嫌いな言葉は繁忙期です。
のんびり書いてきますねー。
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鏑木勝也は仕事を家に持ち帰る主義ではないが、今回はしかたがなかった。
今抱えているネットドラマでちょっとした問題が起こり、使わない予定だった案を持ち出すことになったのだ。
(企画書と資料、オファーのメールはこれでいいか。)
制作側の意向を大きく汲んで形にした企画だが、失敗はわかりきっている。
たが最低限のクオリティはどうにか維持できるだろう。
有馬かなを抑えられたのは大きい。
彼女であれば客寄せの役割は十分果たせるし、責任感の強さから作品の品質向上にも貢献してくれる。
しかし、問題はその責任感の強さだった。
今日行われた顔合わせ兼台本の読み合わせは、確かに酷い内容だった。
棒読みのほうがまだマシだったと鏑木も思うほどに。
それを受けて、有馬かなから泣きが入ったのだ。
自分では手に負えない、なんとかしてくれと。
そうは言われても予算は限られているし打てる手はあまりない。
しかし、これで有馬かなに貸しが作れるならいいかと思い、結果は約束できないが対応すると答えてしまった。
初期案で考えていたそれは予算の都合もさることながら、なによりもあの男に借りを作ることを嫌い却下にした案だ。
時間のない中で、有馬かなへのポーズの為にできることはこれくらいしかなかった。
急のオファーで報酬もあまり出せない。それでも鏑木に借りを作れることはプラスだろう。
それを勘定にいれても良くて五分五分。普通に考えて四分六分で断られる。
鏑木としてはどちらでもよかった。
断られても格好はつく。
受けられても貸しが作れる。しかも客寄せが一人増える。
どちらにしてもデメリットは薄く、メリットが若干勝ると鏑木は踏んでいた。
(数年前までテレビを荒らし回った子役コンビがこのドラマで揃うかもしれないのか……。贅沢なものだ。)
もちろんメイン級の扱いはできない。あくまで端役でだが、話題は作れるだろう。
片や旬を過ぎた落ち目の元天才子役。
片や着々と実力を付け評価を静かに上げている若き俊英。
実力的に二人の差は殆ど無いはずだ。少なくとも子役の頃は有馬かなのほうが秀でていた印象がある。
今の二人の違いは所属している事務所の能力の違いそのままだ。
有馬かなの事務所は、有馬かなの名前で稼ぐことに固執した。
あの男―斉藤壱護―はそれを選ばず、子役から俳優へ転身させる為にあえて一線から引かせた。
有馬かなは才能の開花が早すぎた。
彼女の全力の演技に応えられる同世代など、一人しかいなかった。
そしてその唯一の相方は一線から離れた。
それは凋落の始まりだ。他の子役は誰一人有馬かなについていけない。
製作側からしたら使いにくいだけの子役。その後の迷走は気の毒に思う。
周りの成長を待つ間に、彼女は自分の最大の武器を殺し協調性という枷を自らに課した。
今の有馬かなは作品の質を担保してくれるし、一定数の視聴者を引っ張ってくれる。
さらにギャラは控え目と使いやすい―便利な―役者だ。
あの頃の輝くような演技はもう見られないと思っていたが、このオファーが受けられればあるいは―。
(しかし…有馬かなも、天才では居続けられなかったか……。残念だな…。)
頭を切り替える為に煙草に火をつける。明日にも返事はくるだろう。
受けられたとしても、予算はギリギリだが鏑木の権限内で収まる。稟議にかける必要はない。
断られても、一応の体裁は保てる。
頭の中で算盤を弾きながら、紫煙を燻らす。
警戒するべきは斉藤壱護。あの男に借りを作るときは慎重にならなければ。
苺プロはやはりあなどれない。
鏑木に『この業界で生き残るには?』と質問した場合、おそらく即答されるだろう。
運や人脈などのコネクションは前提として、鏑木の中に明確な答えがあるからだ。
それは『天才であり続けること』と『達人になること』。
突き詰めればこの二つに尽きると鏑木は思っている。
前者は数人しか知らない。それほどの才能などそうはいない。
この業界に長くいる者はほぼ後者だ。
鏑木自身も自分のことを後者だと思っている。
今回のように成功が難しい企画をプロデュースするにあたっても、鏑木は自身の人脈を使い達人と呼ぶに相応しい撮影スタッフを組み上げることができる。
数多の現場を知り、幾多の困難を乗り越えてきたプロの職人たちだ。
あと必要なのは才能のある演者。
ここで言う才能はわかりやすいものでいい。
ルックスだ。
外見の良さのみでこの業界に入れるなど、充分天才といえる。
経験のない、ルックスという才能を持った若い天才を鏑木は達人たちを使って世に出していく。
そのうちの何人かでも業界に残れば充分元が取れる。
彼らはいずれ達人として鏑木の力になるだろう。
ルックスという才能はわかりやすい。わかりやすいゆえに絶えず新しい天才が生まれている。
そうしてまた達人を使って世に輩出していく。
これが失敗率の低い作品の作り方。
大成功は必要ない。失敗しないこと、失敗しても損害が少ないことに意味があるのだ。
鏑木は外見至上主義と揶揄されようとこのやり方を変えることはない。
知っているのだ。
達人は用意できる。
天才は時間とともに代謝される。
時間は凡人を達人にしてくれる。
だが、
時間は天才を達人にしてしまう。
だから常にわかりやすい才能を求める。達人たちで待ち構えるように。
*
「お風呂空いたよー」
アイはまだ乾いていない髪をバスタオルで包むように拭きながらリビングに入った。
「はーい」
「母さん、ちゃんと乾かさないと痛むよ」
アクアの忠告を無視するようにソファに座る二人の方へ向かう。
タブレットで最愛の子どもたちが何かを見ているようだ。
「なに見てるのー?」
「これこれ!すごいんだよ!上手なの!」
「もー…仕方ないなぁ」
二人の間に入り込み画面を覗き込むと、金髪に染めた髪に不思議な形のカチューシャをした女の子が音楽に合わせてダンスをしている動画だった。
その曲はかつてアイが所属していたB小町のヒット曲だ。
「へぇ…上手。すごいねこの子。完璧にコピーできてる。…練習してるんだなぁ」
「でしょ?話も面白いし、素人レベルじゃ絶対ないよね!すごい伸びてる配信者でショートも上げてるんだよ!」
ほらこれ!と次の動画を見せてくる。
アクアはドライヤーを取りに行ったようだ。
「ん?現役女子高生?」
名前の後の@以下が気になったのかアイがジッと動画を見つめている。
「ほら、母さんこっち。乾かすから。おいで」
「はーい。…アクアはあの動画の子知ってる?」
「もちろん。なんならルビーより先に俺が見つけた。世代じゃないのにB小町の曲をあそこまで踊れるなんて、よっぽどのファンだよね」
「お兄ちゃん古参マウントうざーい」
「うるさいな」
ドライヤーのスイッチを入れながら母の髪を優しく梳いているアクアは、アイの呟きを聞き逃していた。
「…世代じゃない……か。なるほど。あの子すごい上手」
「…ん?母さんごめん、なにか言った?」
「べっつにー!私もあの子のファンになりそうって言ったの!上手だしね!」
息子に髪を乾かしてもらいながら、穏やかな時間が流れていく。夜、後は眠るだけの幸せな時間だ。
ドライヤーの音と、アップテンポな曲に合わせて踊る動画の音だけがリビングに流れていた。
不意にルビーが声を上げた。
「あ、そうだ!せんせ、来週こっち来るって。学会があるとかで、二日間だけだけど食事でもーって。時間あるかなぁ…?」
「お、いいねー。社長に言っとこっか。せっかくだし皆でご飯食べたいしね!」
この家族―というか苺プロ―の最大の共犯者であり、恩人でもある医者は滅多に東京に来ない。
家族ぐるみの付き合いがあるあの医者は、たまに東京に訪れる時は必ず連絡を入れてきて星野家総出の歓待を受けるのが通例になっている。
「吾郎先生…久々に会うな。しっかりもてなさないと」
『ねー!』
扱いは最早VIPのそれだ。
「…はい、おしまい。キレイな髪してるんだから、ちゃんと手入れしないと」
「アクアがやってくれるでしょ?助かるなー」
「私も私も!お風呂上がったら乾かしてー」
「まったく二人共。やるけどさ。ルビー先風呂入っていいよ。俺は……あれ?メール来てる。社長からだ」
ドライヤーの音で気が付かなかったが着信があったようだ。
『明日、時間があるときでいいから事務所に顔を出してくれ』
メールの内容は簡単だが要するに、直接会って話す必要がある、それなりに急ぎの用件があるということだ。
「社長?なんて?」
「わからん。たぶん仕事かな?明日事務所に顔出さなきゃ。午後にはいけるかな?」
「あんま遅くならないでよー。明日は日曜日!エスニック料理を作ります!」
「わかってるよ、ついでに吾郎先生のことも伝えとく。つかエスニック?」
「私お風呂入ってくるー」
「いってらっしゃーい」
「え、ねぇエスニック?またなんかの影響?」
「この子ホントに上手だよねぇ」
「……まぁ楽しみにしとくよ。」
「えへへ」
母の笑顔はとても年相応には見えなかった。
かっこいいおじさんが好きです。
全然できないけど。
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