【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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1:ダチョウは私

 

皆さんはダチョウと言う生き物をご存じでしょうか?

 

2mを優に超える巨体を持ちながら時速60㎞で走ることが出来る上に、スタミナも豊富。最高速度を保持しながら一時間程度走り続けることが出来るという圧倒的な肉体性能を保持しています。さらにただ速度が速いだけでなく、なんと目の良さも驚異的であり5㎞先まで見渡すことが可能。翼を動かす筋肉が退化してしまったため空を飛ぶことはできないものの、まさに陸上の王者に相応しいスペックを持っていると言えるでしょう。

 

そんな肉体性能も驚異的ですが、ダチョウたちの一番の力はそこではありません。

 

そう、回復力と免疫力です。

 

その回復力は驚異的であり、骨が見えるほどの怪我でも完治することが出来、人間の場合縫合せねば助からないようなものでも数週間経てば回復してしまいます。そして傷口が開いたままでも完治できるほどの免疫力。免疫が高すぎて昨今世界で猛威を振るっていたコロナウイルスですら抗体を作成しピンピンしているほどに強力。ダチョウは病気で死なないと言われるほどの性能を誇っているわけですね。

 

さて、そんな驚異的なスペックを持つダチョウではありますが、なんとこれらの利点を全て台無しにする欠点がございます。

 

 

「そう、バチクソにアホ。」

 

 

三歩歩いてすべてを忘れるなど序の口、自分の群れのメンバーの顔を覚えられず、もちろん子供の顔も覚えられない。二つの群れがすれ違ったが最後、メンバーがごちゃごちゃになってしまっても誰も疑問に思わない。誰かが走り出せばただ本能のままについていくが、三秒経たずとも頭の中が空っぽになるので走り出した理由は誰も解らない。挙句の果てには人がその背に乗っても最初はびっくりするが数秒後には人が乗っていた事実を忘れそのまま生活し始めてしまうという体たらく。

 

先ほど驚異的な視力をもつとお伝えしたが、その目玉一つより脳みその方が小さいといえば先ほどのアホさ加減も理解していただけるのではないだろうか。

 

最強とも呼べる肉体性能を得るために知能を売り渡した悲しき生き物。それがダチョウ。

 

そして、付け加えるとすれば……。

 

 

今世の私の種族が、そのダチョウの獣人である。ということである。

 

 

 

「どぉぉぉぉしてだよぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

わたくし、前世で男だった者。種族は勿論人類。

 

おそらく、たぶん、五歳ぐらいの時に記憶を取り戻したメスのダチョウ獣人だ。まぁ本当に五歳だったのかはわからない、何せ獣人になってもダチョウはアホでね。いくら教えても年月の概念どころか昨日起きたことさえ覚えていないものが大半だ。繰り返し脳に叩き込むことでようやく『太陽が出てる時は"朝"、暗い時は"夜"』という名前を教えられた程度。それですら群れの大半が難しすぎて理解できてない。何年前~とか解るわけがない。

 

それは勿論記憶が戻る前の私もそうで、生まれてから五年たったぐらいの雌の個体の大きさがこれぐらいだから……。多分ごさい! というカウントをしている。適当だけどまぁダチョウだし許してヒヤシンス。

 

当時他のダチョウ獣人たちと同じように、とてつもなく阿呆だった私は何かに躓き思いっきり地面に頭をぶつけてしまうという事件が起こる。その瞬間に運よく? 過去の記憶を思い出せたってワケだ。まぁ普通ならそれで万々歳なんだけど……、やはりダチョウは格が違った。

 

外傷自体は持ち前の回復力ですぐに治ったが、脳みその方は全く以って無事ではなかったのだ。

 

何せ通常ダチョウでクルミサイズの脳みそだ、いくら獣人化したとは言え脳みその小ささはそう変わらない。そんなミニマムな脳みそに人の一生、人間が生まれてから死ぬまでの記憶をぶち込まれたらどうなると思う?

 

 

そうだね、爆散だね。

 

 

情報量に耐え切れなくて大爆発。小さすぎて多分音的にはプチって感じの小さい音だっただろうが、とにかく私の脳ははじけ飛んでしまったワケだ。ほかの鳥系獣人、いやそもそも生物であればその場でジエンド。なのだがこちとら回復力チートのダチョウさんだ。理解不能な驚異的回復力を以って再生を開始。

 

脳内?のマリーアントワネットから『脳みその容量が足りないのなら増やして作り直せば良いじゃない。』とのお言葉を賜り、地獄の再生パレードがスタート。さっきよりも脳みそがちょっとだけ大きくなって再生するが、やはり耐え切れなくて爆散。失敗を活かしもう少し大きくなって再生するが、やはり大きさが足りずに爆散。

 

爆散しては再生。爆散しては再生の繰り返し。半年程度の時間を要した後……、ついに人間と同等レベルの脳を取得した私は、前世の記憶と思考力を持った完全無欠のダチョウ獣人として復活したのである!

 

 

そう! ダチョウの最大の弱点であるおつむの弱さ! それを克服したのだ!!!

 

 

まぁそれで終われば良かったんだけど………。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ………。」

 

 

「どした?」

「どした?」

「おなかすいた?」

「ごはん?」

「ごはん!」

「ごはんだ!」

「ごはん! ごはん!」

 

 

私の大きなため息に何事かと一斉に寄って来るウチの群れの方々。最初は心配そうにしてくれていたのだが、誰かが"ごはん?"と言ってしまったせいで今から飯を取りに行くという群れの方針が決まってしまった。そう、完全生命体グレートおつむパワーMAXダチョウ獣人に成れたのは私だけ、それ以外全員アホなのである。

 

私よりも大人のダチョウも、子供のダチョウも、同年代のダチョウも。みんなダチョウと人類がミックスした感じの姿形なのに、とてつもなくアホなのである。一応簡単な言語を扱える程度の脳みそは持っているようだが……、良くて三歳児だ。いやそれだと三歳児サマに失礼かもしれない。

 

まぁつまり、簡単に言ってしまうと私は記憶を取り戻してからずっとエンドレス育児。自分よりも大人の図体を持つ保育園児たちを纏める先生になってしまっている。

 

 

「ごはんじゃないよ、何もなし! そもそもさっきメシ食ったばっかりでしょうが。」

 

 

「たべた?」

「たべた!」

「なに?」

「ごはん?」

「ごはんだ!」

「ごはん! ごはん!」

 

 

「…………。」

 

 

駄目だこりゃ。

 

実は何度か色々耐え切れなくなって逃げだそうとしたことがあるのだが、こいつらダチョウのスペックを甘く見てはいけない。誰かが走り出したらとりあえず付いて行く性質を持つダチョウは、獣人になっても何も変わらない。おそらく群れの中で私が一番賢いということを本能で理解した彼らは、いつの間にか私を頂点とした社会。保育園のクラスを何となく結成、私という先生役が行こうとしたところについてくるという習性を獲得してしまった。

 

そのせいでずっと、ずっと付いてくるんすよこいつら……。

 

昼間は勿論駄目だし、夜中に隠れて抜け出そうとしても野生が強いせいか群れの中で絶対に起きてる奴がいる。そいつが夜のお散歩だと勘違いしてついて来たら自動的にみんなついてくる。こんなものは序の口で、うまく距離を稼げても目の良いこいつらは何故か私を見つけてくるし、その上足も速いもんだからどうしようもない。挙句の果てには違う群れの奴らが自分の群れと勘違いして勝手に加入。どんどんと数が増えてしまっている。

 

 

(最初は十数人だったのが、今じゃかるく三桁超えてるもんなぁ……。)

 

 

通常のダチョウであれば群れで一番強いオスが群れの頂点に立つのだが、獣人化したせいか元々の性質が非常に温和になり、ダチョウ獣人は同族間での争いは滅多にしない。みんな基本ニコニコしてるし、仲間意識が非常に高いので助け合う社会を構築している。半年間寝たきりの私がこの群れで守られていたというのはそれのおかげだ。

 

まぁ最初はその恩を返すために色々口出ししたり、こいつらができない料理(焼くだけとかそんなレベル)していたのだが……。それがまずかった。彼らの中で私の地位がどんどん上昇し、『なんか言うこと聞いとけば狩りが上手くいく!』、『なんかごはんあげたらもっとおいしいごはんをくれる!』という刷り込みをしてしまい、いつの間にか群れのリーダーになってしまったのだ。

 

……私メスだぞ? ええんか? ええんやろなぁ……。

 

 

「おらお前らー、メシ取りに行くぞー。腹減ってなかったらとりあえず保存食にすればええやろし、単純作業ならお前らでもできるやろ。というかできて? お願いだから。」

 

 

「ごはん!?」

「ごはん!」

「ごはんだー!!!」

 

 

「はいはい、ご飯ですよ。おら、続けー!」

 

 

「「「わーい!!!」」」

 

 

はいはい、お前ら元気ですねぇ。

 

にしてもこの世界何なんだろね? とりあえず私らみたいな意味不明な存在がいることから異世界なことは確か、その上私らがよく食料として狩りの獲物にするような動物も地球じゃ見たことの無い様な存在がうじゃうじゃいる。どう考えても昔人間として過ごした地球ではないだろう。

 

地面から飛び出してくる長さ十数mの焼くと美味いミミズとか、私らダチョウの目でも追うのがちょっと難しい速度で飛び回る鳥とか。ゲームとかアニメじゃ"魔物"として判別されるようなものもたくさんいるわけですからな。こんなもん地球にいたら大騒ぎですぜ。いやダチョウ獣人もいたらいたで大騒ぎだけどさ。

 

 

(あとなんだ、群れの子供が何かで遊んでると思ったらスライム踏みつけてたことがあったりしたなぁ。)

 

 

とにかくそんな化け物たちは、ただの人間だった頃では到底敵わなかった相手ばかり。ダチョウというフィジカルエリートの肉体を以って、前世の記憶と知性による補助を受けてようやく勝てる相手が半分くらい。群れで囲んで勝てそうなのが残りの更に半分。もう半分は逃げるしかない相手。私たちが住むサバンナみたいなこの高原は正に魔境。

 

ダチョウですら難しいというか、ダチョウだからこそ生き残れているというレベルの環境なワケ。そんな場所のせいか、私たちダチョウ獣人以外の知的生命体には会ったことがない。私らみたいな獣人? 鳥人? がいるということはそれ以外の種族をモチーフとした獣人もいるだろうとは思っているのだが、その痕跡すら発見できていない。

 

 

(手の代わりに翼に成っちゃったこれで、飛べればいいんだけどねぇ。)

 

 

そんなことを考えながら自分の翼を見る。人として慣れたお手手はすでになく、色々と扱うのに慣れてしまった羽の塊がそこにあった。私らダチョウ獣人の見た目はよくあるハーピィとかと同じ感じだ。腕と足が鳥になってて、それ以外が人間のもの。まぁダチョウってことであんなほそっちぃ軟弱な足も腕も持ってないけどね? とっても太い。

 

最初は色々扱いに戸惑ったが、今では簡単な作業。人でいう肘の部分や翼の先をうまく使って簡単な道具ぐらいなら作れるし、扱えるようになった。だけど元々の性質が浮力を得るものじゃなくて、熱の保持や方向転換の時の支え、後は静電気への守りのために進化したものだ。空を飛ぶ能力を引き渡した代わりに、ある程度の防御力と驚異的な環境適応力を得た感じ。ま、そこは普通のダチョウと同じ感じだね。

 

 

(ほかの種族がいれば。いや、せめてまともな会話が成立する相手がいればいいんだけどなぁ……。)

 

 

高原を走る私についてくるこいつら、おそらくもうすでに自分がなぜ走っているのか理解できていないこいつらは愛すべきおバカではある。その性質は温厚で善良、会話は成立しないが仲間への思いやりの心が非常に強い。人間なら三桁集まれば何かしらのもめ事が起きるものだが、こいつらは四桁集まろうが五桁行こうが何も変わらないだろう。

 

こいつらと共にいるのは別に悪くないし、ダチョウ獣人の血のせいかともに走る時間は心に安らぎを与えてくれる。群れの長として慕ってくれているのは理解できるので、それに応えてやろうという気持ちにもなる。この過酷な環境に於いて数は力だ、どれだけ数が増えようとも構わないんだけど。……もうちょっと賢くなってくれないだろうかとは常々思ってしまう。

 

"会話"が! "会話"がしたいのだ……!!! せめてさっきまで話してた内容が消え去るような相手じゃない奴! ちゃんと同じ話題を1分以上続けてくれる奴! たのむ! マジでたのむ!

 

 

(そんな風に、いるかどうかも解らない神に祈り続けて10年近くか……。このまま、こいつらのリーダーとして一生を終えるのかなぁ。)

 

 

体はメスではあるが、心も精神も地球で過ごした人類のもの。同族のオスはもとより、メスにすら私の"欲"は反応しない。私たちは獣人だが、ダチョウの要素を数多く引いているためか繁殖期があり、卵生だ。同じ年齢と思わしきメスは普通に番を見つけて出産? 卵を産んでいたのだが私には全くそういうのは来ていない。まぁこいつら見た目は大人でも精神が幼過ぎて……、うん……。

 

 

(まぁそこは別にいいや、どっかの女王様と同じように『群れの長』という役職と結婚した扱いにしときゃいいだろ。同族だけどなんか違う存在として見られてるせいか私に求愛行動? してくるやつもいないしな。)

 

 

気軽な独身生活でも楽しみますか、と気を無理矢理切り替えていると、私の後方の右側を走っていた奴から声が上がる。これは私への報告ではなく、何か見つけちゃったから声を上げちゃった、というものだ。この愛すべき阿呆どもに団体行動などできるわけがない、本能に染み込まれた危機管理のための行動の一つだ。

 

そちらの方へと顔を向けてみると……、土煙が上がっている。この高原で土煙が起きるってことは何かしらの自然現象か、戦闘が行われているのかのどちらか。今回は煙の根元に黒い影が見えることから後者だろう。

 

 

「同族なら救助、化け物同士の戦いなら……。漁夫の利か。」

 

 

ダチョウの目をもってギリギリ見える距離で上がる土煙。確かにあれからは大きな生物、もしくは群れが動いていることが推察できるが、今の群れの数を考えると十二分に対処できるサイズだと推察できる。ウチの群れは数も多いし、割合は少ないが子供もいる。食い扶持の維持ってのは必要だ、こっちの指示を聞かずに突撃しちゃった場合ちょっと怪我人が出るかもしれんが狩れないサイズではない。

 

ちと非情な話にはなるが、怪我人が出たとしても数週間あれば全快してくるのがダチョウ獣人だ。多少ケガの回復のため必要になるカロリーは増加するが、それぐらいなら実質ノーコストと言っていいだろう。この高原は過酷ではあるが、色々と自然豊かな地帯だ。狩場はいくらでもある。

 

さ、そうと決まれば殺りに行きますか。

 

 

「よーし、お前らあっち行くぞ! 狩りだ! 狩り! ほら返事ィ!」

 

 

「「「はーい!!!」」」

 

 

 

羽を広げ、大きく傾ける。速度を維持したまま方向転換し、土煙の根元へと舵を切る。さぁって、大物だといいんですけどねぇ……!

 

 

 

 

 

 

 

そんな、なんでもない日々のひと時。私の死ぬまで変わらないと思われていた日常が終わりを告げるまで、あと五分。

 

いや言い換えよう、ちゃんとした知的生命体に遭遇するまであと五分! 10年ぶりの人間だァ!!!

 

 

 

 








〇ダチョウ獣人

辺境の高原地帯に生息する獣人、非常に高い戦闘能力や環境適応力など様々な能力を持つがその代償としておつむが究極的に弱い。他の鳥系獣人、鳥人もあまり平均知能が高くないが、ダチョウ獣人は驚異的で数秒前のことを普通に忘れてしまう。何度も繰り返し叩き込めば何とか記憶することが出来るが、その可能性は単発ガチャの如し。

彼らが住む環境はダチョウであっても生き残るのが難しい場所であるため、代を重ねるごとに様々な者が淘汰されていき最終的に温和で仲間思いな種族として定着するまでになった。その性質のおかげか、それとも頭が弱すぎるせいかは解らないが、群れの数がどれほど大きくなろうともみんなで助け合って生き残ることが出来る。(まぁ元々の群れのサイズも覚えてないし、横にいる奴の顔も3秒後には忘れる。)

あまり群れすぎると良いエサとして魔物に狙われてしまうため十数人の群れで行動する、正確には増えちゃった群れが自然に淘汰されたちゃうのだが、優秀なリーダーを手に入れたことでたくさん集まっても身を守れるようになった。リーダーの指示に従えば生き残れるし、ごはんがたくさん食べられることを本能的に理解している様子。

なお、名付けられてもそれが自分の名前であると結びつかないし、すぐに忘れるので個々を表現する言葉はない。『なかま』(同族)か、『なかまじゃない』(それ以外か)である。



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オールマイティ・ラボ様の動画をキャラクター設定の参考にしております。

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