『ケイジ様、川ですね』
「知ってる」
副長からヒセコーへと肩車してくれる人が変わったのはいい。視線がちょっと低くなってごわごわした副長の体毛からそこそこふかふかした毛皮にランクアップしたからだ。
乗り心地が良くなったのはいい。風がびゅうびゅうと耳元で鳴る速度で駆けていたので落ちそうになったのもいい。
ぎゅっと捕まってたのが皆から羨ましがられているのは…………もう無視する。
明らかに俺がマスコット扱いされてる気がする。やはり弱いからか?天井に顔をぶつけた程度で気絶してしまったからか?
この話は哲学になりそうだから一旦置いておこう。それよりも眼前に広がる大きな水流の事だ。
確かに川と言ったら、船が必要なくらいかなり広いものから頑張ればジャンプで飛び越せるようなものまである。
圧倒的に前者だった。
無理だよ、浅瀬ならまだ生身でも安全そうに見えるけど、2.3mも離れたら一気に深そうに見えてくる。
「いやー、2日ぶりの水浴びか」
「えっ」
「私なんて3日ぶりだもん!いっぱい遊ぶぞー!」
「えっ」
『ケイジ様、彼らの清潔の概念は相当薄そうです』
「し、知りたくなかった…………」
副長とヒセコーの言葉に数瞬も絶句してしまった。
匂いについては一切言及はしていなかったが、確かに彼らは獣臭さはどうしても残っている。あえて前向きに言うと自然に存在する獣ような感じの匂いだ。
狩りをしている手前、相当な臭さを持っているという訳でもなくほんのり溶け込むような臭いと言っておく。
それはそれとして日にちが結構開いてからの水浴び…………?
俺もあんまり変わらないな。転生してから再度目覚めるまでの記憶が飛んでいるとはいえ俺も普通に風呂に入る回数は少ない方だ。
だって、風呂に入ってる間に研究とかしたいし…………ダメ?
「いやっほーい!」
「よっしゃ、俺も俺も!」
「すぽぽーん!」
あまりにもワイルドという言葉が似あうように、各々が皮鎧と服を脱ぎ捨ててざっぷーんと勢いよく川へ飛び込んでいく。
脱ぐのか?ここで?マジで?服放置しっぱなしで?
ひらひらと飛び込んだ人数分だけ服が舞って落ちる。
後で洗濯とか必要なんじゃないかと若干的外れと自覚していることを考えつつ、実際に裸になったところを見たことが無かったため観察に徹する。
骨格は明らかに人間ベース、四足歩行の動物特有の関節ではなく地に足をしっかりつけている。
そして何よりも毛皮、手のひらと足裏、そして顔の一部以外は全て生えている事が確定した。
強いていうなら股周りがよく見えないため観察のしようがないくらいだ。
まあ、排泄周りは毛が無い、もしくは少ない種族が多いから考察もあんまり必要ないか。
にしても、男女ともに気軽に脱いで水飛沫を上げながら泳いでるな。
毛皮は濡れて細く見えてるが、その分余計に筋肉のラインが見えている。
それに女性の方々はブラジャーもつけていないため、その、ばるんばるんに揺れている。
こほん、ちょっと真面目なことを考えよう。
毛皮に水分を含んで重くなるのは当然として、全員がムキムキでバキバキに割れた腹筋を有してるのが毛皮越しに分かるほどの筋肉量であるからこそ不思議に思う。
全く沈んでない。
筋肉は非常に重いことはご存知だろうか?
ボディービルダーとデブ同じ体重だとしてもデブの方が水面に浮かびやすいのはよく聞く話だろう。沈むのであればデブが運動音痴過ぎるだけだ。
彼らは間違いなく前者であるが、まあ浮く方法はそこそこある。
「おーい!泳がないのか!?魚もいるぞー!」
「泳ぐ?泳ぐ?」
「いや、脱がないとダメだからやめておく」
今更だが、目的が魚取りということを忘れてないか?
ガッツリ服を脱いで泳いでるけど、女性は毛皮のおかげで乳首は見えていないが男はモロにぶら下がっているのが見えている。
『ケイジ様、モザイク機能を有効化しますか?』
「いらんいらん」
妙な機能があるなぁ、と思っていたら彼らが泳いでいる所から上流の方、大体20m先に何かが跳ねるのが見えた。
「ん?あそこに魚が跳ねたな」
「跳ねる音もしたねー。やっぱケイジくんって耳がいい?」
「
「お前ら!槍配るぞ!」
泳いでる皆に副長がずっと抱えていた樽の蓋を開けて細長い、いや俺からしたら普通に太いが彼らにとっては細そうな槍を投げ渡す。
水面で上半身を出しているが、割と中州の方へ寄っているため相当頑張って浮いているのだろう、そこに槍を渡す方法がほとんどないとは言え投げるのは危険じゃないか?
それは杞憂だと言わんばかりにキャッチしていく彼ら彼女らを見て身体能力だけは相当あるとだけ強く伝わる。
「ケイジの晩飯のために獲ってこい!たらふく食わせてやるんだ!」
「「「「「おおー!!!」」」」」
「張り切りすぎて乱獲しないか心配だが?」
「なに、一回取り尽くしても7日あれば元に戻る」
「やっぱり供給がおかしすぎる…………」
生物は一度獲れば新しい個体が成長するまでどれほどかかるとお思いで?
やっぱり川の成分も調べるべきか。何らかの鉱物、微生物、植物が混じってるのは当然としても口にするモノだから不安になる。
あれらをずっと食べ続けていたら俺の身体も新人類のようなケモノみたいになるのだろうか?
ちょっと怖い考えだが、それもまた浪漫の1つだろう。
実際のところ、俺は上位存在の不手際で死んだから記憶を持って人間に生まれ変わっただけで、そこらの畜生や虫にでも生まれ変わる可能性だってあった。
何事も臨機応変、流石に知性が無くなるのだけは無くならないように避けるくらいだ。
「っしゃあ!一番槍だよ!」
ざっぱんと水面から飛び出したのは耳が丸い…………パンダ?多分パンダ型獣人の女性だった。
それはもう凄い勢いで膝上が飛び出すくらい飛び出していた。筋力だけであそこまでなるの普通に凄い。
そして手に持つ槍の先端には魚が刺さっている。
あれは…………サーモン?それにしても刺々しい尾びれ背びれだし、鼻先が鋭くとがっている。
明らかに他生物を殺すための機能にしか見えない。しかも開いている口からは鋭い歯がみえているから明らかに微生物ではなく小動物、もしくは自分より大きな生物を食い殺すためのものだ。
こっわ、俺が何の対策も無しに川に入ったらかみちぎられていた可能性が高い。
「こっちも取れたよー!」
「負けるか!こっちだって…………うおぁーっ!?」
「やっべ、ヌシがでたぞ!」
「囲え囲え!今日の晩飯だ!」
『ケイジ様、ヌシと呼ばれた魚類の体長、推定6mです』
「人食い魚???」
なんかホラー映画でよくある鮫のことが脳裏によぎるが、彼らがぽーんと水中から弾き飛ばされて宙を舞っているのを見てると妙に違う気がする。
それによく見ると平べったい…………何だあれ、ナマズ?
「刺せ刺せ刺せ!いいとこ見せるんだ!」
「あ!一人のみ込まれた!」
「吐き出せ!オラァ!」
なんか昨日見た大獣みたいなレイド戦になっている気がする。
あ、副長も飛び込んだ。待ってくれ、今飛び込んだ副長は槍を持ってなかった?
「今日の晩飯はテメェだ!」
叩いた!素手で思い切りヌシの頭を素手で叩いた!万力のような力と鋭い爪を出して抉るようにヌシの頭を叩いた!
思いっきり本能がクマなんだよ、やっぱり頭部や遺伝子的にも攻撃手段が決まったりするのか?
川で魚を捕るのがここまで大変なら、果たして海での漁はどうなってしまうのか。
そんなことを思いつつ、最終的にヌシを討伐し他の魚も併せて山積みになった魚を見てこれ食わされるのかと俺は恐怖するのであった。
続くとケモ達もっと出せるかもしれないので感想よろしくお願いします。