IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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8.槍衾と矢面 ①

 セシリアは気が気では無かった。

 自分だけの問題ではこんな気持ちになどならなかっただろう。

 当の静穂はISスーツの上にジャージを着て、何やらもぞもぞと動いている。緊張していないようで良かったとしか言いようはない。

 静穂はセシリアの教え子だという事実は既に学園中に広まっている。対戦の順番からも、周囲の反応は、

 

――セシリアと戦いたければ弟子を倒して見せろ――

 

 世界唯一無二のIS適合者に相応しい当て馬。静穂をそう言ってしまう生徒もいる。それがセシリアを苛立たせ、尚且つ本当にそうなってしまうのではないかと不安を募らせる。

 何しろ知識のみ詰め込んだペーパードライバーが静穂だ。しかも相手は専用機をあてがわれたという。練習機と専用機。知識だけならば静穂が圧倒的優位だが、同じ素人ではマシンスペックが顕著に結果を左右させる。静穂の知識には学園で使用されているISの情報も入っているが、出自も不明の専用機が相手では意味がない。

(これでは、一週間の苦労が本当に無駄ではありませんか)

 なまじ完璧を目指し過ぎたのだ。静穂が精神に不調を来してまでついて来てくれた、その結果が当て馬扱い。

 今、ISの操作を確認する静穂と目があった。

 セシリアは不安を押し殺した。師たるもの弟子を不安にさせるのはいけない。

「準備はよろしくて?」

「万端!」

 その返事だけで救われていた。

「ところで静穂さん」

「何?」

「その胸はなんですの?」

「見栄」

「……まあいいですわ」

 本当に緊張などしていない。今の静穂はボディラインに沿ったBカップ程度の胸があった。

 

 ――その一方で。

「来ました、来ました!」

 山田先生の声が織斑姉弟と箒のいる空間に響いた。

「お待たせしました織斑君! 貴方の専用機、白式です!」

「白式……」

 白を基調とした機体がコンテナから引き出される。

(俺の、IS)

「織斑、さっさと装着しろ。向こうの準備はとうに出来ているぞ」

「は、はい!」

 織斑姉に急かされ急いで白式に向かう織斑弟。

 白式に身を預ける。ISスーツ越しにISが自動で装着されていく。

 箒が一夏に近づいていく。

「一夏、覚えているな?」

「ああ、()()()()()()()、だろ?」

 そうだ、と箒は頷く。

「でもこっちは剣道の練習しかしてないぞ? 近づかないと勝負にならないんじゃないか?」

 確かにそれもそうだ。

 これまでの一週間、一夏と箒は剣道の稽古で全て費やした。

 それも一夏の腕が鈍っていたというのが最大の原因だが、静穂同様、ISの抽選に外れたのもある。まあ専用機が来るのを待ち続け静穂達よりも後手に回っていたが。

 箒が何か反論する前に出席簿で黙らされた。悶絶で済んでいる辺り静穂より耐性がありそうだ。

「時間がない。初期化と一次移行は実戦で済ませろ」

「分かった。――そうだ、千冬姉」

「織斑先生、だ。何だ?」

「行ってくる」

 千冬は目を見開くと、すぐ目を細め、

「行ってこい」

 一瞬だが、その時だけは一夏の姉だった。

 

 

 

 偽造した胸を調整しつつ、カタパルトへ。固定された時点でセシリアが、

「いいですか、無理にわたくしの様に飛ぼうと考えないで」

「うん、実戦はまだ習ってないしね」

 そう言うと静穂はぐぐっと背を伸ばし、

「許可も下りたってことで自己流で行く!」

 射出に備える。ゲートが開いていき、外光が射す。

「汀 静穂はラファール・リヴァイヴでいきます!」

 静穂が行く。

 

「織斑君、頑張って!」

「一夏、本当に用心しろよ!」

「ありがとう、行ってくる!」

 一夏もカタパルトに。こちらも緊張の様子はない。

「織斑 一夏、白式。出る!」

 一夏が行く。

 

 

 奇しくも男性同士のIS戦という事実を、箒以外この時は知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 位置についたのはほぼ同時だった。

 まず一夏が一言。

「あれ、ISスーツじゃないのか」

 続いて静穂が頭を掻いて、

「いや、中には着てるんだけどね? ちょっと恥ずかしくて」

「それだと俺はどうなるんだ」

 一夏、呆れ気味。

「あぁ変な意味じゃなくて、綺麗な体してなくてさ、傷痕とか」

 ほら、と静穂は少し腕捲りしてジャージを上げる。一夏の白式はハイパーセンサーでその痕をまざまざと見つけてしまった。

 多数はないが大小複数の切り傷がそこにあった。完治こそしているがその痕はかなり前のものに見えた。

「悪い、聞いちゃいけないこと聞いた」

「気にしなくていいよ」静穂は上げたジャージを戻す。「普段はファンデーションとかで隠せるんだけどね」

「でも」

「いいから」

 静穂の語気に一夏は押し黙った。それでも何か言いたげな目線を受けて、静穂は頭を掻いた。

「じゃあそっちが勝ったら聞いてあげる、こっちが勝ったらもう聞かない」

 それでどう?

「! ああ!」

 二人が構える。織斑先生のアナウンス。

「では、クラス代表決定戦、第一試合」

 

――始めっ!!――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合図と同時に一夏は飛んだ。方向は真横。真横に飛んで、頭を撃ち抜かれた。

 衝撃で顎が上がる。続けて撃たれる。全身くまなく無茶苦茶に叩き付けられる。

 腕で頭を守る。偶然か、こめかみの位置に置いた拳が銃弾を弾いた。

 とにかく一夏は縦横に構わず飛んだ。

 ハンドガン。一丁のそれを静穂はしっかりと両手で構え引金を引いている。

「箒の言った通りかよ!」

 その言葉を聞いて静穂は、

「箒ちゃんめ、なにか教えたな?」

 少しの間、笑みを浮かべて、

「どの位聞いた!?」

「!?」

「わたしの事っ!」

 口と一緒に指一本を動かす静穂。一夏の被弾が止まらない。

「あんまり聞いてないぞ」

「でも言った通りなんでしょ?」

「ああ!」

 一夏が静穂から明らかに離れ、大きく旋回。

 速度を上げて突っ込んだ。

「強いんだろ!」

「どうだろ!」

 紙一重でかわされた。後ろから撃たれるのを耐え距離を取る。

 こちらも武器が要る。装備覧を探して近接用ブレードが一振り。

(これだけかよ!?)

 ないよりはいいとブレードを展開。横薙ぎに振って感触を確かめる。

「近づいてくるの? わざわざ!?」

「行くぞ!!」

 猪突猛進、突き進む。逆袈裟に切り込んだ太刀筋を静穂は横に避けた。

「ハァッ!」

 手首を返し、体から静穂の懐に飛び込んだ。

「ふぇ!?」

 横一閃。静穂のシールドエネルギーを破り絶対防御を発動させる。静穂に苦悶の表情が浮かぶ。

 追撃。剣の切先を静穂に向けたまま引き、突く。

 反動が腕にかかり、二人の距離が開かれた。

 互いのシールドエネルギーはほぼ同値。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏の奴、私の言ったことを忘れたのか!?」

「でも織斑君すごいですよ!? あれだけ被弾したのにたった2回当てただけでイーブンまで持っていきました!」

 先程まで一夏のいた控え室で、篠ノ之 箒、山田 真耶、織斑 千冬が観戦している。

「これでいい」

「織斑先生?」

「起動して二回目の素人同士の勝負だ。無駄に頭を使うよりも近づいて斬った方が早い」

「ですが一夏の剣が当たらなければ負けになります!」

「ISのシールドエネルギーに対する攻撃に急所は有効ではある。操縦者への危険性をISが感じ取り絶対防御が発動しやすいからな。だがハンドガンの単発程度ではエネルギーの消費量も少なく、対して織斑のブレードは多い、それだけだ」

 箒は言葉に詰まった。一週間で一夏の腕前はなんとか見られるようになった程度、それでは、

「汀の銃に打ち負けると言いたい顔だな」

 今度は目を見開いた。なぜ読めたのか。

「山田先生」

 急に呼ばれ背筋を伸ばす麻耶。

「汀の展開速度はどうでしたか」

「ハンドガンですよね、確か1秒以内だったと思いますが」

「オルコットが何をどう教えたかは知らないが武装の展開速度は慣熟の問題だ。知識だけで速度が上がる事は少ない」

「…………」

 流石、IS学園の教師である。彼女の場合、最強も含まれるが。

 画面では静穂が逃げながら射撃を続け、一夏が追う展開が映し出されている。

「篠ノ之」

「はい」

「汀はどこで銃の扱いを習った? 中学から一緒なのだろう、知らないか?」

 ……箒は少し迷った。どこまで話すべきか。男子であるというのは伏せるべきか、何しろ日本政府が絡んでいるらしい。無暗に想い人の姉に監視が付くような事態は避けたい。外堀からとは箒は思ってもいないが。

 結局、触りだけにした。

「静穂はサバイバルゲームをやっていました。大人に交じって大会に入賞したこともあったと思います」

「サバイバルゲームですか」麻耶が乗ってくる。「それなら具体的な銃のイメージは固まっているでしょうしあの展開速度も頷けますね」

 しかし千冬はまだ納得できないようで、

「ではなぜ貴様が篠ノ之 箒だと知っている?」

「え?」

「貴様は要人保護プログラムで違う名前だったな。一夏が首を傾げていたぞ、『箒なのに名前が違う』とな」

「一夏め……!」

 新聞など見るな馬鹿者。気付いてくれたのは嬉しいが!

 千冬は悪戯っぽく笑う。同姓が見ても魅力的というのはとても狡いと箒は思った。

 間違いなく千冬は見当がついている。箒もこの場で観戦するのを許可したのは答え合わせの為だ。

 ちなみにこの時、箒には最初のホームルームで自己紹介したことなど忘れている。

 もう観念だ。ゴールしてもいいだろう。

「……静穂は」

 

――私と同じ、要人保護プログラム対象者です――

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