アイ生存で性格が変わる人筆頭は多分この人。
まとまったんで置きときますね。なかなか話が進まねぇ
感想、お気に入り登録感謝です。ぼちぼち書いていきます。
「今日甘の実写化?」
「そうだ。急な話だが条件は悪くない。ドラマの出来は酷そうだがな」
アクアは昨晩呼び出された社長に会うために事務所を訪れていた。
午前中はレッスン室で稽古に付き合っていたため、時刻は午後一時前だ。
「低予算のネットドラマだ。鏑木のヤツはたまにこういう仕事するんだよなぁ」
アクアは斉藤の話を聞きながら、渡された企画書に目を通していた。
数年前に完結した少女漫画の実写化。
『今日は甘口で』はアクア自身も読んだことがある、王道とも言える名作だ。
斉藤の言うように、かなり急なオファーで撮影まで日数もない。
アクアは撮影初日から参加する予定だ。
つまり、出演者の顔合わせなどは済んでいるということだ。
もっともアクアの役はセリフもほぼないので、現場で動きを確認すれば問題はないだろう。
出演者にはかつて子役時代に多くの作品で共演した有馬かなが出演しており、アクアは少し懐かしく感じた。
最後に会ったのはある劇団のワークショップに誘った時なので、もう二年ほど前だ。
知った顔は一人しかいない劇団だったので、うまく馴染めるか不安だった。
ダメ元で誘ったら来てくれて助かった記憶がある。
いい刺激になったし、何より楽しかったいい思い出だ。
そしてその有馬の相手役は―
「鏑木プロデューサーってどんな人なんだ?母さんから名前だけは聞いたことあるような…」
「貸し借りにうるさい拝金主義者。その上外見至上主義で捻くれモンだ」
なかなかの評価を淡々と即答する。
悪し様に言う割には嫌悪感は感じない。つまり。
「なるほど。優秀な人なんだ」
「信用してもいい程度にはな」
斉藤の人を見る目はアクアが知る中で一番だ。
併せて送られてきた台本に目を通しながらアクアは首を捻っていた。
「ふぅーん。でもなんでほとんどセリフもないような役をオファーするんだろ。しかもこれ、原作にはいないキャラクターだ」
「まぁ想像つくが、書いてある通り話題作りが一番だろ」
「それはわかるんだけど、こんな直前になって?トラブル?」
「そりゃトラブルはトラブルだろうぜ。…企画書は見ただろ?どう思った?」
先程まで見ていた企画書を思い出しながら再び流し読みをする。
違和感は特にないように思ったが、トラブルに急に対応した割には用意が良すぎる印象だ。
そこが違和感といえば違和感だ。
「いや、普通の企画書でしょ。俺にオファーを出す理由も筋が通ってるし、有馬も出演してるから効果はある」
「そうだな。有馬かなとお前がコンビで出演すれば話題になる。それだけで見る客だって一定数いるだろうな」
「うん。それはわかるんだ。だからなんでここまで揃ってるのに撮影が始まる直前にオファーしたのかわかんないなって。鏑木プロデューサーってデキる人なんだろ?」
「なるほど…鏑木Pのことを知らないなら当然の疑問か。お前が言う通り、なんかトラブルがおこったんだろ。対応の仕方を考えるとトラブルの内容は想像つくがな」
言われて手元の資料を眺める。
企画の要約は若手を起用してチャンスを与えること、完結済みマンガの実写化なので権利関係の費用は抑えられること。
そこに有馬かなと星野アクアを添えることで集客を狙う。
アクアが端役も端役なのは仕方がない。
近年はテレビドラマには出演していないが、モデルや映画、CMの仕事などにうまく露出することで世間では売り出し中の俳優として認知されている。
ネームバリューと実力的なことを考えるとメインに近い役の場合、企画のコンセプト自体成り立たなくなってしまうからだ。
そこに違和感はない。
やはり出演依頼のタイミングだけが不可解だ。
「……うーん。上で揉めたとか?脚本はほとんど原作のハイライトだけど、企画書も出演理由も一応ちゃんとしてるし。話だけ急だ。上からの無茶な口出しになんとか対応した?」
ありそうなのは上からの無茶振りかな?とアクアは考える。
そうであればある意味無茶なオファーも納得は行く。腑に落ちないところはあるが。
「たぶん逆だな。演者でなにかあった」
このタイミングで、上層部でなく演者間でトラブルがあるとしたら一つしかない。
「え?…あ、顔合わせか」
「そういうこった。違和感のない出演依頼が今になって来ることが違和感だろ?
企画が動き出してからなんかあったんだ。上が拗れるならこの企画はそもそも通らねぇよ。企画書も脚本も無理はあるが形にはなってる。
その上での失敗は織り込み済みだ」
なるほどとアクアは思った。
であれば背景は想像できる。
トラブルに対応するためにアクアを起用したということは想像通りだったが、ドタキャンや上からの無茶振りというものではなく、演者間のいざこざの解決の為のオファーだったということだ。
しかしその割には用意がいい。
「………もしかして…俺は最初は呼ばれる予定だったけど変更したのか?」
あらかじめ準備しているような印象を受ける急なオファーという矛盾を解決する状況はいくらもない。
「…お前、やっぱ勘がいいな。たぶんその通りだ。ボツにしてた案を再採用した。
あとは鏑木Pの性格を知ってれば検討がつく」
「貸し借りにうるさい拝金主義者で捻くれ者?」
「そうだ。お前に無理なオファーを出すことで誰かに貸しが作れるってことだ。
演者の中でその価値があるのは一人しかいねぇ」
「…有馬かな……」
演者間のトラブルがあるとして、有馬かなからの問題だとしたらこの対応の仕方もわかる。
動くこと自体に、鏑木プロデューサーにメリットがあるということだ。
だとしても、新たな疑問が湧く。
出会った頃ならともかく、今の有馬かなが他の出演者と揉める理由が分からない。
有馬かなの相手役を考えると、役者として経験不足なのは確かだが―
「まず間違いなくな。ウチは別に今は鏑木Pに借りもないからこの依頼自体は断れる。実際お前はそろそろ受験だし、理由なんかいくらでもある」
「じゃあ受けないのか?」
「受けないんならお前をここに呼ばねぇよ。断られやすいようなオファーを鏑木Pがしてきたってことが重要だ」
確かに話が急だというだけで断れるような出演依頼だ。
アクアは今年受験もある。
斉藤が言うように借りを返す必要もないなら、受ける必要はないオファーだろう。
「あ、プロデューサーにとってはどっちでもいいのか」
先程言っていた貸し借りにうるさい性格だということからわかる。
断られても構わない、という前提ならいくつか納得できる。
頷きながら斉藤は悪い顔をしていた。
「オファーを出すこと自体が有馬かなへの貸しなんだろうな。
鏑木P目線で話を整理するなら、この話をウチが受ければ、ドラマは集客が見込めるし有馬かなに貸しが作れる。
ウチに借りを作ることにはなるがな。
断っても、ドラマは予定通り撮ればいい。対応に動いた事自体有馬かなへの貸しになる」
「なるほど…」
「しかもボツ案を引っ張り出すだけで済む。コスパがいいというか、小狡いというか…。
らしいと言えばらしいが、ちょっと鏑木Pは欲張ったな。
有馬かなへの貸しのほうがウチへの借りより勝ると踏んだ」
悪い顔がさらに悪くなる。
「少し甘いな」
こういう時の斉藤はまず間違えないことをアクアは知っている。
「それで話を受けて貸しを作ることにしたってわけか」
「ああ。お前を使って高く貸し付ける。アイツは借りは必ず返すからな」
「俺はどうすればいい?」
「普通に仕事しろ。お前で貸しを作ることが重要だ。
具体的なトラブルまではわからんが、顔合わせで有馬かな側からのトラブルだ。大方主演への不満だろう」
残る疑問はそこだ。周りと作品を作り上げることを優先する有馬かなが不満を言うほど酷いということなのか?
「うーん…。確かに演技はほとんど経験ないって言ってたけど、そんな酷くなるかなぁ」
「あん?なんだ、知り合いが出てんのか?」
「ああ。この主演の鳴嶋メルト。何度かモデルの現場で一緒になった。友達なんだ」
「なるほどなぁ。どんなやつだ?」
「なんとなくで仕事してる。やる気になるまで時間がかかるけどノッてくれば結構いい。あと写真写りが抜群」
「よくいる現代っ子か。
…まあ実際のとこは見てみないとわからん。
もしかしたらこんな話はただの杞憂で、ただ話題作りのために急に呼んだのかもしれねぇしな」
「うーん……。まぁいいか。有馬との共演は久々だし、楽しむことにするよ。同じシーンに映ることはないみたいだけど」
台本通りなら、有馬かなとの掛け合いはない。
「お前はそれでいい。ただ何かあったら必ず電話しろ」
「いつも通り?」
「いつもよりだ。直接関係なくても、お前の判断で必要だと思ったらどんなことでもだ」
「わかったよ。緊急の方でいい?」
「ああ。そっちならいつでも出られる。あと出来るだけ最後まで現場にいろ」
斉藤は今日一番の悪い顔をした。
「ウチは高く付くぞ。鏑木」
*
有馬かなの全盛期はいつかと問われればそれは子役時代、しかも中学に入るまでだ。
自分には演技の才能が有り、応えてくれる相棒がいた。
二人コンビで出演する作品はすべてヒットした。
二人ならなんでも出来ると思っていたし、実際結果はついて回っていた。
陰りが見え始めたのはアクアが高学年になった頃からだった。
目に見えてアクアが仕事を絞ってきた。
コンビの仕事が減り、かなは他の子役と仕事をすることが増えた。そして知ったのだ。
やはりアクアは自分の相棒だったのだと。
アクアはかなを輝かせることに力を傾けていたのだと。
中学に入る頃には仕事はめっきり減っていた。
役者として生きることに自信を無くしかけていた。
仕事の量に比例するように、両親は不仲になっていく。
そんな時だ。アクアから劇団ララライのワークショップに誘われたのは。
役に立つかもわからない稽古の毎日のなか、かなはかつての相棒からの誘いに縋るように乗った。
会いたくないヤツもいたが、一流と言われる役者たちとの日々は、かつてのかなにとって救われるような日々だった。
それからだ。有馬かなは作品全体のクオリティを上げるために、全力を尽くす役者になった。
周りに合わせて自分のレベルを下げることなく、アクアのように共演者を光らせる芝居を目指すようになった。
あの日誘いに乗らなければ、かなは役者を続けられなかったかも知れない。
それほどアクアと二人で仕事をしていた過去は、輝かしいものになってしまっていた。
撮影現場で一人、有馬かなは憂鬱だった。
久々に来た主演級の仕事だった。
少女マンガの実写化というある意味危険なドラマだったが、気合を入れて顔合わせに臨んだ。
結果は……寒気が走るほどだったが。
このままではやりたい芝居はまずできない。
しかも主演には自分が出来ていないという自覚もあるかあやしい。
思わず鏑木に助けを求めてしまったが、無茶を言ったにも関わらず対応してくれるという。
ありがたいが大きな借りになってしまった。
だがその鏑木の取った対応はかなの予想を超えたものだった。
(まさかアクアを出演させるなんて……)
二日前に届いた最新の台本にはキャストが一人追加されていた。
星野アクア
かつて子役同士であらゆる作品で活躍していた相棒の名前がハッキリと印字されていた。
事前に鏑木から、アクアがキャストに参加することは聞かされていた。聞かされてはいたが信じられなかった。
届いた台本は何度見ても変わらない。
(私のせいだ……こんな作品に巻き込んじゃった……)
有馬かなは責任を感じていた。お世辞にもいい作品とは言えないだろう。
原作を大幅に改変しているし、オリジナルのキャラクターも追加されている。
そこまでは理解できるが、役者陣はまともな演技の経験がある者はかなしか―今はアクアもだが―いない。
これで芝居を成立させるのは難しいだろう。
そんな現場に、自分がアクアを呼んでしまった。
ため息を一つ。
(……まずはアクアと話さなくちゃ。この現場の事情を説明して、協力して作品を成立させないと……!)
かなは責任感が強い。
というよりも役者としての自分の在り方を、作品を一段上げる装置として定義している。
かつての、アクアと共演していた頃の輝きは今のかなには必要なくなってしまった。
かなにその自覚はあるが、なかなかアクアのようにはできない。
(…あ、居た!ホントに出演するんだ……アクア…)
撮影が始まる前のざわめきの中、アクアの姿を見つけた。
声をかけようと近づいて見ると、誰かに話しかけているところだった。
その相手は―
「え!?ちょっとアクア?!!」
思わず声を上げた。
アクアはかなの相手役の鳴嶋メルトに話しかけ―
その頭にチョップをかましていた。
かっこいいおじさんの難しさよ。会話って難しい。
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マイペースに書いてきますねー