IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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9.槍衾と矢面 ②

「静穂は私よりも前から保護対象だったそうです。その時に自衛手段として銃の扱いを師事したと聞きました」

「そうか」

 箒の白状はおおよそ千冬の予想通りだった。

 ISには多くの武装が存在するが静穂はその中でハンドガンを選んだ理由がそこにあった。

 彼女にとってハンドガンこそが最善の選択だったのだ。

 万が一にも護衛対象が孤立し生命の危機に晒された場合、最も望ましいのは速やかな対象の保護である。しかしそれが適うことがない場合、例えば人員の不足、対象の所在が不明であるといったとき、護衛対象自身による自衛手段の行使が可能であれば、生存・保護の確率は上がる。護衛対象が自衛策を執るというのは本末転倒なのだが、そうせざるを得ない事態があったのか、それとも予期してのものだったのか。

 前者だろう、と千冬は思う。でなければ他の説明を考えねばならない。

 展開速度、射撃体勢、命中率。どれも生半な修練で身につく段階ではない。危機感と使命感と必要性を感じ得たであろうこその熟練度だ。それこそ今の一夏に勝算があまり見られない程に。

 だからこそ千冬は考えてしまうのだ。

(いくら扱いに慣れているとはいえ、)

 

ハンドガン(それ)だけで試合に臨むような真似をするだろうか――

 

 その疑問は正解である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始から数分。

 互いのシールドエネルギーを削り削られ撃たれて斬られ。観客が素人同士ゆえの早期決着を予想する中、

 その行動はあからさまだった。

「!?」

 今まで無尽に回避を続けていた静穂が、くるりと一夏に背を向けスラスターを噴かした。

 虚をつかれた一夏が追う。観客席を護るバリアに近づきアリーナの外周を高速で周回しながら静穂は頼りの綱だったハンドガンすら拡張領域に収納してしまう。

 弾切れか? と一夏や観客が疑う中で静穂は、

 本命を、取り出した。

 

 

「なんですかあれは!?」

「AISライフルです! いわゆる対物狙撃銃ですね!」

「ほう、撃てるのか」

 三者三様の反応。予測はしていた千冬も少々驚きの表情だ。

 アンチ()インフィニット()ストラトス()ライフル。先程までのハンドガンと対局に位置する銃器を静穂は展開し、

 即座に撃った。

 振り向きざまの一発。展開で起こる少量の発光から伸びる銃身は本体部含めおおよそ2メートル50。

 銃声にすら威力が乗り、標準のISよりも勝る全長から撃ち出すマズルフラッシュが静穂を後方に弾き出した。片方の腕と脚それぞれの装甲がバリアと接触して火花が散る。

 それでも直撃した一夏よりは体勢の立て直しが早かった。

 錐揉み状態で減速下降していく一夏を後目に静穂は周回軌道に入る。

 一夏が持ち直した時、二人の距離はアナログ時計で3時と5時。一夏が5時で、二人とも外周を反時計回りに進んでいる。僅かに静穂が速い。

 その静穂を見て一部のギャラリーがざわめきだした。

 それは麻耶も同様で、

「織斑先生、あれって」

「間違いないでしょう。ぎこちないですが円状制御飛翔(サークル・ロンド)に見えます」

「サークル・ロンド……ですか?」

 ちんぷんかんぷんな箒。

「オルコットの奴、意外と教師に向いているのかもしれませんな」

 十分に一夏と距離を取り、半身を切って射角を取れるようになった静穂は射撃を再開した。

 撃つ度に全身が震え、バリアの壁に激突しそうになる。

 ハンドガンよりも命中率が低い。一夏も懸命に回避し、距離を詰めようと外周から離れショートカット。静穂が通過するだろう地点に向かう。

 だが来ない。加速が乗った一夏の剣を静穂はライフルを前方へ発砲、速度を一時的に殺し寸での所で空振りさせた。

「今度は一零停止」

「見様見真似で強引に技術を再現するか。オルコットならやらせはしないでしょう」

「さっきからなにがなんだか……」

 教師陣の目が箒に向いた。

「? なんですか?」

「篠ノ之さん、一零停止の方は先週の授業で出しましたけど……」

「補習だな」

「ーーーーーー!」

 箒の絶望を他所に、試合は進む。

 ……のだが。

「織斑君が止まっちゃいました!」

「気付いたか」

「……何をですか」

 何かを諦めた箒が恥を覚悟で質問する。

「汀の欠点だ」

 欠点?

「いかに汀が授業で出たばかりや、まだ出ていない技術を使おうともそれは完璧なそれではなく、紛い物だという事だ」

「今汀さんが行っている円状制御飛翔というのは本来なら複数人で行う射撃訓練の一種です。これは円軌道を行い加減速で回避とけん制をしながら射撃と機体制御を行うというものですが、これは自分だけでなく相手も同円周上にいなければなりません」

「所詮は訓練だから実戦でそのまま使えるわけがない。さっき織斑が一直線に汀の進行方向に進む場合もある。だが汀はまだ自分が使えない一零停止を無理矢理に使って回避し、また円状制御飛翔を再開した」

 つまり、

「今の汀は()()()()()()()()()んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬の説明こそ正解だった。

(気付かれちゃった!?)

 内心で叫ぶ。

 静穂は詰め込まれた知識を駆使して今の状況を作り出した。

 円状制御飛翔も、一零停止も、今の静穂には扱えない。

 すべてが模倣。上辺だけ再現された偽物である。

 一零停止はAISライフルの砲撃もかくやという反動で代用。

 円状制御飛翔に関してはあらかじめスラスターの推力を固定し、一定の間隔で推力を上げ射撃のタイミングをそれに合わせる。それでなんとか追突事故は防げた。

 円周軌道に関しては事前のプログラミングだ。一度立ち上げればその通りに機体が動く。相手の攻撃さえ耐えられれば射撃にのみ集中できる。一夏が剣しか扱わないのは救いだった。それは静穂の読み通りである。

 セシリアは事前に一夏の武装を予測するようなことはしなかった。それは彼女自身の驕りもあっただろうが、なにより相手の機体情報が全くないがためだった。初心者の静穂に間違った事前情報があってはいけないというのが彼女の本心だったが。

 そこで静穂は推測した。あの篠ノ之 箒が一夏の背後にいる。二人が幼馴染ということは一夏も剣を握った事があってもおかしくはない。全中日本一は一夏に剣道を教える筈だ。ISの経験など自分と同じくほぼ初期値なのはわかっている。さらに自分の様に銃を練習してはいない筈だ。今回指導者の立場である箒は銃がどうにも自分に合わないと言っていたし。

 よって一夏が頼りにする武装は剣であると読んだ。読んだからこそ円状制御飛翔を採用し、序盤は剣の間合いに付き合ってハンドガンで確実にシールドエネルギーを削る。その後で遠距離から勝ちに行く作戦だった。

 懸念材料はAISライフルの命中率、静穂自身の経験不足。それが最初から遠距離戦を選択できなかった理由になる。

 そして作戦は失敗した。結構な数を撃ち続けたが一夏は健在。ライフルの命中率も振るわず、強引な一零停止で体の節が痛む。

 一夏は剣を構え自分が寄ってくるのを待っている。軌道を上下にずらしても追いついてくるだろう。この状況で撃っても外れるか避けられるか。プログラムを解除して遠距離を続けるか? そうすればライフルの装填中に接近されるだけだ。むしろその間に斬られる。何度も。ハンドガンでは取り戻せないくらい。

(だったら)

 もう一度の接近戦。

 勝算は、ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静穂は加速した。AISライフルを突撃槍(ランス)の様に掲げ外周を行く。

 一夏は構えた。剣を正面、正眼に持っていき迎え撃つ。

 距離が近づく。

 静穂は撃たず。

 一夏は待つ。

 ――近づく。

 剣の間合いまで――

 

――今っ!!――

 

 一夏が振り上げる刹那より速く静穂が()()()

「っ!?」

 振ったのは横方向。外周方面。

 そして撃った。

 反動で静穂が捻り回転。一夏の頭上に一旦上がり右肩から足にかけて抜けていく螺旋を描く。

 高速で視界が動く静穂の左手にはハンドガン。右のライフルは直後に手放してある。

 照準などいいからとにかく撃つ。そのつもりだった。

 ――そこに一夏の剣があった。

「!?」

 読まれていた。事実は一夏が追いついたのだ。

 右に抜ける静穂を一夏はわずかだが捉えていた。振り上げた剣をその位置から右後方に振り下ろす。

 一度似たような手で抜けられた経験が生んだ偶然。前回と違うのは停止せず通り抜ける事。

 身体を捻り振り下ろした剣は静穂のシールドを切り裂いてジャージまで巻き込んだ。

 一夏と静穂の目が合った。

 静穂は目を見開いていて、

 すぐに細めて笑った。

 切り開かれた胸部からは偽乳に使われたタオルと、

 

――2個の手榴弾――

 

 観客の悲鳴も瞬きも置き去りにして、爆風と火が二人を覆い隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傷の事、もう触れたりしないから、許してくれよ」

「最初から怒ってないけど、許すよ」

 

――勝者、織斑一夏――

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