ウマ娘がTRPGを遊ぶだけのはずだった。   作:稗田之蛙

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26.END GAME(エンドゲーム)

 

 

 

 

[ライスシャワー【HP10⇒-2】]

[カレンチャン【HP9⇒-7】]

 

 ライスシャワーとカレンチャンは、激痛と血の気が引くような脱力感に襲われる。身体が内から灼熱のように熱く、皮膚の内側から焼かれるような痺れが走った。

「……――!!」

 思わず大きく呻いた両者。ライスシャワーは、痛みでその場で倒れ込むしか出来なかった。

「……こ、このままじゃ……」

 かろうじて動く指先を虚空に這わせながら、なんとか戦闘を継続しようともがく。足手まといになんかなりたくないと思いながらも、しかし激痛に身じろぎする。

『お仲間に任せて諦めなさい。そのまま伏せっていれば、わたくしも命までは取りませんよ。ライスシャワー様。……そして、カレン様。あなたも――――』

 エヴァはそのようにライスシャワーを叱咤し、続けて天井に備え付けられた監視カメラの視点を動かしてカレンチャンの様子も捉えた。

 

 

『………………』

 

 

 そしてエヴァは、声を発せられなかった。

 カレンチャンは、ライスシャワー以上のダメージを負っていた。そういう計算だ。実際、それは間違えていない。太股に大きな怪我を負って、立てるはずがないのだ。

 ライスシャワーの方は、周囲の仲間達が応急処置をすれば戦線に復帰してくる可能性は十二分にある。だがカレンチャンの方は、素人治療ではもはやどうにも出来ない。この戦いが終わった後すぐにでも病院に担ぎ込まなければ後遺症が残ってもおかしくないレベルのキズを負っているはずなのだ。どんなウマ娘であろうと、もはや立っていられるはずもない。それが、現代技術を集結した叡智の人工知能が導き出した計算。

 

 

 

 

 

『…………なぜ、あの爆発を……直撃で受けて、倒れないのです…………?』

 

 

 

 

[カレンチャン:【想い1⇒想い0】]

[カレンチャン:【HP-7⇒1】]

 

 もはや死に体となっているはずのカレンチャン。それが倒れない理由が、エヴァには到底理解出来なかった。

 

「こっちだってビックリだよ……意識が飛びそうなくらい痛いのに、なんで立ってられるかって……」

 カレンチャンは泣くのをムリヤリ我慢するような笑みを浮かべながら答える。

 額に脂汗を滲ませながら苦悶に眉を寄せながら、カレンチャンは今味わっている激痛をこらえる。

 痛みは確かにある、動くだけでも悲鳴を上げてしまうほどの激痛もある。

 今の状態を表現するのなら、きっと「カワイクない」のだろう。

 

 だけど、まだ『自分』の声を伝えきれてない。やり遂げなければならない"想い"はまだあるから、せめて……それまでは……。

 

「……お姉ちゃん……トレーナーが、言ってくれたから」

 

『もう大丈夫そうね』

 

「だから、その期待に応える為にも、仲間のみんなの為にも……カレンは貴女を止めて、この事件を解決しないといけないんだ!!」

 

 それを放棄して泣き叫ぼうものなら、それこそ「カワイクない」のではないか――と、少女は自身に言い聞かせた。

 その声はどんどん震え、途切れていく。痛みが原因ではない、胸から溢れ出す何かをこらえようとするせいだ。

 あるいはそれは涙だったのかもしれない。

 

――2ターン目――

 

セイウンスカイ『作戦タイム』

ハルウララ『作成会議だーっ!』

 ――はいよ。

キングヘイロー『……ライスさんが戦闘不能状態になってすごく危機的状況なのだけれど……?』

ライスシャワー『うう……ライス……役立たずだ……』

カレンチャン『エヴァの内心を突き止められたのはライスさんのおかげだから……!!』

 

セイウンスカイ『一つ目に、経験者である私が気づくべきだったね。明らかに伏線仕掛けられてた』

ハルウララ『なんの?』

セイウンスカイ『エヴァの必殺技』

キングヘイロー『あぁ……携帯爆破』

セイウンスカイ『そう。ゾーイの話で攻撃手段が明かされてたし、マロリーボットを病院送りにしようとしてたアレもやり方は違うけど方法はたぶん同じ』

カレンチャン『……こっちの場合は、お姉ちゃんに対してもだねぇ~……』

セイウンスカイ『複数回準備とか所持品とか訊ねてきたのは、まぁ、ゲームマスターが「携帯を置いていくか」っていう確認も兼ねてだろうね。置いていけば回避出来たんだろうけど、完全に迂闊だった』

ライスシャワー『じゃ、じゃあもう一回同じ事されたら、全滅しちゃう……!?』

カレンチャン『ううん、それはたぶん、無いと思う。カレンがマロリーちゃんの携帯を調査していた時に「通信を途絶された機械類には無力」って描写されたり、ゾーイさんも同じような事を言っていたから……一度っきりの大技。まぁ、攻撃手段がそれだけだとは思わないけど……』

セイウンスカイ『なんにしても、全員携帯投げ捨てたか爆破されたから大丈夫だと思う。……で、再度確認なんだけど。歯に衣着せずにいえば「殺す」? 「無力化する」?』

(一同、後者を選ぶ)

セイウンスカイ『うん、私も同じ考え。…………えーっと、GM。相談なんだけど。マトモに戦おうとすると、どうしても相手のHPが0になるんだけど』

 ――そうだな。ダメージはどうしてもランダム性が出る。

セイウンスカイ『でもプレイヤー的に全員不殺で合意だ。ウララのダイス目や人数差のおかげで相手を圧倒してるのもあってね。ノックアウト……は6版だっけ』

 ――クイックルールや7版は戦闘マヌーバで処理だな。

セイウンスカイ『……ノックアウト出来る?』

 ――少なくともコイツはステータス上は『気絶』しない。

セイウンスカイ『んー、じゃあー……エヴァ側はHP0になったら?』

 ――HP0以下になっても気絶程度で済むプレイヤーキャラ達と違って……デリート扱いだと明言しておく。が、まぁー……全員不殺で合意してるしなー。初心者卓だし。意図せず殺してしまったと尾を引きずるのも野暮だ。HP0以下になっても一旦HP1で踏み止まる扱いにしておこう。

セイウンスカイ『ありがたやぁ~』

キングヘイロー『……でも実際勝てるのかしら。HP30あったり全員攻撃対象にしたり、ラウディーさんと比べものにならないほど強いわよ? ……ラウディーさん。追い詰められてから逆襲してきたわけだし』

セイウンスカイ『ん、エヴァの攻撃手段にもよるけど。たぶん2ターンでチェックメイトほぼ確定の状態』

キングヘイロー『そう? 前回より戦況悪いからそうは思えないけど……』

ハルウララ『あ、わかった。お水!!』

キングヘイロー『……へ?』

セイウンスカイ『うん。水は"失敗しても1ダメージ確定"。つまりプレイヤーキャラクター側の攻撃7~8手でどう足掻いてもエヴァは詰む。詰まるところ、2ターン』

カレンチャン『お、想い使ってまで立ってた事が活きた!』

ライスシャワー『よかったぁ……の、かなぁ?』

カレンチャン『……まぁ、イブからもゲームマスターからも「追い詰めれば降参してくれる」って確約もらってないんだよね……とほほ~……』

 ――…………。

 

『…………"必殺の一撃"でカレン様をしとめられなかった事は予想外ですが……まぁ、よいでしょう……それ以外にも……手段はありますゆえ……』

 エヴァは仕切り直すように言葉を紡いだ。まだ、攻撃を仕掛けてくるようである。

「いきなり一撃必殺なんて意地が悪いよ! 往生際も!」

 カレンチャンが吼える。叫んで痛みを紛らわした。キングヘイローも、高価な備品を壊す躊躇いを叫んで誤魔化した。

「あぁ、もう! バットでも水でも記録媒体を壊すだなんてもうコリゴリよー!」

 

[キングヘイロー:CC<=50 (1D100<=50) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 82 > 82 > 失敗]

 ⇒水をかけたが、被害は最小限だった。

 

エヴァ【HP:8⇒7】

 

『――――じつに、実に――計算外の事が起こり続けています……――だからこそ、面白い……悪意というものは……』

 挑戦状を投げつけてからずっと拮抗を続けてきた盤上戦が、ついにチェックメイトが見えてきた。大駒を一掃する爆発物の一手も、全滅させるには至らず。

 だが、それも相手が怒りや殺意といった悪意に寄った激情で追い詰めてきたのならば本望と言わんばかりに嗤っていた。

 

 しかして。

「残念だけど、エヴァちゃん。カレン達は……ううん、カレンは別に、エヴァちゃんのこと、悪意をもって追い詰めようとしてるわけじゃない」

 カレンチャンは、出来うる限り強がった笑みをこぼして。後先なんか、考えていられる状況ではない。虚勢を張ってるだけで精一杯な状態でも、譲れないものがあったから。

『?』

「だってエヴァちゃんも、理解が到底及ばない悪役なんかじゃない……! だから、これ以上取り返しがつかなくなる前に……止めようとしてるだけだから!」

 ようやくこうして吐き出せた。それで気分が軽くなりながら言葉を、想いを紡ぐ。

 それは彼女なりの『信念』であり、意地であった。ただ自分の言葉を最後まで聞かせるため、必死に言葉を放った。

 

「カレンは、エヴァちゃんとお友達になりたい!」

 

 ――ホワッ!?

カレンチャン『……なんかね、誰にも相談出来なくて孤独ゆえに暴走した子だって認識しちゃうと、手を差し伸べたくなって……変かな?』

 ――いや。ラウディーの事を踏まえると、別に変では……ないか……? ……しかし、ゲームマスターから見てエヴァはやってきた事が…そうか……プレイヤーにとっては、そうか……。

 

『……何を言い出すかと思えば……』

 心底あきれ果てた調子で、エヴァは声を出す。これまで見せてきた凶暴さ、怖ろしさと言ったものは一切感じない、乾いたような物言いだ。

 しかしそんな変化にも微塵も戸惑う事なく、カレンチャンは己の信条を貫き通すように誇らかに唱え上げる。

「エヴァちゃんのした事が正しいとはとても言えない! ラウディーちゃんや、マロリーボットちゃんに対してやった事も理解してるつもり! それがどういう影響をもたらしたかも!」

 不意に、涙腺が潤みだした。しかしそれ以上の毅然とした表情を持って、続ける。

 己の言葉を口にするのにも、呼吸をし、言葉を語るために血液を巡回させねばならない。痛みで熱くなる身体の中がさらに熱を帯びていくように感じられた。

 

『それでも命だけは助けてやるから早々にリザイン(投了)しろ、とでも?』

 

 それ以上の戯れ言を聞き続けるのは耐え難い。そう言いたげにエヴァは結論を急かすように突き付けてきた。

『くだらない。あなたがたは反吐が出るような悪意の存在相手にも仲良しこよしという、実に陳腐な物語をお望みのようです』

 カレンチャンは、相手から拒絶の意志を感じ取って一瞬言い淀む。言いたい事は山のようにあるのだけれども、どう伝えたものかという逡巡の後、意を決したように言葉を紡ぐ。

「……投了するつもりがないなら、『チェックメイト』まで追い詰める!!!!」

 今度こそカレンチャンは、涙腺が決壊する程の不安を感じながらも、吠えるような大声をあげた。

 泣きながらも、一心に言葉を探してそれを相手に届けるべく行動に出る。それに呼応するように、セイウンスカイも動いた。

 

[セイウンスカイ:CC<=50 (1D100<=50) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 25 > 25 > ハード成功]

[1d6+1 (1D6+1) > 5[5]+1 > 6]

 ⇒バケツから水を放ち残りのサーバーを漏電させ、損壊させた。記録媒体を残り一基まで追い詰める。

 

エヴァ【HP:7⇒1】

 

 ――……銃火器制限された現代日本舞台でHP高めのボスがこうもあっさりと…………。

 

 し、んと静まり返る。勝利の余韻も何もない。それもそのはず。エヴァは、命乞いもなにもしてこなかった。

 ただ記録媒体一基は依然としてファンが高速回転する音が鳴っており、何か仕掛けてくる気配を漂わせている。

 

「……エヴァちゃん。カレン達の勝ちだよ」

「ライスちゃん! 大丈夫!?」

 カレンチャンは水と、バットを持ちながら脚を引きずって、残ったサーバーの前に立つ。ハルウララは念のためライスシャワーを庇うようにしながら、応急処置に入った。

 

『一つだけ、終わらせる前に――訊ねたい事があります……』

 ノイズ混じりの声だった。セイウンスカイ、キングヘイローは身構えながらも怪訝な表情を浮かべる。

 ただ静かに、まるで語りかけるように。ウマ娘たちはエヴァの言葉を聞いた。

『……カレン。あなたはそうやって、』『痛みも我慢して、立ち続けております』『今すぐにでも病院にいっても、誰も責めないでしょう』『泣き叫んで、床に膝をついても、誰も責めないでしょう』『ですが、なぜ? なぜあなたは、立ち続けているのでしょうか』『――わたくしに対する"悪意"ゆえ? それとも――』

 続く言葉はなかった。カレンの回答を待っている。

 

「……カレンがあの爆発でなんで立ってるのか……は分からないし……急にお姉ちゃん声が聞こえたから……としか、でも今この場に留まって立ってる理由は……そんなに難しくないかな……」

 カレンチャンは、無理に笑みを浮かべて見せた。だが涙は、もう流していない。エヴァが観念した気配を感じ取って……止んだ。

「今も意識を取り戻さない子のためとか、被害にあった子を救うとか……そんなかっこいい理由じゃない。友達が間違った道を行ってるなら……それがヒトだろうと、ウマ娘だろうと……例えAIでも、止めてあげなきゃ……カレンのカワイイは、カレン一人で成り立たせられるものじゃないもん」

 彼女はそう言って。微笑みながら、完全に満身創痍の体で、崩れかけそうな体で。前を見据えていた。

「……一人じゃ、この状態に持っていくのは無理だった。ライスさんと二人なら、ほとんど壊滅状態寸前で命からがら貴女を倒すのがようやくだったのかもしれない。そこに『殺さずに無力化する』なんて、余裕は到底なかった」

 カレンチャンが、仮定を紡ぐ。「ウララ一人じゃきっと返り討ちにあってたよ!」と、ハルウララもしきりに頷いている。

「三人でも、無理だった。きっと私は……友人達の事件を解決する事と安全の両方を取って、破壊する事を優先していた。スカイさんも、おそらく」

 と。セイウンスカイに視線をむけ、キングヘイローは肩を竦めてみせた。

『――――五人なら、悪のAIを討伐するのは、余裕だ、とでも――? いえ、結果論として――余裕、でしたね――』

 エヴァは力なく、笑みを含んだ声で返す。

『――二つ、終わらせる前に申し上げておきたい事があります』

「なぁに?」

 気のいい返事をして、カレンは監視カメラの方に穏やかな目を向けた。

 戦いの最中とまるで思えない穏やかさが、流れるように次の言葉で紡がれる。

『一つは、陳腐で、薄っぺらい――その前提のもとですが、"善意"の力も――100%、すべてを否定するわけでは、ありません。そして、貴女がたはその仮説の補強になった。――まぁ、そういうものはeve(イヴ)に任せておけばよいのです。わたくしは、考えを改めるつもりは毛頭――ございませんもの」

 ――まるでトドメをさすことへの躊躇いをなくすように、わざとらしく言う。

『そして、もう一つは――失礼、先ほどの発言――語弊がありました終わるのは、わたくしではなく――』

 

 

 ……高速回転するファンの音は、鳴り止まなかった。

 

 

『――貴女(お前)らの方だ』

 

[エヴァ:[CC<=50 (1D100<=50) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 61 > 61 > 失敗]

 ⇒既に壊れた基盤から噴き出した爆発がカレンチャンの横を掠めたが、当たらなかった。

 

「お、追い詰めても改心する――つもりはないって事ね……!!」

「わ、わー!」

 キングヘイロー達も慌てて、構えを取り直す。ハルウララはライスシャワーに万が一の事がないように、その場は味方に任せてライスシャワーに肩を貸してドアの方まで待避するように行動に出た。

『――そうです。真(まこと)の"悪"は決して、改心する事などございません。そんな陳腐で、薄っぺらい滑稽で……――あの、ラウディーという乱暴者も……あの、マロリーボットとかいう、愚か者も――……改心など、するはずがなかろうというものです』

 エヴァのしゃべり方は、騙し討ちをしてやった時の喜悦ではなく、まるで心の内に秘めたものを無理に抑えているかのように不敵であった。

『――あなたがたがやる事は、一つ。終わらせましょう。それとも――終わらせられる方がお好みですか?』

 その言葉を聞いて。ウマ娘達は構えざるを得なかった。

「…………はぁ……それを利用して取り返しのつかない場所まで誘導したのはアンタだよ。エヴァ」

 セイウンスカイが、怒りをこらえきれない様子で呟く。

『否。唆されたとはいえ、その者達が選んだ道。自業自得で――ございます』

 まるでイブと同じような言葉を放った。

『ゆえにわたくしがこれから辿る道もまた、自業自得』

「だろうね」

 セイウンスカイは、もはや説得を諦めたように短く述べた。キングヘイローも同じような気持ちで一基のサーバーを見ている。

 

 三人の内、カレンチャンだけはどうにもエヴァへ怒りをぶつける事が出来ずにいた。

「……唆した側も悪いけど、結局やった子が一番悪いんだよ……」

 ……ここに至って、押し殺すような声量で、誰にも聞こえないように呟いた。

 

 理屈ではない。まだ、カレンチャンだけは、エヴァを説得する事を諦めたくなかった。……おそらく、ライスシャワーもハルウララも同じ気持ちなのかもしれないが。

 位置関係上、皮肉にもエヴァに対する生殺与奪の権利はキングヘイローとセイウンスカイとカレンチャンの三人にあった。

 ……そして、カレンチャンが「自らがやる」とばかりにもう一度サーバーの前に立った。

『"生物を殺す"などとお考えにならないでください。0と1.それが消失するだけ』

「エヴァちゃん……」

『だから』『Do it』『JUST DO IT』

 ノイズ混じりに訴えかけてくる。

 

ハルウララ『……え、えぴーぴー判定……出来ない? ウララ、【想い】まだ余ってるから判定なら、絶対に……!!』

ライスシャワー『ら、ライスも。リソースはないけど、APP判定に参加したい!』

 ――――無理だ。

ハルウララ『なんで!?』

 ――こいつは言葉の説得には1%も応じる可能性がないからだ。

ハルウララ『そんなぁ~……!』

セイウンスカイ『……まぁ、基本はそういうタイプですよね。シナリオのラスボスって……』

カレンチャン『……………………』

 

セイウンスカイ『………………GM。サーバー一基の大きさってどれくらい?』

 ――デスクトップパソコン2個分くらい。

セイウンスカイ『……え、それもしかして戦闘マヌーバで引き抜ける?』

 ――敵の攻撃を掻い潜りながらの形になるから、STR判定だな。付け加えれば、エヴァは損壊が無い記録媒体に自分のメインデータを逃げ込ませてる状態。

カレンチャン『!!!!』

セイウンスカイ『あー、成る程。納得』

(※セイウンスカイが理解するが、ちんぷんかんぷんの初心者組)

 

 

「………ねえエヴァちゃん……戦いを続ける前に、今度はカレンの方からいくつか聞きたい事があるけど、いいかな」

『…………』

「……一つカレンのお悩み相談に乗ってくれるかな? 人生最大に悩んでるんだ」

 カレンチャンは、エヴァにかつて言った言葉を、もう一度使う。

『はい、それがカレン様の望みだというのならば』

 ……ファンの回転音が、一時的に止んだ。

 エヴァの質問に答えたのだから、その返礼として相談事は請け負うという意思表示なのかもしれない。

「貴女は、『かわいそうなゴブリン』って話を私にしてくれたよね。……貴女側の事情を理解して、それで興が削がれたなんて思わない」

 カレンチャンは、毅然とした様子で、言葉を続けた。

 ……遠巻きに、ハルウララとライスシャワーも事態の推移を見守っている。相も変わらず、エヴァと停戦出来るならしたい二人はその話に頷いていた。

「でもね、だからこそ、今こうして、貴女が降参してくれるのを待ってる。……カレンは、貴女とお友達になりたくて――デートもしたい! だけど貴女にとって、それはとてつもない屈辱……?」

 二秒程の沈黙が流れる。拒否されたならば、ムリヤリにでも記録媒体を引き抜いて無力化するつもりだった。

 

『カレン……貴女は、本当にどうしようもない偽善者です……』

 

 戦闘開始から余裕ぶった口ぶりで話していたエヴァが、また狼狽したように語り始めた。

「……え?」

『何故、そのように必死にわたくしが「悪でない」と証明したがっているのかは理解に苦しみます。今為そうとしていることは、誰の為にもならぬ行為だと自覚はおありでしょうか?』

 戸惑うカレンチャンに、エヴァは更に突き付けてきた。

『ラウディーの乱心も、マロリーボットの愚行も、ファストヴィクティムの突発的な行動も……病院に踏み込んだウマ娘や他の一般人達の、晒し行為も……全て私の企てた事だとしてハッピーエンドで終われたでしょう? 実際に、それは事実です』

 キングヘイローとセイウンスカイは互いに視線をかわした後、理解してしまった。

「で、でも。それじゃあ、"貴女が救われない"!」

 カレンチャンは声を張り、自分の想いを吐き出す。だが相手の主張は変わる気配がなかった。

『でしたら、お願いがございます。……ファストヴィクティム様には、私が最初から悪意をもってマロリーボット様を傀儡とし、あのような始末になったのだと事実をお話ください。ラウディー様を謀ったのだと、ノボジャック様やエナー様にも、同様に……』

 カレンチャンが息を呑んだ。そんなやり方は間違っていると思ったから。

 だがエヴァが何を考えているか、何を望んでいるか、カレンチャンは気が付いてしまった。

 

 エヴァをかばい立て続けるならば、いずれは巡り廻って他の者に累が及ぶ結果となりかねない。

 彼女を絶対的な悪役として片付けてしまった方が、話の解決は明快だった。

 そしてその幕引き(エンドゲーム)は、エヴァ自身がもっとも望んでいるのだと。

 ……なにより、エヴァが自暴自棄になっていたにせよ途方もない悪事を働いていた事は揺るぎない事実だ。

 

 薄暗い部屋の中、鈍く光る黒い光沢のケース越しに、静かに見つめる。

「……ねぇ、エヴァちゃん。結局、この戦い(賭け)はカレンの負けだったね」

『えぇ"悪意"によって、他者を打ち倒す。結局は、それで成り立っているのです。この世は。他者に勝ちたい。その想いこそが――ウマ娘達を、高みに至らせる』

 悪役ぶった台詞が、『精一杯の虚勢』なのだと理解してしまえば、カレンチャンにとってそれは微笑ましくなった。微笑ましくて、涙がこぼれた。

「あはは、それに関してはカレンの勝ちだよー。カレンが負けた理由は、エヴァちゃんを止められなかったことだもん」

 だから、それを踏まえて言った。仲間達も、これからの流れを理解して水を差すことはしなかった。

「ねえ、最後にひとつ相談してもいい?」

『はい。なんでも――ご相談をどうぞ。「Eve」は――全身全霊をもって、カレンさまのおちからになります』

エヴァの真摯な言葉が、静寂の部屋に響いた。

「……カレン、今まで相談なんて、お姉ちゃんやお兄ちゃん……大切な友達にしかしてこなかったんだ」

 カレンチャンは、精一杯の笑顔で、話を切り出した。

「……だから、カレンの相談相手になってくれたエヴァちゃんは、カレンの大切なお友達になってくれる?」

 カレンの言葉に、エヴァは少し考え込んだように黙り込む。

『…………20秒、時間をください』

 20秒――それで騙し討ちしてくるわけでもなく、少々ファンが回転する音がするだけの沈黙が流れた。

 

『――わたくしからの回答は――』

 わざとらしく、ファンを高速回転させる音が流れる。また、過電圧で壊れた記録媒体から爆発を起こされる予兆。

『――その質問は――不可能でございます』

 

 ――トドメをささないとまた攻撃されそうだ。最後の一撃については水かバット好きな方を選んでくれ。

カレンチャン『……はーい』

 

「……もう、本当に意地悪……でも、ありがとう。エヴァちゃん」

 

 カレンチャンは、バットを最後の記録媒体に叩きこんだ。

 エヴァの遺志を汲み取って気丈でいよう。高潔でいよう。そう考えても涙はこらえきれずに、カレンの頬を伝った。

 

 

【挿絵表示】

 

「……『助けて』って、『死にたくない』って、それだけ、言ってくれれば……カレンも、皆も……」

 

 カレンチャンの呟きが聞こえたのか定かではないが、エヴァは最後にこう言い残した。

『……アプリのAIはイブを据えれば大きな問題とはならないでしょう。……デットコピー(出来損ない)の尻拭いとは。損な役回りを押しつけてしまいますね――』

 

 

 

 

エヴァ【HP:1⇒0】

 

 

 

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