「えぇ、はい。……えぇ。『ファストヴィクティム』で検索したら一番上に出てくるページ……それです」
マロワにお茶菓子を用意してもらう合間、トレーナーから他の職員へファストヴィクティムのまとめページの相談が行われていた。
「……ページの削除には複数日はどうしてもかかるって」
「でしょうけれど、悠長ね」
トレーナーにとってもキングヘイローにとっても生徒の晒し上げページなど今すぐに消してもらいたいページであった。が、そう都合良くはいかないらしい。
そしてそれはこの場の皆々同じだと思ったが、セイウンスカイの反応だけは違った。
「……今は、あのページが無いと私が困るかな」
セイウンスカイがそう放言すると、カレンから射抜くような批難の視線が飛んできた。さすがのスカイの方も、これは失言だったと自覚する。
「あ、いや。そう思うのにはちゃんと理由があって」
「そうね。今の言い方は私さえどうかと思った。……でも、ちゃんと何かしらの考えがある。でしょう?」
セイウンスカイとカレンチャンの一触即発の状況。その間にキングヘイローが仲裁に入る。
「ど、どうしたの、カレンさん……? 普段なら、『そういう事言うのよくないと思うな~』とか……そういうやんわりとした怒り方できるのに……」
「そうだよねー。普段も、ウマッターとかで何か間違えた事言ったら、カレンちゃんならこっそり裏で優しく指摘してくれるよね……?」
ライスシャワーも仲裁に入る。ハルウララもライスシャワーも、カレンの様子の変化に首を傾げていた。
リビングにはテレビやソファなどあって当然のモノは全て置かれており、生活感がありながらも家具は充実。最新のホームデバイスもある。金銭的には不自由のない生活。両親が他界し、困窮しているファストヴィクティムとは対照的。
「ある意味、似たモノ同士かもね」
「何が」
部屋の様子を見回してからキングが言葉をこぼし、スカイが顔を見合わせる。
「……マロリーさんと私。ほら、ご両親は日中共働きでお仕事してるって話。今も実際居ないしね」
「あぁ、寮生活以前からそういう生活してたんじゃないかって話?」
「まぁ、そうね。生活に不自由がないのは良い事だとは思うけど、ね」
キングは、テレビの横の棚に置かれた写真立てに目をやった。髪の長い時代のマロリーボットの写真が映っている。
……髪型は、いわれてみればキングに近い。いかにも上流階級のお嬢様といった感じの髪型だ。
「あれだけ長くするのも長い年月かかるだろうに。バッサリ切っちゃうなんて、思い切った事したねぇ」
セイウンスカイはじーっと写真を見やった。写真に映ってるマロリーボットは一人。写真家などに撮ってもらったのだろうか。実に、一枚の絵として映える。
キングヘイロー:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 60 > 60 > レギュラー成功
セイウンスカイ:CC<=70 (1D100<=70) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 78 > 78 > 失敗
「ずいぶん自慢に思っていたのでしょうね」
「え?」
「だって、こういった記念写真でも誇らしげに髪を主張してる。まるでそれが『唯一誇れるアイデンティティ』って言いたげなくらいに」
キングヘイローの物言いに、セイウンスカイは一瞬戸惑った。
「……じゃあなんであんな短く?」
「さぁ? 失恋でもしたんじゃないの。誰かさんみたいに」
キングヘイローにとってそこまで踏み込んだ事は分からない上に、幼少期は自分と似た境遇であったろう彼女に微妙な同情心を抱いてしまったせいか、はぐらかすように話を切った。
「はい、お茶菓子をお持ちいたしました!」
「わぁ~、ありがとー。マロリーちゃん!」
マロリーボットが美味しそうなお茶菓子を持ってきて、ハルウララが大喜びする声が聞こえてくる。
全員、テーブルについて。マロリーボットが切り出す。
「トレーナーさんを含めて皆さんの名前はご存知ではありますが……まぁ、改めて。ボクはマロリーボット。ファストヴィクティムの親友であるマロワです」
そのように自己紹介を繰り広げる。どことなく、彼女の中性的な容姿も相まって宝塚の舞台役者のような振る舞いを感じる。
「あら、落ち込んでいるかと思ったけど。そうでないのね」
「はは……実際、皆さんが来るまでずっと部屋で泣いてました。でも、そうも言ってられませんものね!」
「というと?」
相手の物言いに、キングヘイローが言葉を促す。マロリーボットは指をパチンと小粋に鳴らす。
「トヴィ――アリスがあんな事になった原因を探っている。そうでしょう?」
成る程、ここに来た理由くらいは洞察出来る人物らしい。受け答えもちゃんとしている事から、話を聞く事は支障ないかと思われた。
ライスシャワー『えっと……ちょっといいかな……』
――はい。
ライスシャワー『なんだか、マロリーさんまったく落ち込んでる風にはライスには見えないよ? ……人を疑うのはよくない事だとは思うけど、怪しく映っちゃう……』
――"事件の黒幕を追い詰めるシナリオ"だから疑ってかかる事はむしろゲームとして正しい。相手の心情をはかる場合、大まかにINTで洞察出来る。
ライスシャワー『じゃあ、マロリーさんが本当に落ち込んでるかどうかを知りたい……かな……?』
[ライスシャワー:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 66 > 66 > 失敗]
ライスシャワー『ん、んん……!』
――相手の気取った態度のせいか、その内面はうかがいしれなかった。
カレンチャン『あ、じゃあカレンも振ろうかな~。不審に思うだろうしっ!』
[カレンチャン:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 76 > 76 > 失敗]
カレンチャン『……』
――まぁ、こういう事もある。
カレンチャン『……プッシュ宣言!』
――お、やるかい。
カレンチャン【MP8⇒3】
[カレンチャン:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 23 > 23 > ハード成功]
カレンは、相手に疑うような視線を投げかけた。その振る舞いをつぶさに見つめるが、少なくとも内心落ち込んでいたのは本当だと思った。……しかし、多少の違和感は感じるが……。
先刻からカレンの様子を静かに見守っていたトレーナーが小声で言う。
「カレンチャン目つき怖っ……!」
「……お姉ちゃん、後で"おはなし"しよっか」
ライスシャワー『あれ? じゃあ、ライスの考えすぎかな……』
カレンチャン『んん、本当に純粋に裏表がない善意の人だったら、付属される情報が……でも、キャラクターとしてのカレンチャンはあえて信用してみるよ。だって、そっちの方が面白そうだもん♪』
――ハハハハハハ。
「うん。カレン達は、マロリーさん……いえ、マロワさんのいう通りトヴィちゃんがああなってしまった原因を突き止めようとしているの」
カレンがそう言葉をかけ、続ける。
「だから、もしよければ貴方の知っている事を話してほしい」
「えぇ、喜んで。とはいっても、ボクが多く知っている事は……」
マロリーボットは少しだけ困った表情を見せた。
(この場面ではプレイヤーキャラクターは彼女にいくらか話を聞いた。しかし、そのほぼ全てがクラスメイトと同様程度の受け答えしか得られなかった)
「……なぜあなただけあの状況で『大丈夫だよ。私は味方だよ』なんて言えたの?」
「それは、もう。アリスの為ですから!!」
「…………」
意気揚々と答えてくれたが、それが重要な推理情報になるわけでもなかった。
キングヘイロー『……うーん……』
セイウンスカイ『……あ、キングにもわかった? その反応だと』
キングヘイロー『えぇ、まぁ……』
ハルウララ『はわわっ、キングちゃんもう犯人わかっちゃったの!? ウララ、ぜんぜんだよ!』
――……。
キングヘイロー『……動機も、なんとなく理解出来てる。ただ……』
セイウンスカイ『今までの情報と、想像している事があまりに食い違う?』
キングヘイロー『……えぇ。だって、この子があの『黒い髪の子』だとは到底思えなくて……マロリーさんはたぶん私達と同年代か、それ以下だし……考え過ぎなのかしら……』
セイウンスカイ『……うん、セイちゃんもそこで思いっきり躓いてた。さっきまで』
キングヘイロー『その言い方だと、もう一歩先に進んでいそうな言い振りね?』
ハルウララ『セイちゃん……もしかしてセイちゃんが今回の事件の黒幕……!!』
セイウンスカイ『ふふふ、バレてしまっちゃ仕方ない……なんて、ウソウソ。紛らわしいから明言しておくけどプレイヤー同士で獅子身中の虫ってギミックは今回ないって断言するからね。少なくとも、私はそうじゃない』
――まぁ初心者に楽しんでもらう意味合いが強い今回のキャンペーンでそれを仕込むほどゲームマスターも愚かでもない。
セイウンスカイ『そりゃそうだ。……ともかく、セイちゃんの推察が外れてる可能性は十分あるから、まだ言えない。言ったとしても、たぶんどうしようもない事だしね。ここはプレイヤーとキャラクターの意見に相違がない』
キングヘイロー『もったいぶるわね……』
セイウンスカイ『……まぁ、今回は前回とは違って……ちょっとね?』
キングヘイローもハルウララも考えを巡らせる。……だが、まだ事件解決には情報が足りない気がした。
ほどほどに話し合ったところで、マロリーボットが打ち明けてくる。
「そうだ。連絡先を交換しておきましょう。お互い何か重要な事思い出したら、すぐ伝えられます」
そういってマロリーボットはためらいもなく自分の電話番号を書いたメモ紙を一つ渡してきた。
「うん! いいよ! 一緒にトヴィちゃんの事を解決しよう!」
「ライスも……マロリーさんと協力して、トヴィちゃんを助ける。絶対に」
ハルウララとライスシャワー、そしてトレーナーはそれに応じた。キングヘイローとカレンチャンは、あからさまに躊躇う。
「……悪いけど、電話番号忘れちゃって」
「えぇ、それに携帯も……忘れてきちゃったわ」
「そういう事もあるでしょうね。……用件がある時はトレーナーさんか、他二人経由でカレンさんとキングさんにお伝え致しますね!」
二人がそれ以上、特に追求される事もなかった。
セイウンスカイ『GM。新規に取得したメールアドレス渡す』
――よかろう。
セイウンスカイ『ついでに、自分の電話番号は1と7を入れ替えて伝える』
――……よかろう。
「……とりあえずお話は聞けたようだし、ここいらでおいとましておく?」
トレーナーがウマ娘達にそう呼びかけ、それに同意した。
「それじゃあ、電気屋によって寮に帰りましょうか」
「わー、カレンチャンだ!」
電気屋を歩いていると、ゲームを買いにきたのであろう親子連れの、女の子の方がそのように大声をあげた。
「わぁ、本当だ。テレビで見るより可愛いねー」
「うん、すごく可愛い!」
年頃は小学生低学年。おそらく、普段から見てくれているファンなのだろう。
その子が親の手から離れて、急ぎ足でカレンチャンに寄ってきた。
「……あ、あの。写真一枚いいですか……?」
子供携帯を片手に、そのような事をおずおずとカレンチャンに申し出てくる。
「普段から、いっぱい。カレンチャンの事、撮ってるんです!」
トレーナーに向けて、エアドロップ(近距離の写真共有機能)でそれを見せたいと申し出てくる。自分がどれだけカレンチャンのファンか、そのトレーナーに自慢したいのだろうか。
可愛げのある申し出に、トレーナーは快くOKを出して自身の携帯の受信設定を『すべての人』にした。送られてきたのは、テレビで放送されるカレンチャンのレースやライブをいくらかの数。低学年の子がテレビ越しにカレンチャンを映しているという事で画質はとんでもなく荒いが、純然たる愛らしい熱意はトレーナーにも伝わってくる。
「可愛いファンの頼みね。カレン、いつものように一枚撮ってあげましょうか」
「………………」
「……カレン?」
カレンは、その女の子の申し出を無視してカウンターの方に歩き始めた。
女の子の方は、ショックを受けてその場で声をあげずに泣き始めている。
「しょうがないわよ。カレンチャンもきっと忙しかったの。ね? 泣かないで……」
「で、でも……」
そのような声が後ろから聞こえてきた。
「ちょっと、カレン! 普段の貴方なら、よほど時間が差し迫った事がない限り受け入れていたはずよ!?」
さすがのトレーナーもカレンの様子がほとほとおかしい事に気づき始めて、少し強い口調で呼び止めた。
カレンチャンは、足を止めて振り返る。
……そこには、普段の彼女が浮かべる笑顔はなく、ただ冷え切った瞳があった。
「……お姉ちゃん。状況わかってるの?」
「……何の事?」
「晒し者になってたトヴィちゃんの事を助けようとしている私達が、晒し者にならない保証はないんだよ?」
その言葉に、トレーナーは苦い顔をした。
「そんなの、考えすぎよ! 貴方、ちょっと前から少し被害妄想が過ぎ――」
そんな事を叱りつけようとした折、通知音が聞こえてきた。携帯の備え付けられたエアドロップの通知音。
「……? さっきの子かしら」
そう思ってトレーナーはそれを受信する。送られてきたのは先程の親でも子でもなく、第三者が撮ったのであろう写真。
そこにあったのは『カレンチャンが子供を泣かして、無慈悲にもそのまま立ち去っていく姿を鮮明に隠し撮りした代物』であった。
「え……な…………え……?」
トレーナーもこれには絶句する。カレンは、もはやその写真について何の反応も返す気はなかった。
二人は早々にデータを受け取り、周囲に警戒する視線を投げかけながら足早に撤収する。
「あ、おかえりなさいカレンさん。トレーナーさん。……険しい顔だけど、どうしたの?」
「なんでもない……」
ライスシャワーの心配にも、そう返す気力しかない。
「……カレン……」
「なぁに、お姉ちゃん」
トレーナーは、そんなカレンチャンの肩に手を置いて言う。
「しばらく外出は最低限にしましょうか。……こういう類は、ほっとけばすぐ収まるわよ」
「………………」
ハルウララとライスシャワーは、そのやり取りを見て顔を見合わせる。
キングヘイローとセイウンスカイは、ただ内心でトレーナーの考えに同調するしかなかった。