ウマ娘がTRPGを遊ぶだけのはずだった。   作:稗田之蛙

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11.サクリファイス(捨て駒)

 

 

 マロリーボットは、その場に膝をつくようにへたりこんだ。

「観念した? だったら、大人の人に一連の事をこれから素直に告白するんだ。そうすればキミの汚名も最小限に――」

「あー……そっかそっか」

 セイウンスカイの降伏勧告も聞き入れる素振りはなく、ポケットに入れていた、いかにも高級で高性能そうなウマ娘向けの小型ヘッドホンを耳に当てる。

「ちょっと! ふざけないでよ!!!」

 その行動にキングヘイローが叱りつけるが、マロリーボットに反省する素振りはなかった。

「ボクがデイブやエレンやフランクだと思い込んでたら、ジャスティンだったかぁ~。そっか、じゃあ私に対するこの対応も仕方ないわよね……クソめんどくせぇ……」

 自信に満ち溢れた気取った声色と、比較的聞き心地の良い凡庸な声色、そしてヒキガエルを押し潰した時に出るような気味の悪い声色……それらの声が順繰りに出てくるという、実に奇妙な声使いでマロリーボットは独り言を呟き続ける。

「ジャスティン? ウララ達は、誰も『ジャスティン』って名前じゃないよ? デイブやエレンでもないし……」

 ハルウララの態度を見て、マロリーボットはバカを見るような目で笑った。

「あー。知らないんだ。これだから学がない相手はイヤだなぁ~。しょーもない。『アリスとボブ』って知ってる? ブルース・シュナイアーの暗号大全からの引用なんだけど――――」

 まるで煙に巻くような話しぶりだ。ヘラヘラと薄笑いを浮かべている。

「……あなた、この状況がわかってないの? ライスは……ライスも、すごく、すっごく怒ってるんだよ?」

 ライスシャワーですら、厳しい批難の視線を投げかけて、マロリーボットに告げる。しかし、マロリーボットに悪びれた様子はない。

「おやおや、どうしたんだい。皆さん?」

 料理の準備をしていたはずの両親も何事か不穏なモノを感じ取って、玄関までやってきて様子をうかがっている。

 

「……あのさ」

 しかしもはや彼らが現れただけでは止まれない。この中で一番怒っている。それが表情に現れているカレンが、マロリーボットに詰め寄った。

「……なぁに? カレンチャンさん。お得意のおはなし(説教)ならさっさと終わらせてほしいんですけど」

 マロリーボットは、カレンの怒りに全く動じる事なく……むしろ煽るような態度で聞き返してきた。

「あなた、『ファストヴィクティムちゃんがビルから飛び降りる場面、嬉々として撮影してた』よね? 女神としての最後の動画投稿にあったよ」

 ライスシャワーも、ハルウララもそれを聞いて驚いた顔をする。それが先程の動画の要点だった。

「えぇ、それが? いやー、ウマ娘って丈夫ですねぇ。あんな高いところから落ちても一命取り留めるなんて――」

 しかし、カレンはマロリーボットが最後まで言い終わるのを待たずに、その胸倉を摑みあげた。

 そしてカレンは、普段のカワイイカレンチャンとはかけ離れた鬼の形相であった。

「……ふざけないで。ファストヴィクティムちゃん、貴方のバカみたいな行動のせいでどれだけ怖がったと思ってるの?」

 カレンはマロリーボットに恫喝するように低い声で言った。マロリーの両親が、仲裁に入って宥めるように言う。

「まぁまぁ。ひとまずは私達にも事情を話してくれるかな。……マロリー? キミは何かお友達を怒らせるような事したのか? だったら、まずはヘッドホンを外し――」

 彼女は、宥めに入った父親を勢いよく突き飛ばした。人間である彼はウマ娘の腕力に敵うはずもなく、そのまま庭の植え込みへ背の低い木々をボキボキと折ってしまう形で倒れ込む。母親の方は、これが初めての娘の抵抗だったのだろう。そんな素振りで青褪めた様子で父親に駆け寄った。

 ……その光景を目の当たりにして、カレンとセイウンスカイ以外の皆が凍りついていた。

「……うるさいなぁ。こういう時だけ父親面して。私が悩んでた時には気づいてすらくれなかったクセに…………」

 ブツブツと、独り言のように呟いたマロリーボット。次に冷めた目でカレンを見つめ返す。

「あー、さっきの話だけどね。結構気に入ってるんですよ。だって、ボクの名前がマロリーボットでしょ? マロリー (Mallory) 。邪悪な攻撃者 (malicious attacker) 」

「知識をひけらかしたいんだろうけど、カレン。そういう話に興味ないの」

 マロリーボットは、カレンの怒りに全く動じる事なく……むしろ煽るような態度で聞き返してきた。

「殴りたいならどうぞ? それで気が済むんでしょ。で、殴ったら帰ってくださいよ。こっちはこっちで大人達のお説教がくだるのを神妙に待つんで」

 カレンの顔が、増幅する怒りでこわばる。セイウンスカイは、そのやり取りを見て思った。

「……ああ、ダメだ」

 何がダメなのかと言うと、このマロリーボットという女もそうだが、それ以上に自分の事だった。

「……人として、ウマ娘として、思ったらダメな事を思っちゃう……」

 その考えを振り払おうとしながら、彼女に詰め寄った。

 

「さっきキミの事をしきりに『頭悪い』って言ってた理由だけど、あれだけ考え無しのキミが……事件が起きてたった一日二日で私達に追い詰められるようなヤツが、ラウディーや他の大勢の一般人やウマ娘とか……洗脳じみた状態にまで操り切れる『狡猾なラスボス』とは到底思えないんだよね」

 セイウンスカイがそう指摘すると――何処からか、微かに笑むような音が聞こえた気がした。空耳かもしれない。ウマ娘の耳をもってしても、それすら判然としない微かな音だった。

「……ラウディー? 一般人や他のウマ娘を操る? 何の事です?」

 何を言ってるのか分からない。そんな態度を取りながら、マロリーボットはセイウンスカイに聞き返す。

 それは演技でもない、本当に理解出来てない態度だった。その態度は演技でないと、セイウンスカイ以外のウマ娘達にも分かる。セイウンスカイはため息をついた。

「うん、やっぱりキミ。思ってた通りの人物だ」

 

 ただ、今のカレンにとってはセイウンスカイの思惑などどうでもよかった。

 

 ただ、目の前のコイツが、憎い。

 

 ただ、今ある感情は、それだけ。

 

「さっきキングさんも言ってたけど、ラウディーちゃんはまだ理解出来た。やっちゃった事は悪い事だけど、根本には『妹を助けたい』って感情が、動機がちゃんとあったから。……でも、貴方は!!」

「やだなぁ。私にだってちゃんとかわいそうな動機あるんですよ? 聞きます?」

 そこの話に踏み入ると、キングヘイローが話に入ってきた。

「……あなた、トヴィさんの事、『子供の頃から内心では嫌い』だったでしょ」

「あぁ、キングさんにはやっぱりわかっちゃいます? 親近感わいちゃうなぁ」

「……。……あんなに誇らしく思ってた髪をバッサリ切った理由も理解してるわ。だって、"寄せてきた"んでしょう? トヴィさんの方から貴方の髪型に。……周囲に人気者だったであろう彼女が、そうでない自分の唯一のアイデンティティまでをも奪い取ってきたように感じた。彼女と似たような髪型なのが嫌で嫌でたまらなくて、何年も大切に伸ばしてきたであろう髪を衝動的に切った。違う?」

 マロリーボットは、自分の髪を触りながら答えた。

「うん、大当たり。人畜無害な顔して、他人の聖域に土足でズカズカ踏み入ってくるような輩って、やんなっちゃいますよねぇ? まったく。お互い苦労するでしょ?」

 マロリーボットはハルウララを見つめつつ、嘲笑するように返した。その態度に、キングヘイローは憤慨した。

「貴方と一緒にしないで! それに嫌になるのはトヴィさんの方よ! "それだけの理由"で、あんな惨たらしい事の免罪符になると思ったら大間違いよ!!」

 マロリーボットは、自分を睨みつけながら叫び返したキングヘイローの反応を見て、余裕ぶったアルカイックスマイルを見せた。

 

「ボクは悪くない」

 

 あまりの突拍子もない態度に、周囲はシンと静まり返った。ただ、カレンだけは、言い返した。

「……今回の件、貴方が悪いんだよ! 全部!! 全部!!!」

「だってボクは悪くないだもの! だって!!」

 もはや会話になってなかった。それは、ただ自分の言いたい事を口から叫び合ってるような状態。

 

「【EVA(エヴァ)】が『今もそう言っている』んだもの!!」

「貴方なんか、『✕✕✕✕✕✕✕』!!!!」

 

 カレンチャンは、いや、カレンとしても……生まれて初めて、他人に向けて『その言葉』を発した。

 マロリーボットがその一言を発した直後――何者かが、呆れたようにため息を吐いた。

 そしてカレンの言葉に受け応えるような声が『マロリーボットのヘッドホン』から漏れ聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

『御意のままに』

 

 

 

 

 

カレンチャン【想い:2⇒1】

(※GM注釈:カレンチャン自身はこの場面で『想い』を消費するという宣言は一切していない)

 

 その途端、頭が割れるような爆音がウマ娘達の耳を劈く。

「!?!!?!!?」

 黒幕と思われていたマロリーボットさえも、この状況に驚いていた。耳を塞げないまま、大音響のその音は身体中に響き渡った。

 セイウンスカイが耳を塞ぎながら、叫んだ。

「……やっぱり、やっぱり今回の騒動を企ててるのはこの子なんかじゃない! この子、ラウディーやあの若いウマ娘と一緒でただの操られてた駒の一つで――ただの、『捨て駒』だ!!」

 

 ――そして、今回の騒動の黒幕は一連の時と同じように……『自分に繋がるであろう証拠』を、今この瞬間消し去ろうとしていた。

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