【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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遅くなり申し訳ございません。



62:ダチョウの再臨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なら、完成した瞬間に消滅させるだけ。ソレ、待ってやるよ。完成した瞬間に消し飛ばす。」

 

「あらら、お優しいんですねぇ。では、お言葉に甘えるとしましょうか。」

 

 

私は魔力の放出をはじめ、奴は集まった負の力を体内へと吸収させ始める。

 

現状外見に変化は見えないが、かなりのスピードで魔力量が増加している。それこそ、私だけの単位であった魔王を扱わないといけなくなるほどに。この成長スピードを見る限り、完成時は大体魔王3人分ぐらいか。こっちも8人いるし現在進行形で増えているけれど、相手は私よりも卓越した魔法詠唱者。力押しができるレベルではない。

 

これまでの魔力砲が総じて跳ね返されている以上、こっちも何かしらの工夫を施さないといけない。跳ね返されているのならば、貫通力を。そして攻撃力そのものが不足している可能性も考えて、属性の付与も目指してみるべきか。……あはは、正直高原以外でこんなこと考える羽目になるとは思ってなかった。こっちじゃ魔力砲だけで何とかなると思ってたけど……、そう簡単にやらせてくれないってワケね。

 

 

(この相手の変身バンクが終わるまでに、私は高原の上位勢とも戦えるステージに登らなきゃならないってことか。)

 

 

流石にそこまでは必要ないかもしれないが、眼前のコイツを完膚なきまでにぶっ潰すにはそれぐらい必要そうだ。

 

コイツの言葉を信じるのは癪だが、この都市から死霊術師の支配下にあったアンデッドたちが消滅しているのは事実だろう。つまり子供たちにこれ以上危険が降りかかることはない。唯一の心配事としては逸れちゃって迷子になっていることだけど……、最近のあの子たちは昔に比べ信じられないほど賢くなっている。ここは子供の成長を信じてやるってのが母親のあるべき姿だろうね。

 

ま、つまり……。私が考えるのはただ一つ、眼前のコイツをどうやったら殺せるか、だけ。この一点に集中すべき。

 

 

(相手も私が準備してるのを見れば、それ相応の対応をしてくるはず。ならばソレを超えるだけのものを擁しなきゃならない。)

 

 

まず用意すべきは貫通力。

 

私の主な攻撃方法である魔力砲は、圧縮した魔力を打ち出すもの。その推進力はこれまでただの圧力だけだった。今私が目の前で作っている真っ黒な魔力球もそれと同様に正直自分でも理解できないレベルの圧力を掛けている。ここから更に推力を加えるのは難しいし、おそらく魔力消費的に無駄になってしまう。

 

ならば、回転させる。ただの直線放射から、螺旋を描きさらなる貫通力を得る。相手の白い防壁はただ受け止めるのではなく、角度を付けて跳ね返すことを目的としていた。それを貫ける力がいる。

 

 

(魔力球を回転させ、螺旋を作る。ちょっと慣れない作業だけど……、形にはできる。)

 

 

そして、爆発力。属性の付与だ。魔力砲だけの攻撃力だけでは相手にダメージを与えられない可能性がある。故に単純な魔力に属性を付与して、より強い力を手に入れる。私が形成する魔力球自体に属性、私が他に比べて扱いやすい属性である火を付与し、爆発力を乗算させてやるのだ。ぶっつけ本番だけど、やる価値はある。

 

奴が纏う黒い靄の量も少なくなってきた、アレが0になるのがタイムリミット。圧縮はもうこれ以上ないほどに高めているし、魔力も回復次第注ぎ込んでいる。回転の方もどんどんとその速度を上げている。残された時間の中で、最上を目指すために『火球』で得たあの感覚を魔力球に付与する。

 

 

「……ッ!」

 

 

真っ黒な魔力球が一瞬だけ強く光り、即座に黒に塗りつぶされる。失敗だ。

 

魔力球の圧力が高すぎて私の拙い魔力操作じゃ属性の付加が出来ない。一瞬だけ光った通り、ほんの少しだけなら何とかなるようだが、即座に私の魔力によって火が押しつぶされ、消し飛んでしまった。この感じ、おそらく回数を重ねても如何にもならん奴だろう。……仕方ない、これ以上魔力と時間を消費するぐらいならば今やってることをより高めることにシフトした方がいい。

 

属性の付与を即座に切り捨て、魔力球を回転させながら更に圧力を高めていく。

 

 

「あはァ、それでいいんですかぁ? 足りないかもしれませんよぉ?」

 

「……その冷や汗拭いてから言えば?」

 

 

おそらく、両者ともに抱いている感情は同じ。眼前に存在する敵に対しての"危機感"。アイツはこの私が用意している魔力球に込められた魔力量にビビっているだろうし、私も奴の技術とそのヤバさに恐怖を覚えている。

 

高原の住人でなければ防がれることがないと思っていた魔力砲を何度も防がれ、獣王をアンデッド化し自身のものにした。そして軍師が言うには転移魔法陣とかもコイツの開発らしい。それに10万近いアンデッドを操作しても何も感じていないようにふるまっていたし、今はそれを自分の糧として使用しようとしている。

 

正直言って、かなり怖い。三万程度であのでっかい腐肉ゴーレムを形成できたのを考えると多分アレよりももっと上。魔王3人分に卓越した魔法技術、私が勝てるのは魔力量ぐらいだ。……けど、ここは正直時間さえかければ何とかなるような気がしている。私の魔力の上限がどこなのかは解らないけれど使い続ける限り魔力は増える。魔力操作は劣化するけれど、多ければその分こいつを殺しやすくなる。

 

 

(一番怖いのは、私も獣王みたいになっちゃうこと。)

 

 

時間さえかければ勝てるかもしれないが、その間に私が殺される可能性がないわけではない。ついさっきまで獣王に戦わせていたせいで、私はコイツ、死霊術師の戦い方を何も知らない。情報の不足はより敗北へと傾く、そして私の敗北は、コイツに体を受け渡すことになってしまう。自惚れかもしれないが、絶対に私がアンデッドになれば大変なことになるだろう。

 

勝者が敗者の体を好きにしていいのはまぁ高原の習いである故理解はできるんだけど、好き勝手に弄くり回されてさらなる化け物へと進化、そして最悪それが私の子供たちや友人たちに牙を剥く可能性がある。というかその可能性が非常に高い。別に軍師辺りならば『あ、うん、ごめんね?』ぐらいで済ませられるんだけど、私が子供を傷つけるとか死んでも嫌。

 

 

(絶対に避けないといけない、そのためには奴に勝たなければいけない。)

 

 

相手は速攻を狙うだろう、私の魔力量の上昇は奴も気が付いているはず。私はそれに足掻き、コイツを一撃で焼き尽くせるほどの差ができるまで戦い抜かないといけない。もしくはその速攻に乗って、奴を殺すってのもアリだ。……とにかく、最初から最後まで絶対に流れを渡さない。自分の強みを押しつける戦いをしなきゃ。

 

 

(……そろそろか。)

 

 

 

軽く防がれた時のことを考えていると、やっこさんの纏う黒い靄の数が少なくなってきた。そろそろ、だろう。

 

既に爆発寸前まで魔力を圧縮し、同時に回転も施している。即席だが、想定以上のものが出来た。高原の上位勢でも当たり所が悪ければ撃退ぐらいは出来そうな代物。でもあいつらは単純な生物としてのスペックとしてそうなのであって、相対するのは自分が教えを請わなければいけないレベルの術者。奴は奴で逃走を選ぶことができただろうに、それをしていないということはまぁ切り抜ける術があるのだろう。

 

 

「まぁ、いい。……穿つ。」

 

 

最後の仕上げとして魔力をより押し込み、廻す。

 

そして、外壁が崩れそうになる瞬間。奴の纏っていた黒い靄が無くなる瞬間。

 

全てを、解き放つ。

 

 

「撃ェ!」

 

 

号令と共に放たれる黒い一閃。死霊術師の顔面を狙って放たれたソレは、一瞬で視界を埋め尽くし、全てを焼き尽くしながら進んでいく。すでに周辺の空間が魔力によって湾曲しており、圧倒的な魔力の奔流によって集まっていた空気が即座に押し出されていく。すぐに元に戻ってしまう異変ではあったが、そこでは確実に世界の理に反した事象が巻き起こっていた。

 

 

「キャヒ。」

 

 

だが、そんなもの高原では日常茶飯事。

 

その上位勢へ片足突っ込みかけた私たちからしても、あり得ることでしかない。

 

脳裏に嫌に張り付く笑い声を鼓膜が拾い、その瞬間魔力砲の口径がより、大きくなる。私の手元で未だ魔力を吐き出し続ける魔力球には何も問題はない、吐き出される魔力も、その回転も、異常はなし。しかしながら奴にぶつかるその直前で、魔力砲の口径が大きくなる。まるで何か大きな球体にぶつかり、無理矢理魔力が散らされているような、そんな感覚。

 

回転させ、圧し、生きていたころの獣王ですら解けなかったであろう魔力の束、それをあろうことか簡単に崩されている。

 

そして、その魔力の奔流が少しずつ威力を弱めていき、世界が元の形へと戻っていく。魔力球に溜め込んだ魔力を、出し切ってしまった。

 

 

「あっぶないですねぇ! 死ぬかと思いましたァ!」

 

 

先ほどまではどこか落ち着きというか、嘲笑の意味を込めてあえてゆっくり話していた死霊術師の声が、変わる。言葉に力が入り、話している内容があまり変わらないとしても、その荒々しさから別人のように思えてしまう。まぁ最初はアメリアさんよりもちょっと大きかったレベルの魔力が、魔王並みに増えればそりゃ気も大きくなるか、って感じか。

 

 

「……イメチェン?」

 

「ふふ、いいでしょぅ?」

 

 

アンデッド10万、そして獣王、そいつらが生み出したすべての負の力を体へと移し込んだ死霊術師。先ほどまでは私の生み出した火球によって服が吹き飛び、その白い地肌をさらしていたが……。かなり見た目が変わっている。全身に赤黒い血管が浮き出ていて、特に目元のあたりが大変なことになっている。真っ赤に染まった目から蝶の翅のような紋様が浮き出ており、その全てに魔力が流れていることが確認できる。

 

 

(血管一本一本にどれだけ魔力を詰め込んでいるのやら……、軽くしか見れていないけど一本一本気が狂うレベルで編み込まれてる。獣王とはまた違った感じだから優劣は付けにくいけど……、同等かそれ以上。)

 

 

弾かれる可能性は考えていたが、こうもノーダメージの所を見ると……。自信無くしちゃうね。元々そんなの高原で砕け散ってるけど。

 

 

「貴女の魔力、そしてその体の特性。【異能】、ですかねぇ? それを見た時心底心が震えました。これ以上ない素材になってくれるんじゃないか、って。今の私の興味は他に向いていますが……、目の前に美味しそうなものが並べられた時、我慢できるほど理性的じゃないんですよぉ。」

 

「……だろうね。」

 

 

魔力の回復と、総量の増加。それを全身で感じながら身体強化を施していく。アレが防がれた以上、長期戦だ。……あは、最初は短期戦のつもりでやって来てたってのに今じゃひっくり返ってる。子供のことを心配する必要が減ったのが理由ではあるけれど、正反対の意見で嗤っちゃうよね。

 

 

「本来ありえない速度で回復する魔力、そして魔力を体内に押しとどめる力。私だってこの魔力量で体が破裂するのを防ぐので精いっぱい、これ以上増えると面倒なことになっちゃいます。けど、貴女は違う。まだまだその肉体は上限に達していない。どれだけ詰め込んでも壊れないボディ。欲しくない訳がないですよねぇ?」

 

「お褒め戴き至極光栄、とでもいいの? でも、いいこと聞いちゃった。……つまりお前に魔力を流し込めばいいってことだよね?」

 

「あらら、失言でしたかぁ? ……できるものならやってごらんなさい、私の実験台(べビー)。」

 

 

その瞬間、両者ともに地面を蹴る。

 

殺し合いの、始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

一歩踏み込んだ瞬間、視界いっぱいに広がる魔法たち。

 

私の物ではない、腐肉で形成された槍、骨で出来た槍、血で編まれた槍、そのすべてが死霊術師のもので、全て私に矛先を向けている。体で受け止め、あるいは足で払いながら距離を詰める中、血の槍を蹴り飛ばそうとした瞬間。高原で鍛えられた私の勘が、久しぶりに警鐘を鳴らした。

 

即座に目標を変え、血の槍だけを回避する。

 

 

「あはッ! 勘が良いんですねぇ? その槍、私の血で出来てるんです、いいでしょう?」

 

 

一気に距離を詰めながら、血で出来た剣を振るう彼女。一斉に展開された槍たちを回避しながらだったため、ほんの少しだけ髪を持っていかれてしまう。その瞬間、即座に切断面が腐食し、溶けだしていく。ただ溶けるだけなら許容できたけれど、血の浸食は根元へとゆっくりと進行し始めている。即座に髪の根元を千切る、死霊術師へと投げつけた。

 

髪を千切るとかくそ痛いけど、魔力回せば生えてくる。我慢だ。

 

 

「腐食、かよッ!」

 

「ふふ、おしぃですねぇ。私の血は、"同一化"の魔法が付与されてますぅ。触れて、浸食したものは全て私。楽しいですよぉ?」

 

 

そう言いながら振るう血の剣を避けながら、お返しとばかりに足を振るう。しかしながら彼女を守る様に虚空に腐肉が現れ、その全てを受け止められてしまう。そして一度動きが止まれば、そこに襲い掛かって来る槍の雨。全て血でないことが逆に腹立たしい。

 

高原で生き残るために必要だった私の勘は、依然としてあの"血"に警鐘を鳴らし続けている。おそらくアレを喰らうと私は終わる。即死することはないだろうが、確実に追い込まれ戦況は傾くだろう。未だ現在は自身の強みを押し付け合っている状態。どちらかが押し切った瞬間に、戦況が変わる。

 

相手は私に血を当てた時。私は相手に打ち込んだ時。すべてが変わる。

 

 

「チッ!」

 

「ふふ、舌打ちは駄目ですよぉ?」

 

 

振るわれる剣、それ自体は脅威ではない。振るわれる剣筋自体読みやすく、身体能力に任せて振るっているだけのもの。子供の方がよっぽどマシなチャンバラをするだろう。少し前に見た赤騎士の剣技とはえらい違いだ。しかしながら、

 

 

「ほら、伸びますよぉ?」

 

「ッ! 魔力砲ッ!」

 

 

血で形成された剣である限り、その長さや形状は術者本人によって定められる。剣を振るいながら伸ばしたり、身を守るために薄く延ばして盾のようにすることも可能。触れれば私の負けが近づくというプレッシャーが、より思考を煩雑化させていく。思うように、押し込むことが出来ない。

 

それに、私が撃ち込んだ魔力砲は片手を払うことで受け流され、そのお返しとばかりに様々な種類の槍が飛んでくる。最初は骨と腐肉と血だけだったのが、酸や毒の槍まで追加されてしまった。全て血であれば足を振るい空圧で吹き飛ばすこともできたのだが、それも難しい。また骨や腐肉だけなら体で受けることもできたが、今それを喰らって少しでも動きを止められるとその瞬間に血の雨が私を襲うだろう。

 

全体を俯瞰し、取捨選択しながら行動しなければならない。

 

 

(一発撃ちこめば崩せるのに……!)

 

 

ダチョウ本来の身体能力と、魔力による強化。それを合わせれば獣王のような接近戦もできるタフな野郎じゃない限り、直ぐに肉塊にすることができる。それは目の前のコイツも同じで、どう考えても当てさえすれば確実に確殺まで持っていけるはずだ。獣王が全身に施していた近接戦用の魔力操作に比べ、死霊術師のソレは少し粗が見える。おそらく後方からの戦いに慣れていたせいで、近接はあんまりだったのだろう。

 

 

(……なら何故前に出てきた? ッ! 考えは後!)

 

 

繰り出される槍の雨を避けながら、もう一度接近を試みる。

 

張り巡らされた包囲網を突破し、振りかかってきた骨の一本を翼で受け止め、彼女へと投げ返す。同時に目くらまし用に魔力砲を照射し、滑り込むようにその背後へと回る。

 

 

「ㇱ!」

 

「ッ! お、おっも……! どんな馬鹿力してるんですか……!」

 

 

だが、それも受け止められる。両腕を腐肉のようなもので覆い、私の蹴りを受け止めた彼女。即座にその防御に使った肉を血に変え散弾のように飛ばしてくるが、既に退避済み。受けられた瞬間に地面を蹴って安全な距離を確保していた。……やっぱり、接近戦は得意じゃないタイプだ。タイミングを狂わせれば不可能じゃない。

 

 

「い、今ので骨折れたんですが……。」

 

「へ~、そりゃよかったじゃん。治さないで♡」

 

 

神官系の魔法まで修めていたのか、緑色の魔法陣を展開し両腕に照射する彼女を眺めながら、自身も息を整える。さっきの螺旋の魔力砲のせいで結構な魔力を消費してしまっている。順次回復してはいるが、ちょっと消費の方が上回っているような状態。回復が必要だ。

 

それに、今詰めてもちょっと攻めきれる自身がない。いつの間にか彼女の足元は血で真っ赤に染まっていて、足場を確保できるような状態ではない。空中でも足場を確保できる噴式を自由に使えれば問題ないんだけど……、未だ私は魔法との併用が出来ない。噴式だけじゃ火力と速度に問題があるし、魔力だけじゃ足場がなくて難しい。

 

 

(それに、あれだけ背後に魔法陣展開されて突っ込む気にはなれんでしょ。)

 

 

魔力が回復さえすれば、魔力砲で魔法陣を相殺して前へと進むことができる。だからどっちみち回復のための時間稼ぎが必要ってワケだ。それに、アメリアさんから聞いた話なんだけど神官系の魔法、回復魔法ってのは傷を治すことが出来ても疲労を取り除くことは難しいそうだ。つまり奴のスタミナ自体は削れてるってワケ。……私? こんなもの高原じゃ朝飯前にすらならないよ。だって丸一日全速力で走って逃げたことだってあったし。

 

 

「ふふ、やっぱり魔力。回復してますねぇ? 私にも分けてくれませんか?」

 

「やだ。」

 

「あらつれない。こんなにも楽しい戦いをしてるって言うのに、残念ですねぇ。」

 

 

腕を治しながらそう蠱惑的に笑う彼女、魔力操作の腕がいいのか。かなりの魔法を行使しているはずなんだけどそれほど魔力が減っていない。魔王3人分だったのが2.9人分になった程度だ。つまりこれを30回繰り返さないと魔力切れしないってこと? お前も大概だろ。さっきの槍軽く見積もって四桁近くは飛ばしてなかったか?

 

 

「でもまぁちょっと押されてるのは事実。このままやれば面倒なことになりそうですぅ。手を打たせて頂きますねぇ?」

 

「……何する気。」

 

「こんなのは、いかがですか?」

 

 

彼女がそう言った瞬間、崩壊しかかっていた王宮の地面が一瞬にして全壊し、そのすべてが私に向かってくる。いくら魔力砲やら火球で吹き飛ばしたとはいえ、床も合わせればかなりの量の瓦礫となってしまう。魔力もまだ完全に回復しているわけじゃない、魔力砲で全方位を撃ち抜くのは次の手を考えると少し負担が重い。

 

そのために突破のため、足を振るおうとした瞬間。全ての端材が真っ赤な血へと変貌する。視界いっぱいに広がる赤。

 

囲まれた。

 

 

「ッ! 『火球(ファイアボール)』!」

 

 

自身を中心に火球を展開させ、血を焼き飛ばす。だが、

 

 

「『石神の結末(シシューポス)』。」

 

 

私を包み込んでいた炎を貫き、全方位から巨石が降りかかる。魔力操作が覚束ない私にとって、火球の中は眼すらも焼かれる地獄のような場所。そんな中で視界を確保できるわけがなく、直前まで岩を認識することができなかった。私が気が付くことができたのは、既に全方位が石によって埋め尽くされた後。抵抗できず、そのまま体で受けてしまう。

 

 

「がッ!」

 

「展開。」

 

 

そして、炎によって焼き尽くされる前に。すべてが血に変わる。

 

岩よりも血の方が早く蒸発する、しかしながら私を押しつぶすように存在していた岩が、全て血に変わったとしたら。どうあがいたとしても私は血を浴びることになる。火球によって存在していた岩すべての体積分の血を浴びることはなかったが、確実に全身に血を喰らった。

 

浸食が、始まる。

 

 

「ギッ」

 

 

自分の声なのか解らないような音が鼓膜を震わせる、痛い。全身が、何かに書き換えられるような感覚。自分が、自分ではなくなるような、全身を焼かれるよりも強い痛み。脳が、魂が、痛みを訴え続ける。

 

火球の効果時間が終わり、視界から太陽のような灯りが消えるとともに地面へと墜ちる。全身が何かに打ち付けられるような感覚、しかしながら痛みは感じない。より強い痛みが、それを塗り替えている。生き延びるために全力で魔力を回し体を直そうとするが、回復よりも浸食の方が強い。……直に、飲み込まれる。

 

 

「ふふふ、コレは、面白いことになりそうですねぇ? どこまで足掻けますかぁ?」

 

 

雑音にまみれながらも、奴の声が聞こえる。

 

血の赤に染まった視界のせいで、何も見えない。全身が、切り替わっていくような感覚。強い不快感と、縋りたくなるような"幸福"が同時に押し寄せてくる。揺らぐな、私は私だ。飲まれるな、直せ。魔力を回して浸食を上回れ。それしか、生き残る道はない。

 

 

「これ、全部ここにあった聖水を変換したものなんですよぉ。おかげさまで私の血よりも特段にいいのが出来たんですよねぇ。高純度の聖水、様様ですぅ~。」

 

 

声が、近くなる。

 

体が、言うことを聞かなくなってきた。

 

 

「私は、貴女。貴女は、私。ふふ~、なんで私がここまで名乗らなかったか解りますゥ?」

 

 

記憶が、流れ込んでくる。

 

名前は、個人を個人として区切るもの。それがなければ他者と自身の境界が曖昧になる。だからこそ名は重要であり、古来から呪いを掛ける時に名前をその起点とした。境界という目印を把握することでより内部へと入り込みやすくする。呪いが魔法へと変化した"今"においても、"名前"という物は重要だ。

 

"私"の名を明かさないことで、他者との境界をあやふやにする。呼び方が定まらぬことは、その境界も浅いものになってしまう。だからこそ誰かの境界が壊れた時、混じりやすくなる。他人が、自分へと変化する。

 

 

 

 

 

……これは、"私"の記憶じゃない。

 

 

 

「ッ!!!」

 

 

最後の力を振り絞って、脳を破壊する。

 

魔力を頭部で暴発させた瞬間、弾け飛ぶ脳漿。血が広がり、生者へと働きかけていた血の浸食が停止する。

 

 

「あらら……、自死しちゃいましたか。それに脳まで……。う~ん、あんまり素材としては使いにくくなっちゃいましたねぇ。とっても残念ですぅ。最後まで厄介でしたねぇ……。」

 

「ま、仕方ありません。ちょっと一発いい感じの花火を上げて、相打ちに見せかけて帰ることにしましょうかぁ。」

 

 

 

 

 

彼女が、背を向ける。

 

その瞬間。

 

彼女が二度目の産声を上げる。

 

 

 

「なッ!」

 

 

 

大幅な魔力の消費、全身の浸食、そして頭部の全損。度重なる肉体の危機に、"魂"は呼応する。

 

魔力が足りないのならば、増やせば良い。全身を浸食されたのならば、耐性を得ればいい。そして二度と負けぬレベルの再生能力があれば同じ失敗を繰り返さない。そして脳の破壊は、これまで幾度となく経験している。

 

全ての外傷を経験として受け止め、それを上回る肉体を再構築する。

 

生命力の権化であるダチョウと、一度死んだ存在が合わさることによって起きる世界のバグ。

 

ダチョウの、再臨だ。

 

 

 

 

「…………ふぅ、ちょっと、時間かかっちゃったかも。」

 

 

 

そうそう、言うの忘れてた。

 

 

 

 

私は、"レイス"だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





























〇ダチョウ被害者の会【観戦編】

「うぉぉぉ!!! 復活! レイス殿復活!」
「多分死なないだろうと思ってたけどやっぱりそうだった!」
「さぁカモン死霊術師殿! パーティの用意は整っておるぞ!」
「……デロタド将軍。これってもしかして『死者の国からオイデオイデ』なのでは?」
「あぁ、感想欄でも言われてた奴……。控えるか。」
「ですね、とりあえず休憩にお茶でも……、あれ、獣王殿。どうしたんです?」

「うむむ……。」

「そういえばさっきからずっとノート片手に悩んでおりましたな。いかが為された?」
「相談なら私たち乗りますよ?」
「あぁ、実はレイス殿の技名を考えておってな。あまり彼女はそういう技名を付けぬ方針の様であるので、ここは魔力砲の産みの親である私が何とかしようと思ったのだ。」

「「あぁ……。」」

「でな、先ほどレイス殿が見せてくれた回転する魔力砲。名付けて『螺旋魔弾砲』! "ライフリングアタック"っと読むのはどうだろうか! こう、属性を付与した時は火炎だったりと色々前に付けてな? 発展性もある良き名だと思うのだ! どうだ! よくないか!?」






誤字報告大変ありがとうございます。

また感想評価お気に入り登録の方、よろしくお願いいたします。

と言うわけで次回で死霊術師ちゃんとのバトルはお終いです。もうしばらくお待ちください。



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