「……?」
カレンは、周囲を見回した。
「どうしたの?」
「……勝手に写真撮られてた気がする」
それを聞いて、キングヘイローは肩を竦めた。
「人気者は辛いわよね。勝手に写真撮る子がいるのだもの」
「まぁ、入学してきたばかりの子とかは、G1勝ったウマ娘相手とか相手にはねー……」
「とはいえ、このキングの一流の姿を写真に収めたいという気持ちはよくよく理解できるけれども。お~っほっほっほ!」
セイウンスカイ『……やばい、これたぶん早めに解決しないとすごくまずいタイプだ……』
キングヘイロー『なんかシーン毎によく分からない数値が増えていってるみたいね?』
ハルウララ『隠された状態でサイコロも振られてるみたいだねー? なんだろー』
カレンチャン『……増えたタイミング的に、推測ついたかも……』
ライスシャワー『ど、どんな?』
カレンチャン『たぶん、プレイヤーキャラクターとしてのカレン達の憎悪感情のゲージか……挑戦状投げつけてきた子やその配下さんからどれだけ捕捉されてるかのゲージ……かな?』
セイウンスカイ『……どっちにしろ溜まりすぎると絶対悪い事が起きる……』
ライスシャワー『で、でも。どうしてそう推測出来たの?』
カレンチャン『ジャックちゃんとかエナーちゃんとか、アリスさんとか……お姉――トレーナーとか……信頼出来るNPCと会話してる時には判定される気配がないから。モブのNPCとか、そういう信用出来るかどうかわからない相手と接触する機会の時に毎回振られてるからかなっ?』
ライスシャワー『で、でも……あの黒い髪の子が一般の人を数多く配下にしているだなんて、ちょっと考えられないし……たくさん居たとしても、悪者さんがトレセン学園の生徒に紛れ込ませるのは、それこそルールブックに書いてあったすごく強い怪物さん? とかの力を借りないと無理だろうし……だったら、ライスは感情ゲージの方だと思うなぁ……』
カレンチャン『……うーん、まだハッキリと判断つかないなぁ……もしかしたら、カレンの予測が外れてて、他の可能性があるわけだし……』
――……。
カレンチャンは、昨日トヴィが学園の仲間から盗撮されているのではないかという推測を踏まえて、いつもなら隠し撮りされている事に気づいてもにこやかにカメラ目線を返す余裕はあったのに、今日に限っては異様に不気味に感じてしまった。
「…………」
真顔で、じっと隠し撮りをしていた生徒の方に視線を向ける。その生徒は、足早に何処かへ行ってしまった。
「……追いかける?」
同じように薄気味悪いモノを感じている様子のセイウンスカイがそのように問いかける。
「ん、へーきへーき♪ カレン、隠し撮りされるの慣れてるもん」
そのようにカワイイ笑顔を取り繕って、カレンチャンは"信頼出来る仲間たち"に応える。
「……それに数千単位で生徒がいれば、そういう子もいるよね」
信頼を築いていない間柄に『裏切られた』と被害者ぶるのは。そもそも無駄な行為なのだとカレンは知っている。
「トヴィちゃんの事について、ですか?」
休み時間、ファストヴィクティムの所属するクラスに移動してから。暇そうにしていたクラスメイトにファストヴィクティムの事を訊ねる。
「うん、トヴィちゃんのおばあちゃんは、どうしてあんな事になったのか原因を知りたがってるの。クラスメイトからは何か変わった事はなかったかな、って」
「な、なんでもいいの。少しでも気がかりな事とか話してくれたら……」
その場はハルウララとライスシャワーが主導で聞く事にした。この手の対人交渉が非常に得意なカレンチャンだが……今日だけは、知らぬ間柄の他人と接するのに強い警戒心を抱いていた。遠巻きに様子をうかがっている。
「……カレンさんらしくないですね……具合でも悪いのでしょうか……?」
事情聴取をしている生徒が、ライスシャワーとハルウララに対してそのような事を言った。本心から心配してくれているらしいが、遠巻きにいたカレンにその声は伝わらなかった。ライスシャワーは、ぎこちない笑みをするしかない。
カレンチャン『ごめんねライスさんウララさん……ロールプレイでは辛辣な態度取ってるけど……ゲーム的に事考えれば例の数値一人に集中させると凄く不利になるかもしれないからっ……』
ライスシャワー『大丈夫だよ! なんだか一人が多く溜まりすぎるとよくないってのは、さっきのお話でなんとなくわかってるし……』
――いやー、(リプレイではロールプレイを参考にして小説調で描くから薄情に映ってるけど)プレイヤーメタで考えると本当に仕方ない。
カレンチャン『あとカレンが出張りすぎるとね、出番が偏っちゃう気がするのっ! キャラクターが不利に追い込まれるとスポットライト当たるとかそういうお約束も込み込みでねっ。TRPGって、GMが正々堂々不利に追い込んできたらそれはそれですごく楽しいんだよ~♪ もちろん、ダイス失敗したら、カレンなりに理由づけしてすぐにでも応援に駆けつけるからねっ!!』
――うわー、作中に反して経験者プレイヤー側が色々な意味で初心者思い。プレイヤーとキャラクターの温度差よ。
ライスシャワー『う、うん。ライスも、ゲームに参加したいからそこは嬉しい……!』
ハルウララ『セイちゃんやカレンちゃんが出れない分、私達ががんばっちゃうぞー!』
(GMからの注釈:この場面、実卓ではセイウンスカイ組も似た理由でハルウララを交渉に立たせてる)
ハルウララ:CC<=50 (1D100<=50) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 90 > 90 > 失敗
ライスシャワー:CC<=50 (1D100<=50) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 16 > 16 > ハード成功
ファストヴィクティムにあぁいう事があった手前、話題にしていいものか思い悩んでいた様子であったが、ライスシャワーの人柄を信じての事か、声を潜めるようにして話し出してくれた。
「私も詳しくは知りません。なんでもない風に振る舞おうとしてたみたいですし。……でも、それが崩れる場面は、いくらかありました」
「……そ、それってどういう?」
ライスシャワーが聞き返す。
「あの子、携帯が鳴る度に怯えてたんです。電話の着信音とかならまだ嫌いな相手からとか、イタズラ電話とかに悩まされてるとかで理解も出来るんですけど……『通知音』に、ですよ?」
「通知音?」
「はい、あの。たとえばウマッターの投稿とかで『ウマいね』がついた時にそれを知らせるように携帯がピロンって鳴るじゃないですか。……あ、ライス先輩くらいの方だったら、ウマいね多すぎてその通知切ってますかね?」
「あ、あはは……」
「……ま、まぁ。それは置いておきましょう。ともかくです。ウマッターとかに限らず、アプリ全般から何かしらアクションがあったら通知が来ますでしょ? その音を怯えてたんです」
それを聞いて、ライスシャワーは頭の中で思い浮かべる。ウマッターで「ウマいね」がついたら、きっと嬉しいはずなのに。ライスシャワーも新人時代は自分のコメントにそういうものがついて、とても喜んでいた記憶がある。……今もそうかもしれないが。
「……うん、想像が出来た。でも、なんで怯えてたんだろう?」
「さぁ、そこまでは私には……」
「あ!」
ハルウララが唐突に閃いたような声をあげる。
「そっか! だから携帯が壊してあったんだ!」
「……あ!」
ライスシャワーもそれに頷く。根本的な原因がわからないが、『携帯やパソコンが壊されていた理由』は理解出来た。破壊したのは押し入った泥棒などではなく、ファストヴィクティム当人の可能性が高い。
「け、携帯壊してたんですか。トヴィちゃん? ……いや、でも……」
それを聞いた生徒は、考え込むようにしばらく黙った。
「……納得……かも」
それを聞いてから、周囲を気にしてから更に小さな声で話し始めた。
「……比較的最近の事なんですけど、トヴィちゃんが授業中に『誰!? どこから見ているの!?』って大声で泣き叫び始めた事があって。携帯と周囲を交互に睨みつけて」
「……!!」
昨日、グループDMで話題に出た場面そのものであった。
「それで、周囲に当たり散らかすようにわんわん泣き喚いて、先生に保健室つれていかれて、そのまま早退。……あ。彼女の名誉の為に言っておきますが。普段からは他人に怒るだなんて絶対考えられないような優しい子だったから、私も、たぶん皆もすごく驚いてて……」
「そ、そうなんだ……」
ライスシャワーとしては、そういう風に大泣きしても当然だとも思った。もしかしたら、ファストヴィクティムは自分が晒し者にされているどころか、自分の周囲に『女神』がいる事に勘付いていたかもしれないからだ。
「あ、でも一人だけそうじゃない子がいました。動揺してる彼女に対して、抱きしめてあげて『大丈夫だよ。私は味方だよ』って……」
「マロリーボットちゃん?」
ハルウララが、そういう態度を取っていた人物の名を予想してみる。
「ウララ先輩、よくわかりましたね。そうです。彼女です。マロリーボット……トヴィちゃんは『マロワ』って呼んでましたけど。マロリーボットちゃんの方も「やぁ、ボクのアリスちゃん!」なんて言って呼び合ったり……」
「うーん、ウララ。その子にもお話聞いてみたいなぁ。どこにいるんだろ?」
ウララが手で双眼鏡を作る仕草を取って周囲を見る。相手は思わず「ふふ」と微笑みを漏らしてから、一つ咳払い。真剣な顔つきになる。
「マロリーボットちゃん、トヴィちゃんが大怪我したって聞いてから、実家の方に戻って引き籠もっているらしいです。……ただ、それも当然だと思います。だって、親友が……」
そこで、何事か思ったのかセイウンスカイが踏み込んだ。
「マロリーボットちゃんって他に友達いるタイプだった?」
「え? いえ、確かトヴィ以外には居ない――ってのも失礼ですね。皆からは嫌われてないし、むしろクラスでは信頼されてる良い人だと思いますよ」
「……素行の良いタイプ?」
「いえ、そこは良くも悪くも普通です。信頼されてる理由は。"クラスの人気者だったトヴィちゃんを甲斐甲斐しく世話してた子"ですから。なんたってあのトヴィちゃんの一番の親友ですから、『悪い子なはずがない』っていうのも……実際、私はそう思ってます」
「…………ありがとう」
キングヘイロー『どう? 今の情報で前回みたいにパッと真相思い浮かんだ?』
セイウンスカイ『まだ全然分からない……というより……どうしても結びつかない部分がある』
キングヘイロー『あら、それについてはまだ言えない?』
セイウンスカイ『分からない部分があるのに、経験者が憶測でモノを言うと印象付けになっちゃうしね。……何より、手に入った情報で考えを研ぎ澄ませるのが楽しいゲームなんだよ。TRPGって。証拠固めしたい時は、みんなを頼るからその時はよろしく頼むね』
ハルウララ『りょうかいしましたセイちゃんたいちょー!』
キングヘイロー『……POWとCONが情報収集に役立てばよかったのにねぇ』
――ハルウララみたいな情報収集不向きなステータスで前回大活躍してたから、キングにもきっとあるさ。
ライスシャワーは、話が一段落すると彼女にこう訊ねた。
「その、マロリーボットちゃんのお家って訊ねて大丈夫かな……?」
相手はマロリーボットが引き籠もってる事を踏まえて、教えていいものか少し迷ったのち。
「……おばあさん、理由知りがってるから、必要ですものね……」
ライスシャワーをやはり信頼しているのか、マロリーボットの家の場所について教えてくれた。
セイウンスカイ『ゲームマスター』
――なんだい。
セイウンスカイ『出発前に、ノボジャックに新規のメールアドレス取得しておくように頼める? 出来ればセイちゃんが普段使いしてるって装える感じのアドレスで』
――……………………成る程。理解した。やれる。やろう。やってくれた。
「お役に立てて光栄です」
「ん、ありがと」
それぞれの授業が終わり、ノボジャックと接触。新規のメールアドレス取得して。すぐにマロリーボットの家に向かう。
「やっぱり車って便利ね。将来はカレンも免許取得しなさいよ」
「……お姉ちゃん。お酒飲みたさあまりに私に運転代行させようとしてない?」
「…………これはまた、ものを知らない事を言うのネ。トレーナーというものは、ウマ娘達の手本になる為に飲酒運転は絶対にしないのヨ」
「飲酒運転しない理由の方は訊いてないんですけど??????」
マロリーボットの家は学校近くの新興住宅地にある一軒家だ。本来マロリーボットは寮に移住している事から、両親は学園を信頼して日中働きに出かけているらしいが……。
「ヘイローさん、スカイさん、ウララさん、ライスさん……カレン」
家の前に辿り着いて車から降りてから、トレーナーは君達に話を向ける。
「マロリーさんが落ち込んで引き籠もってるのは、知ってるわよね」
「え、うん……」
それがどうしたの、と言わんばかりに表情を固めるカレン。トレーナーは、周囲のウマ娘の表情を一瞥してから、カレンだけの方を向いて話を続ける。
「……カレン。普段の貴方なら大丈夫だと思ってたんだけど、一応言っておくわね」
そう言葉にしてから、トレーナーは口を開く。
「……私達にとっては、彼女も助けてあげなくちゃいけない対象なのよ」
カレンは、トレーナーの言葉を要領の得ない話だと思った。いや、彼女が要領の得ない戯言を話すのはいつもの事なのだが。戯言を言う時はちゃんと戯言だと分かる態度で話してくれていた。今回は違う。
「言いたい事はなんとなくわかるよ。大変な時だからこそ皆で手を取り合って助け合わなきゃいけないって事でしょ? でも、今のカレンは、トヴィちゃんがどうしてそんなに追い詰められてたか調べるので精一杯だから」
玄関の前まで皆で歩いていく途中、そんな言葉が出た。トレーナーは足を止める。
「カレン」
静かに叱りつけるような呼び方だった。思わず、トレーナー相手にさえ憎悪に似た感情が募る。
「だって、カレンはお姉ちゃんとは違うんだもん!! この中でも、一番年下! ウララさんよりもだよ?! それなのにトヴィちゃんだけじゃなく、他の大勢――しかも今まで顔を見た事もないような相手まで助ける事考えなくちゃいけないの!!?」
カレンチャンは、自分の発言に自分で驚いていた。普段ならば、こんな事を絶対言わない。思いすらしない。まるで、『カレン』として務めてる時のような我を通した言葉が出てきてしまうのだ。
「……それともなに? お姉ちゃんにとって、カレンは助けなくていい対象? そう言いたいの?」
そして自分の言葉に、俯いてしまった。トレーナーは、何も答えない。周囲のウマ娘も。ただ、静かにカレンを見つめているだけなのだ。
「あの……なにをなさっているんですか?」
玄関前で騒いでいたせいか、二階の窓から呼びかけられた。
若い女性の声。凡庸的な声だが、不快ではない。整えられた音調。むしろこの状況ではそれが聞き心地良かった。
「私達、トヴィさんの事についてマロリーボットさんに訊ねにきたんです!」
ライスシャワーが、二階に向かって呼びかける。すると、ドタドタと階段を叩きつけるような急ぎ足が聞こえ、やがてすぐに玄関が開け放たれた、金髪の――長い髪ではなく、短い髪の――ウマ娘が姿を見せた。
「どうぞ、おあがりください!」
彼女は、早口でそう告げた。そして、そのまま背を向ける形を取る。
カレンは、トヴィよりも少し大人びた印象のある彼女の背を追いかけながら声をかけた。
「あの、マロリーボット――さんですよね?」
「はい、ボクはマロリーボット――いえ、この場合は、そうですね」
少し気取った素振りがある口調と仕草。玄関の三和土から上がった直後に、ウマ娘達より高い位置から顔だけ振り返ってこう台詞を発する。