IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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 挿入投稿により今回が45話になります。


45.グレー・スケール・チルドレン ③

 ……壁の外、遠くから声が聞こえてくる。

『更識さんもっと送り込んで!!』

『もう十袋目ですよ!? 溢れ出すどころじゃありませんよ!』

『液状化した装甲を洗い流すの! 身体の中の血液を丸々入れ換えるつもりで循環させて!!』

『血流なんて操作したことありませんよ!』

『できなくてもやりなさい! メスと鉗子!』

『そこまでやらせるんですか!? 水で渡しますよいいですね!?』

『早く!!』

 ……うるさいなぁ、寝かせてよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――嫌な予感はしていた――

 

 一日程前に遡る。

 職員室では千冬が電話応対を一手に引き受け次から次に斬り捨てていた。

 本来ならば複数人、多ければ教員の半数近くがこれに当たっていたのだが今回ばかりは他に人員を割かなければならなかった。

 だがこれがまた適材適所というか何と言うか。世界最強のネームバリューは伊達ではなく、他の教員では冗長になりがちな一本毎の応対も千冬が出れば5秒以内で片がつくのだから当人としては複雑だった。

 中には千冬の声を聞きたいだけという輩もいるのだが、それは軽くいなしてやれば満足して二度目がない。対して政府高官の連中は幾度リダイヤルをかけても千冬なので勝手に憔悴気味だ。何度掛けても千冬が折れる事などはなく、寧ろ掛かる度にリダイヤルの回数を告げて精神を削りにいく。世界最強は精神攻撃も強い。だがコーヒーが欲しくなる。

 着信音が途切れて暫く、空の紙コップを何度目か手に取りかけて、その時は来た。

 同僚の教員が自分を呼ぶ。

「織斑先生、教頭先生が戻られました」

「! 分かりました」

 紙コップをくずかごに投げ捨てて千冬は席を立った。

 今は席を空けている山田先生が取ってしまわないように受話器からも電話線を抜いておく。

 これで職員室は一時的に平和が訪れる。

 

 

 職員室の一角、会議用のテーブルとソファに丸椅子をこれでもかと追加して教員達が集まりだした。コーヒーマシンをフル稼働させて千冬を含めた数人が人数分のホットコーヒーを淹れていく。冷房の効いた室内では夏を前にしても熱いものが欠かせない。

 チームプレーで全員に行き渡らせた。中年男性が一口啜り、唸る。

「織斑先生が淹れるとどうしてこうも美味いのか。自分でやっても全っ然美味くできねえのに」

「どうも。それで、教頭先生」

 おっと、と教頭は紙コップを置き手を組んで本題へ。ソファに身を沈める彼は別のソファ以外に座るか立つかしている教員から見下ろされる位置で切り出した。

「理事会の決定が出た。明日の決勝戦は決行、篠ノ之1年の代役を選定。我々教員の介入は許可しない。……だそうだ」

 その通達を聞いて一同が嘆いた。

「予想通りだな」教頭がコーヒーを手に取る。「最悪だ。負傷者が増えるぞ」

「中止ではなく延期、順延は無理ですか?」教員の一人が質問する。

「話には出た。だが強硬派の連中が言いくるめやがったよ。前回の1年クラスマッチが第1試合中の乱入で中止になったろ? その分のチケットが払い戻しの係争に入ったから収益が厳しくなるとかなんとか。生徒は競走馬じゃねえんだぞ」

 ――IS学園は表向きどのような国家、組織、企業、団体、思想、理念、人種、念のため性別、それらに囚われないという趣旨の国際規約が存在する。

 所詮は表向きでしかないのだがこの類いの規約は明記する事それ自体が目的であるプログラム規定説としての意味合いが強い。

 明文化されてしまえば堂々とそれを破る事はできない牽制。破れば自分以外から袋叩きに遭うという警告。

 それは守られている筈の学園側をも縛り付ける。

 言ってしまえば資金だ。人を動かすだけでも金がかかる。世界中からその供給源にされてしまった日本国だが今の政権では今後まともに支援を受けられるかどうか怪しい。

 学園存続の為に自分達で資金を貯蓄しておくに越した事はなく、学園の主な収入源が催事毎の入場チケット販売。他にも有志生徒の縁日もどきなど多くがあるが、簡単且つ一番の収益はやはりチケットになる。というかこれに迫りそうな縁日もどきが恐ろしい。何を売っているんだ一体。

「今年の1年は特別揃いですからね。理事会もふんだくる気満々ですか」

「どれがいくつでしたっけ?」

「専用機が6、代表候補生が8」

「そして男子が()()、か」

 その一言で全員が口を結ぶ。一方の家族が目の前に居て、この議題は何度も検討していた。その都度職員室は真っ二つに別れるのだから、此処に来て蒸し返すのは得策ではない。

 普段から目の下に隈が残る女性教員が手を上げた。

「……あの」

「ストップ。今は関係ない」

「そっちではなく、ボーデヴィッヒさんを一人で出場させるというのは」

「男装込みの男子二人がかりでリンチにするんですか? 排斥主義者の連中が喜んで袋叩きにしますよ」

「まだ続きがあります。チームではなくて、三つ巴にするのを提案します。1対1対1で戦ってもらう」

「悪くはねえがフェアじゃあねえな。全く別のブロックからなら採用できるが織斑1年とデュノア1年はペアだ。解消しても連携の癖は残る」

 あう、と女性教員が近くの男性教員にもたれ掛かる。慌てる彼の反応にご機嫌だ。

 ――問題を明確化させるならこうだ。ラウラ・ボーデヴィッヒのパートナーを誰にするか。そして決勝戦を如何にして()()()()()()切り抜けるか。

 彼女の性格と戦闘の傾向から見て生半な相手では勤まらない。仮に候補が見つかったとしても当人が了承するか分からない。

 何せあの流血沙汰を目の当たりにした直後だ。怖気づいても仕方ないと言える。

 当の被害者、汀 静穂の煙幕作戦が職員室としては助かった。実際に目の当たりにしてしまっていたら観客もパニックを引き起こしていたかもしれない。

 だがその惨状の決まり手こそ見えずとも原因が彼女にあるという事は明白だった。消失したシュヴァルツェア・レーゲンの右腕。あれが終止優位に立っていた汀を血溜りに沈めた。

「織斑先生。ボーデヴィッヒ1年の機体だが、開発禁止の兵装が積まれてるってのは確かなんだな?」

 そしてその原因を千冬は知っている。

 教頭の問いかけに千冬は肯定した。

 

――ヴァルキリー(V)トレース(T)・システム――

 

「ドイツは私の最近似値の情報を所有しています。私の教えた中で当時最もマシであったボーデヴィッヒのISに搭載していてもおかしくはありません」

 世界最強。その戦闘能力を戦場に現出させる。例えその搭乗者が限界を超えたとしても。

 非人道的という理由から開発を中止するのは惜しかった。ドイツの手元にはそれを組み上げるには最高の部品が揃っていたのだから。

 心臓(IS)骨組み(ラウラ)筋肉(データ)

 千冬が明らかにしたVTシステムの存在が明日の四人目を選び出す大きな課題となっていた。

「無理じゃないですか? 最悪の場合、織斑先生と戦うのと一緒なんですよね?」

「織斑先生とは全く違う。手加減なし、殺意のみの戦闘兵器よ」

「私には無理ですな。男だし、年だし」

「毎朝素振り千回の剣道9段が何言ってんですか」

「戦うのは子供達です。勝率よりも生存確率を算出すべきです」

「システムの解除か無効化はできませんか」

「一国の方針にケチをつけると思われますね。公平性を疑われるかも」

「システムはボーデヴィッヒちゃん自身も分からないくらい深くに存在してるんだと思うわ」

「せめて発動条件さえ分かれば」

「はい」と、不意に手が挙がった。

 輪が開き彼女を招き入れる。飄々とした発言者の女性教員は周囲の目線など気にしないかのように言葉を口にした。

「私達の目的はトーナメントを無事に終わらせる事です。その為には我々が今持ち合わせている手札を酷使して切り捨てる覚悟も必要ではないでしょうか」

「手札?」教頭が首を傾ける。「何を指してる」

「戦力、兵法、駒でも構いません。とにかく私達が状況を動かせるものと思ってください。もう一度言いますが私達の目的はもうこれ以上の被害を出さない、もしくは出たとしても最小限にする事です。

 被害を質と量で考えた場合、私達がそれを補償するとしたらその額が大きいのはどちらでしょうか」

 回りくどい言い回しに教頭は溜息を吐く。「……すまんがもう少し、ショートカットしてくれ」

 

「決勝には汀 静穂を出しましょう」

 

 教頭の腰が浮いた。周囲も静かにしてはいられない。

 とんでもないショートカットに千冬は目を見開くしか反応できなかった。山田先生がこの場に居ない事は幸運に思えた。彼女の前でこんな話はできない。

「落ち着け」喧々諤々の職員室に教頭の一喝で沈黙が訪れた。「どういうつもりだ」

 周囲のざわめきが静まると発言者は説明を始める。

「汀なら今の今にVTシステム搭載機と戦った経験があり対処も可能の筈です。噂では汀は以前、ボーデヴィッヒからペアを組む打診を受けたと聞きますから双方が納得すると思われますし、互いに準決勝進出者でパートナーが負傷しています。第一にあの不透明な試合内容では観客も納得しないでしょう」

 発言者が言い切るとその波紋が伝わっていく。

「幸いにも汀は軽症です。もう片方の準決勝敗者を使うよりも出場させて観客の不満を取り除かせるのが運営の勤めではないでしょうか」

「……つまり汀1年は傷ついた駒で、一度傷ついた駒はそれ以上傷ついてぶっ壊れても全体の被害としては計上されない、そう言いたいのか」

 被害の数え方を範囲や規模、人数、金額でしか計算しないのであれば一箇所に集め上乗せした方が都合が良い。

 極端に負荷を掛ければ壊れ、そこに新しい別物を充てる方が経済的な場合もあるにはある。人的資源も例外ではない。

 消耗し破損、命を落とした場合も、慰謝料を払ってハイお終い。状況によっては責任を取らずともよいという判決が下される。

「酒も呑めない子供一人を生贄にしろってか」

「違います」

「そうとしか聞こえねえな」

「別に必ずシステムが起動するという証拠はありません」

 それに、と発言者は千冬に目を向けてきた。

「世界最強の織斑先生が機械仕掛けの偽物を倒せない程度にしか生徒を鍛えていないとは思えませんが」

 この挑発に千冬は無言を貫いた。口を出した所で何の進展もない。

「どうでしょうか、織斑先生」

 この場の全員が千冬に目を向けた。皆が黙ったまま千冬の言葉を待っていた。

 他の意見が出せないでいる。千日手のように解決の為の時間もなく、反対の意思を表明しても他にいい手が浮かばない以上、消去法でこの案を使わざるを得ない。

 最悪、汀をこのまま差し出す事になる。当人お得意の自殺行為に、彼女を、子供を守るべき大人たちが。

 この発言者が千冬に対して敵意を持っているのは分かった。汀を利用しようと考えているのも。

 ……それらを踏まえて千冬は、

「いいでしょう」

「織斑先生!?」

 誰かの驚愕する声に手を翳し、抑えてもらう。

「汀への説明にはボーデヴィッヒを行かせます」

 千冬はしっかりと発言者に目をやった。

「織斑先生、いいのか」

 頷いた。

 それを見て教頭はソファに身を沈めた。

「なら、次の議題に行くか」

 

 

 

「次は――会場の警備か。予定ではどうなってる?」

 それぞれが頭の中の書類を読み上げ報告していく。

「会場警備は2年のイリーナ・シャヘトが各国政府高官の観戦ルームを担当、他に対空、対地、対潜に20機の生徒を割り振ります」

「それについて報告。警備に使う予定でした1機の随分と前に使用許可が出ていた件ですが、紛れていた書類が見つかりました。整備科3年が使用許可を正式にもらってます」

「そんな長期に渡ってですか?」

「彼女らの意地って奴です。こっそりと見に行ったらかなりのゲテモノに仕上がってましたね」

「ほう、見てみてえな」

『おい教頭』

 進行役が脱線するなと総ツッコミ。

「アリーナのバリアは安定しています。問題は以前のように練習機の後付装備以上の火力を必要とした場合ですが、」

 それにまた教頭が乗った。「山田先生が新兵器の講習に行ってるんだろ?」

「遅くなりました!」

 空気が澱んでいた室内に花が咲いた。山田 真耶が走って来てカフェインの輪の中へ。

「早いですね、山田先生」千冬が半身を切って自分の隣へ彼女を受け入れる。

「そうでもありません、つい話し込んじゃいました」そう言う彼女の手の中には図面らしき紙が巻かれている。

 各々が紙コップを持ち上げて空いたテーブルに山田先生が図面を広げた。

「これならあの時のバリアを破れるそうです!」

 教員達がその図面を覗き込む。

 …………暫し、沈黙。その後、

 

『何っっだ、これ!?』

 

「うわははは、ははははは!!」

「バカじゃないの!? これバカじゃないの!?」

「ううむ、刀剣の類いならば私でも一縷の望みがあると思ったのですが」

「いやISありきですよこれ。僕らじゃ無理ですって」

「ははっははひ、っだははは!!」

「山田先生、これは……」

「凄いですよね織斑先生! これならどんなバリアでもどんとこいですよ!」

「ははははは!! ばはははは!!」

『落ち着け教頭!!』

 ……と、一拍置いて。

 横隔膜が痙攣している教頭を山田先生に診ていてもらい、他の面々で図面の粗探しに入る。

 粗となる欠陥は螺子の一本も無い。だがまあ結論としては、

『使えない』

 の、一言だった。

 問題点を挙げればキリがない。辛うじて現行兵器の延長線上に形状が似通っているのだが、

「この形はやりすぎでしょ」

 教員の誰かが呟いた。

「あれだけのバリアを破るには大型化もやむを得ないと覚悟してたけど、こんなの機体どころか搭乗者がおかしくなります」

「そんな!」山田先生が教頭の背中を摩りながら反論する。「これしかないって彼女も言っていました! これが最高の打開策に間違いありません!」

「山田先生」目に隈の教員が加わった。「多分それはインスピレーションとやる気の問題です。話し込んだのもお互いハイになったからじゃないですか?」

「道が開ければ気持ちが高ぶるのは当然です! それにこれは正に芸術の域ですよ!」

 山田先生の言う事は尤もではある、あるのだが、

 この芸術品は人を選ぶ。扱いに習熟していなければ食い千切られる、じゃじゃ馬を通り越して赤兎馬の域。

 また、篠ノ之 束が再度襲来しない限りは手に余る代物を念には念をと作らせただけの話だ。

 使わなければ御の字。今必要という訳ではない。

()()、現状で使える生徒がいる?」

 誰かが言った言葉が全てだった。

 なまじ現行兵器に似通う部分があり、そのイメージで使おうとすれば関係のない所で負傷者が増える。

「駄目ですか……」

 消沈する山田先生を今度は教頭が労わる。うんいつも通りだ、と教員達が和む中で、

 千冬が図面から目を離せないでいた。

(奴め、何の冗談だ、これは)

 希望を見つけてしまう事が罪になるとは思わなかった。

 だが上手く行くと思えてしまった。不確定要素の横っ面に不安要素を叩き込むような所業だが、これなら他の何よりもマシだ、と。

 ……全ての議題を終えて、其々が電話線を差し込んでいく。

 隣同士の席に座り山田先生に状況を説明した。

 山田先生があの発言者に向かおうとするのを宥めて切り出した。

「山田先生。あの図面の実物は完成していますか?」

 もう涙目の山田先生は落ち着かない様子で、

「はい、もうアルミケースに梱包されていました」

 確認は取れた。

 千冬は受話器に電話線を挿し込む。突如鳴る着信音の相手にリダイヤルの回数を告げてから切り新しく電話を掛ける。

 ハンカチに手を伸ばす山田先生に「これでなんとかなります」と労って電話先を待つ。

 掛けた先は寮の一室。

『誰だ』

「ボーデヴィッヒ、私だ」

『教官!』

 一転して声色が変わる相手に用件を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが昨日の午後、準決勝第2試合が開始されて少し経過した頃の事だ。

「――思えばあの時に確認を取っておくべきでした」

「…………」

「なぜ貴女が汀を出そうと言い出したのか」

「私は学園が取るべき最善の策を提示しただけです」

 千冬からの目線は位置関係上見下ろす形で、発言者の女性教員は堂々と言った。

 彼女は拘束されていた。何処とは言えぬ牢獄の壁に両腕を固定されている。嘗て加畑という少女もこの場にて同じ目に遭っている。

 千冬は懐から一冊の本を取り出した。ビニール袋に入れられており、革張りのカバーが施されたそれは、発言者の眉を動かした。

「貴女の指紋がついていました」

「それが?」

「貴女を拘束する理由だ。貴女はテロリストである姉の方の加畑と通じ、妹の方に犯罪を教唆した」

「…………」

「男性排斥主義者。この日記の中に出てくる『会のメンバー』とは貴女の事だ、違いますか?」

 ……沈黙は肯定。

 観念したのか発言者は訥々と語りだした。

「重要な部分は破り捨てたのに」

「なぜこんな真似を?」

「どうして分からないの? インフィニット・ストラトス。私達にしか動かせないように篠ノ之博士が設定した理由を」

 ……千冬の沈黙には何の意味が込められているのか。

「彼女は辟易していたのよ、世の男達に。固定観念に縛られた馬鹿な連中は彼女を排斥しようとした、男ではないからという理由だけで。彼女は理解したのよ。自分を理解できるのは自分と同じ存在、女だけだって」

 一番近しい貴女が何も分かっていないのね、と発言者は嘲笑する。

 対して千冬は未だ沈黙を通す。

 浅はかな推測で友人を汚されている事実に顔を歪めないよう必死に努力しつつ。

「……加畑は、彼女は最高の逸材(メンバー)だった」

 彼女が指すのは姉の方だろう。

 もみ消されこそすれど世界で初、ISを使った殺人未遂事件の実行犯。

 首謀者であるこの女と同じ、テロリスト。

「まさかISで警護されているなんて思わなかったけど」

 これは汀が義姉と慕っていた人物の事だ。奇しくも千冬のOGでもあった彼女の。

 彼女は汀を庇い、死んだ。理由はこの女が知っている。

 一人の少年を殺す為だけに一人の少女の未来まで奪った理由を。

「何故だ、何故、今になってまた汀を狙う」

 その質問に女は笑った。「何故? 何故ですって?」

 発言者の女が髪を振り乱す。「()()がこの世に在ってはならない物だとどうして分からないの?」

「知らないからだ」

「あれは私達の権利を侵すものよ。加畑も書いていたでしょ?」

 貴女には教えてあげない、と言って、彼女は笑い続けた。

 

 

 牢獄から戻る通路では、亜毛が棒アイスを齧って待っていた。

「不躾だが待たせてもらったよ」

「――何の御用でしょうか」

 目線をやらず、千冬は促した。

「いくつか新しく伝える事ができてね」亜毛はアイスを食べ終えると丁寧に棒を袋に戻し、「一つ目は首謀者の女性を此方で引き取らせてもらいたい」

 何の為だと問いただすと、「これ以上の狼藉は許しておけない、『会』とやらは潰させてもらう」と亜毛は即答した。

「二つ目は?」

 そう千冬が聞くと、亜毛は言い淀み頭を撫で付けた。

 二つ目の方が問題らしい。

「……彼だけではなかった」

「?」

 思わず振り向き亜毛を見る。そこに居る男は悲しい目で棒アイスのゴミを握り潰した。

「彼を実験台にした洗脳試験は早い段階で成功していた。それに気をよくした連中は新たに国益を掠め取る為に新たなスパイを養成、幸か不幸か偶然にもこの学園に入学していたよ、二人もね」

 ――千冬は愕然としつつも表情は変えず、「私の知っている生徒ですか」

「君以上に知る人間はいない」

 となると1組の生徒だろうかと思案をめぐらせていると、

 亜毛からヒントが飛んできた。

 

「ちーちゃんと束さんがそんなのさせる訳がない、か。彼女はこの事を知っているのだろうか?」

 

「――まさか」

 一国会議員、現国会最大野党の党首は告げた。

「織斑 一夏と篠ノ之 箒」

 

――この二人も、洗脳処置を受けている――

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