神曰く、この能力は魂に刻まれた永遠に消えることの無い祝福である。
神曰く、この体は常人を遥かに超越する神造の肉体である。
神曰く、この剣は全ての魔を弾く退魔の剣である。
神曰く、この紋章は永久なる不滅の象徴である。
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大抵の場合、人々の寝静まった真夜中に私の本業は始まる。今日もその例に違わず深夜の2時に業務はスタートした。
音を立てずにダクトがむき出しになった狭い廊下を進む。突き当りの扉の向こうに今回のターゲットは居る。
耳を澄ませば複数人の会話が聞こえてきた。
「────魔力を────────すれば────」
「それは────局が────」
分厚い扉越しであるため、私の聴覚をもってしてもはっきりとは聞こえない。
まあいい、仕事に集中しなければ。
ここからはスピードが重要になる。誰かひとりでも取り逃がせば私の仕事は失敗だ。尤もそんな失態は絶対に犯さないが。
頑丈な鉄でできている扉は常人であれば鍵がなければ開けることは不可能だろう。だが常人とは言い難い私にとっては関係がない。
扉までのおよそ10mの距離を一歩で踏み込みそのまま蹴破る、と同時に、20人はいるだろうその集団を視認する。
そこにいたのは明らかに堅気とは思えない、武装した男たち。
彼らがこちらを振り返る時間すら与えずに作業を開始する。
1人目、こちらを振り向かない内に右手を振るい背中から突き刺す。標的の集団が戦慄するのが表情から伝わってくる。まだ誰も声すら出せていない。構わずに突き刺した剣を垂直に振り上げる。絶命を確認。
2人目、地面を蹴って接敵し斜め上から力任せに刃を振り下ろす。
3人目、ようやく事態を把握し、怒号とも絶叫ともとれる叫びを口にしながら拳銃を取り出そうとした奴を蹴る。吹っ飛んで壁の向こう側に消える。バンという音と同時に頭に衝撃が加わる。どこかから撃たれたようだが無視する。どうせ何発撃たれても効きやしない。
そのまま4人目の処理に移る。殺す。5人目、殺す。6人目、7人目、8,9,10……
20と少しを数えたところで敵の殲滅は完了した。薄暗い室内ではあるが、誰かが隠れている気配は無い。
どうやら今回は
「今終わった。今回も異能保持者はいなかったよ、会長」
相手がしゃべる前にそう伝えると不機嫌そうな低い声が還ってきた。
『…そうか、ご苦労。数分後に準備が整う。それまで待機していろ』
「分かった。詳細は帰ったら報告するよ」
簡素な会話を交わし電話を切ってポケットに突っ込む。この仕事にそれ程不満はないが全身が血で染まってしまうことだけはいただけない。帰ったらシャワーを浴びよう。
しばらくしてから、血で染まった部屋の床に魔法陣のような文様が現れた。どうやら迎えが来たようだ。青白く光る陣から吹き上がる光の柱と共に現れたのは、いつもどうりの張り付けたような笑みを浮かべた黒髪長髪の男。
「やあ、遅くなってすまない。待たせてしまったね」
「別にそんなに待ってませんよ。それと今回は収穫無しです」
「ああすでに聞いているよ。残念だが仕方ない。次に期待しよう」
「次の仕事までの間隔は開けてくださいね。血で染まるのは結構不愉快なんです」
ここの所深夜の仕事の回数が多くなっている。もともとメタルギアのような潜入は苦手なのだ。比較的楽とはいえ日中も業務がある上に、今回のように無駄足となった場合には精神的な疲労感がどっと押し寄せてくる。
「それは君のボスに相談したまえ」
「して聞いてくれなかったからあなたに言ってるんです。それにこの仕事はあなたのためのものでしょう」
「長い目で見れば君たちのためでもあるさ。さあ、帰ろうか。シャワーを浴びたいだろう?」
どうやら仕事が楽になる予定はしばらく無さそうだ。
渋々ながらも彼の言葉に従って二人で陣の上に乗る。再び光が噴き出し私たちを包み込んだ。数秒後に光が消え去り、目の前にあるのは死体の転がる部屋、ではなく篝火の焚かれた祭壇から見下ろすいつもの景色。広大な地下にあるこの祭壇の間はいつも真っ暗だ。篝火はあるが、淡い光によってかろうじて周囲を確認できる程度。
「それじゃ、シャワーを浴びたらいつものように会長室に集合だよ。神田君がお待ちかねだ」
「了解です」
彼は一足先に祭壇を下りて間から去っていった。私も彼に続いて部屋をでて、すぐ右にあるシャワー室に入る。
私がいつも血に染まって帰ってくるものだから、見かねた会長が造ってくれたのだ。血でぬれたまま動きまわられてはたまらんと言っていたが、私だってやりたくてやっているわけではない。
人目を憚らずに服を脱いでゴミ箱に捨てる。どうせ私以外シャワー室に入る人など存在しないのだ。裸体を見られる心配をする必要がない。もっとも、見られたとしても大して気にはしないが。
動きやすさを追求した割にはやや意匠に凝っている軍服のようなデザインの仕事服は一度限りの使い捨てだ。なんとなく勿体ない気がするが、血の匂いが僅かでも残っていると不味いので仕方がない。コックを捻って壁に掛けられたシャワーヘッドからお湯を出す。傷一つない幼さの残る体に付いた血を洗い流していく。
いつものことながら、右手に縛り付けられた退魔の剣がすこぶる邪魔だ。今はもう慣れたが転生して間もないころは剣で自分を含めていろんなものを切ってしまってそれはもう大変だった。能力そのものには何度も助けられてきたが、いい加減自由に出し入れくらい出来るようになりたいものだ。
身を清め終わった後は脱衣所に予め用意してあった衣服に袖を通す。こちらも機動性を重視した簡素なデザインであるが、先ほどの軍服モドキに比べるとやや女性的なものではある。肉体が女性とはいえ内面まで完全に女の子になっているわけではないので少し複雑な気分だ。
壁に掛けられた時計を見ると、帰還してからすでに1時間が経過していた。いつもよりも会長を待たせてしまっている。シャワー室を出て小走りで地下の突き当りにあるエレベーターに乗り、最上階のボタンを押した。
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「来たか。いつもより遅かったな。おかげでいつもより長く仮眠を摂れた。」
会長室に入るや否や一対の高級そうなソファの片側に腰をかける会長にそう言われる。深夜だというのに未だにスーツに身を包んでいる彼は腕を組んだまま私に視線だけよこす。どうやら嫌味を言われているらしい。
「血の匂いが中々落ちなかったんだよ。ていうか寝たいなら報告は日が昇ってからでもいいんじゃない?今回は収穫もなかったんだし」
「そうもいかん。日中は誰が聞いているか分からんからな。万が一でも漏らす訳にはいかない。」
言葉の節々から棘を感じる。日中に激務をこなしながらもこんな真夜中まで起きていなければならない彼の苛立ちも理解できるが、こっちだって今しがた血生臭い仕事をこなしてきたのだ。風呂が長い程度で苛立ちをぶつけないでもらいたい。
「まあまあ、二人とも寝不足で苛立つのは分かるが落ち着こうじゃないか。余計に疲れるだけだぜ?それに神田君、女の子のシャワーの時間くらい配慮があってもいいじゃないか」
もう片方のソファに寝そべり足を組んでいる男が私を擁護する。軽薄そうな笑顔が崩れるところを一度も見たことがないが、他に表情を持っていないのだろうか。
会長は冷たい視線を彼に移す。
「
言葉から冷気を感じるほどの圧が言葉から伝わってくる。不発ばかりで遅々として進まない計画に相当腹を据えかねているらしい。
「私には無駄にできる時間は存在しない。お前と違ってな。計画は必ず成功させろ。そのためにここまで惜しみない協力をしているんだ」
剣呑な空気が室内に漂うが、彼は気にした素振りをまるで見せない。余裕すら感じさせる笑みが崩れることはない。
「もちろんだよ。すでに計画の核は確保している。あとは満ちるのを待つだけだ。時間の問題だよ」
重さなど微塵も感じない羽のように軽い口調だが、その言葉には成功すると信じられるだけの力強さがあった。会長も溜飲を下したのか、あるいはこれ以上言っても無駄だと感じたのか、彼から視線を外し私にやり仕事の報告をやるように促してくる。
私はこの計画が成功してもしなくてもどちらでもいいと考えている。会長には恩があるし雇い主でもあるため仕事は真面目にこなすが、ぶっちゃけて言えば会長を守ることが出来たらそれでいい。会長も私に今以上のことを要求してこないので利用出来ればいいくらいに考えているのだろう。
今回の報告は収穫がなかったのですぐに終わった。夜明けまであと2時間ぐらいだろうか。少しは彼も睡眠時間を確保できそうだ。
「さて、それじゃあお暇させてもらうとしよう。また次の仕事のときに連絡してくれ」
そう言い残し想兼は部屋を去っていった。祭壇からまたどこかにワープするのだろう。部屋に残された私と会長。
「…始業時間までまだ時間がある。式守、お前に睡眠は必要ないだろうが、休憩は欲しいだろう。休んでいいぞ」
会長に言われずとも、もとからそのつもりだ。
「じゃあまた8時30にここにくるよ。会長は?」
「俺は仮眠をとってから仕事を始める。遅刻するなよ」
「しないよ、ここに住んでるんだし。したことないでしょ」
会長は返事をせずにソファに横になってしまった。既に入眠しているようだ。この世界でトップクラスの金持ちのくせにこんなふうに深夜まで起きていなければならない彼に少し同情するが、もともと彼自身の目的のためにやっているのだから仕方がない。それに睡眠が必要とは言え、彼も転生者だ。普通の人よりはタフにできているだろう。
私は彼を起こさないようにそっと部屋を後にし、長い廊下を歩く。目的地は階下にある私室だ。
私が転生を果たしてから既に20年が経過した。計画が発動すればこの現代日本のような異世界とはお別れすることになる。だが特に何の感慨も抱けない。きっと祝福の刻まれた魂がそうさせるのだろう。
私は会長の剣であり盾だ。複雑なことを考える必要はない。右腕の剣を振ることが出来ればそれでいい。それが転生者として私が彼に与えてもらった役割なのだから。
性別が変わったことだけは未だに慣れることなないが。