ラーラと呼ばれた兎型獣人は夜になっても元気だった。
本来なら寝付く時間になってもギンギンに目がさえていた。
音もなく廊下を走れるほどに、それはそれは元気であった。
「ふっふっふ(超小声)、待っててねケイジくーん(超小声)」
兎であると同時に誰かと触れ合うのが好きな彼女は、ことさらに子供が大好きだ。
ショタコン、ロリコンと言った類の言葉が軒並み死滅している昨今では止める者は少ない。
夜間の警備もはっきり言うとずさんなもの、野生動物が迷い込まないか見ている程度だ。逆に言えば、外敵は居ないという証明でもある。
なんやかんやと結束が強い彼等は裏切ろとはよほどのことがない限り思うまい。
よって、夜の廊下はラーラ1人が歩いていようと誰も気にすることは無い。
「たしか…………そう、ここ!(超小声)」
そしてたどり着くケイジが泊まる子供部屋。
どう見ても子供なのに大人だという様子はとても可愛らしい、ラーラだけでなく誰もがそう思っている。
なので子供部屋を割り当てており、今のところ不満の声は上がっていないのでそのままになっていたりする。
自分の身長の半分と少しあるかないかの子を愛でるのは当然の権利、と思っている。
ただ、身に纏っている金属の服は気になるところではあるが、大した重さではないためいくらでも抱っこは可能。
ドアノブをゆーっくりと回し、足音も立てずに子供部屋へと侵入する。普通に不審者である。
「おっじゃまーしまーす(超小声)」
抜き足、差し足、忍び足とつま先の身を床につけて歩く不審者。身体のスタイルが良いからといって許される行為ではない。
美人に似合わぬにやけ顔(ケモ社比)を暗闇で見せながらも、長い耳を立てて寝息がする方向へ耳を傾けていた。
だからこそ、いや、むしろ今まで気づいていなかったのがおかしかったくらいの小さな音が耳に入ってくる。
寝息がする方向とは別に、扉の裏から聞こえる金属が擦れる音。
自分よりも前に誰かが待機していた?そう思いばっと振り返る。
しかし、自分の視線の高さに合う者は誰も居ない。
気のせいと思い首をかしげたが、誰かが、いや何かが腕を掴んできた。
それは小さい手のようで、しかし妙に力強く引っ張ろうとする。
体格差で何とか耐えたラーラであったが、一体誰が潜んでいたのか見下ろす…………のだが自分の乳が大きすぎて見えなかった。
引っ張ることが出来ないと判断した誰かはラーラの胴体に張り付くようにしがみつき持ち上げようと切り替えてきたのだ。
下手人が自分の下に居ることは即座に理解し、この一瞬だけではふんわりと数センチ程度しか持ち上げられなかったようでつま先で床を叩き跳躍することでしがみついてきた何者かと共に天井近くまで飛び上がった。
「あれ?もしかしてケイジくん?」
このしがみついてきた小ささに覚えがあったラーラは空中で体勢を整えしがみついてきた何者かを引きはがす。
胴体のさわり心地もケイジの服の感触そのもの、他にあの服を着ている子供はこの街に存在しない。
だから、普通に油断していた。
『……………………』
まさか、まさか。
「え゛」
引きはがしたら首無しのケイジだったなんて思いもしないのだから。
「きゃーーーーーーーーーーーっ!?」
「何だ!?襲撃か!?」
いきなりお化けを見たような恐怖でラーラが叫び、ベッドで眠っていたケイジが飛び起きた。
ガタガタと震えながらも首無しケイジを離さないラーラに洗礼された動きでゴーグルを装着し枕元に隠していたショットガンを構えるケイジ。
2人とも一体何が起こっているのか分かっていないがこの大声により目覚めた者は数多く。
少しするとドドド、と大きな足音を立てて子供部屋に突入するケモノ達が集まってくる。
ぽかん、と一番最初に状況を判断できたケイジは部屋の中で灯りをともし、それでもなお首無しケイジを離さないラーラに呆れた目を向けるのであった。
「で、言い訳はあるか?」
「あ゛り゛ま゛ぜん゛」
俺だ、寝込みを襲われた…………襲われたのかもしれないケイジだ。
そして目の前にはたくさん集まったケモ達。俺の方が恐縮しそうなくらいなのに正座しているケモのせいで若干引くことしか出来ていない。
お姉さん系兎型獣人であるラーラがボコボコにされる現場を見て部屋の隅っこに縮こまる事しかできなかった。
物凄いリンチだった…………俺の様な旧人類が止めに入る隙も無かった。
『ケイジ様、あの間に入れば死亡率が48.25%上昇します』
AIがいつもよりやや早口っぽい言い方で断言してきたため本当に何もできなかった。
毛皮があるというのにたんこぶだらけだということが分かるほどはれ上がっており、何なら片目も開いていないくらい腫れている。
その上、鼻血まで垂らしているのだからどれほどの暴力が起きたのかは…………
「いい加減にしろよ?子供が好きだからってやっていいことと悪いことがあるだろ?」
「それも夜中にキャーキャーわめいてよぉ」
「だ、だっで、おおおお、お化け出たもん…………」
ぐずぐすと半泣きになりながらも言い訳をするラーラ。護衛として脱いだスーツをAIに任せて見張り役に刺せていたのが良かったのか悪かったのか…………
確かに何も知らなければ首無しの俺が動いていたかのように見えただろう。
それでもさっきAIに教えてもらったことによると、余裕で抱っこされていた為に防衛機能としては落第らしい。
まあ、軽量パワードスーツでどうしようもないからな。俺が中に入っていたとしても力技の前に成す術がなかったのかもしれない。
科学記述を持ち込んでいたところで、こんな体たらくでは異世界チートとか言えないな。
「居る訳ないだろ!ここは魔除け張っているんだぞ!」
ちょっと待て、お化け自体はいるの?
「そうだそうだ、新月の時にでっかいのが出ただろ。それでタイチョーが渋々魔除け石を飼って配置してくれただろ」
「で、でもぉ、首無しがぁ!」
「そんなレア個体が城内に沸くわけないだろ!日が昇ったら懲罰だ!」
「うわーん!そんなー!」
なんだかちょっと申し訳ない気がしてきた。
いや、寝込みを狙ってきたんだから自業自得か。
というか首無し、もといデュラハンの様な奴もいるってこと?獣人ばかりで明らかに異世界って認識は湧いていたとはいえ幽霊も居るんだな。
まだ目覚めてから二日しか経っていないんだ、未発見の知識はたくさんある。
今度こそ首根っこを捕えられ引きずられていくラーラを見送り、誰も居なくなったことを確認して軽量パワードスーツを脱ぐ。
先ほどの騒ぎの通り、中身が空のまま自律して動いていた軽量パワードスーツが原因で騒ぎが起きたことはすぐに理解できたから皆が駆けつける前に急いで着用したのだ。
こんどこそゆっくりとふかふかのベッドを肌で感じて寝よう。
そう決意してベッドへと飛び来み、夜遅くの空気を感じながら目を閉じるのであった。
…………みんなが急いできたから若干ケモ汗臭い気がした。
続くとケモ達もっと出せるかもしれないので感想よろしくお願いします。