IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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48.漸くのスタートライン ②

「……一夏くんが勝てないのはシャルルくんの言う通りに銃器の特性や使い方を頭で理解していないから」

 テロリストの放つ銃弾がライフを一つ減らした。

「取捨選択もできていない。狙ってくる相手毎に優先順位を設定、危険度の高い相手から先に対処する」

 一人を撃ち倒すと同時にもう一方のテロリストから銃弾が飛ぶ。ライフが一つ減少。

「練度も低い。命中精度も当然だけど、マガジンの残り弾数を常に把握しないと、相手に隙を見せることになる」

 テロリストの腕の中に居る人質に誤射、ペナルティでライフが減少。狙いを定め直すも弾切れにより対応が遅れ返討ち、もう一つ減少。

「……白式が白兵戦特化型で良かったね」

 最後のライフも成す術なく散り、ゲームオーバーとなった。

 

 

(3面半ば、か)

 ゲームオーバー毎に最初からやり直させて早7回。苛立ちを隠さなくなってきた一夏を静穂は漠然と眺めつつ思考を廻らせる。

 ゲームは全5面。最初からやり直させているとはいえ、このペースは予想よりも少し遅い。

(経験かなぁ)

 一夏はこの手のゲームに慣れていない。友人が居ない訳ではないのだから、たまたま経験が少ないのだろう。実際に模擬戦をした経験からも一夏の反射速度は寧ろ速い方だとは知っている。この手の体感型ゲームは反射神経さえ良ければいい線は行くと静穂は考える。では何が足りないのか。

「なあ静穂。これって本当に意味あるのか?」

「あると思っているからやって貰っているんだよ」

 そう言ってお茶を濁す。

 携帯電話で時折一夏の写真を撮っては添付し、メールを送る。

(合流はまだ難しいですか。――っと)

 送る先はいつものメンバー全員。今日の旨を知らない箒には平等を兼ねて後日送るとして、

(早く来てー。――っと)

 もう一枚撮って送信。実のところこれはセシリア達が来るまでの時間稼ぎだ。

 済ませるべき用事も全て消化してしまい、静穂は途方にくれていた。

 普段と変わらぬよう誤魔化せても、静穂は怪我人のカテゴリから外れていない。

 手術後の体、慣れない隻眼、PICでの歩行の偽装。

 要するに疲れていたのだ。多人数に紛れる分には多少は気を抜く余裕ができるが、一対一ではそれが出来ない。

「ああっ!」

 一夏が声を上げる。見れば3面のボスらしき相手にやられていた。

「無理だ、少し休ませてくれ」

 集中力を切らした一夏がゲームコーナーを離れていく。

 休む事には静穂も賛成だった。

 

 

 ――五反田 蘭は悩んでいた。寧ろ後悔と言ってもいい。

 先程まで入っていた店舗で蘭は何着目かの水着を購入したのだが、

(やっぱりあの水着にしておくべきだったかな……!?)

 店員の太鼓判もあって選び抜いた一着ではなく、その直前に自分の手に持っていた一着の方が自分には似合っている気がしてきたのだ、今更になって。

「……おい蘭」

 荷物持ちである兄を目線で殺し、蘭は再度、熟考に浸る。

 今の買い物で何着目の水着だろうか。対友人用、勝負用、もっと勝負用、更に勝負用、そして対織斑 一夏用と、蘭はこれまでの買い物を脳内で分類に分けていく。

 大体は揃っていた。だが最も重要な対織斑 一夏用の水着が決まらない。

 やはりあの一着にすべきだったのか、かといってそれが対織斑 一夏用に当て嵌まるかといえばNOという意見が強い。

 彼が世界中から女子を集めたIS学園に行ってしまってからというもの、蘭との交流は先日の、不意にやって来た一件以降は一度もない。

 あの時は兄が教えに来なかった為にラフな服装で彼の前に出てしまった。もうあのような醜態は晒せない。

 数少ないチャンスをものにする必殺兵器が必要なのだ、悩殺という意味で。

「! おい蘭」

 荷物持ちが何か言っているが気にもならない。全ては彼と付き合う為の――

「おい蘭!」

「うっさいお兄!」

 両手の塞がった兄へのボディブローが見事に入る。蹲る荷物持ち。

 乙女の思考を侵害した罪はこれ程までに重いのか。

「人が大事な考え事してるってのに、何!?」

 それでも話を聞いてやるその姿勢は賞賛すべきなのかどうなのか。

 震えた声で兄、五反田 弾は発言した「今そこに、一夏が」

 嘘!? と蘭が振り向けば、

 確かに居た。恋に焦がれる少女にとって、見紛う筈がなきあの容姿は間違いなく織斑 一夏その人で、

「!?」

 と、息を呑んだ。

 連れが居たのだ。缶ジュースを手渡す、包帯によって顔の多くを隠す彼女を蘭は知っていた。

 直接に会った訳ではないが、その姿は来年度のIS学園への受験を決意していた蘭にとっては衝撃だった。

 

 

 立場が逆転し今度は静穂が缶ジュースを手渡す。

「何がいけないんだろうねぇ」

「それが分かれば苦労しないって……」

 一夏としても訳が分からないだろう。どうしてこうも上手くいかないのか。

 先のトーナメントで一夏はシャルルから銃を借り射撃攻撃も行っていたと静穂は記憶している。尤も命中率は奮わなかったようだが。

 その時の経験があるだろうと思い静穂はこうして一夏にやらせているのだが。

(何がいけないんだろうか?)

 やる気の問題かとは本人の前では言わないが。

「――わたしの指摘は聞こえた?」

「聞こえたよ、でもなあ」

 でも? と静穂が顔を覗く。

「分からないんだよ、どうやったら静穂みたいにやれるのか」

「わたしの?」

「だってそうだろ? あのコントローラーはハンドガンの形をしてるし、俺が知ってる中で一番ハンドガンを使うのは静穂じゃないか」

(……えぇと、つまり)

 拳銃の形をしたコントローラーと、静穂と相対した経験が先入観として一夏の頭を固くしていたと?

「はぁ……」

「静穂、大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

 ただ疲れがどっと出ただけだ。

 良かれと思い、暇潰しも兼ねて一夏に勧めたものが却って彼の頭を混乱させていたとは。

 自分には物を教える才能はないのだろうか。せめていつものメンバーと肩を並べたい。

(……まあ、それなら)

 原因さえ分かればやり様はあるのだ。

「い一夏さん!」

『?』

 突然の呼び掛けに二人が目線をやると、

 そこには互いに似たようなバンダナを装着した男女が其処に居た。

(ちょっと噛んだ?)

「弾! それに蘭も!」

「久し振りだな一夏!」

 言うが早いか一夏が少年の方と再会を祝している。

「……誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾行する四人は当初の目的を見失いつつあった。

「セシリア、返事はしっかりと練りなさいよ!?」

「心得ていますわ。この調子でもっと写真を送るよう誘導します!」

(一夏の真剣な横顔……!)

 三人が送られてきた写真に心奪われている。

「――む」同じく浮かれつつもラウラが気付いた。「全員、見ろ」

『何を、――!?』

 ――先程は位置の関係からの勘違いであった。

 だが今は違った。視線の先の二人は今、

 

――紛う事なく抱き合っている!――

 

 

 

 ……という訳ではない。

「よし、そのまま支えてね」

「おお」

 包帯が隙間無く巻かれた指先でコントローラーを握り、半身を切る。

 照星(フロントサイト)照門(リアサイト)の延長に隻眼が来るよう首を捻る。

 そうして射撃体勢を取った静穂の肩を、一夏が後ろから被さるように支えていた。ほぼ同じ背丈と位置の関係から一夏も照門から画面を覗いている。

 やり様とはつまり手本を見せる事だ。静穂の見様見真似で銃を撃つというのなら、静穂の視界も真似させてやろうと考えたのだ。一夏を自分の後ろに立たせて見学をさせ、ついでにふらつく身体も支えさせる一石二鳥。

 準備は完了、硬貨を投入。1面のデモ画面が流れ始める。

「なあ静穂」

「何?」

「静穂はこのゲームやった事あるのか?」

「ないよ」

 ないのにやらせてたのか!? と一夏が嘆くよりも早く、

 一人のテロリストに銃弾が打ち込まれた。

「!?」

 数は三発。手、胴、頭の順に、一瞬でたった一人に三発が撃ち込まれた。

 そしてそれは次の目標にも続けられる。

「稼動したばかりの新作だからね」

 そう言いながらも静穂の指先には迷いがない。一夏のプレイングを見たからというのは説明にならない速度でテロリストを叩きのめしていく。

「現実ではこうは行かない。照準の位置、風の影響、指切り、銃の重さ、反動、弾道と相手の行動予測、――まあ色々あるよ」

 一夏のプレイ時よりも遥かに早く、静穂はボスを撃破。次の面へ進む。

「しっかり狙う事は身体が自動で行うまで練習するしかない。その都度狙っていたらその間に撃たれるからね」

 次の面、その次の面と、静穂の快進撃は止まらない。

「すげえ」思わず弾が唸る。

「この手のゲームでは取り回しの理解は出来なくても、その特性は理解できるよ」

 パワーアップアイテムを静穂は取り逃さず、その都度に説明を入れていく。

「拳銃。小さくて片手でも使えるけれど基本的に威力が低い。

 小銃。銃身が長くて威力もある。打鉄の初期装備の銃はこれだね。

 散弾銃。基本は近距離用で射程も短い。小さい弾を大量に撃ち出すから威力は高い。

 機関銃。連射性に優れるけれどその分弾切れも早い。物によっては一人で扱えない。

 擲弾銃。爆弾を撃ち出すってイメージの銃だね。弾が重いからあまり飛ばない。

 狙撃銃。射程が長い。威力も高い。でも連射は利かない」

 他にも種類はあるし、わたしの主観だからね。と静穂は断りを入れる。

 説明を挟みながらも指は手は腕は止まらない。

 正しくあっという間。一夏の記録をあっさりと抜き去った。

「まぁゲームと本物の銃は全くの別物だから、今回は種類と打つ際の注意だけ覚えてね」

 5面、つまり最終面のボスまで被弾なし。敵の動きを完全に封じ込め、こちらの攻撃だけを通し続ける。

「銃の利点は相手に何もさせず、自分側が一方的に攻撃できる事。欠点はその一方的な展開に持って行き難い事と弾が切れたらそれでお終いって事」

「一方的に攻撃できるのに、それができないってどういう事だ?」

「相手も銃を持っているから」

 その答えは至極簡単なものだった。

「勿論種別も違うだろうから射程とか多くの差があるよ。でも銃を持っている時点で一方的な攻撃にはならず相手も撃ってくるから危険度は跳ね上がる。狙撃銃だとしても、飛び回るISなら瞬時加速で一気に距離を詰められてしまう」

 流石に最終面のボスと言うべきか、静穂の猛攻に耐久力で耐え忍んでいるが、

 画面の残弾表示は残り三発。

「……三発余ったなぁ」

 ボスの大型ロボットが無残にも爆発、破片を撒き散らしゲームクリア。

 エンドロールの後に英語三文字を入力する場面で、静穂は手早く英語を撃ちぬいた。

「S、I、Z、と」

 SIZの文字がランキングの一番上に載ったのを見て弾が歓喜の声を上げ、妹に肘で黙らされた。

 静穂は一夏に向き直り、コントローラーを差し出す。

「今は沢山撃って数をこなす事。ゲームオーバーにならなければ合格」

 手本は見せた。後は実践するのみという静穂の態度に、

 一夏はコントローラーを受け取った。

 

 

 ……二人掛りでやっていいとは言ってないのになぁ、と思いつつ、紹介のあった五反田妹の傍へ。

(蘭ちゃん、だっけ?)

 先程から妙にこちらへ視線を向けては逸らしの繰り返しをしてくるのは。

 ありがたく彼女の方から切り出してくれた。

「あの」

「?」

 

「やっぱり静穂さんは一夏さんと付き合っているんでしょうか!?」

 

 ――足元の床が消失した気がした。

「大丈夫ですか!?」

「……ごめん手を貸して」

 直立から見事に素っ転び襲ってくる痛みに耐える。傷口が幾つか開いた気がしないでもない。

 差し出された手に静穂の手が乗る。彼女に引かれ体を起こし、立ち上がる。顔を向けると心配する顔が覗いていた。それはこちらの身を案じての事か、それとも一夏の女性関係を案じての事か。

 とにかく否定しなければ命がない。友人達によるISを使った公開処刑が始まってしまう。

「どうしてそうなる!? 別に付き合っていたりはしないよ!?」

「だって今あんなに密着してこここ、恋人みたいでしたよ!?」

「あれくらい普通じゃないの!?」

 静穂の中学時代などよく女子が似たような事をしてきたというのでその真似をしてみたのだが、

(何!? 普通じゃないの!?)

「とにかく一夏くんとはそういうのじゃないから! わたしはもう死にたくないから!」

「そ、そうですか。普通、普通……」 

 肩をつかんでガクガクと揺らす説得方法が効いたのか、普通と聞いて何やら呟く五反田 弾の妹、蘭。

「じゃあ静穂さんはどうしてあんなに強いんですか?」

「え、何それ」

 いきなりの話題転換についていけない。

「私、IS学園を受験しようと思うんです」

「なら後輩になるんだね」

「でも家族が反対し始めたんです、……決勝戦を見てから」

「……あぁ、成程」

 それ以上の言葉が出なかった。

 先のトーナメント決勝は公共の電波に乗り、多くの人間がそれを見ていたのだ。

 ISの暴走と、静穂の流血沙汰を。

 織斑先生から「貴様は洗脳されていた」とか言われたが、観客からすればそんなものに意味はない。

 スポーツとして落ち着いたISの危険性を再度確認させるような結末。蘭の家族はそれに強く影響されたという訳だ。

 危険だと分かっていてわが子をその場に送り込むような親は居ないだろう。誰も眼球が潰れた我が子の顔など見たくはないだろう。

「IS適正がなんだかしらないが、お前はあそこまでやる覚悟はあるのか、強い意志はあるのかって、お爺ちゃんが」

 覚悟に意志ねぇ、静穂は首を傾げた。

 あの時の自分にそんなものはない。あったのは織斑先生との約束を果たそうと足掻き、ラビットを犠牲にした無様な姿だけだ。

 そうして静穂は気付いた。

(あぁ、迷っちゃったのか)

 彼女の言動からして一夏に気があるのは確かだ。IS学園に進学する理由も彼だろう。

 聞く限りでは蘭のIS適正はA。全世界でA適正を叩き出す人材は稀だと聞く。才能の一種を生かす選択を誰も咎めはせず、周囲は寧ろ彼女の背を押していた筈だ。だが静穂の姿を見て周囲が怖気づき、彼女の意思をも揺らがせてしまった。

(わたしのせいだね)

 静穂はそこはかとない罪悪感に苛まれた。静穂のせいで彼女の淡い思いが揺らいでいる、……成就するかはともかく。

(…………)

 慰めになるかは分からないが、静穂は訥々と語りだす。

「あの時のわたしは死に物狂いだったんだよ」

「え?」

「だって友達の命が掛かっていたから」

 ――蘭が息を呑んだ瞬間を確認して、

「――って言ったらどうする?」

 嘘だという嘘を吐く。蒼白から紅潮へと打って変わる表情に謝りつつ、

「でもそれくらい本気だったよ」

 自分が洗脳されていても、自分を救おうとしてくれた相手によって体に不自由が生じていても、

 あの時の自分は本気で、全力で、目の前の相手を潰そうとして、

「それでこの様だけどね」

 今の自分を、静穂は悲観する事はない。これは自分を救ってくれたラビットの思いと、自分の未熟さが生んだ結果だから。

 この身体で、生きていく。時々は迷うだろう、けれどそれは永遠ではない。

 義姉と、グレイ・ラビットと、その他多くの命のうえに成り立つ静穂に、そんな権利がある筈がない。

 まあ、それはさて置き。

「覚悟なんて、その時になれば自然とできるものだよ」

 結果として、見た者に覚悟があると思わせたのならば。

「別に気にする必要はないんじゃない? わたしと蘭ちゃんは違うんだから」

「じゃあ私でも静穂さんみたいに強くなれるでしょうか!?」

「わたしみたいになられるのは困るなぁ、先輩として」

 いきなり晴れやかになる彼女に静穂は苦笑いを返した。自分みたいな後輩の相手は面倒以外の何者でもない。

「わたしなんて、あっという間に追い抜くくらいの気概で行かなきゃ、」そっと彼女の耳元で囁く。「一夏くんを獲られちゃうよ? ライバルは多いんだから」

 ――はい! という良い返事と、いよっしゃあ! という男子の歓声は、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのか? 一夏と昼飯に行かなくて」

「今日はいいの」

 そう言う蘭の足取りは軽い。

「お兄こそ下心見え見え。どうせ静穂先輩目当てでしょ」

 荷物を持つ弾の肩がすくみ、腕に掛けた紙袋達が跳ねる。

 最っ低、と蘭は毒づきつつも内心では仕方ないと思えてしまう。

(素敵な人だったなあ……)

 一夏と同じくらいの長身モデル体型。決して現状を悲観せず、ただひたすらに自分を磨く、先を見据えたその姿勢。一夏に気がないという所もポイントが高い。

 蘭の描く理想の女性像が彼女の姿に固まりつつあった。

「無理だと思うぞ」

「っ!」

 がら空きの胴に再度のボディブロー。

「む、胸ならお前が勝ってる……」

「--------死ね!」

 それが彼の、最後の一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 臨海学校の準備が必要なのは何も生徒達だけではない。

 織斑 千冬と山田 真耶も臨海学校の先導がある為、こうして水着を買いに来たのだが。

「どうしましょうか、織斑先生」

「もう少し見ていましょう」

 

 

 五反田兄弟と入れ違うようにシャルル達が合流。かくして専用機持ち達の休日は本筋へと戻ったのだが、

「……静穂」

「うん、どうしよう」

 約二名、静穂とシャルルは冷や汗を流していた。

 本筋に戻るという事は本来の目的へと進むという事で。

 今日の目的は来たる臨海学校への買い物、つまり海へ行く為の買い物。

 それはつまり、

「水着だね、静穂」

「うん、水着だね」

 水着を買うのだ。()()()()()()()()沿()()()()()()

「一夏! これとこれどっちがいい?」

「一夏さん、これなどいかがでしょう?」

「ああ、どれもいいと思うぞ?」

 眼前では鈴とセシリアが我先にと一夏の前に水着を運んでは戻しをくり返している。

(まずい! このままだとバレる!?)

「静穂」

「!」

 気がつけばシャルルが静穂の袖を引いている。

 引かれるがまま耳を彼女の元へ。

「僕は一夏となんとかする。その間に静穂は逃げて」

 そう言われて思い出す。静穂とは違いシャルルは一夏にも素性がバレていた。男同士で水着を選ぶならば充分に逃げる口実となる。

 となるとシャルルは一夏とこの場をなんとか離れられるとして、

「わたしは? 逃げてどうするの?」

「…………ファイト?」

「そこで丸投げ!?」

 だがそれ以外に方法を選ぶ余裕はない。静穂はそろりそろりと輪を外れようとして、

 

「――どこに行く、義妹(いもうと)よ」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒが進行線上に回りこんでいた。

「!?」

「はい逃げないの」

「静穂さんが居なくては始まりませんわ」

「!? !?」

 ギブスの下から鈴に抱きつかれ、左腕をセシリアに抱き寄せられた。

「何!? 一体何!?」

「何とは決まっていますわ」言うセシリアのもう一方の手には比較的面積が多めの水着が。「静穂さんの水着選びです」

「そうだよなあ」

「一夏くん!?」

「静穂の水着選びに俺の意見を聞く意味が分かんねえよ」

「確かにそうだけど!?」

 と、一夏の後ろでシャルルが手招きで静穂の注意を惹いた。

(シャルルくん!?)

 見れば口を動かして何か伝えようとしている。

 

――ご・め・ん・ね・し・ず・ほ――

 

(わたしを売ったなぁあああっ!?)

 

 

 ……やいのやいのと騒ぎ出す専用機持ち共を見て真耶は笑みを浮かべ、

「汀さん、すっかり皆の輪に溶け込んでいますね」

 対して千冬はいつもの如く額に指をやり、

「あれは弄ばれているというのが正しいでしょう」

 必死になって身を捩り逃げ出そうとする様は滑稽を通り越して哀れだ。

「……もう止めさせましょうか、山田先生」

 そろそろ止めないと周囲の迷惑になるか汀の素性が暴かれかねない。

「そうですね、……ふふっ」

「?」

 今の言葉にどこか面白い部分があっただろうか。

「いえ、なんだかんだで織斑先生は優しいなと思いまして」

「……山田先生、久々に組み手でもしましょうか」

「!? 身内ネタでなければ組み手にならないのでは――」

「私は自分を弄られる事も嫌いです」

 そんなー! という山田先生の悲鳴を他所に、千冬は専用機持ちの莫迦共を御しに掛かる。

 溜息を吐きつつもその口元は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ら、その程度にしておけ」

『織斑先生!?』

「友人の水着を選ぶのはいいが汀は怪我人だ。臨海学校には参加できんぞ」

 

 …………。

『ああっ!?』

 

「なぜ汀まで驚く……」

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