いウマ娘をけしかけたり……そんな事をやらかせるのは、きっと成人した某かです」
なれば『アバター』であると判断するのが当然だろうと彼女は言いたいらしい。セイウンスカイも肯定するように頷いた。
「なるほど。そう言われれば確かにそうだ」
「はあ、じゃあその……ラウディーさんがあんな事をやらかした事件の黒幕っぽい人については、また振り出し同然?」
キングヘイローのため息混じりの言葉に、ジャックは頷いてこう進言する。
「そもそも、私達はファストヴィクティムさんがどうしてあんな事をしでかしたのを調べている状態です。ゆえに、そちらに集中すべきでしょう。…………自己顕示欲の強い愉快犯ならば、いずれ構ってほしくてまた接触してきますよ」
ジャックにとっても『ラウディーに入れ知恵した黒幕』に対しては激しい憎悪があるのか、生真面目な彼女が珍しくも悪口じみた事を言う事を憚らなかった。
「……なんにせよ。明日から、私はあなた方を手伝う事にシフトします。具体的には、調査に必要な物資など事前にいいつけてもらえば調達しておきます。インターネットに接続したノートパソコンなども、一応明日には用意しておきます」
話題を切り替えるようにノボジャックがウマ娘達に恭しくそう申し出る。以前助けてもらった礼がしたいのだろう。それを感じ取った、エナーも慌てて申し出る。
「わ、私も。怪我をした時はこちらに寄ってもらえば治療は出来ます。チームのサポートで、転んだ子の応急処置とかは慣れてるんで。……大きな傷とかは、ムリかもしれないけど……」
そのような言葉を受けて、今日は一旦解散となるだろう。
そろそろ別々の寮へ帰還しなければならない時間だ。解散する間際、フォーエナーとジャックが話し合う声がウマ娘達に聞こえた。
「ジャック」
「なんですか?」
「……悪意に呑まれないようにね。貴方が他人をあぁいう風に言うの、すごく珍しいんだもの。少し怖かったわよ?」
「…………あぁいう事があった手前、そうなって然るべきかと思いますが」
……そのような会話の内容だった。