IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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4.嘘つきは生存戦略の始まり ②

 正直、吐きそうだった。

 なぜ自分がこんな話を聞かされているのか、暖房が効きすぎて思考がぼんやりとしているのか、静穂は理解できずにいた。

 ……違う。理解してはいる。認めたくないのだ。

 

――次はお前だ――

 

 そう言われるかもしれないと。

「現政権に成り代わってからの日本は舵が全く定まっていない状態だ。それこそマスコミが事実を書いてしまう程に。国民の大半は自分達の暮らしが少しでも楽になるように今の政権に投票したというが、現実はまるで変わらない。埋蔵金埋蔵金と言って囃し立てて、いざフタを開ければそんなものはない。国民は詐欺にあったのと同じだ」

「埋蔵金って何ですか?」

「簡単に言うと国が使っていない貯金かな。日本にはいざというときに備えた膨大な貯金がある、という噂話さ。誰も見たことがない、夢物語・妄想の類という嫌味だよ」

 徳川埋蔵金のようなものだろうかと静穂は考えた。要するに存在するかどうか疑わしい眉唾物という事だと。

「連中はないもの探しを始めた。というか作ろうとした。国家予算という肉を切り詰めて寄せ集めて形を整え元から埋蔵金は存在しました、と言おうとした」

 だが失敗した。

「日本は技術大国だ。いや世界と戦えるただ一つの武器と言える。それは普通の学生でもわかっていることだ。だのに連中はその武器を屑鉄に変えてしまった。すぐに武器自身が反抗して今に落ち着いているが、その損失は膨大なものだった。何だかわかる?」

 唐突に質問を振られた。だが静穂には話の内容が脱線しているようにしか思えず、

「……?」

 何が何やらという表情をしてしまい、阿毛が笑いをかみ殺す原因となってしまった。

「IS条約、IS運用協定の発足とIS学園創立・運営の全責任を負わされてしまったのさ」

 IS運用協定、通称IS条約。ISに関する情報の無条件開示を日本に強制させる強国の圧力。設計者の意思をも完全に無視した協定を結ばされ、国益は著しく損なった。その原因が現政権にあるという。

「野党の僻みと思ってくれてもいい。だが連中が国の肉をこそぎ落とすのに夢中になっているうちに、金の卵を産む鶏が堂々と奪われていった、というのに怒りが収まらないのさ」

 つまりこの男、

(今までのは愚痴か!?)

 子供相手に愚痴を漏らす大人がここにいた。

 だがただの愚痴ではなかったようで、

「削ぎ落とした肉から手痛い反抗を受け、気付いてみれば鶏もいない、金は当然できていない。まさに万策尽きた政権は織斑一夏に目を付けた」

 愚痴が前振りに変わった瞬間である。

「ここまでくると人というのは突き詰めて馬鹿になる。毒を食らわば皿まで、その逆、鶏を奪われたらそのつがいまでくれてやろうとしたんだ。目先の金目当てで」

 悪循環。やけっぱち。負の連鎖。

「勿論私達が止めた。と言いたいがどういうわけか勝手に止められていた。まあ過程なんて些細な事だった。それでも水面下で織斑一夏の処遇を国際IS委員会に委ねるという始末だ。奪われたんだ、すべてと言っていいほど、内外の毒虫に、いいようにもてあそばれて」

 阿毛の手が合わせられたまま固くなっていく。押さえて堪えて耐え忍ぶ。

 不甲斐無い、腹立たしい、情けない、苛立たしい。

「何もできなかった」

 悔悟の念に苛まれる。

 この男は、本当にこの国を愛している。静穂にはそう見えた。

「――だから」

 静穂だけは。

「君だけはなにがあっても守り通さなければならない。勿論IS操縦者としてだけではないのは君自身が理解しているだろうが、いや国益というのもある、しかし私は、君達若者を生肉扱いで売り払おうとする今の国を許せないのが第一にある」

 だから。

「3年、待ってほしい」

「3年?」

「IS学園の校則、特記事項第二十一にこうある。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。つまり君はIS学園に入学さえしてしまえば3年間は身の安全が保障される。私達がその間に政権を取り戻し、今は信じてくれとしか言えないが日本を少しでも改善するよう努める次第だ」

 そう言って阿毛は頭を下げた。中学生に。

(どうすればいいのか)

 信用してもいいのかと勘ぐってみる。政治家というのは演技派だというのもある。

 それでも、

「わかりました。それでお願いします」

 そう答えるのにそれ程時間はかからなかった。

「……いいのかい」

 阿毛の目が見開かれた。

「まあ最後の方の3年がどうってところしかわかんなかったですけど」

 ほぼすべて建前、適当な妄言。スピーチ担当者の目も通っていないその場しのぎのでっち上げでもこのような事はないだろう。何しろ阿毛はベテラン政治家だ。子供相手だとしてもしっかりと伝えたい事はしっかりと理解できるであろう文章を即時用意できる筈だ。

「あることないこと言って僕を入学させようってのだけは伝わりました。まあ中国に売られて解剖されるよりかはいいです……よね?」

 ここまで来て不安になった。死にたくないのは誰だって変わらない筈だ。

 なにより静穂には後ろ盾が存在しない。この時点で静穂は知る由もないが、織斑一夏には最強の姉というそれがいる以上、うかつに手を出せない状況が成立している。そこにもう一人のIS男子がいたとなれば挙って奪い合いになるだろう。文字通り殺してでも奪い取る状況になる。生死問わずの強奪戦が始まってしまう。その辺りの問題もあるのだろう。

「そうか、行ってくれるか」

 そう言うと阿毛は手を差し出した。静穂は手を握り返し契約成立となる。

「勿論卒業後にはちゃんとした生活を保障する。それはこれからも変わらない」

「それでお願いします」

 握手をする阿毛は本当に安堵した表情になっていた。子供相手に何を緊張していたのか。

「しかし君もよく快諾してくれた。女子になっても頑張ってくれたまえ」

「は?」

(今なんて?)

 ん? と阿毛は不思議な顔をして「何かおかしいか?」と、阿毛は机に向かい雑誌をかき回し始めた。

「日本で二人目となれば国際IS委員会に奪われるのは目に見えて明らかだ」

 探していた雑誌を見つけ阿毛は静穂に見せつけた。

 IS関連の雑誌に紛れていた、何故だか一緒になっていた。

「君には女子としてIS学園に入学してもらう」

 言ってなかったなそういえば、と阿毛は一人納得していた。

 手に持つのは女性ファッション誌。

「よろしく頼むよ、汀 静穂くん?」

「…………はぁぁあああ!?」

 ……政治家というものはこうも人の人生を狂わせられるものなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり。

「偶然ISが動かせて、それがばれると命が危ないから、女子として入学しろと政府が言った」

「…………」

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