カレンに何か考えがある事を把握した一同は、マロリーボットの告発はひとまず保留する事で合意する。そして、ゾーイと面会の約束を果たすために準備を整えていた。
「成る程、ラウディーを唆したとおぼしき黒幕をついに……それにしてもAIだったとは……」
ノボジャックはセイウンスカイが出発する直前、意見を求められていた。
「……ジャック、私は正直少し怖いんだ。何か間違った事をしていないか。だからキミの意見が聞きたい。私達が致命的なミスを犯していないかどうか」
トレセン学園から離れ、遠方へと足を運ぶのだからここからの判断は取り返しがつきにくくなる。セイウンスカイは知恵があると信頼しているジャックから、背中を押してほしかった。
ノボジャックもその期待に応える為、しばし真剣に考え込む。
そしてセイウンスカイ達のいでたちを見やった。
「ゾーイという方の会いに行くんですよね?」
「うん、これから病院へ見舞いに行こうかとね」
それを聞いて、ノボジャックは真剣な表情を顰めて訝しげな顔をした。
「見舞いというか『御礼参り』にでも行くんですか??」
(※プレイヤーキャラクター五人とも野球バット(1d8+ダメージボーナス)で武装中)
セイウンスカイ『……やっぱりこの世界観で武装してちゃダメ?』
――いや悪役が超常じみた存在だとキャラ単位で把握してる状態だし、収納して一般人を襲う気配がなければ大丈夫大丈夫。ジャック視点で眺めた絵面が凄いからツッコミ入れただけ。
「いえ、大の大人であるトレーナーさんを病院送りにしてみせた化け物が控えているのです。警戒して武装しておくのは当然でしょう」
そういってジャックは咳払いをしてから、また考え込んだ。今度は神妙な顔つきになる。
「……スカイさん」
「なぁに、ジャック?」
「仮に、仮になんですが」
ジャックは、不安そうな面持ちでセイウンスカイにこう訊ねた。
「……そのAIが洗脳まがいの事をしていたのが事実で、全ての事が済んだ後は……操り駒だった者達を、許せますか?」
セイウンスカイの返答は早かった。
「マロリーボットの事もあるから一概には言えない。けど、ラウディーの事を聞きたいのなら、私は彼女を許せるよ。もちろんエナーとジャックが許してる前提の元で、だけど」
セイウンスカイは野球バットを素振りしているハルウララを横目でチラりと見てから……それが当然であるかのように言った。
それを聞いて、ジャックはどこか安堵したように微笑む。
「なら、一つだけ。……私から差し出がましい意見を」
そうして、ジャックはセイウンスカイにこう告げた。
「……ラウディーも、皆さんのおかげでオオゴトにならなかったから許せたに過ぎません。エナーを大怪我をさせる為にナイフなんて持ち出してきた時点で、彼女も……」
「………………」
セイウンスカイはジャックの言いたい事を理解した。「ラウディーを贔屓目で見過ぎてマロリーボット憎しで物事を判断するな」とでも言いたいのだろう。
だが、しかし。
「私は、やり方どうあれ根底に"妹を救いたい"という動機があったラウディーと、承認欲求や嫉妬なんかにまみれて凶行に及んでいたマロリーボットを同列に語るべきでないと思ってる。たとえ、唆されていたとしてもね」
セイウンスカイは、静かにそう言い切った。
ジャックは、それに対して何も言い返せなかった。それに言い返してしまえば、ラウディーやフォーエナーの事を貶めてしまうような気がしたからだ。
「……卑怯な言い方をしますね」
「ごめん。ジャック」
セイウンスカイはそう謝ってから、そっとジャックの肩を抱きしめた。ジャックは、その抱擁に驚いた顔をして固まる。
「私は、ジャックやラウディーの事が好きなんだ。二人のやり方はエナーを救うのに遠回りな道だったのかもしれない。だけど、その根っこには芯が一本通ってる。……だから、贔屓でもいいから、私は君の味方でいたいんだ」
ジャックは、セイウンスカイに抱きしめられたまましばらく呆然としていたが……前の事件において「初っ端から仔細を正直に話さなかった行為」を慰撫する言葉でもあるのだと気づいて、やがて、ゆっくりとジャックの方も抱き返した。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
堂廻り、目くらみ。二人の抱きしめ合う真後ろでけたたましい風切り音が鳴り響いていた。
「エナーちゃんすごぉーいっ!! バットを振った勢いで竜巻が起こってるよっ! 砂埃が渦巻いている!」
ハルウララがきゃっきゃとはしゃいでいる。その竜巻は、エナーがバットの素振りで起こしたものだった。
セイウンスカイとノボジャックは、おそるおそるフォーエナーの表情を見やる。その表情は――嫉妬にまみれ、凶行に及びかねない程に歪んでいた。
――……誑し。
キングヘイロー『誑し』
セイウンスカイ『なんだよー! しょーがないじゃん!!! シナリオのクライマックスっぽいから死地に向かうシチュエーション想定で気取った台詞吐いてもいいじゃない!!? 相談相手として信頼出来たから気に掛けたかったんだよ!?』
(GM注釈:リプレイで描写されてる以上に2話目では名探偵と助手よろしく相談役としてセイウンスカイから頼りにされていたジャック)
――真面目な話、ジャックも遠方まで連れて行けるが。どうする?
セイウンスカイ『……ゾーイがまだ味方だと確定してない上に、もしかしたらそのままラスボス戦とかあり得るよね……?』
――ゾーイが味方かどうかはまだ言えないが、このシナリオのラスボスとの邂逅が近い事は打ち明けておく。ゆえに、トレセン学園に戻るのはシナリオクリア後の可能性が高い。
キングヘイロー『だから、準備をしておけ、と』
――あぁ。
ハルウララ『う~ん……エナーちゃんやジャックちゃん。前の事でいっぱい危険な目に遭ったばかりだし、危険な事が待ち構えてるならこれ以上巻き込みたくないかな……』
キングヘイロー『同じく。ウララさんの言う通り、せっかく救えたあの二人を大怪我なんてさせたら目覚めが悪い事この上ないわ……』
――ふむ、ならばエナーやジャックは信頼のおける連絡係としてトレセン学園方面に置いておく選択肢はいかがだろう。先にプレイヤー陣が気にしていた「自分達が全滅したらマロリーボットを告発出来なくなるかもしれない」という心配も、複製した記録を彼女達に託しておくのもいいだろう。あくまで保険だから使わずに済む可能性もあるが、悪いようには処理しない事をGMとして約束する。
セイウンスカイ『だったら、渡しておこうかな……カレンもそれでいいよね?』
カレンチャン『……うん』
「それでは、ウララさん、スカイさん、キングさん、カレンさん、ライスさん……こちらの事はお任せください。ご武運を」
「スカイさん……怪我、しないで帰ってきてくださいね……?」
一同はジャックとエナーに見送られながら中央から離れ、駅をいくつか跨いだ先にあるゾーイが待っている病院へと足を運ぶ。
――……。(GM独白:……ゾーイの性格……話し言葉の体系だとどうしたものか……本来テキストメモで情報伝えるつもりだったから、長台詞が……)
君たちは、病院の個室に辿り着いた。
いかにもVIP待遇というべきか、個室は広く、そして清潔感のある部屋だった。
ベッドには一人の女性――成人のウマ娘が横たわっている。
彼女は君たちに気づくと上体を起こした。
「……若いな」
開口一番に、彼女はそう呟いた。15歳前後の者達が『取材』にやってくるのはさすがに想定外だったらしい。
「それについては、お互い様ではないかしら」
キングヘイローが慎ましやかにそう言い返す。ゾーイも一会社の社長と聞いていたが、随分と若々しい。凜々しく整った顔立ちに小皺が少しあるくらいだから、30半ばか。いくら若作りしていたとしても50はいってないだろう。
ゾーイは、キングヘイローの言葉に「フッ」と笑った。
「……取材以外に、何か用件があるのだろう?」
あまりにも君達の若い年齢や真剣な表情を踏まえて、ただの取材ではないという事を既に見抜いているのだろう。
見れば、ゾーイは片腕に重賞を負っているのか、右腕には仰々しい包帯が巻かれている。
「EVE(エヴァ)について知っている限りの事を教えてほしい。あのAIが、トレセン学園の子や若いウマ娘達に悪い事を教え込んでいる可能性が高いんだ」
セイウンスカイがそう持ちかけた。それだけなら根も葉もない与太話と切って捨てられる話だが、ゾーイはそうはしなかった。
彼女は自分の負傷した右腕をしばらくじっと見つめてから……こう答えた。
「――さて、どこから話そうか」
それは、セイウンスカイの言葉を肯定する素振りだった……。