星野家は今日も平和   作:ころーすけ

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書いてしまった。アイに幸せになってほしいだけなんです。


ありふれた、ある母の悩み

 

 

 

なんでこーなっちゃうかなぁ…

 

 

日曜日の夕方。

自宅への送りのハイヤーの中でぼんやりと、最近の悩みを考える。

ミヤコさんは仕事が残ってるのか、隣で手帳とスマホを見比べながら、誰かと連絡を取っているようだ。

 

今日はドラマの撮影で、意外と時間が押してしまい晩ごはんはあまり凝ったものは作れそうにない。

冷蔵庫の中身を思い出しながら悩み事を誤魔化そうとして、やっぱり考えてしまう。

 

車は都内を進む。窓からの景色はオフィス街で、空はあまり見えない。

 

 

私の子どもたち。とても大事で、愛しい子どもたち。

 

愛久愛海―アクアマリン―

瑠美衣―ルビー―

 

私の宝物。

 

あの子達は来年から高校生になる。

私が母親になった年齢。

親子なので当然だけど、どんどん似てきている。

アクアはあいつに。ルビーは私に。

悩みは尽きない。

 

特にアクアだ。

 

アクアは小学生の間は、子役としてテレビに出たり映画に出たりと忙しい生活を送っていた。

中学に上がってからは、成長期に入った関係で映像系の仕事を減らし、私が昔お世話になった劇団の稽古に参加させてもらったり、ファッション誌のモデルなどで活躍している。

 

産まれたときは大変だったけど、のんびりした性格の素直ないい子に育ってくれた。

 

あの子は私に似て、ルックスがいい。

そしてあいつに似て、やたらモテる。

 

考えてみれば、バツグンの容姿で芸能人、そのうえ頭も良くて運動神経もいい。

芸術センスは天才的。私やルビーを相手にしてるから女性の扱いもうまい。

のんびりした性格も神秘的な雰囲気といえる。

 

そりゃもてるわ。

 

本人に自覚がないのがまたよくない。

ルビーから聞いた話だと、周りからは仕事であまり登校してこないし、雰囲気も相まってなんかもう神聖視されていて、逆に話しかけられていなかったそうだ。

それがちょっとしたきっかけで同級生たちとの距離が近づいて、積極的にコミュニケーションをとるようになった。

 

そうなったらもうあっという間だ。

 

今まで学校関係で仲のいい友達がいなかった反動なのか毎日嬉しそうで、母親としてそんな息子を見るのはなんとも心温まる気持ちだった。

 

ただあの子は、普通の友達関係を築くにはちょっと特殊すぎたのだ。

 

同級生の誰よりも飛び抜けて顔面偏差値の高い男子が、優しく微笑みかけながら、同級生の誰よりも自分に紳士的に接してくる。

これで勘違いするなというのは思春期の女の子には酷な話だと思う。

アクアは無自覚に、しかし確実に修羅場の種をいくつもまいていた。

そんなそこら中に大量の地雷が埋まっているような状況にも関わらず、全てギリギリで回避して、しかも最終的には女のコ側の勘違いで話をまとめて着陸させたのは、ルビーの助けがあったとはいえ末恐ろしいとしかいいようがない。

なんというか、血を感じる。

 

マジであの子、あいつみたいに刺されたりしないかな…。

 

アクアは高校入学のタイミングで本格的に映像系の仕事に復帰する予定だ。

今も単発の映画やCMの仕事はこなしているが、勘を鈍らせない為の意味合いが強い。

これが何を意味するのか。

 

芸能界で修羅場を量産しかねないということ。

 

やばいって。ホント。

もう何人か、私が知ってる限り危ない感じの子いるし。

 

アクア自身は役者―というか芸能界―の仕事が楽しくて仕方ないらしい。

 

「作品に参加している全員が協力して作り上げていく過程が、さまざまな才能を引き出し合い、さらなる高みに届く瞬間がたまらなく輝いて見える。」

 

幸せそうに笑いながら、この間の映画の撮影について語っていた。

アクアは、男女問わず才能がありそれを磨いて光り輝くように努力をしている人に、とても…懐く。

そう。懐くのだ。

真っ直ぐに人のことを褒めて、その人の才覚を伸ばすためならいくらでも協力しようとする。

アクア自身、芸術方面に関して正しく天才と言える。

演技はもちろん、楽器演奏だって絵画だって映像作品だって得意だ。

そんなアクアから手放しで称賛されるのだ。

さらに言えば、自分のために時間も手間も惜しまず割いてくれる。

出来上がったものを自分のことのように一緒に喜んでくれるイケメンに、悪い印象を抱く人が果たして芸能界にいるだろうか。

 

そりゃいるわけないよね。

 

このままだとアクアの未来は、かなりの確率で地雷源を突き進むことになる。

 

お母さんは今から心配でちょっと胃が痛い。

 

 

 

そしてルビー。

 

なんなら悩みの厄介さ度合いで言ったらルビーのほうが問題かもしれない。

 

「ママみたいなアイドルになる!」

 

そういって小学生に上がる前からダンスや歌のパフォーマンスを熱心に稽古しているかわいい私の娘。

最初はちょっとなんというか、こう…味のある歌声だったけど、度重なるレッスンによりだいぶ改善されている。

 

全力でアイドルを楽しむ、明るくて前向きで一直線の美少女。

我が娘ながらその熱量と、アイドルとしての才能はとても高い。

なんなら私より高いかもしれない。

あの子は嘘をつかないから。

真っすぐの愛を観客と共有できる、無敵のアイドルになれる。

今はデビューに向けてひたすら稽古をしているが、モデルや色々な媒体の広告などで、メディアへの露出自体はしている。

このへんのマーケティングのバランス感覚は社長を信じるほかない。

あの人なら、自社のタレントをなんとしても守りきるだろうと信頼できるし。

 

ルビーは学校でも明るく、行事などでは中心に立って動くクラスの人気者だ。

イベントごとが好きで、小学校も中学校も楽しそうに通っていた。

普通の日常を全力で楽しむその姿は、見ているだけで幸せになる。

 

ただ、私を悩ませるのはアイドルを目指すその動機だ。

 

愛することはいい。とても。ほんとに。

年が上がるにつれて、どんどんキラキラ光るようなやる気に溢れているルビー。

その理由が恋愛がらみだということはすぐわかった。

我が子のことは毎日見てるし、愛に関しては私は誰にも負けないくらいプロだ。

愛のためにアイドルを目指すなんてとても素敵だと本当に思った。

それくらいルビーは、輝くようにかわいいから。

母親として応援しようとも思った。

 

問題なのは。

そう。問題なのはほんとに一点だけ。

 

なんで、よりによって、私の担当医だったゴローセンセにべた惚れなのよ。

 

自分の事を取り上げた医者と結婚したいとかいう、そこそこハイカロリーな話をさらっと聞かされるとは思わなかった。

 

たしかに、昔からセンセにはすごい懐いてるなぁ、と思ってはいた。

 

「さすがゴローセンセはもてるねぇ、ルビーベッタリで離れないよ!」

 

そんなことしょっちゅうだった。

退院してからも何かと面倒を見てくれた、優しくて頼りになる、ちょっとワケアリのセンセ。

たしかに仕事柄なのか聞き上手で、いくつになっても若々しく、顔は整ってるし素敵な人なんだけど……年齢差を考えてほしい。

なんなら私より余裕で年上だ。

ルビーは16歳なったら結婚すると言って憚らない。

頼むからよそで言わないで。

それに、その頃にはセンセは50代目前だし。

そもそもその時までにセンセが結婚したりする可能性もあるよ!?素敵な人だしあり得るからね!?

 

そう言っても全く聞く耳を持たず、本当にプロポーズしかねない勢いを感じた私はどうにかこうにか、アイドル卒業してからにしなさいと、自分は妊娠出産をその年で経験してるクセに正論なのかなんなのかよくわからない説得をする羽目になった。

 

なんでこの子はデビューする前から引退を考えてるんだろう……?

 

ただ、ルビーは私によく似てるから。

きっとセンセと結婚するべく頑張るんだろうなぁ。

私がこの子達を産んだように。

私が愛を、家族を手に入れたかったように。

ルビーは愛を求めて、ゴローセンセと結婚するんだろう。

きっと反対してもその熱は止められない。

 

社長も―斉藤社長も―、妊娠した私を、こんな気持ちで見守っていたんだろうか。

今更ながら悪いことしたなぁ。ちゃんと感謝しとこう。

ゴローセンセにまともな倫理観が備わっていることに期待しつつも、年上の義息子ができる可能性を覚悟しないといけない気がして、やっぱりちょっと胃がいたい。

 

 

車は都内を進む。窓からの景色はいつの間にかオフィス街を抜けていて、雰囲気が変わっていた。

 

 

そろそろ家につく。

こんな悩みは、B小町時代の仲間たちにも言えやしない。

彼女たちに相談できるはずもない、ある意味でどうしょうもないコトはもう置いておこう。

 

悩みのせいで中断していた、晩ごはんの献立を考えなくちゃ。

確か玉ねぎはあったはず。トマトと人参。野菜は結構揃ってるから、なんでも出来そう。

ひき肉が残っているから、キーマカレーとかいいかもしれない。

ちょっと時間がかかりそうだけどそれくらい待ってもらおう。

ピーマンも入れてやれ。細かく刻めばアクアだって食べられる。

それくらいなら母の愛として受け入れてくれるはずだ。

 

車は都内をすすむ。

 

今日のメインは決まった。

あとはサラダとスープで完璧だ。

 

ちょうど家についたようだ。

マンション地下の駐車場に入っていく。

 

運転手さんにお礼を言って、ミヤコさんに挨拶をして、二、三言話してから車を降りる。

 

やっぱりピーマンは可哀想かな?

なんて考えながら、子どもたちのことを思い出すと、自然と笑顔になっていく。

そのことを自覚しながら、私は住んでいる階直通のエレベーターに乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこにでもあるような光景。

 

今日の食事の献立を考え、子どもたちの未来に期待と不安で心を悩ませる母親。

 

そんなごくありふれた日常を、少し離れたところから、烏だけが見ていた。

 

 

 





次話は、どうしてこうなったのかの説明回(予定)
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