マロリーボットは、小馬鹿にするように肩をすくめた。
「聞かせてもらいましょうか」
いかにも余裕ぶった態度。
セイウンスカイ『ごめんちょっと独演会なるかも……』
キングヘイロー『すごくムカムカしてるからむしろ徹底的にやってほしい』
カレンチャン『カレンも……』
――やっちまいな!!
ライスシャワー『は、犯人さんなら追い詰めてあげた方がいいと思うの』
ハルウララ『がんばれー!!』
「まず一つ目にさ。キミ、まとめサイトとかにファストヴィクティムの個人情報とか盗撮動画とかたくさんあげてたよね」
「さぁ? なんの事だか……あぁ、まさかそれがアリスがあんな事になった原因?! おぉ、なんて事だ!」
相手の気取った台詞が、もはや寒々しく思えてくる。未だ殴りかかりかねないカレンを制止してから、セイウンスカイは続けた。
「あのさ。そんだけ余裕ぶってるキミは、たぶん身元が簡単にはバレないようにプロキシを挟んで【女神】として活動してるんだと思う」
「プロキシ? あぁ、色々なサーバーを経由して接続するアレですね! 匿名性が高いっていう。フフ」
相手の物言いに頷いた。
「でもさ。その匿名性って"完璧"じゃないんだ。サーバーを辿るのに時間や手間がかかるだけであって、その手間暇の問題さえクリアしてしまえば今日の警察はいずれは大元に辿り着ける。……今回の件、トレーナーや職員なんかはたぶん本気だ。学園内に潜んで個人情報をバラまいている子は、トレセン学園の名誉にかけて絶対に許さない。どれだけ手間暇かけてもいいから、警察に突き止めるよう要望かけたっておかしくないだろうね」
「…………でも、すごい時間がかかりますよ? それに、途中のサーバーで協力拒否されて絶対に辿り着けるわけじゃない。警察だって面倒臭がってやめるかもしれない」
「そうだね。その可能性は十分ある。だから、まずトレセン学園は『ファストヴィクティムのクラスメイトに【女神】がいる事はわかりきってるゆえ、先生生徒全員に事情聴取する』だろうね。例の盗撮された動画だって、生徒達に提示されるかもしれない」
「……」
マロリーボットは黙り込んだ。
「それでさ。あれだけ盗撮を繰り返してたんだ。一回か二回くらい、授業中に携帯弄って遊んでるって他人にみなされた場面くらいはあるかもしれない。撮ってた位置だって、授業中だから定位置だろうね? 席替えなんかもあったかもしれないけど……ファストヴィクティムが泣き叫んでた件については、クラスメイトの皆は確実に覚えてる。そして、その時の様子を撮影している動画を見せて『この撮影地点の席に座っていたのは誰か?』なんて。クラスメイトと先生全員に聞けば少なくともそこに誰が座っていたかは覚えてるんじゃないかな?」
「……それでも、覚えてない可能性だってまだあります……」
静かに反論を述べてきたマロリーボットを目の前に、セイウンスカイはため息をついた。
そして、ファストヴィクティムが晒し者になっていたまとめページを見て、女神の最新コメントを見る。
「あのさ……キミ、やっぱりすごく頭悪いよ」
「……?」
そのコメントを、マロリーボット含めて皆に見せつけた。
『女神◆Wnt2g(※個人識別する為のトリップ機能の英数字の羅列):
ファストヴィクティムを庇おうとする愚か者達が私の前に現れた。そいつらの個人情報を君達に与える。
(ハルウララの電話番号。名前や容姿の情報)
(ライスシャワーの電話番号。名前や容姿の情報)
(女性トレーナーの電話番号。名前や容姿の情報)
(カレンチャンの名前や容姿の情報)
(キングヘイローの名前や容姿の情報)
(セイウンスカイの電話番号、及びメールアドレス、容姿や名前の情報)』
「投稿時間はね。私達がキミの家で会って帰った直後」
「……ボク以外の、あなた達の周囲の人間の可能性は――」
「私達の電話番号知ってて、カレンチャンとキング"だけ"電話番号知らない人が周囲にいるって?」
「…………」
「うん、まぁ、それだけじゃ可能性は0じゃないよね。偶然もありうるし」
「そ、そうですよね。だからボク以外――」
「あのね。このメールアドレス、つい数時間前に作っただけだから、キミと私以外知らないんだ。そこにいるキング達ですら把握してないんだよ? 電話番号だって1と7をわざと間違えて書いてたけど、そのまんまだ」
その証拠に、作成時に届く最初のシステムメールの日時を見せる。……セイウンスカイはノボジャックも知っている事は、蛇足でしかないから伏せた。
「で、では貴方の自作自演で私を貶めようとしている!!!」
「……ふーん。私がこの【女神】だって。そういうんだ? トリップ付きの掲示板で? これ、昔から投稿してるトリップと同じみたいなんだけどね」
「………………だ、だったら、あなたが……その、最初からファストヴィクティムを陥れていた女神だ……」
苦し紛れに言葉を返した。その言葉を待っていたとばかりに、セイウンスカイは言いのける。
「うん。いいよ。だったら、今から大人たちを巻き込んでの話し合いをしよう。ファストヴィクティムがあんな事になったんだ。大人を巻き込んで話し合っても許される案件だ。……私は持ってる携帯やパソコンの一切を大人たちに預けるよ。私が女神だったら、それらから動かぬ証拠品が出てくるだろうしね」
「……………………!!」
そこで、セイウンスカイが更に続けた。
「でさ。私が預けるなら、キミも、大人に預けるよね? 当然」
「……」
「預けたくない? 理由は? それくらいやって身の潔白を証明しなきゃいけない状況だって分かるよね? いくらキミでも」
「……………………」
マロリーボット――女神はセイウンスカイの物言いに何も言い返せなくなっていた。
「……ファストヴィクティムがあんな事をしたのは、もちろんショックや悲しみとか、動揺とかもあったんだと思う。でもね、この手の問題の場合、その動機には一つの共通点がある」
セイウンスカイは、認めたくないとは思いながらも、マロリーボットにそれを突きつける。
「陰湿ないじめの首謀者への、せめてもの抵抗にして反撃」
そうして、セイウンスカイはマロリーボットへ一歩詰め寄る。仲間達も彼女を取り囲む。
「ファストヴィクティムが決死の覚悟で"反撃"に出た時点で、キミはすでに『チェックメイト』だったんだよ。女神様」