IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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23.中心になる2人目、震源地の2人目 ①

食堂に着くと、鈴がいた。

「おはよう、シズ」

「おはよう。……?」

 なんだろうか。

(なんか変?)

 見た目は変わらない、いつもの彼女だ。

 だが何か違う。センサー類を試してみても変化は見て取れない。

 まあいいか、と券売機に。朝は大事なのだ。特にここ数日。

「アンタは何にする?」

「悩み中」

 券売機を前に考え込む。後ろが(つか)えるからあまり時間はない。

 ここ数日はおにぎりメインだった。箸を持てばシャーペンのように握りつぶす恐れがあったから。

 今朝はグレイ・ラビットを制御して初の食事となる。つまり箸が使える。自由だ。

「奢るわよ」

 意外な一言。

「いいの!?」

「いいから、早く選ぶ」

 言うが早いか鈴は既に硬貨を投入している。その手に挟まっている食券を見て静穂は、

「じゃあラーメン!」

 同じものを宣言した。

「大盛りね?」

 いや奢ってもらってそれはさすがに。

「ゴメンもう押した」

「早!?」

 と言った次には、

「おばちゃんラーメン二ついっこ大盛りね!」

 鈴は注文まで済ませてしまった。

 ……トレーを持って席につく。

(やっぱりおかしい?)

「何よ?」

 訝しんでいると逆に訝しまれた。

 聞く事にする。

「何かあった? いい事とか」

「分かる?」

 あたりだった。後は原因だ。

「一つはアンタよ」

「わたし?」

 振り出し、むしろマイナススタート。

「――アンタがそのつもりならいいわ。今回あたしは部外者っぽいし」

 だけど、と前置きして、

「次は遠慮なく呼びなさいよ?」

 そのまま鈴は麺を啜り始めた。

(なんでわたし?)

 疑問は尽きず、静穂もただ啜る。

 

 

 結局、それ以上踏み込む事も出来ず教室前で別れた。

 いい事があって、数は二つ以上。一つは自分。

(なにかしたっけ?)

 鈴関連での覚えはない。というか自分の事で精一杯だった。他者との接触も極力避けていた。

 その間に何かしたのか。やった事といえば握り潰したり踏み抜いたり死んだり改めて入学したり。

 分からないまま教室に入る。するりと一夏が向かってきた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」手頃な挨拶のあと彼は切り出した。「なあ、静穂はもうISスーツ決めたのか?」

 ISスーツ? と聞き返すより早く、周囲の頭が急降下した。

(え、何!?)

「いやさ、そろそろ授業でも本格的にISを扱うからって理由でオーダーメイドの受付をやるらしいんだけどな、俺はもう自分のがあるからって言ったら皆が今度は静穂を話題に出してさ」

「なんでわたし?」また何故。

「皆は静穂にもおしゃれしてほしいんだよ。ISスーツもブランドがあるらしいし」

 次には一夏の頭が下にずれた。

「お前はもう少し言葉を選べ!」

「箒ちゃん!?」

 後ろから殴りつけるのは反則だと思う。ガードのガの字もなく受けて一夏は悶絶している。

「確かに今の一夏さんはストレートが過ぎましたわね」

「師匠?」

「さ、こちらに」と言ってセシリアが肩を抱いてくる。

 そのまま席に座らされると雑誌が何冊も広げられ重ねられていく。

「わたくしが勧めますと一夏さんのものと同じ会社でワンピースモデルなど素敵ですが鈴さんなどはいっそセパレートモデルにして見せつけてしまえと言っていましたわね」

「へ? っふぇ?」

「それなら私はハヅキ社を推すわ。オシャレ系ならハヅキ一択!」

「でも汀さんなら実用性の方がいいと思う。ISガチ勢だし」

「ちょっと待って。その言い方だと私たちが真面目じゃないみたいに聞こえるんだけど」

「ゴメンそんなつもりじゃなくて!」

「分かってる、からかっただけ。たしかに静穂さんなら電気信号のロスが少ない方がいいかも」

「ハヅキでいい感じのあったかな?」

『ハヅキから離れなさい』

「信者か回し者なの? 他のも候補に入れなさいよ」

「極力面積が多めのものですとこちらなどいかがでしょう?」

「いいけど野暮ったい」

『だから離れなさい』

 もう何がなんだか。

 とにかく周囲を囲むのがこのクラスだ。鈴が見たらまた勘違いしかねない。

 机の上にはよくもまあこれだけ集めたと言いたくもなるISスーツのカタログが重なっている。

 後ろから抱えるようにセシリアが寄り添っているものだから香水の香りが心地良かったりするが逃げられない。

 カタログには何を食べたらそんなに手足が伸びて出たりくびれたりするのかと言いたくなる体型の方々がスーツに袖を通している。男子の静穂には目に毒だ。

 基本は水着と見まがうものばかり。その中にはきわどすぎるものもちらほら。静穂が着てみればまずアウトだと判断できるものが多い。

 そんなものしかない選択肢ばかりの中でどれを選べと。

 それに静穂は衣類に頓着しないタイプだった。

 だからこんな事を言ってしまう。

「別にどれでも一緒でしょ? 肌が隠れればいい訳だし」

 クラスの時間が止まった。

「本当になんなの……?」

 その後にため息が多方向から排出された。一部では食券の譲渡も行われている。

「……いいですか、静穂さん。わたくし達は以前に誓いました。静穂さんにも人並みの女子としての自覚を持っていただくと」

「そうだっけ?」

 そうです、というセシリアの力は強い。抱かれた肩が痛い程に。

 以前のメイク指南の時と同じ。良くない雰囲気だ。静穂は箒にヘルプの目線を送るが届かず。彼女は一夏の隣という絶好のポジションから離れられない。

(契約不履行だ!)

 言い出したのはそっちだろうに、と叫びたいがそれをすると師から不真面目と怒られそうで出来ず。

「確かにISは魅力的です。ですがそれだけを追い求めて他のもの、女子としての最低限のものまで(なげう)ってしまうのは、貴女がわたくしセシリア・オルコットを師と仰ぐ間は許しません」

「最低限のものって何」

 また食券が移動する。夜竹 さゆかがガッツポーズ。

「そんなもの決まっています。()()()ですわ」

(あ、コレは無理だ)

 入学した最初の頃に挑戦し諦めた難題だ。これを通じて今の静穂があると言ってもいい。無理なものは無理。いくら外見は装えても中身は変えられない。心を入れ替えられるのは機械人形か猫くらいなものだ。

 静穂には既に女子力の象徴として掲げる対象が存在する。彼女と比べるとこのクラスは、その、チームワークこそいいがその点ではどうだろうか。四十院さんなどは大和撫子だから分かり易いが相川さんなど活発系となると判断に困る。そもそも女子って何だ。

 年頃の男子に女子の何たるかを理解する事は可能なのか。リビドーな方向に走るのがオチではないのか。

 実際に一夏など箒、セシリア、そして鈴と、他にも多数から特別な感情を向けられておいて気づかない。今も彼は不思議そうな眼差しをこちらに向けるばかりだ。男としてこの場に居られる彼がちょっと羨ましい。

(どうしてこうなった。できるなら誰か助けてー)

 内心で投げやり。当たればいいなこの槍。

「じゃあさ~、みぎーはどれがいいと思った~?」

 当たった。

「本音さん?」

「きっとみぎーはびっくりしてるんだよ~。こんなに本を積まれても読み切れないもの~」

 本音に調子を合わせぶんぶんと首を縦に振る。

(とにかく状況を変えたい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かにカタログを全部いっぺんには無茶かも」

「セシリアの圧縮授業に耐えられたくらいだからいけると思うけど……」

「それではわたくしが高圧的に聞こえてきますわね?」

「ゴメン違うのそうじゃないの!」

「大丈夫、そのつもりでないのは存じておりますわ」

「さっきから私の扱い何!?」

「まず一社ずつって事ね! じゃあまず」

『ハヅキ以外から』

「選択肢から外されたー!」

 

 

「今日は特に賑やかですね」

「そうなんですか?」

 はい、と眼鏡を掛けた先生は頷いた。

「いつもは織斑先生の弟さんが中心ですけど今日は違うようです。みなさん優しいですからすぐに溶け込めると思いますよ!」

 彼女は少し興奮したように拳を握る。

 一方で自分は少し安心した。織斑 一夏に関する情報では最初は集中砲火のような視線を浴びたという。彼に慣れてすこしでもマイルドになっていてくれればいいなと思う。

「では紹介しますのでそうしたら入ってきてください」

「わかりました」

 そして彼女は教室に入っていく。

 いい先生のようだ。友達のように生徒から親しまれても怒っている様子はないと喧騒から察する事ができる。

 ……すべてはここからだ。

「入ってください」

 第一歩、踏み出す。

 どよめきが伝わっていく。水面に奔る波紋のように。

 先程の先生の隣へ。クラス全体に向く。

 目の前には男子が一人。目を見開いて動かない。

 全体の女子もそうだ。どよめきも今は静まっている。

 大丈夫。

 準備も、覚悟も、とうにできている。

「初めまして。シャルル・デュノアと言います。この学園に、ぼくと同じ境遇の方がいると聞きまして、転校してきました」

 …………少しの沈黙の後、

 

――教室が揺れた――

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