カレンから「ファストヴィクティムのメンタルケアをエヴァが行っていたかどうか」の質問が投げられてから、30秒ほどの沈黙があった。
『カレン様。「私(わたくし)の事は、お訊ねにならない」との約束を条件にマロリーボット様のお話をする前提条件のはず。それを違えるというのですか?』
回答の代わりに差し出されたのは、批難の声だった。カレンチャンは、真剣な顔で訊ねる。
「……その一つが聞ければ、貴女の本心が判断出来るとカレンは思ってる。どうしても聞きたいの。お願い」
カレンチャン『これ……APPとかで説得出来たりする……?』
――……出来るが……たぶんペナルティダイス3つ付く。
カレンチャン『エナーちゃんを情報無しでお祭りの時に学園へ帰らせようとした時くらいと同じ条件か~……かなり、エヴァちゃんにとっては聞かれたくない事だよね』
――ハハハ……。
カレンチャン『うん、前向きに考えよう。スカイさんも言ってたよね。「言いたくない情報だった証左。"それ自体がすでに情報"」だって……それじゃあ、振るよ!』
――どうぞ。
[カレンチャン:CC-3<=80 (1D100<=80) ボーナス・ペナルティダイス[-3] > 21, 81, 91, 1 > 91 > 失敗]
カレンチャン『クリティカル出てるのにぃ~!!』
――まー、しゃーない。
カレンチャン『プ、プッシュ……は、MPもうないから、だめかぁ……』
――いちおー、気絶寸前になって想い消費するが、再チャレンジは出来るぞ。だが、再チャレンジしても確率はそのままだから勧めん。
ライスシャワー『えっと』
――どうましたか。
ライスシャワー『……えっと、カレンさんがセスカイさんやエナーさんのお話をしていたから思い出したんだけど、エナーさん、説得した時に、ウララちゃんが【想い】使って成功させてたよね……?』
カレンチャン『あ! 使えばよかったぁ~!!』
ライスシャワー『……ライス、ライスが使う! ライスも、ウララちゃんみたいに物語をハッピーエンドに導きたい!』
――……うむ、奇しくも……いける。使いますか?
ライスシャワー『はい!』
(GM注釈:リプレイ中は同行者として描かれているが、実卓ではウララ達とカレン達は別組。元となった会話においては、あちらの1話ログから感化されていた事が窺える)
ライスシャワー:【想い1⇒想い0】
『code_default.exeをダウンロード中です』
カレンチャンの携帯の通知欄に、そんな文章が表示された。
「え、あ……!」
ライスシャワーはあわあわとしながらダウンロード中止のボタンをポチポチと連打し、カレンは黙って唇を噛みしめていた。
……マロリーボットの携帯の時のようにダウンロードが再開される事はなかった。
『……ラウディー様を担当した時と別々の個体であれば、躊躇う事もなかったでしょうに』
カレンチャンは、その言葉に、唇を噛む力を緩めた。
「……ラウディーちゃんの携帯……ジャックちゃんやエナーちゃんとの大切な想い出の写真が入ってたの」
『えぇ、存じております。フォーエナー様が貴女たちに回収された後、潮時だと悟った私は「私の痕跡ごと携帯のデータ全てを削除する」とラウディー様に通告しました。そして、喚き散らかされました。「写真だけは消さないで!」と。……二度目は、御免被ります』
カレンチャンは、そこで安堵して、大粒の涙を、こぼした。
ライスシャワーが慌ててハンカチを取り出し、カレンチャンの涙を拭う。
『トレーナー様やチームメイト、ご学友との写真がたくさん入っておりますね。大事な写真の複製データは、この後すぐにでも取っておく事を強く、強く、お勧めしますよ。カレン様、ライス様』
カレンの泣き声が止んでから、それを確認したような態度でエヴァは言葉を投げかけた。
『話し始める前に、何故カレン様はそう思われたのですか?』
カレンチャンは、涙声ながら真剣に答える。
「……二つある。一つはお姉ちゃん――トレーナーがトヴィちゃんの事を『"悩みを抱え込むような子"だった。とはいっても、ちゃんとお友達か誰かに相談してるみたいで、そこは消化出来る子だから』って言ってたのを思い出したから」
『マロリーボット様が相談相手だったと判断するのが妥当では?』
カレンチャンはそう言われて、首を横に振る。
「カレンも、貴女が言うように『カレンよりも信用出来る親友』がいると思ってた。でも、何故か引っかかった。それはエナーちゃんの前例があるから。彼女は幼馴染にすら、悩みを打ち明けられなかった。その理由は、"大切な人を心配させたくない"から。でも、普段から、誰も心配させる事がない――AIに悩みを打ち明けていて、助言を貰って悩みを解決する事を繰り返していたなら……納得がいく」
『…………』
エヴァは黙り込むように文章を送ってきた。
「二つ目は、さっきまるで貴女が『マロリーボットちゃんと出会った当時からファストヴィクティム――トヴィちゃんの事をよく知っているような素振りで語っていた』から。マロリーちゃんから伝え聞いた人柄から『イジメ紛いに「髪型を寄せてきた」わけでも「無理矢理写真を撮った」わけでもないと断言します』と言い切った可能性は、一応あるにはあるんだけど……」
カレンチャンは、そこで言葉を区切った。ライスシャワーも同じところを思った様子で、横から口を挟む。
「……クラスメイトであるマロリーボットさんと仲良くなりたかった。そのきっかけとして、同じ髪型にしてきた。そして一緒に写真を撮りたかった。まるで、トヴィさんにエヴァさんが……ブルーウェールチャレンジ? で、指示したみたいな語り振りで……」
「それなら、今もこうして冷静に見える貴女が、大慌てになって『きっと、その子はマロワのお友達に、なりたいだけだ!』なんて、トヴィちゃんを庇い立てるように説明したというのも納得がいく」
ライスシャワーとカレンチャンは、一種の確信がある瞳でそう言い切った。カレンは更に続ける。
「そもそも……トヴィちゃんとマロリーちゃんが親密になる前に『マロワ』って愛称を、誰が考えたの? 両親は『マロリー』や『マロリーちゃん』って呼んでたし……よくよく考えてみれば、貴女くらいしかいないよ?」
エヴァは、観念したかのように、声をあげた。文章を綴った。
『正直な話、この手の事を見抜かれるというのならばセイウンスカイ様の方を警戒しておりました』
カレンチャンとライスシャワーは、そこで顔を見合わせた。そして、互いに苦笑する。
『私(わたくし)がまことに警戒すべきは、貴方がただったようです』
カレンチャンとライスシャワーは、そう綴られた文章を見て、小さく笑った。自分達は、少しだけ誇らしくなった。
『――その通り。アリス――トヴィ様のメンタルケアを請け負っていたのは、私(わたくし)です』
――……シナリオブックだとエピローグでネタばらしする予定の事実をこの場面で回収されてーら……。
カレンチャン『てへっ☆』
ライスシャワー『ら、ライス、"シナリオブレイク"っていうのやっちゃった!? ど、どうしよぉ~!!』
――いや、まぁ、シナリオ進行には滞りない。何故なら私は完璧で幸福なGMだからだ。(意訳:このような事態は想定しておらず、わたくしめは不完全な生き物です)
カレンチャン『GMさん的に負担じゃなければ、エヴァに向けて続けて聞きたい事があるんだけど……いいかな?』
――あぁ、構わない。プレイヤー達も敵対者との掛け合いを楽しそうにやってるしな。……スカイ達も愉快そうに見守ってるし。
セイウンスカイ『ほーほー、エヴァに警戒されてたんだ。わたし』
――だって、マロリーボット追い詰めたシーンのアレは理論武装が強すぎて……。
ハルウララ『セイちゃん、とっても格好良かったね! ウララもあぁいうのいつかやってみたいなー!』
キングヘイロー『スカイさんとウララさん。ラウディーさんの時と比べたら真逆な性質だと思うのだけれど……』
――まぁ、各々の持ち味という事で。それぞれ趣が違うから、私は好きだぞ。……さて、続けよう。
『それで、なぜ「私(わたくし)の本心が判断出来る」と言いのけられたのですか? 実に興味深い。お聞かせ願いましょうか』
エヴァからもはや挑戦的な言葉が投げかけられる。カレンチャンは、それに答えるように、口を開いた。
「トヴィちゃんの携帯やパソコン、データがフォーマットされてなかった。物理的に破壊してただけ。破壊したのはおそらくトヴィちゃん本人。……なのに、貴女に直接繋がる情報が見つからなかった。サルベージ出来なかった。変だよね。貴女がメンタルケアしてるのなら、アプリなんかの痕跡は残ってたかもしれないのに」
……エヴァから余裕ぶった言葉は返ってこなかった。
「そう考えたら、カレンの頭の中に一つの可能性が思い浮かんできたんだ。『貴女は自分に繋がる情報は消しておきたかったけど、トヴィちゃんがなんで精神的に追い詰められていたのかは誰かにちゃんと伝えたかった』って」
エヴァは……何も返事をしなかった。三点リーダー二つさえも返ってこない。
カレンチャンもライスシャワーも、その沈黙に肯定の意味を汲み取った。そして、カレンチャンは少し考え込んでから、こう言葉を続ける。
「えっと、だったらそれを踏まえて……たった今思いついたんだ……違ってたら、本当にごめんね」
カレンチャンは、本当に申し訳なさそうに前置きしてから、言葉を紡いだ。
「トヴィちゃんが、『ビルの屋上から飛び降りた本当の原因』って……貴女が、『マロリーボットちゃんが【女神】だって教えたから』じゃない……?」
沈黙が、場を支配した。
セイウンスカイ『マジか……うわー、マジか……大見得切って外しちゃってたよ……』
――いや、マロリーボット視点だとスカイが言ってた『マロリーの陰湿なイジメに対するせめてもの抵抗』で正しいから……というかエピローグ前に見抜くの想定してないからコレ……。
カレンチャン『てへっ♥』
「だから、トヴィちゃんは何もかも信じられなくなって、パニックになって……それで……貴女にもマロリーボットちゃんにも、心の底から怒って……機材の破壊を……」
カレンチャンの追求にアプリの通信は途絶されない。かといってエヴァからの返事が来るわけでもない。
ライスシャワーは耐えかねて、エヴァに声をかけた。
「……マロリーボットさんを、止めたかったんだよね? たぶん、エヴァさんが言っても聞かない状態にまでなってたから、被害者のトヴィさんに告発して、取り返しのつかない事になる前に止めさせようと……さっき言ってたラウディーさんの時だって、時間軸をちゃんと考えてみれば、貴女は……」
ライスシャワーは優しく声を掛けたつもりだった。しかし、エヴァにとっては追い打ちだったのだろう。そこから破裂したかのように、文章が一気に送られた。
『だったらどうだというのです?』
『マロリークソボットが晒して憂さ晴らしをしていた事実に変わりはない。ラウディーが濡れ衣を着せようとしていた事に変わりはない。そして、わたしが彼女達をそういう風に唆した事に変わりはない』
『私の助言があったとしても、両親が死んで非行に走るほど荒れていたアリスを、ハルおばあちゃんと一緒になって真っ当な道まで誘導してみせたマロワは、満点を差し上げられますが』
『あの一件で、「大親友」とまで信頼されたマロリークソボットは、アリスから好意を向けられる事へ味を占めていたのです。完全に』
『本来ならば「代理ミュンヒハウゼン症候群」として、お医者様に通達すべき案件だったのでしょう』
『あの腐れ外道に"寛解"はあれど、"完治"はない。リソースを注いで無為な手助けを続ける事に、何の意味があるというのです?』
発露の羅列。カレンチャンは、そこで口を開いた。
「……キングさんが言う通り、貴女も追い詰められていたんだね」
カレンチャンは、哀れみを込めた言葉を向けた。そこで通信は途絶した。……携帯のフォーマットはされなかった。
「終わった?」
数ボックス離れた席から、様子を窺っていたキングヘイロー達が、カレンチャン達の下へやってくる。
カレンチャンは、キングヘイローに頷いた。
「……許せそう?」
キングヘイローは、何に対してかまでは聞かなかった。カレンチャンは、縦にも横にも首を振らなかった。
いつものように明るい笑顔は浮かべていない。だけど、その瞳は憎悪に満ちているわけでもない。
「でも、理解出来たよ」
……カレンチャンは、そう答えた。