【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~ 作:サイリウム
此方は後編になります。前編からお読みください。
「ん~???」
「そうそう。お肉にね、お塩をね、塗り込む感じ。……できる?」
「できる!」
「うん、出来てるよ。ほら一緒に、ゆっくり丁寧に、ね?」
側に付いてやりながら、干し肉を一緒に作ってみる。
高原にいた頃は興味を持たれなかったというか、周囲への警戒に意識を持っていかれていたので、彼らが一緒に作業してくれることは無かったが……。この場所が安全なのはコイツらも理解しているのだろう。隣で同じ行動を見せてやれば、かなりたどたどしいが繰り返してやってみてくれる。……でも塩とか肉汁とか色々飛び散っちゃってるから、終わった後全員風呂だね、こりゃ。
とまぁそんなわけで始まったのが、第一回ダチョウ獣人食育チャレンジ、干し肉編だ。
結局街からの食糧支援は駄目だったというか、担当のアランさんがぶっ倒れたままだったので、全員で腹ごなしの運動としてちょっと森の中へ移動。偶々見つけた牛っぽい魔物を入手し、帰って来た形になる。
(んでまだ生きてた兵士さんたちに頼んで塩を持って来てもらって、それで作ってみてる~って感じだね。)
ちなみにさっきまでの食事で疲労困憊な人が多かったので、ウチの保育園で稼働できてる先生はほぼ私だけ。
新任のアメリア先生から、かなり不安そうな視線が送られたが……、これでも10年連続フル連勤のスーパーダチョウ獣人だ。レイス園長先生の前では、300人の園児なんて余裕余裕。完璧にお世話して見せますわ!
……って、言えたら。良かったんだけどねぇ。
「おっおー。」
「……できた!」
「ごはん?」「ごはん!」「ごはんだ!」
「あ~!!!」「こねこね?」
「……しょぱい!!!!!」
「う~ん、9割ぐらいそのまま食ってるな。は~い、そこの奴はお水のもうねぇ。」
塩塗れのお肉を食べちゃった子を抱えながら。水を汲み置いてあるエリアに輸送し、たらふく飲ませてやる。
途中までは出来てたんだけど……、ちょっと目を離した隙に食べちゃうねぇ。
私が側について一緒にやれば頑張って作業してくれるのだが、それ以外はなんというか『しっちゃかめっちゃか』な感じだ。自分が何をしていたのか思い出せず隣の子とお話しし始めちゃうダチョや、みんななんか座って作業してるっぽいので真似っこして目の前の虚空を捏ね始めるダチョ。小腹が空いたのか肉をそのまま食べちゃったのはまだいい方で、若干べそかきながらお水を飲んでるこの子のように、丁寧に塩を塗り込んだ肉を飲み込んじゃった子までいる。
え? 舌がしょっぱくてピリピリする? そりゃ超塩分過多だからねぇ。沢山水飲むしかないかな。ほら飲ませてやるからもうちょっとこっち寄りなさいな。
(まぁでも、こういう経験。あったほうがいいよね。)
あんまり上手くは行っていないが、塩を使わず単に乾燥させるだけの干し肉は既に加工済み。そして私が隣について作業していた分の干し肉も、既に隔離が完了している。つまり、かなりの数が確保できているのだ。
そのため、そもそもの『干し肉の確保』という問題は解決済みだし、さっき私に『干し肉のおやつ頂戴!』と言いに来た子は、塩を塗り込む前の肉を食べてなんか満足しちゃっているご様子。当初の目的は達成していると言っていいだろう。
んで、副次目的ともいえる“食育”だが……。多分こんな感じでいい筈。
(何かの糧になってくれたらいいんだけど、ね。)
肉になじませるための塩で遊び始めちゃっている子もいるので、それは注意せねばならないが……。今日の記憶を『料理』としてとらえることが出来れば、この子たちの得難い経験になるはずだ。
なにせ、ありがたいことに大量の料理人さんたちが身近にいるのだ。今は疲労でぶっ倒れてしまっているが、ここから興味を持って広げていくには得難い“先生”であると言えるだろう。こういうのを切っ掛けに、色んなことに興味を持ってくれれば万々歳なんだよね。
この世界じゃどう考えられてるか解らないが……。
超安全な人間の支配領域に来たことで、群れの長としての仕事は『コイツらを守り食べさせていく』ことから、『より多くの経験を得させ成長を促していく』ものへと変化しつつある。前世の基準で考えれば、ちょっとは自炊できた方が色々便利だったことを考えると、料理の経験はあった方がいい。
「でもちょっと……。早かったかな?」
「あぁぁぁ!!!!」「てき!?」「たいへん!」
「しょっぱぁぁぁぁ!!!」「……おっおー」「うにゅ?」
「あぁもう、また食べちゃって……。は~い、舌ピリピリさんは、こっちに来ましょうねぇ~。」
単に乾燥させるタイプの干し肉、塩を使わない奴をやらせても良かったのだが、これだと単に切って乾燥させるだけになってしまう。
自分が何かしたという意識に繋がりにくいだろうし、面白味も少ない。なので塩を塗り込むタイプのをやらせてみたけど……。ちょっと色々早かったかもしれないねぇ。
初めて街にお邪魔させてもらった時も少し焦り過ぎちゃった感じがあるし、もう少しスピード落した方がいいのかもしれない。……アレだな。高原が『いつ死ぬか解らない状況』だったせいか、ちょっと私自身、生き急いでるのかもしれんね。10年もこんな感じだったから早々治らない気がするけど、自制していかなければ……!
(っと。他の子の面倒もみないと。)
そんなことを考えながら、300人全員に視線を配り対処をしていく。
塩でよく解らない遊びを始めたり、塩塗れ肉を食べちゃった子は水ゾーンに輸送して飲ませたり、大人しくさせたり。んでよく解らずにただひたすら肉単体や塩単体を捏ね始めた子はとりあえず褒めてあげて、隣で一緒に正しいやり方をレクチャー。
後は私の様子をちゃんと観察していたらしいデレが、隣に付かずとも上手にできていたのでたらふく褒めてあげたりも。うんうん、お前は相変わらずかしこちゃんだねぇ。とってもえらい!
他にも色々忘れて追いかけっこし始めちゃった子達に若干距離を取らせて塩が舞わないように。んで使わなくなった塩は纏めて集めておいて、壺に放り込むことで犠牲を最小限へ。あと一人で少し寂しそうにしてる子に話しかけて近くのグループに入れてあげたり、熱心に話し込んでる子たちに声かけてちょっと混ぜて貰ったりも。
……う~ん、激務!
でもコレが私の仕事だしね! バリバリやりますよォ!
「いや、貴女が倒れたら一番ダメなのだし、程々にしてね?」
「ダイジョブ! 地元ではもっと酷かったから! あと300時間はいけるよ!」
「……そのタフネスに驚くべきなのか、あの場所の規格外さに恐怖すればいいのか。この場合は両方かしら?」
そんなことをしていると、近くの天幕から出てくる彼女。干し肉の乾燥をお願いしていたアメリアさんだ。
高原での干し肉作成には、その辺の日陰に放置して隠すか、時たまみかける“規格外”の魔物が生成した砂を使用することで加工を行っていた。砂を操るタイプの魔物でね? その砂に触れた瞬間、すべての水分を持ってく感じの奴なのよ。
その砂にこう、木の枝で使った手作りのお箸でいい感じに肉を置きまして、完全に水分が抜かれて砂になる前に引き上げてちょうどいい乾燥をしてたわけです。
「いやぁ、懐かしいよねぇ。あの区域に勝てない敵を誘い込んで乾燥死させるのが一時のブームでした。……でも一部の上位勢、アレ無効化するんだよなぁ。マジで高原って何?」
「……今更だけど私達、良く死ななかったわね。」
ホントにね。めっちゃ運いいと思うよ、アメリアさんたち。
んでまぁこっちにはそんな危険物が無いので、魔法が得意なアメリアさんを投入。風系の魔法を使ってもらうことで良い感じにお肉の水分を除去。何日か天日干ししたのと同様の干し肉を生産してもらった、という形だ。
ウチの奴らのお世話で疲れていただろうに、ほんとありがとうございます……!
「いいのよ。魔法も毎日使わないと衰えちゃうようなものだし、ちょうどよかったわ。それで、完成したのを少し持ってきたのだけれど……。本当にこれでよかったの?」
そう言いながら彼女が手渡してくれるのは、正にレンガのような肉塊。
余計な脂身部分を限界まで除去し、ちょうどいい感じに水分が抜かれた干し肉だ。単に乾燥させた奴と、塩を塗り込んだ奴の2種類。ちょっと大きめにカットした奴だから、うちの子達用じゃなくて私用の奴だね~。
「干し肉と言うか、もう岩とか石のレベルよコレ。教えてくれた通りに水分を抜いてみたけれど、これだと下手な金属よりも固いというか……。ナイフで削れるのかしら?」
「あ~、どうだろ。」
二つの肉塊を受け取りながら、ちょっとだけ思考を回す。
こっちで実践したことは無いが、確か干し肉というモノはそのまま食べるのではなく、スープなどに入れてふやかしながら使う物だったはずだ。後は薄切りにして炙ってお酒のお供にしたりとか? まぁとにかく、干し肉は『保存用に調整されたもの』であって、食べ物として使用する際は更なる調理を必要とするものなのだろう。
まぁ私としても、そういう文明的な使い方をしたかったんだけど……。ほら、高原って過酷で。真面に調理する様な時間とか無かったでしょう?
そんなことを話しながら……、この肉塊。
レンガのようなそれを、“口にする”。
「えッ!?」
「お。うんうん、良い感じだね! さっすがアメリアさん! 何でもできる~!」
「そ、そのまま……! と、というか口から! 口から凄い音がッ! だ、大丈夫なの貴女!」
ゴリバキガリ。自分でも『これヤバいよなぁ』という音を出しながら、それをかみ砕いて行く。
あ~、うん。自分でもヤバいのは解ってるんですよ。でもこっちの方が色々と楽というか、眠気覚ましのガムみたいな役割になるというか。慣れちゃったというか……。この固さや音が面白いのか、ウチの奴らからも、これぐらい固い方が人気なんですよね。柔らかすぎると食べてはくれるけど、物足りない顔されると言いますか。
まぁ早い話、ダチョウは顎も強いってことだね! 多分鉄も噛み砕けるよ♡
「ん!」
「うん? あぁ、お前も欲しいの? んじゃいい感じに引きちぎりまして~。はいどーぞ。」
「……おいし!!!」
「なら良かった。」
私の様子を見ていたのか。近寄ってねだって来た子にも分け与えてみると、口から破砕音を鳴り響かせながら美味しそうに食べるダチョ。
うんうん、塩漬けしている方は流石にそのまま食べるには塩辛そうだけど、単に干したのなら私達のおやつに出来そうだね。適当に置いとくと見つけた子が勝手に食べちゃうだろうし、適当な入れ物を借りて保管しておくとしよう。普段ならそのまま皆にプレゼントしてたんだけど、今日はちょっともう食べ過ぎな子が多い。調理中のつまみ食いが頻発したからね……。
あ、でも。言い出しっぺの彼には食べさせてやるか。あの子が言い始めなかったら作ってなかったし、特別特別!
「や、やっぱり。凄いのね、貴女たち……。」
「あはー! まぁ高原で生き抜いてますから! コレ位はね~!!!」
とまぁそんなわけで、ある程度上手く行った干し肉づくり。
その後、とある食いしん坊ダチョーズが隠してあった干し肉の箱を見つけ、全部食べちゃうという事件があったのだが……。
またそれは、別のお話。
〇レイス
まだママではない彼女。けど既にママの片鱗が見えている感じ。実質ママ。宰相が町に来る前の時系列であるため、南大陸で始まる戦乱に未だ巻き込まれておらず、色々と余裕がある。そのため『これから色々出来るなぁ』と思っている感じ。
干し肉は別に嫌いではないのだが、ガムとして噛むのならフルーツ味の方が良いタイプ。
「前世の豊かな食卓が恋しい! 味噌! 醤油! 米!!!」
〇アメリア
まだお婆ちゃんではないが、実質お婆ちゃん()。ダチョ達との交流を始めてからまだ日が浅く、そのスペックに驚くことが多い。現在裏で確保した例の雷魔道具の調査を行っている。
鉄以上に固そうな干し肉を製造してしまい、これを扱うであろう料理人さんたち大丈夫かなぁと思っていれば、噛み砕く化け物が出てきて驚いている。まぁあのパワーなら噛む力も強いか……。
「本当にあの『高原』は何なのでしょうね? レイスたちのおかげで安全に脱出することが出来たけど、もし会えなければ……。考えたくもないわ。」
〇デレ
ママ()と一緒に干し肉づくりを頑張ってみた。沢山褒めて貰えたので内心とってもうれしうれし。まだ口に出して誰かに言葉を伝えるのではなく、周囲を観察して自身の中の考えを整理している感じ。徐々に花開きつつある。
「がんばった!!!」
〇マティルデ
塩の利用申請が来ていたので受理した後、外部に追加発注を裏で行っていた。ヒード王国は海に面していない内陸国だが、北部にあるとある国家と一定の関係を築いており、比較的安価での塩の大量購入が可能。未だ文明が発展途上な世界であるため貴重寄りではあるのだが、ちょっとぐらいは無駄遣いしちゃっても大丈夫なご様子。後ほど酒の席でレイスから顛末を聞きほっこり、自分もレンガ干し肉に挑戦して歯が欠けかけた。
「何だこの固さはッ! 本当に食べ物か……ッ!」
〇ごはんさん(アランさん)
隅っこの方でずっと気絶していたのだが、時たまダチョに踏まれたり、けられたり、ちょっとだけ齧られたりしていた。やはり食材に囲まれているせいで、美味しそうな匂いがするのだろう。お前はごはんの柱になれ……!!!