【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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25:ダチョウの引き締め

 

 

 

「……陛下。」

 

「なぁに宰相、いやじいや。」

 

 

王宮への帰り道、馬車の中には私たち二人だけ。王と宰相という身分の差はあれど、相手は自身の世話役としてずっと傍にいてくれた男でもある。今更そんなことを気にする仲でもない。まぁ戴冠してからというものの、この者が私を孫娘の一人としてではなく王として見るためか、ずっと"陛下"として自身を扱おうとすることに少しさびしさを覚えることもあったが……、もうそんなことはどうでもいい。

 

 

「あれで、良かったのでしょうか。」

 

「逆に聞くけど、じいやはアレ以外の方法はあると思うの?」

 

「…………いえ、ございません。」

 

 

アレ、と言うのは我が国に新たに生まれた。いや、やってきた特記戦力のことだ。

 

獣王国から侵攻を受けたという報告が来た時、自身の顔がどうにかなりそうなのを必死に我慢しながら、私は彼女に対しこう問いかけた。『我が国の要請を受けてくれるか、と。』結果は宰相の表情、これから起きることに対し不安を隠せない顔を見れば瞭然だろう。彼女は渋々であったが、首を縦に振った。

 

契約を結んだ直後にそれを反故にするような行動をとることは、契約を守らないという意志表示に他ならない。他の特記戦力、国に対して完全な武力で意思表示をするものたちに比べ、彼女はすぐに手を出してくるような性格には思えなかった。正確に言えば『こちらが敵対行動を見せなければ』という前提が付くだろうが。

 

此方が契約を守る動きをすれば、彼女は何か大きな否定材料がない限り頷いてくれる。そう『特記戦力の姿は発見できなかった』のような聞こえのよい言葉のようなものがあれば、確実に受けてくれると感じていた。

 

 

(彼女の性格に救われたことになる。……あぁ、本当に。)

 

 

私にとって、その善良、いや"普通"の性格の持ち主は非常にありがたかった。敵対しなければ攻撃してこない、それはつまり『こちらが罠に嵌めれば、必ず反撃してくれる』ということに他ならない。それのなんと頼もしいことか。彼女が上手くやってくれれば私は仇を討つことができ、同時に愛する父上、母上の待つ世界へと向かうことが出来る。

 

失敗したとしても、この獣王国の侵攻はナガンの"軍師"に伝わっているはずだ。軍事同盟を結んでいること、そしてかの者が我が国との国境線から離れていないことを考えるに彼もすぐ飛んでくるだろう。あのダチョウと名乗る集団がどうなろうと、次の手がある。特記戦力相手に二つの特記戦力を当てる、間違いない作戦と言えよう。

 

 

(まぁ、失敗した時はその時だ。どうせ勝っても負けてもこの国は"特記戦力"の手によって落ちる。仇の無様な死に姿が見れないのは非常に業腹だけど……、その時は毒杯でも呷って死んでしまえばいい。奴に殺されるぐらいなら自分で死んだ方がマシだ。)

 

 

「あぁ、そうだじいや。例の件はどうなっているの?」

 

「……昨日の件ですか?」

 

「…………さすがに不敬だよ。先に死にたいの?」

 

 

すぐに否定を返し、慌てて弁明を始めるじいやの顔を見て揶揄われていないことは理解する。けれど真っ先にそれが出るのはどういうことだろうか、まだ10にもならない子供ではあるけれど、さすがに色々と気にしてしまうのだけど。

 

じいやの言った昨日の件、それは検問所の近くで起きてしまった一件のことだ。色々と問題になるため緘口令が敷かれているけれど……、なぜか王宮には私の惨状についてのうわさが出回っている。どうせ侍女の誰かが噂しているのだろうけど、見つけたら真っ先に牢にぶち込んでやるから覚悟してなさいよ。

 

 

(……。)

 

 

あの時、確かに私は確実に死の恐怖を感じた。目の前に広がる死と言う概念そのもの。自分に対して向けられたものではないのに、自身に備わっていた要らぬ生存本能が暴れ始め、同時に脳が精神を守るために大本を落とす感覚。あんなもの、初めてだった。王家最後の血筋である私、幼いということもあり戦場どころかこれまで死というものをしっかりと理解していなかった。故にあのような事態に陥ってしまったと言えよう。

 

しかしながら、後ほど情報を集めてみれば仕方の無い相手だった。

 

被害としては、あの時護衛として連れていた親衛隊50が全滅。近くにいた衛兵たちは未だ目が覚めず、防壁にいた兵士の半数が気を失っている。そして検問待ちであった民は全てが失神と失禁をしており、衛兵と同様未だ眼を覚ましていない者もいる。死んでいるわけではない、単に衝撃が大きすぎたのだ。

 

 

(そして、王都内にいた優秀な魔法使いたちが軒並み失神、そして眼を覚ました後も恐慌状態に陥っている。)

 

 

優秀と言っても特記戦力やそれに次ぐ準特記戦力にすら劣るような存在。せいぜい100の兵の相手ができればよい程度の人材。確かに優秀であるが飛び抜けているわけではない。けれど人材の乏しいヒードにおいてはこれまで重宝してきた人員であり、頼りになる存在であった。それが全て気絶した。それほどまでに隔絶した魔力量。

 

 

(今日護衛として連れてきた魔法使いに聞いたけれど、"ダチョウ"という集団に同行していたあのエルフ。アレが準特記戦力で大体7000~5000相当。そしてあのレイスと名乗る族長が……。)

 

 

想定不可能。体の中に納まる魔力の量が大きすぎて底が見えず、眼に魔力を通して見てみても体が弾けるほどに魔力が詰まっているせいかただの黒、吸い込まれそうになる程の黒にしか見えないとのこと。見続けるだけで精神が蝕まれ、帰って来れそうになかった。自分がまだこうやって話せているのは、単に運が良かったからに他ならない。私に報告をよこした魔法使いは、そう伝えてくれた。

 

 

 

それを聞いて私は何を感じたと思う? 絶望? 恐怖?

 

 

 

 

いいや、違う。歓喜だ。

 

 

 

 

 

私はそれを、二度感じた。

 

一度目は昨日、気絶から回復した後のこと。漏らしてしまったという事実のせいで少し霧散してしまったが、私は歓喜を感じた。"特記戦力"という言葉は事実だったのだと、この国に奴に対抗できる手段が生まれたのだと、そしてその力が自身に向いた時、確実に私のことを殺してくれるのだと。考えれば考えるほどその感情が沸き立っていた。

 

そして二度目は、魔法使いからの報告を聞いた後。それほどの魔力を持つというのならば、どう考えても私の仇である獣王よりも強い。あの魔法使いは戦場にて生き残った者、私の父上を見殺しにした者の一人。その事実を理解すればするほど、かの者の首を刎ねたくなってくるが、魔力を以って特記戦力となった獣王をその目で見たひとりでもある。彼に『獣王と彼女、どちらが強い』と聞いた時、返ってきた言葉は後者を表していた。

 

つまり、私は考え得る限り、最上のシナリオを迎えることが出来るということに他ならない。

 

自身の国の特記戦力があの憎き獣王を殺し、私はその無残な死にざまを笑いながらこの何もない世界から死をもって抜け出す。父上も母上もない世界など興味すらない。この世界で最期に見る顔は、怒り狂った彼女のものに成ることだろう。

 

 

(そう考えると……、あぁ顔がおかしくなってしまうな。)

 

 

 

「……で、ですから陛下。あの件に関しましては強く緘口令を敷き、噂の出どころやその経路もすぐに見つけてごらんに入れます。幸い王宮外にはまだ伝わっていないようですので、あぁそれとかの品も早急に処分……。」

 

「うるさいぞ宰相、話を戻す。」

 

「は、は! 申し訳ございませぬ!」

 

「確か、なんの魔道具だったか。ナガンの軍師殿と遠隔で会話できる魔道具を貰っていただろう? アレであちらと連絡を付けよ、直ぐに援軍の要請をするのだ。ないとは思うが……、もしもの時のためにな。」

 

「かしこまりました! すぐに!」

 

 

 

あぁ、本当に楽しみだ。父上、母上、もうすぐですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、レイスちゃんです。

 

ちょっとね、気分がよろしくないと言いますかね、こう"うにゃうにゃ"した気分でございます。

 

 

「うにゃうにゃ?」

「うにゃ?」

「うー?」

「にゃー!」

 

「はいそこ、別に復唱しなくていいからね。」

 

 

体調の方は万全、王都でもちゃんと休めたしこれまでの移動の合間もしっかりと休息をとることが出来た。ウチの子たちも王都で叱ったのが良かったのか、暴走も比較的可愛らしいもので収まっている。まぁ馬車何台かひっくり返したけど……。

 

つまり私の指揮能力には何も問題はない、指示を飛ばして彼らの脳に新たな情報をぶち込んであげれば話題の操作だってすぐに可能だ。こんな風に私が漏らしてしまった変な擬音がウチの子たちの新たなブームになる前に、彼らの脳から情報を消去するなんてラクチン。普段ならばこんなに体調が良ければそれ相応に気分も良くなってくるはずなんだけどね。

 

 

(やっぱり、NOと言えない日本人って奴なのかねぇ。)

 

 

数日前、私は王都でヒード国王自らの参戦要求に対して頷いてしまった。

 

理由を上げればポンポン出てくる。『契約をこっちから破ればごはん用意してもらえない』とか、『断るのはこっちの自由って言ったけど最初からNOっていうのは如何なものかと』とか、『なんかヤバそうな特記戦力おらへんって言うし比較的安全なんちゃう?』とか、『獣王国の兵士って人間に比べれば強いらしいけど良くて一般兵の10倍程度だから、100倍のダチョウなら全然余裕』とか、色々ね?

 

けれどそもそも私は必要以上の争いは好まない。というかウチの子たちに少しでも身の危険があるのなら近寄って欲しくないし、同時に人を殺す感覚、そして人を食べてしまうということは絶対に避けたい。

 

 

(すぐに忘れてくれるおかげであのナガンだっけ? プラークで攻めてきた相手をやっつけた記憶はもうないみたいだけど……。)

 

 

いわば群れの安全を守るために存在するような私が、群れを死地に運ぶようなものだ。特記戦力という化け物がいないという前情報のおかげである程度は安全が確保できるっぽいけど、それでも不安なものは不安。高原のように自然豊かな場所ではないこの文明圏において安定的に食料を手に入れるいい策ではあったと思うけれど……。

 

 

(本当にソレに見合う選択だったのかなぁ。)

 

 

高原は魔境だったし、それ相応の別れってのも経験している。けれど選んだ後にこう悩んでしまうのは私の悪い癖なのだろう。もっとこう、GreatでPerfectなリーダーだったらこの子たちも、もっと呑気に生活……。いやこれ以上は困るな、みんな最近ちょっと賢くなってきたっぽいデレちゃんを見習って賢くなりましょうね~!

 

 

「レイス殿。」

 

「ん? あぁマティルデ。」

 

 

色々悩んでいた私を見かねたのか、マティルデが話しかけてくれる。王都まで連れて来てくれた彼女だけど、今回の参戦にもついてきてくれるようだ。まぁダチョウちゃんたちのことを一番良く知っているのは彼女とその率いる兵士さんたちだし、ウチの子たちもご飯繋がりで何となく彼らのことを理解しているっぽい。たとえそれが『ごはんを出してくれる人!』であってもダチョウにとっては大きな一歩だ。

 

 

「色々悩んでいたようだが大丈夫だったか?」

 

「あ~、まぁねぇ。ウチの子たちを率いる手前、これで良かったのかって感じの奴。私が唯一の指揮官みたいなもんだからさ。余計にね?」

 

「あぁ、なるほど。確かに私も似たような事はよく考える。人を率いる者特有の悩みではあるな。」

 

 

だよね~、マティルデも町を守護する騎士様であるし、兵士たちを率いて戦う一人の指揮官でもある。今回は私たちダチョウの補助兼補給担当ってことだからそうそう前線に立つことはないみたいだけどね。ま、戦場では任してよ! 獣王だっけ? 特記戦力っていう怖いのがいなけりゃ、ちょちょいのちょい! って奴さ!

 

 

「あぁ、頼んだぞ! まぁそもそもプラークでの一件以降貴殿らの実力は全く心配してないしな!」

 

「ふふふ、まぁそうだよね!」

 

「それに、かの獣王がいないらしいという情報は結構確かの様でな。王都で伝令のものに話を聞いたり、これまで立ち寄った補給拠点の町でも聞いたのだがどうやら相手は王なしでの進軍らしい。」

 

 

数は30000とかなりのものらしいけど、それを指揮するのは特記戦力でも何でもない将軍とのことらしい。なんでもかの獣王さんはチャーダ獣王国の南東にある国家との国境紛争に対応してるらしくて、あっちの特記戦力に掛かりっきりってコトらしいのだ。最初はそんなもんなんかな……? と思っていたけれどマティルデから嘘の匂いはしてないし、伝令の人に彼女と一緒に聞きに行ったこともあったんだけど、その時も同じような内容だった。

 

つまりこの情報の信憑性は高めってことなんだよね~。

 

 

「ま、あんまり気負い過ぎても駄目だろうし、頑張ってみますか。」

 

「あぁ、それに兵たちは後方に下げるが私はレイス殿たちに付いて行く。むろん最前線で使いつぶしてもらっても構わない。」

 

「……え、聞いてなかったんだけど。」

 

「む? そうだったか? だがそう心配なさるな。これでも騎馬状態なら200程度なんとかなる! さすがに獣人相手だと数は減るだろうが……、旗下の方々と比べてもそう劣るものではないはずだ。この馬も結構な駿馬であるしな。」

 

 

え~、そうだったの? マジか、いや別に嫌でもないしむしろこの世界の戦術を知る彼女が傍にいてくれるのはマジで助かるんだけど……、いいの? 大丈夫?

 

 

「もちろん! 三万の敵兵、正に国の存亡がかかった戦い! その時に騎士である私が戦わぬのは駄目だろう?」

 

「そ、そうだろうけど……。」

 

 

はぁ、まぁいいや。手合わせしたおかげでこの人が強いことは理解している。流石にダチョウには劣るだろうけど、群れの中にいて変に足手纏いになるようなことは……、まぁないかな? 最悪私が担いでダチョウライダーになって貰えばいいだけだし。というかそっちの方が強そう。鎧で武装してて結構な重さだろうけど、私にとっちゃ軽い軽い。

 

 

「あら、領主様も乗せてもらうの?」

 

「のー?」

 

 

ん? あぁアメリアさんにデレ。聞いてたの? というかデレ、今もしかしてまねっこした? あら~! 可愛いわねぇ! しかもアメリアさん背中に乗せてあげてるの? とぉ~ってもエライ! ナデナデしてやろうか? ん~?

 

 

「して! して!」

 

「ほ~ら、よしよしよし~!」

 

「ふふふ、高原からずっと乗せて貰っているおかげか、デレもそっちの方が慣れちゃったみたいでね。むしろ離れてる方が落ち着かないみたい。」

 

「え!? そうなの! お母さんちょっと嫉妬しちゃうかも!」

 

 

やぁ~っぱお前さん、群れの中で一番成長の速度が早いなぁ、もう! ダチョウ界きっての大天才か? もう次のノーベル賞は決まったな! 分野? そりゃこのクリクリカワイイお目目が世界平和に繋がったってことでノーベル平和賞でしょ? もしくはもう新しく部門を新設してダチョウ賞! 今から受賞スピーチの練習しましょうね~?

 

 

「あぁ、それと。私も付いて行くからね? これでも魔法使いとしてはそれ相応に戦える。あなたの群れに魔法使いはいないでしょう? いつか抜かされるだろうけど、今回は上手く使いなさいな。」

 

 

わぁ! アメリアさんも~! あら~! こりゃ今回の戦いがぐっと安全になりましたね~!

 

戦術をしるマティルデに、魔法のアメリアさん、それに最強暴力装置のダチョウに、おつむ担当の私! こりゃ最強の布陣ですな! 勝ったな田んぼ入って風呂見てくる!!!

 

……ほんとに、これで被害なんて出したらシャレにならんな。顔では笑っても、気は引き締めていかないと。

 

 

 

 

 

 

 









〇整理!

・幼女王

マティルデ? ううん、何も教えてないよ。ダチョウちゃんたちと同じ情報しか持ってない♡
獣王殺してくれたら未練なし、パパとママの所行きたいから逆上したはずみで殺して♡(なお)

・軍師

ダチョウと獣王がぶつかれば……! 獣王が勝った場合は被害は出るが、自身の手で撃破可能
ダチョウが勝っても彼らの情報は手に入るし、流石に数が減ってより対処しやすくなるはず!(なお)

・獣王

いつの間にか隣の緩衝地帯がその向こう側の国と手を組んでパワーアップ!?
その上なんかめちゃヤバい魔力持ちの特記戦力!? 魔力抑えて見つからないようにして進まなきゃ
は、早くやっつけに行こ……!(なお)

・被害者の会

ご新規さんが来そうなため模様替え中、あとこのかぼちゃパンツどこに置く?

・ダチョウ

ごはんいっぱいだって! たのしみ!!!









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