カレンチャンがこの前の事件の負傷から完治した頃。事件を解決した四人でカレンチャンを出迎えた直後、キングヘイローの携帯にゾーイから電話がかかってきた。
一応、何事か緊急事態が起きた時用に電話番号は交換しておいたのだが。
「ゾーイだ」
「…………」
電話に出たキングヘイローは無言になっている。サトノグループにイブを移籍させた手前だ。恨み言以外に何か用事があるのかと、怪訝に思っての無言だった。
だが電話口のゾーイは存外落ち着いた声で話しかけている。
「イブが行方不明になったらしいぞ?」
「…………は?」
変な声になってキングヘイローは電話に反応してしまう。周囲の四人もキングヘイローの携帯に耳を近づける。
「ちょっと待って。そんな風に身を寄せないでったら。スピーカーモードにするから」
音をスピーカーに切り替えた。状況は分からないが、とりあえずと聞いてみる。
「お悩み相談アプリEveの権利までサトノグループに渡してしまうとは。やってくれる」
「まぁ、そこは。そちらの社員さんのお考えですもの。私は関わりのないところだわ」
嫌味のジャブに対し、キングヘイローは落ち着きを取り繕う。
「……ふん。二束三文で売り払いおって。しかも売り払った直後にデータを紛失――逃げられるとは」
それを聞いたセイウンスカイがひときわ眉尻をぴくんと動かした。ハルウララ、ライスシャワーも同様に。
「それで、どういう事なの?」
わざわざ、キングヘイローの携帯にかけてきたという事は会社単位で済ませたくない話なのだろうか。
「奴らめ。何を考えているか分からんが、メンテナンス時間の合間にイブと三女神を何度も会わせていたようだ。イブの教育のつもりか。今となっては私への当てつけにしかならんな」
実際にゾーイよりも三女神の方が教育者としては信頼がおけるのだが……どういう状態だったか認知しているライスシャワーとキングヘイローとしては、若干不安な気持ちである。
「それで、ダーレーさん達の元でストライキを起こしているとでもいうの?」
「かもしれんな。だとしたら、貴様らや学園の職員の領分だろう。部外者は学園に踏み入れないし、ハッキングなど持ってのほかだ」
ゾーイの言い分ももっともなのだが、過去の諍いを恨んでキングヘイロー達に押しつけてるような気配もするし、彼女なりにイブを心配しての気配もする。たぶん、両方なのだろう。
「……今日の午後八時までに帰還させておけ。メンテナンス時間の余暇に遊びに行くなどとお目こぼしを貰っているのは、アンドロイドが人間に従順だからだ。反抗の兆しがあれば、分かるな?」
「………………」
言い方は嫌味ったらしいが、結局のところゾーイはイブの身を案じているようにしか捉えれなかった。反省はしているのかもしれない。
しかしキングヘイローはその事を指摘するほど、野暮でもない。今更「仲直りしたら?」なんて言い出したら、イブもカレンも、ゾーイも全員拒絶するだろう。
ひとまず彼女の進言通り、イブを帰らせるべくウマレーターの方に向かった。
――そういうわけで、各自何か準備などがあれば。
セイウンスカイ『ジャックを連れていきたい』
――………………。予定にないNPCだが。最終話だし。参謀役にもってけ。
「イブが家出、ねぇ?」
「家出というよりも門限破りかしら? AIが門限破りっていうのも変だけど……」
セイウンスカイとキングヘイローはそのように反応して顔を見合わせた。
「……ところでノボジャックさん。手伝ってくれるのは助かるけど、よかったの?」
「まぁ、イブの件ともなれば自分も全く関係ないわけではないですし……」
なんだかんだ幼馴染を二人救ってもらった恩義はジャックにとって大きいらしい。
セイウンスカイ『プレイヤーとしても最後の事件にも一緒に立ち向かえるのはちょっと嬉しいかも』
キングヘイロー『……そういえばNPCの中で一番最初に出てきたわね。ノボジャックさん』
ハルウララ『皆勤賞だねーっ!』
――…………カレン? 開始からずっと黙り込んでるけど大丈夫?
カレンチャン『……カレンの中ではもう終わったことと言いますか……』(ダウナータマちゃんの立ち絵使用中)
――あ、これプレイヤー単位でNPC救えなかった事のダメージがすさまじいヤツだ。
セイウンスカイ『……まぁ思い入れあるNPCが死んじゃうとそうなる時あるよね。燃え尽き症候群』
――休む?
カレンチャン『……イブちゃんもいるから、最後まで見届ける……』
ノボジャックとセイウンスカイが一緒になって真っ白に燃え尽きて魂が抜けかけてるカレンの腕を引っ張りつつ、一行はひとまずウマレーターに向かった。
ウマレーターの中にログインすると、真っ先にダーレーアラビアンらと遭遇した。
「やぁ、トレーニングかい? 子羊くんが見当たらないようだが」
ウマ娘達がトレーナー不在でぞろぞろとやってきたのを見て、ダーレーアラビアンは不可思議そうな面持ちになる。
キングヘイローは手を挙げて挨拶し、並行して情報を訊ねる。
「イブを見かけなかった?」
「あぁ、彼女か! 彼女なら、古代ギリシアの世界で学習を終えて、今は、そうだなぁ……」
「……少し前の事が尾を引いているみたいね」
「イブちゃん。お勉強の方面でも博識になろうとしてるのかなぁ?」
(キングヘイローとライスシャワーは早々に仲間達に先日の事を伝えた。Ho1情報公開)
「……まぁウマ娘の精神に触発されてダーレーさんたちにライバル心抱いちゃったってところかな?」
セイウンスカイがニヒヒと笑いながら語る。ダーレーの方も苦笑した。
「――そうだな。おそらく、中世ファンタジーの世界を遊び回っている頃かもしれない。ちょうどイベント時期だろうし。ポータルはあっちの方で――」
そのように説明した後で、ウマ娘達をそのまま見送る仕草だった。
「……あれ、手伝ってくれないの?」
ハルウララが何気なく聞く。彼女の疑問の通り、面倒見の良いダーレーとしては、こういった事で何も援助が無いのは珍しい。ダーレーは目を丸くした後で軽く首を振った。
「神はサイコロを振らないんだ……」
……上手い事言ったつもりなのか、ダーレーはしたり顔だ。
「あー、冗談! 冗談だよ!」
ハルウララ以外の皆が無言でジト目を向けてくるものだから、取り繕うように笑いながら咳払いをする。
「できれば手伝いたいのは本当。でもね……あの子、ジャミング……というか。わざわざ居場所知らせないように、切っちゃってるんだよね。そこらへん」
タークもゴドルフィンも、別のウマ娘達の教導を進めながらもため息を吐いていた。
「『考えてる途中で水さされたくない!』ってね」
「…………」
「………………ダーレーさん?」
キングヘイローもライスシャワーも、いぶかし気な顔をする。よもや、またイブがクイズか謎かけと向かい合っている最中に直球的な正解を言い放ったのではなかろうか……。
「……うん、『謎解き真面目に考えてるのにネタバレしないで!!!』って……怒られちゃって」
ダーレーらは苦笑いを浮かべ、そのように語った。どうやらビンゴらしい。
セイウンスカイが笑いをこらえている。キングヘイローとカレンチャンは、額に手を当てていた。
なんとも、微笑ましい理由であるが。そうなれば躍起になって中世ファンタジーの世界で……イベントか、謎解きに夢中になって時間を忘れているというところなのだろうか?
「………………ショックだったなぁ」
黄昏ているダーレーアラビアン。
「母親適正あるヒトいる?」
いきなりそのような事を放言するキングヘイロー。
「ウララ辺りに任せちゃわない。そこらへん」
「よくわかんないけど、よーし。イブちゃんのお母さん役がんばるよー!」
実際にそうなれるのか、と言われると限りなくあやしいが。やる気満々なハルウララを見ては、水を差す事も言えなかった。
「とりあえず……中世ファンタジーの、世界にいけばいいのかな?」
ライスシャワーは困り顔であった。時間帯は今日の授業を終えて、昼食を終えた12時きっかりの時間帯。これから8時間以内にイブを帰らせないといけないわけだ。
「うん、まぁ、その世界を探し回ればおそらく出会えるさ! なんたって今はイベント中。貿易都市エルムルド。おそらくはそこに彼女もいるはずだよ。そこには色々な商人がいて、なんとーー」
…………ダーレーは口を噤んだ。
「……ネタバレはしない方がよさそうだね」
イブと同じように叱られるのを恐れているらしい。
――一応イベントの内容を聞き出す事も可能だな。
キングヘイロー『じゃあ、前日の事もあるし言うように迫ろうかしら……』
――OK,ボーナスペナルティ無しでダイスどうぞ。
[キングヘイロー:CC<=50 (1D100<=50) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 31 > 31 > レギュラー成功]
⇒ネタバレとして避けていた部分に言及してもらえる事になった。
「残念だけど、イベントを楽しんでいる場合ではないの。イブを午後八時前に帰さなきゃ、サトノグループの人からのイブへの心証が悪くなるかもしれないし、そうなるとこうやって外出も……」
そのように言うと、ダーレーは大慌てで一部情報を公開し始めた。
「えぇっとね。さっきイベントって言ったよね」
「えぇ」
「エルムルドっていう都市でね。ちょっとした、世界観に則した事件が起きているんだ。それをプレイヤーやNPCのみんなで協力して解決しよう! ってヤツさ。他の世界観でもたまにあるだろう?」
ウマネストの世界や、スチームパンクの世界観の出来事を思い返す。まぁ、確かにそういう事はあった。
「それでさ。黒い噂があるの。なんでも、商人にまぎれて人身売買? する輩。それをとっちめようってわけ。そういうイベント」
なんとも、不穏な内容のイベントである。
「で、イブはそれに奔走してるんじゃないかなぁ?」
「……学生にやらせて大丈夫な内容なのよね?」
人身売買と聞いて、R-12やR-15程度の内容ではなかろうかと苦い顔をするキングヘイロー。
しかし、ダーレーは両手をぶんぶんと振って否定した。
「そんな事はないよ! R-13G未満だって事は約束するさ! 神に誓ってね。ドラゴンがクエストやファンナルなファンタジーくらいの……じゃないかなぁ」
……ファイナルなファンタジーの方は推奨年齢15歳以上だった気がするが。
「まぁ、斬り合っても血しぶきが出ないとかそういう感じの世界観っぽそーだね。ダーレーの話から察するに」
セイウンスカイは謎の解釈を加えてそんな風に語った。ともあれ、その程度なら年齢制限をとやかく言うのも野暮というものであろう。
――…………カレンチャンが唯一推奨年齢から外れそうだが……まぁ、いいか……。
「なんたって、あの子……あぁいうの許せないタチだろうし」
ダーレーがしみじみと言う。キングヘイローもため息をついた。
「…………まぁ、架空であってもイブさん、ほっとけないでしょうね…………というか、人工知能だからこそNPCに感情移入しちゃうかも」
なんとなく、イブが本気で奔走している姿がなんとなく想像がついた。変に正義感が強そうな子だから、ある意味想像は容易い。
「いってらっしゃーい♪」
ダーレーは笑顔でウマ娘達を見送った。タークとゴドルフィンは、相変わらず何も言ってこない。
セイウンスカイ『……ダーレーさん、本気でついてきてくれない感じ? 他の二人はともかく』
――ダーレーは絶対ついてこない。タークとゴドルフィンは他のウマ娘の教導で忙しいからさすがに。
セイウンスカイ『……ダーレーさん他のウマ娘教導してる?』
――してない。暇そうにしてる。
ハルウララ『あれー……ダーレーさん優しいから手伝ってくれそうなんだけどなー……』
キングヘイロー『まぁ、味方NPCに過度に援助を期待しすぎるのもTRPGとして何か違うって話を聞いた事があるから、深く突っ込まない方がいいんじゃないかしら』
セイウンスカイ『……………………』
――……………………。(GM独白:名探偵発動してる気がする……)
「それじゃあ、いってきます。イブちゃんが戻ってきたら早めにサトノグループの方へ戻るように言伝お願いします」
ライスシャワーはそうダーレーらに頼み込んで、中世ファンタジーの世界へとチャンネルを移していった。
世界観を切り替えて、鬱蒼とした森へと放り出される。皆の達の服装や持ち物も世界観に準じたものに切り替わっている。
「おぉ、ここがエルムルド……」
――ではない。
セイウンスカイが周囲を見回す。都市が見当たらない。
「……ナビUIは? チュートリアルは?」
周囲を数十秒歩くキングヘイロー。他の者も一応ついていく。
「………………どこなのよー!!!!」
本気で都市が見当たらない様子だった。
「……とりあえず山でも見つけて山頂から見渡すのが良いんじゃない。川があればいいんだけど」
「……はぁ、探すのに苦労しそうね」
――全員INTダイスを振ってくれ。
[キングヘイロー:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 99 > 99 > 失敗]
[セイウンスカイ:CC<=70 (1D100<=70) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 36 > 36 > レギュラー成功]
[ハルウララ:CC<=40 (1D100<=40) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 77 > 77 > 失敗]
[ライスシャワー:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 15 > 15 > ハード成功]
[カレンチャン:CC<=60 (1D100<=60) ボーナス・ペナルティダイス[0] > 20 > 20 > ハード成功]
――えーっと……この中だと……じゃあライスの姉さんか。
ライスシャワーやセイウンスカイ、カレンチャンは、ライスシャワーの腰にさげた食糧袋がガサゴソと動いている事に気が付いた。
鼠が入り込んのだろうか?
「……鼠さん、かな?」
ライスシャワーはそれで慌てる事もなく、そっと食糧袋の口を開いて鼠を外に出してやろうとした。
「大丈夫、怖くないよー……」
食糧を漁られてもライスシャワーは怒る様子もなく、微笑みを浮かべて袋から出てきた小動物に…………
………………小動物?
セイウンスカイ『ハクメイだコレェー!!!!』(プレイヤー既知の版権キャラの様子)
ライスシャワー『これが……今回の同行NPCさんかな……?』
「ごちそうさん」
小動物改め、食糧袋から出てきた小人はそのようにライスシャワーに語り掛けてきたのであった。