TSダチョウ獣人   作:サイリウム(夕宙リウム)

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81:ダチョウと共和国

 

 

 

 

 

ここはナガン王国と、トラム共和国の国境線。

 

自分たちの利益が損なわれたことをしった共和国の貴族たちは、即応軍を組織し瞬く間に国境線へと到着。誰かが『一番槍はあっちのもんでごわす。』とよくわからないことを叫んだことで、突如戦闘が始まった。

 

 

「ちッ! 数が多いっ!」

 

 

たまたま北部方面軍、共和国との国境線に配備されていたかの赤騎士がそう愚痴ってしまうほどに、攻撃は苛烈で、同時に敵兵との差は圧倒的だった。

 

そもそも現在ナガンは、王都が破壊されたことで比較的中央に兵を集めていた。ナガン、ヒード、そして獣王国を一つにまとめた連合国が形成されたことにより、多くの周辺国は様子見のターンに入っている。いずれ包囲網を形成し攻勢に転じるだろうが、まだ猶予はある。

 

そう判断した軍師は国境沿いに配備していた兵たちを一部後方へとさげ、休息や練兵、また新たな戦術に対応するための指揮官の育成などを行っていた。ダチョウという最高の矛と不死という無限の残機を手に入れた連合ではあったが、どちらも癖のある者ばかり、たった一人ですべての戦場を掌握できるわけではないため、兵士たちも修練の場が必要だったのだ。

 

比較的保有する特記戦力が暴走しやすい西の“リマ商業連合”との国境線には人を多く残していたが、東のヒード王国はすでに同盟国であるため多くの兵を配置する必要はない。共和国に対しても同様で、今回行われる会議によって共和国内部にて紛争が起きることを考えれば同様に多くの兵を集める必要がなかった。

 

つまり、国境線が手薄だったのである。

 

しかしながら、そのすべてが一人のやらかしによって吹き飛んだ。かのドМ、エウラリアが急にまともな書簡を送ってしまったが故に露呈した二重スパイの策は、ただでさえ怒り狂えば止められない共和国人たちの心にとんでもない油を注いでしまった形となる。

 

 

「(いくら縦深防御、遅延戦闘が得意な北部方面軍でも15000対80000は……!)」

 

 

赤騎士ちゃんが考える通り、現在のナガン側戦力は15000。後方に二万ほどの兵が控えてはいるのだが、休息中であったため即応は不可能。この数で敵を抑えきらねばならない。対して共和国軍は不死という存在がなかったとしても死に対する恐怖心が薄いものばかり。また共和国の民は基本的にどんな身分のものであろうと外部からの敵に対し猛烈に攻撃ができる者しかいない、つまり防衛のために兵を割かなくていいため、すべてのリソースを攻勢に転じられるという利点があった。

 

共和国の首脳陣が真意を知っていたとしても、『なんかウチの不死が騙されたかなんかでナガンのいる連合に入っちゃった。これでムカつかねぇ奴いねぇよなァ!』と言えば共和国の兵士たちは鬼に変わる。たとえ理由が『お、お姉さまが与えてくれる痛みが素晴らしいですぅ!』だったとしてもだ。

 

死兵と化した八万の群衆が、一気に国境線へと流れ込んでくる。そしてナガンが赤騎士という“準特記戦力”を持つように、共和国側もそれに類する存在は多くいる。

 

 

「-噴式『乱発』ッ!」

 

 

赤騎士が眼前の敵兵向かって、刀を振るうことで空気の弾丸を射出する。五千の兵に匹敵すると言われた彼女の攻撃だ、ただの雑兵であればその弾丸に触れただけで肉が巻き込まれ、抉り取られ、絶命する。しかし……。

 

 

「誤チェストでごわす。」

 

「ッ! また背後!」

 

 

切り裂いたはずの相手がいきなり自身の背後へ。敵の凶刃が彼女の脳天に向かって振りぬかれるが、即座に赤騎士は持っていた盾を放棄。自身の刀。青龍刀に似たソレで受け止める。

 

 

「むむむ、やはりできる! トラム九十九人衆が一人、『背後のペロン』の斬撃を二度も防ぐとは……!」

 

「気色悪いッ! ー噴式『天発』ッ!」

 

「うぬらばーッ!」

 

 

首元を舐められるような視線を感じ、即座に足で相手の股を蹴り上げる。『はぐッ!』というよくわからない音を出した相手の隙を放置するほど赤騎士は優しくない。彼女にとっての決め技の一つ、体表を巡る空気を即座に圧縮し、一点に向けて解放する斬撃を放つことで眼前の敵を粉砕する。

 

 

「お、お見事な一撃。赤騎士殿、我が息子たちに『お前の父は最後まで背後に回り続けた』とお伝えくだされ……、かふッ!」

 

「……えぇ。」

 

 

腹部を大きく破壊され、確実に自身が助からないと判断したペロンは、なぜか敵の赤騎士に息子への言葉を伝えた後、即座に自身の首を掻き切って絶命する。文化が違い過ぎて思わず声を漏らしてしまった赤騎士だったが……。とりあえず脳内メモにこの男の名前と最後の言葉だけをメモしておく。

 

過去のただ敵を切り続ける機械であった彼女であれば不必要と断じたものではあるが、ダチョウによって荒療治……。あれ治療って言っていいのか? まぁひそかに憧れていた人の前でとんでもない醜態をさらすというやらかしのおかげで、人の心を取り戻している。

 

 

「(とりあえずなんか役職持ちだったみたいだし、首級として持って帰った方が……。いやなんか気持ち悪い人だったし、置いてこうかな……、ッ!)」

 

 

戦時であるが自身の周りは彼女が散らしたおかげで落ち着いている、息を整えながら先ほど倒した将らしき人物をどうするかと考えていた時。いつのまにか自分が囲まれていることを理解する。

 

 

「ふふふ、我らがトラム九十九人衆が一人『背後のペロン』をこれほどまで簡単に倒すとは……!」

「やはりナガンが誇る赤騎士の名は伊達ではなかったようだな。」

「まさにあっぱれな剣技よ。」

 

「(ッ! 多分3000級が三人!)」

 

「次は我ら! トラム四十八天王が一人、『兄のウィン!』!」

「『弟のロス!』」

「『寄せ集めのヒコマロ』がお相手する!」

 

「……えぇ。と、取り合えず-噴式『乱発』。」

 

 

「「「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

またとんでもない癖のある者が増えたし、そもそも九十九人衆とか四十八天王ってなんだよ。というか二つ名が『寄せ集め』ってお前それでいいのか、とか色々言いたいことがあったが、戦場で武器を向けられた以上敵でしかない。とりあえず全力で噴式を放ってみたのだが……、あっけなく吹っ飛ばされてしまった。

 

 

「(……でも、手ごたえはあまりない。)」

 

 

手に残る感触と、噴式を扱う者だけに理解できる『空気の流れ』。そこにはしっかりと先ほど三人が発していたであろう呼吸の跡があった。つまり先ほどはただ後方へと吹き飛ばしただけであり、殺し切ったわけではない。

 

 

「(さっきのペロンとかいう奴も手強かったし、大技である『天発』は空気をある程度集めなきゃ放てない。体への負担も結構あるし……。そろそろ休息をとる必要があるかも。)」

 

 

一旦戦線を下げて立て直すか、もしくは他の部隊にこの場を任すか考えた赤騎士であったが、それよりも早く敵が来てしまう。どうやら足の速さはその大層な肩書に劣らないようだった。

 

 

「ふふふ、少し油断したが次はこうはいかないぞ赤騎士……!」

「やはりその『噴式』やっかいなようだな。」

「まさにあっぱれな剣技よ。」

 

「……。」

 

 

ゆっくりと息を整えながら、刀を構える。彼女が考える通り、赤騎士の実力は大きく見積もっても5000の兵に匹敵する程度、状況が整えば6000に匹敵させることもできるだろう。しかしながら相手は少なく見積もっても3000級が三人。単純な足し算ですべてが決まるわけではないが、負けてしまっている。

 

 

「(寄せ集め、はどうか解らないけどわざわざ“兄と弟”と言っているからには連携ができるタイプ。おそらくその連携の隙をついて戦うってのは難しい。……ならば狙うのは、どちらかを一方的に攻撃して先に沈めてしまう。)」

 

「「「参る!!!」」」

 

 

敵の三人が一気に踏み込み、赤騎士との距離を詰めようとする。

 

しかし……。

 

彼女たちの刃が重なろうとした瞬間。

 

 

世界が、塗り替わる。

 

 

 

「(……くはッ! 知ってる、知っているぞこの感覚! 全身の毛が逆立つような! ただ恐怖しか、死の恐怖しかわいてこない単純な暴力の気配!)」

 

 

 

ダチョウが、来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「それで、デレ? どう行くのかしら。」

 

 

上空で浮かびながらこちらの様子を伺うレイスを横目に、私のことを好いてくれるダチョウ。デレと名付けられた彼女に話しかける。この前のアンデッドとの戦いだったかしら、あの時みたいに私がデレの背中に乗せてもらって、補助をする形ね。これでもエルフとして四桁近い年数を生きてきたのだ、ある程度戦時の動き方というのも経験しているけれど……。

 

 

(レイス、あの子も言っていたけれど、目的としてはできる限りこの子たちに経験を積ませること。)

 

 

最初に会ったころと比べ格段に『母親』となった彼女は少し前と比べると、より過保護になったように感じる。子供に対する対応としては正しいのかもしれないが、『ダチョウ』という種族として正しいのか解らない。すべてを覆せる力、莫大な魔力のほぼ完全な運用ができるようになった彼女は子供たちを一人で守れるようになってしまった。だからこそ悩むのだろう。

 

大人である自分が何とかできるのに、子供であるこの子たちを戦場に連れてきてもいいのだろうか、と。

 

 

(……少なくとも、私が決めることではないわね。)

 

 

悩んでいれば相談に乗るし、必要ならば手を貸す。けれど私たちと彼女たちは違う種族だし、生きる時間も違う。同じ言葉を解する間柄ではあるけれど、相互理解がいまだ中途半端な状態で口出しをし過ぎるのはよろしくない。たまにレイスがふざけて私のことをおばあちゃんと言うけれど……、本当にそんな立場がいいのかもね。

 

子供たちにとっては甘やかしてくれる相手、親にとっては何かあったときに頼れる相手。……正直エルフの中じゃまだ若い方だと自負している私からすれば『おばあちゃん』って呼ばれるのはちょっと来るものがあるけれど、まぁこれぐらい我慢しましょうか。

 

そんなことを考えながら、デレの返答を待つ。ほんの少しだけ考えていた彼女は、自分の中で答えを見つけたようで、私に言葉を返してくれた。

 

 

「えっとね、おこるの!」

 

「怒る?」

 

「うん! ママがね、『たたかうー!』って時にだすの。あれとおんなじことしたい。」

 

 

たたかう……、あぁ多分レイスが『族長モード』とか言ってたアレね。体内に眠っている魔力を外部に放出することで自分が戦闘状態に入っていることを子供たちに伝えて、その状態を群れ全体に伝えるもの。デレもそれをやりたいらしい。けれど……、この子の魔力はそれほど多くはない。魔法使いとして十分戦闘に耐えるだけの魔力は持っているようだが、さすがにレイスには劣る。というかほぼすべての生物がレイスに魔力量で劣るだろう。

 

 

「……少し難しいんじゃない?」

 

「うん、だからね。ちょっとおこるの! ほんのちょーっとだけ。」

 

「ちょっと?」

 

「うん! たくさんね、おこったらね。みんなね、どっかいっちゃうの。だからね、ちょっとだけ!」

 

 

なるほど。たくさん怒った状態。おそらく以前プラークにいた時にあったレイスが真っ先に攻撃された時のような状態のことだろう。確かにあれは暴走状態だった。それを避けるために調節し少しだけ怒る。デレでも指揮できるような状態にしたい、ということなのだろう。

 

……というかあなた、かなり論理的な思考ができるようになってきたわね。

 

 

「わかったわ。いつも通り私は貴女の背中でサポートするし、今日は上からレイスが見てる。存分にやってみなさいな。」

 

「うん。」

 

 

デレがくるっと後ろを向くと、300近い彼女たちの群れが広がっている。空に浮かんでいる母親に向かって手を振っているのもいれば、自分も同じところに行こうと翼を羽ばたかせている子。もう眠くなってしまったのかお昼寝のポーズをとっている子もいれば、一緒に付いて来ている『不死』のエウラリアに対し威嚇している子もいる。

 

……当初の予定ではあの子も誰かの背中に乗せてもらう予定だったんだけど、あれじゃあ誰にも乗せてもらえないわね。となると徒歩か。ついてこれるかしら?

 

 

「みんなー! きいてー!」

 

「うにゅ?」

「よんだ!」

「なになに~?」

 

 

私の思考を余所に、デレは皆に聞こえるように声を張り上げ、群れを集め始める。少し前までは群れすべてを操れるほどの力はなかったが、思考能力が向上したせいか、群れ全体に声を響かせられるようになっている。以前なら100も満たない数しか集まらなかっただろうが、ちゃんと全員がこちらに顔を向けている。

 

 

「いまからねー! かりー! するー!」

 

「かりー!」

「かり?」

「うにゅ? ……あ! だめ!」

「かりしない!」

「ままいってた!」

 

「あ、そうだった。じゃあやっつけにいくー!」

 

「おぉー!」

「いいかんがえ。」

「だいじょうぶ?」

「ままー!」

 

 

自分たちでデレの間違いに気が付き、同時に母に確認を取ろうとする子までいる。……いや本当に怖いくらいに賢くなったわね。ちょっと上を見れば、彼女たちの母親が翼で大きな丸を作っている。それを見た子供たちはなぜか拍手し、喜んでいるが……。とりあえず方針としてはOKのようだ。

 

 

「じゃあね、デレがね、ママのかわりするの! だいじょぶ?」

 

「いいよー!」

「おぉー!」

「だいじょぶー!」

「がんばれー!」

 

「うにゅ! がんばる! ちっぱいしない!」

 

 

……あ、“ちっぱい”って失敗のことね。また誰かが教え込んだ変な言葉かと……。というかたまに変な語彙が増えているのだけど誰が教えているのでしょうね? たまにレイスが本気で怒るような言葉も教わっているみたいだし。……プラークの兵士さんたちの会話でも聞いちゃったりしているのかしら。

 

 

「じゃあねじゃあね、おこったー! でいくよ。」

 

「おこたー?」

「おこってないよ。」

「えいえい??? なにそれ。あとだれ?」

 

「? うにゅ。ママがね、やってるの。みんなでやるの。おこったー!」

 

「おぉー! まま!」

「いっしょいっしょ!」

「やるー!」

 

「やった! じゃあ、やるよー!」

 

 

 

 

「「「ぎゅぴぃぃぃぃ!!!!!!」」」

 

 

 

 

私の知る、本気の激怒よりは薄い。しかしはっきりと彼女たちのボルテージが上がったことを理解する。纏う雰囲気も確かに『ダチョウ』のものだ。

 

 

「デレ、最初はあの場所。私が指さす方向に行きましょう。あそこが一番味方の層が薄いわ。……最後の確認だけど、“黄色”は味方。ナガン兵よ。それ以外を攻撃しなさい。」

 

「わかった! みんないくよ! とちゅげきー!!!」

 

 

「「「わー!!!!!」」」

 

 

 

 






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