――さて、就寝前。それぞれ個別に行動したい事があれば宣言してもらおう。
セイウンスカイ『セイちゃん横になりますね……』
――時間軸的に妥当オブ妥当。
セイウンスカイ『冗談はさておき、そうだねぇ。ネットでTbyあるいはトビィって単語検索したら何か出てこないかな?』
――『Tby』『トヴィ』『トビィ』。これだけだとネット全体で検索するとさすがに件数が多すぎて、調べ尽くすのは無謀だ。特定のサイトに限定した検索でないと無理なのだろう。
セイウンスカイ『うーん、そっかぁ……手がかりなしかぁ」
カレンチャン『「ファストヴィクティム」って調べるのはどう?』
――………………。
カレンチャン『あ、やっぱり何も引っかからない? それとも件数多すぎたとか……』
――ここに辿り着くには本来INTロール必要だったが、それで調べるなら免除だ。【万引きカラオケトレセン学園生ファストヴィクティム】というWEBページが先頭に出てきた。
カレンチャン『うっ、うわぁ……』
セイウンスカイ『うわー……ビンゴ……』
カレンは、今回の事件を追っているメンバーとグループDMを通じてひとまず見つけた者を伝えようとする。
カレンチャン『……これ、プレイヤー的にもウララさんに伝えていい事なのかな……というか、TRPG初心者に辛い描写なんじゃ……』
ハルウララ『?』
セイウンスカイ『まぁ、とりあえず私には伝えても大丈夫だと思う。その手の描写は耐性あるし』
キングヘイロー『プレイヤーからすればあくまで仮想だからね。……現実なら考えモノだけど、私も大丈夫よ』
ハルウララ『ウララも仲間外れはイヤだよー……?』
ライスシャワー『ら、ライスは……』
――プレイヤーが見たくない場合は要点だけ描写するという選択肢もありますよ。
ライスシャワー『……大丈夫! この中だと、私が年長者だもん!』
――では。描写を続けよう。
カレンチャンはそのページがある事をグループDMで皆に伝える。
『今回の件に関係ありそうなもの見つけました。 (ページ名とURLを貼り付ける)』
『……なによこれ』
キングヘイローから絶句を表現したような返答がきた。ひとまず、それぞれがそのページを見るだろう。――見なかった事にしてもいい。
ライスシャワー『プレイヤー的には心構えが出来てるけど……ゲームの中のライスは、きっと見ないんだろうなぁ……』
――味方に任せるロールプレイも一つの醍醐味です。
セイウンスカイ『……まぁ私は、事態を把握したいから率先して見るかな。キングと、ウララには一旦控えさせたい。大丈夫?』
キングヘイロー『えぇ、それで構わないわ』
ハルウララ『うん、セイちゃんの考えに従うよ!』
セイウンスカイ『カレンは、どうする?』
カレンチャン『カレンなら絶対、ぜーったい把握しようとする! ……それに前日譚に関わりがある事かもしれないから、それを確かめると思う』
セイウンスカイ『あー、Ho1だから個別に情報もらってたね。そういえば』
ライスシャワー『ら、ライスも「……きっとカレンのせいだ……カレンのせいだ……」って台詞、すごくすごく気になってた……』
(GM注釈:ライスとカレンチャンが同卓組。事情話すまでプレイヤー単位で心配されてた様子)
ではそのページを閲覧すると、彼女がインターネットで活動していた内容がわかる。
まず、《I DUCT》という動画投稿サイトで『Tby』として活動していたという事。ウマッターも投稿していたが、動画投稿とも呟きとも現在は投稿者からの自主削除してあってどちらも閲覧不可能になっている。
しかしこのWEBページでは、彼女の発言のスクリーンショットが残っていた。
『今だから話せるけど、万引きをしたことがあるんだ。店員さんが見てないうちに、コソっととっちゃうの。』
ファストヴィクティムがSNSアカウントで犯罪行為を自慢げに発言している事について、「モラルがない」「万引きのやり方をレクチャーしている」「晒らし上げるべき」などの発言でコメント欄が埋め尽くされていた。
まとめサイトの住民たちは、この発言を問題として、ファストヴィクティムの個人情報をまとめて晒上げている様子だ。
更には「今現在も万引きを続けている」「イジメでクラスメイトを退学に追い込んだ」と根も葉もない情報さえも、正確な情報として取り扱われていた。
それを確認してから、カレンはグループDMでそれらの要点と『ずっと前、トヴィちゃんにSNSの使い方について聞かれたんだ』と打ち明ける。
『……カレンが、ちゃんと適切な使い方教えきれなかったせいだ……』
カレンチャンはいたたまれなくなり、それが「この事件の真相」だとして話を切ろうとした。
『違う』
しかし十秒も経たず、キングヘイローが即答してきた。
『カレンさんはこの中で誰よりもSNSの使い方に詳しいもの。不適切な使い方を教えるはずがない。……それにトヴィさんは、きっとそんな事を自慢げに言う人じゃない』
『で、でも……スクリーンショットが……』
『私はよく知らない不特定多数の情報よりも、お互いを知る特定少数の意見を信じる。たとえ、荒れてた時期に万引きを犯した事実があろうとも。トヴィさんはちゃんと反省していると、アリスさんは信じていた』
『……』
『……ライスも、キングさんと同じように思うよ。カレンさんは、トヴィさんがそうであったと信じてあげる。そして、カレンさんは自分自身をもっと信じるべきだと、ライスは思う!』
キングヘイローとライスシャワーに説得され、カレンチャンは改めて情報を見直す。セイウンスカイも、同じように。
『文脈的に続きの文章があってもおかしくない』
カレンとセイウンスカイがそのような旨をグループDMに打ち込んだのは、ほぼ同時だった。
セイウンスカイ:CC<=80 (1D100<=80) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 49 > 49 > レギュラー成功
カレンチャン:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 99 > 99 > 失敗
ライスシャワー:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 51 > 51 > レギュラー成功
カレンは不安が募って手間取ってしまっていたが、グループDMの話を聞いていたライスシャワーが『コレ……』と、続きの文章をサルベージサイトで探し出してきてくれた。セイウンスカイの張ってくれたスクショと併せて読んでみる。
『今だから話せるけど、万引きをしたことがあるんだ。店員さんが見てないうちに、コソっととっちゃうの。』
『でもそのことをおばあちゃんに凄く叱られたんだ。一緒にお店に謝りにいってくれたの。その時、おばあちゃん泣いてた。こんなことをさせるなんて情けなくて、おばあちゃんに心配かけちゃダメだって思った。』
『わたしは、親が死んじゃって寂しくて、こんなことしちゃったけど。ムシャクシャしたり寂しかったりしても、みんなこんなことしちゃだめだよ。私みたいに大切な人悲しませちゃうから。』
カレンは、全文を読んで思わず下唇を噛み締めた。
『偏向報道ってヤツだね。本来は反省からの懺悔と感謝だったのかな。タイムラインでその手の話題があがってたのかもしれない』
セイウンスカイの指摘する通り、本来は自らの過ちを告白し「非行に走る前に大切な人の事を考えてほしい」というメッセージが本来の趣旨だった事がわかる。
『だったら……なおさら、トヴィちゃんがかわいそうだよ……こんなの……』
『カレンさん……』
カレンは、この事実になおさら項垂れるしかなかった。
――ページを見たものは、全員INTダイスを振ってくれ。
セイウンスカイ:CC<=70 (1D100<=70) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 61 > 61 > レギュラー成功
カレンチャン:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 4 > 4 > イクストリーム成功
まとめサイトのコメント欄にはハンドルネーム付きで情報提供がされているのだが、その中の一人だけ明らかに他の人とは段違いの量の情報を提供してる事に気がついた。
ハンドルネームは【女神】。女神はファストヴィクティムの数多くの盗撮・個人情報をまとめサイトに投稿している。
女神という人物は、掲示板の住民たちに巫女が宣託を行うような持て囃されかたをしている。
その実績として、ファストヴィクティムの行動を逐一実況中継しているような動画も見つかった。
『誰!? どこから見ているの!!!』
ファストヴィクティムが授業中、教室でそんな事を泣き叫んでいる様子を動画におさめているモノがある。
『……ちょっと待って。授業中? 授業中に撮影? おかしい。絶対』
そしてセイウンスカイが気づいた。気づいてしまった。
『位置的に先生じゃないし、女神ってハンドルネームで動画提供してるの、ほぼ間違いなくクラスメイトじゃんこれ!!』
「……!!!」
セイウンスカイの指摘を読んで、カレンの視界が歪む。自分たちの仲間が、そんな行為に走っているなどと、信じたくはなかった。
そしてそれ以上に、『そんな状態にあるのに、自分には一言も相談してもらえなかった』という事実がカレンの脳髄を蝕んだ。
グループDMが沈黙して、いくら経っただろうか。
『よし! いい事思いついた! 明日クラスメイトの人に話を聞きに行こう!』
話を再開させたのはハルウララだった。今の今まで真面目に考え込んでいたらしい。
『そして、今後こういう事は絶対にやめてもらおう!』
事態に対してあまりにも純朴な意見…………だが、正論だった。
『……うん。ネットで誤解されてる程度なら、落ち込むくらいで済むのかもしれない。……でも、自分の周囲の誰かが、自分を笑い者にする為に見張っているんだとしたら…………それこそがトヴィさんがあぁなった理由足り得るんだと思う』
ハルウララの意見に同調するように、女神を探し出してこんな行為はもう二度と止めさせるべきだとライスシャワーは意見を述べた。
『……そうだね。うん、みんなの言う通りだ!』
カレンは、いつものカレンチャンらしい。だけれど不謹慎でない態度でSNSに同意の旨を打ち込んだ。
『ともかく、明日は休み時間に入ったら皆ですぐにトヴィの教室へ行こう。目撃者がいるかもしれない』
『えぇ、方向性は決まったわね。……それと並行して大人達にも相談してみましょう。一生徒が晒し者にされてるなんて、相談してもいい案件のはず。サーバーの管理者に掛け合って削除出来るかもしれないし』
そういうやり取りを経て、明日休み時間に集合する事を決め合う。そしてカレンはアプリを一旦閉じた。
就寝しようとベッドに向かう。同室のアドマイヤベガがすでにベッドで寝転んでいたが、カレンを見た途端驚いた顔で「がばっ」と上半身を起き上がらせてきた。
「……どうしたの、アヤベさん?」
どういう事か分からず、思わず問い訊ねる。
「カレン。何かあったの?」
アヤベらしからぬ、青褪めた顔。今回の事件の事が伝わっているのだろうか?
「あぁ、アヤベさん。心配しなくともカレンはなんとも――」
そういって、安心させようとしたが。アヤベはそれでも青褪めたまま首を振った。
「……なんともないように見えないわ。今まで見た事ない顔してるわよ、貴方」
そういわれ、いつも持ち歩いている手鏡で自分の顔を見てみる。
そこにあるカレンの表情は――学園に潜んでいるであろう『女神』に対する憎悪に満ちていた。