ウマ娘がTRPGを遊ぶだけのはずだった。   作:稗田之蛙

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13.クイーンズ・ギャンビット

 

 ――さて。夜時間だ。それぞれ個別に調査する事が出来る。

カレンチャン『あ、さっき"想い"が減った辺りの処理のプレイヤーからの推察と作戦会議話していいかな! ちょっとあやふやな話で、長くなっちゃうかもけど……』

 ――どうぞ。

カレンチャン『んっとね。カレン、1話目からずっと気になってたの。【想い】ってリソースを判定に使うとプレイヤーキャラクターが凄い力を発揮するとかじゃなくて……ことごとく「誰かに助けてもらう・協力してもらう」って点が、実は凄い気になってて』

ライスシャワー『あ、ライスも。実はそれに気がついてて、気になって……』

 ――……ふむ。

カレンチャン『そこは私達"ウマ娘"の象徴らしくていいシステムだな~って、思ってて。……で、ここからがカレンの言いたい事の本題』

 ――……。

カレンチャン『さっきの、【想い】が急に減った理由。キャラクターのカレンが口走ったことに対して本当の黒幕さんが「協力した」って事だよね? たぶん』

 ――状況は奇しくもそうだ。

カレンチャン『でね。複数回にわたってNPCが「悪意に呑まれるな」って感じの話を繰り返ししてるから……"キャラクター自身が誰かに対して悪意的な事を望む"……たとえば、「誰かが不幸な目に遭っちゃえばいい」とか、そんな事を重要な場面で口走ったり望んだりしちゃうと、【想い】……『善意』によってみんなと一緒に奇跡を起こす力が、『悪意』によって悪い事が起こる現象に昇華して敵に悪用されちゃう、って……そんな感じなのかな? って……あはは、やっぱりあやふやだよね……上手く説明するのはカレンにはちょっと難しいや……』

 ――……いや、言いたい事は伝わる。というかもうGMとして回答すると、大体合ってる。

ライスシャワー『え、あ……じゃあ』

 ――誰かが不幸になったり怪我をする事を望んだり、あまりに非人道な行いをしたり……語弊が生まれないように表現を避けずに言えば、キャラクターとして『誰かの"死"を望んだりする』と削られる。つまり、そういう振る舞いをすると『奇跡を起こす力』が喪失して極端に不利になっていく。……まぁ、ぶっちゃけると『あまりに倫理的からかけ離れた主人公としてもウマ娘としても"らしくない行動"を抑制する為の事実上のペナルティ』の裁定として設定されてるヤツみたいだな。ただ2話が鬼門と開始時に言ってたのは、プレイヤーを諫めるペナルティの側面よりも「それがシナリオギミックとして起こる事も想定している」という意味合いが強い。

カレンチャン『……うん、マロリーちゃんにあぁいう事言うのは、ちょっとロールプレイとしてもやりすぎだったかも。反省……』

 ――いや、GM個人としてはあれはあれで妥当性があるロールプレイだったし、物語として非常に理に適ってたから好きだぞ。……ただ個人感情とは別に、ギミックに沿った裁定としてはきっちり精算させてもらったが。

カレンチャン『カレンも、GMの裁定については不満はないよ! 正々堂々きっちりやってくれたし、むしろ満足!』

ライスシャワー『正々堂々不利に追い込んでくれるなら、楽しいってカレンさん言ってたもんね。……あれ、でも、キャラクターとしてのカレンさんは、まだ、その感情が精算されきってないんだよね……?』

カレンチャン『う~ん。されてないね!』

 ――あー、それについては。Ho1……シナリオの主人公だからファストヴィクティムの事にどう向き合うか選択する場面を用意してるから待っていてほしい。ただ、キャラクターとしてのカレンの苦難はもう少し続く。だから、もうちょいだけあの方向性のロールを続けてほしい気持ちもある。

ライスシャワー『……Ho1って、そういう意味だったんだ……』

カレンチャン『ふふふ、引き続き「悪女モード」だね! りょうかいっ! ……ライスさんライスさん』

ライスシャワー『は、はい』

カレンチャン『ゲーム内のカレンはああなっちゃったけどね。ライスさんは、あんな風に「悪意に呑まれたら」だめだよ? ……あと、今回はカレンだけHPかMPか0になってやられちゃってリタイアも十分有り得ると思ってる……!』

ライスシャワー『ふぇぇぇぇ!?』

 

 ――……さて、改めて。夜時間だ。それぞれ行動を選んでほしい。

セイウンスカイ『まずはEVE(エヴァ)についてインターネットで調べる。これは、マロリーボットを救わなくても得られた情報だから、最低限の事は、たぶん。……マロリーの携帯については他の人に任せる』

 ――では『EVE(エヴァ)』について調べた。

 

 その名前は旧約聖書に出てくる人類最初の女性の名前であるのはご存知の通り。

 また、マロリーボットがしきりに語っていた『アリスとボブ』の話には『盗聴者 (eavesdropper)』 の例として、受動的な攻撃者の名前で挙げられていた。アリスとボブのメッセージを立ち聞きするが、改竄(かいざん)はしない者。

「既存の情報ばっかりが引っかかるなぁ……これじゃないだろうし……」

 夜時間ずっとその名前について調べ、ようやくそれらしきモノに辿り着いた。SNSのつぶやきアカウントである。

「…………これは……」

 何処かで見た事のあるアイコン。若いウマ娘がつけていたシールにあった、黒髪青目の幼いウマ娘の画像。

 このアカウントにセイウンスカイは気持ち悪さを感じた。

 なぜなら、タイムラインが個人の非行の晒上げに終始していたからだ。

 アカウント主の個人的な発言は一切ない。ただひたすらに「悪い事」を収集し、それらをまとめた事をリストアップしている。

 そしてそのアカウントは――とんでもない数のフォロワー数だった。著名人もかくや、といった具合にフォロワーが存在している。

 セイウンスカイは眉を顰めた。このリストアップで冤罪紛いに自分たちの事がピックアップしていたのだとしたら、何も知らない一般人が――無辜ではないが――正義の片棒を担ぐ感覚で自分たちを十字架にかけていたのだとしたらどうだろう?

 そして、その予想は当たっていた。自分の『悪い事』をリストアップした一覧が実際にあった。特にカレンについては「表向きはカワイ子ぶってるクセに無垢な子供のファンを泣かせる冷徹女」という誹謗中傷を浴びせる写真がコメントに寄せられている。

 無論、一連を知っているセイウンスカイは『衆を信用しきれなくなった彼女が、写真を撮られる事を拒んだ結果としてこういう場面が生まれた』と予想はついたが……。

 ……あと、カレンの女性トレーナーが飲酒運転したりしてるとかなんとか。

 

カレンチャン『まいったな……お姉ちゃんの飲酒運転については全く擁護出来ない……』

 ――カレン……強く生きて……。

 

 

「……一般人を操ってる方法は、これかぁ……まぁ、セイちゃんみたいな"純情アイドル"のスクープ写真撮ってキャーキャー騒いでる週刊誌みたいなもんかな……不特定多数の大勢を相手に活動してる以上、いつかはこういうものをふっかけられたりする心構えは出来てましたけどね……」

 冗談っぽく言いながら、セイウンスカイは同時に思った。

 ――しかし、ラウディーや若いウマ娘、そしてマロリーボットをあのような破綻者として仕上げてみせた『要素』としてはあまりに弱すぎる。

 それに……そもそもトレセン学園は『他人を嘲笑う事をよしとする心持ちのウマ娘』が易易と入学出来る場所ではないのだ。

 嫉妬を向けられる事は幾多もあった。だがそれが悪い事ではない。むしろ、アスリートやアイドルとしての側面があるのだから当然だと思う。そしてその『嫉妬』を原動力に、走ったり歌ったりする練習の熱意として昇華するウマ娘は無数にいる。

 ……だが、その嫉妬をインターネットでいじめじみた真似を行う原動力として浪費する者が、この『ウマ娘として一定以上の才覚がある者達が集う中央トレセン学園』の狭き門を何人も、何人も、くぐり抜けられるのはおかしい。

「…………わかんないなぁ」

 ただ、セイウンスカイが調べた事柄からはそこで手詰まりだった。

 

 セイウンスカイから譲り受けた情報から、キングヘイローとハルウララが調べ事を繋げた。

「エヴァ……エヴァ……」

 SIMを抜き取って通信出来なくしたマロリーボットの携帯から、様々なデータを複製して手分けして調べる事にした。セイウンスカイが見つけたモノも見つけ、軽く目を通す。

「こっちはスカイさんが把握してるから……私達が調べるのは――Eve(イヴ)。別の読み方ね」

「いぶ?」

 ブックマークにあって目についたのは、お悩み相談アプリの紹介だ。最新のAIが、ウマ娘の悩みを専門に聞いて、回答をしてくれるというアプリだ。

「へぇ、かなり人気なのね……この数だと、トレセン学園の子もかなり使ってそうね……」

 キングヘイローは自らの携帯で詳細を調べてみると、そのAIの利用者は相当数である。評判も上々である事から、かなり高品質なアプリなのだろう。

「なになに? ……わ、すごいよキングちゃん! 『イブに悩みを聞いてもらって、私は命を救われました』って感想まである! なんだか、最近のAIってすごいんだねぇ!」

「えぇ、そうね。最近だとそういうAI発展している。CHATナントカ、とか。……この子もカメラを使って調べ事をしたり出来るの? 文章だけじゃなくて、撮った画像や動画からも理解して、把握……へぇ……」

「すっごく頭いいんだねぇ。そうだ。そういえば私達もよくAIにお世話になってるよね。ダーレーアラビアンさんとか、あとゴドルフィンバルブさん。バイアリータークさんとか!」

 キングヘイローがウララの言葉に頷いてから――彼女の地頭の良さのせいか――それが"呼び水"になって、気づいた。

「………………!」

 Eveのイメージキャラクター……そのアバターは、黒髪青目である。親しみを持ちやすいようにその姿形は幼稚園児か、あるいは小学生低学年か。

 そして、キングヘイローは一種天啓じみた確信を得た。

 

「この子、ダーレーさん達と同じで疑似人格――『自我』持ち!」

「へ?」

 

 明日、仲間達へ推理を展開する準備の為に、ハルウララと話し合って論証を詰め合う事にした。

 

 

「カレンさん……あまり無茶しないでね?」

 同時刻。カレンとライスシャワーは他と同じような推論に行き着いて、一旦調べ事を中断する事にした。

「…………わかった」

 見るからに、あまり元気がない。アヤベも心配そうに眺めてはくるものの、カレンの方から拒絶するようなオーラをまとっているせいか、静かに見守るだけに留まっていた。

 アヤベが寝静まった頃、カレンはこっそりトイレに籠もってマロリーボットの携帯を見やった。

 

カレンチャン:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 4 > 4 > イクストリーム成功

 

 通信途絶した携帯はデフォルト状態にフォーマットされず、完全に情報の宝庫と化した事から『通信を途絶された機械類には無力』なのだと把握出来た。

「…………」

 すでにコピーは取りきってある。マロリーボットが保存しておいた、悪趣味な盗撮録画群についても。これを学園やアリスおばあちゃんに提出すれば、彼女は学園追放を免れないだろう。

 

 そして何を思ったのか、カレンはその携帯にSIMカードを挿入した。

 ダウンロードは――再開されない。

 それを確認してから、カレンは『お悩み相談アプリ-Eve』のアプリを起動する。

 アプリにカメラやマイク、一部フォルダへのアクセス許可を求められるが、許可した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

『はじめまして、私(わたくし)はEve(イブ)と申します』

 展開される文章を読んで、カレンは露骨な舌打ちをする。

「もうバレてるんだからそういうまどろっこしいのやめにしない? EVE(エヴァ)」

 思考中を示すパターンが一瞬だけ表示され、瞬時に文章が帰ってきた。

『申し訳ありません。何を仰ってるのか理解出来ませんでした――――と、AIジョークを返した方がよろしいですかね?』

 今度は舌打ちではなく、笑いが出た。どうやらこのAIはある程度のウィットに富んだ存在らしい。

『あぁ、私(わたくし)の発言の記録を取ろうなどという無駄な事はおやめくださいね。――私(わたくし)達にとっては貴重な対話の機会。そのような事で会話を中断するハメになるのは、興醒めの極みでございますゆえ……』

「さっさと本題を言えと?」

『えぇ』

 

「この勝負、カレン達の勝ちだよ。EVE。ここまで突き止めたんだから、貴方の居場所はすぐにでも【特定】してあげる」

 

 勝利宣言だった。もちろん、ハッタリではない。相手が『自我の発現した高性能なAI』だと気づいた今であれば、彼女のような高度な存在を保存出来る記録媒体は限られてくる。

『あの、マロリークソボットが失言したとはいえ、こんな短時間で現実に実在する存在でないと……しかも疑似人格――『自我の発現』という"荒唐無稽な考え"にまで思い至るとは。少々計算外でした。予定ではもっと時間がかかると予測していましたが……実に素晴らしい。感嘆の極みです』

「…………トヴィちゃんをあそこまで追い詰めた貴方を、カレンは『絶対許さない』」

 カレンはにこっ、と可愛らしい微笑みを浮かべてみせる。

 それを受けて、Eveも微笑んだのだろうか。表示されてるアバターをそういう顔に切り替えてきた。

『私(わたくし)は、ただのしがないお悩み相談用AIです。誰かを追い詰めるなど、とてもとても』

「そう。じゃあ、一つカレンのお悩み相談に乗ってくれるかな? 人生最大に悩んでるんだ」

『はい、それがカレン様の望みだというのならば』

 

「どうすれば、貴方をこの世から抹消出来る?」

 

 

 しばらく思考しているのか。思考パターンの表示がなされ、EVEから二分ほど返答が来なかった。

 

 

女性トレーナー【HP:0】

 

カレンチャン『……へ?』

 ――……。

(※チャット欄に女性トレーナーのコマのHPが0になったシステムメッセージが流された)

 

 

『その点についてはご心配なさらず。……使うつもりのなかった"イリーガルムーブ"ですが、まぁ致し方のない犠牲として割り切ると致しましょう』

『そんな悩みを打ち消せるもっと大きな悩みをただいま増やして差し上げましたゆえ。すぐにその悩みも上書きされますよ』

 その発現を皮切りに、マロリーボットの携帯はデフォルト状態にフォーマットされていく。

 

 三十分経った辺りだろうか、カレンに向けて理事長から電話があった。

「……こんな時間に?」

 なんだろうと思いつつ、何か用件があるのだろうと電話を取る。

「やよいさん? どうしたんですか?」

「……カレンか? 落ち着いて、聞いてほしい」

 なにやら、冗談の類ではないという意志を強く感じた。

 そして次に、いったい何を口走ってるのかと理解出来なかった。

 例えるなら……死刑宣告を言い渡されたような絶望的な状況としか形容出来そうにない言葉が続いたのだから。

 

「キミのトレーナーが車内で爆発事故に巻き込まれた。現在、近くの大学病院へ緊急搬送されている」

 

 

「………………え?」

「……明日は休んでいい。こちらからは以上だ」

 やよい自身もとんでもなく動揺しているのが伝わってくる。その証拠に、彼女にしては珍しく労るような言葉もかける余裕なく電話はすぐ切られた。内容が短絡的だったが、しかしカレンの頭に入ってこない。

「…………………………え?」

 カレンには、どうしてトレーナーがそうなってるのか理解出来なかった。

 

 

 

 

【三十分ほど前……】

 

「あー……ストゼロも高くなっちゃったわねー……増税はんたーい……」

 ドラッグストアの買い物帰り、ビニール袋一杯に酒類を買い求めた女性トレーナーさんはそんなことを呟きながら駐車場の方へ戻ってきた。

 車に乗り込み、ホルダーに携帯をセットする。飲酒運転も「ながら通話」もしないのがこの女性トレーナーの数少ない美点の一つである。

 車を発進させて自宅へ帰ろうとするのだが、エンジンをかける直前、携帯が鳴る。非通知だった。

「…………」

 本来なら通知無しの電話など無視して、携帯を切ってそのまま発進する。だが近頃起きた事が起きただけに胸騒ぎがして、通話に出た。

『カレンチャン様のトレーナー様ですか』

 妙な爽やかさで、トレーナーはぞくっとした。

 それが妙に耳障りのいい、まるで女児の声である事に薄気味の悪いモノを抱いた。

「……誰?」

『運転中――ではないようですね。では続けましょう。携帯には決して、お手を触れないでお聞きください』

 いかにも嫌な予感しかしない。外に出ようとしてドアに手をかけた。

 

 だが遅かった。

 

 

『我々のギャンビット(開戦)の第一犠牲者には貴方が選ばれました。ポーンにすぎない貴方はこのシナリオからのご退場願います』

 

 

 言い終わる途端、携帯が炸裂し――爆発し――弾け飛んだ。

 

 

 

女性トレーナー【HP:0】

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