【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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95:ダチョウと帰って来たやばいの

 

「……行きましたか。」

 

 

空高く飛び上がったレイスを見上げながら、そう口にするエウラリア。その服装も相まって傍から見れば慈悲深い聖職者様と言うべき彼女でしたが……、その脳内は常に自身の性癖に溢れています。

 

自身の“サガ”に深く向き合っていると言えば聞こえはいいでしょうが、思い浮かべているのは『どうすれば最大の痛みを最短で永続的に受け続けることができるのか』というもの。肉体的のみならず精神的な痛みすらも快感を覚えてしまう彼女らしいと言えばそうなのですが、浮かべている聖女が如き微笑みと全く合致していません。そんなんだからダチョウちゃんたちどころか、レイスママにも引かれるんですよ……?

 

 

「さ、私も私の仕事を致しましょう。話の途中で抜け出してきたようなものですしね。」

 

 

現在自身に最大の痛みを与えてくれる上に、過去の世界に於いて血縁関係にあった(と彼女が思い込んでいる)レイスを少し名残惜しそうに眺めた彼女は、そう独り言をつぶやきながら教会の中に入って行きます。

 

この獣王国はその力を貴ぶお国柄のせいか、精神的安寧に重きを置く教会勢力とはあまり相性が良くありません。けれどこの世界に存在する宗教が一つという状況なせいか、小規模ながらもコミュニティを形成するに至っていました。エウラリアが足を運んだのは、そんな獣王国における教会勢力の最大拠点になります。

 

幼女王が治めるヒード王国首都にある一般的な“首都に存在する教会”と比べるとかなり劣りますが、それでも隅々まで掃除が行き渡り、大きな女神像が安置されたその場所。自身の性癖を満たすために自身を自分で破門した経歴を持つエウラリアであっても、整えられ神に祈りを捧げるこの神の家に対し神聖さと強い安心感を覚えます。

 

 

(我らが女神よ。この異世界で再度姉に相まみえることが出来たこと、そしてその姉が私に最大の喜びを与えてくれることに感謝いたします。)

 

 

女神像に向かって軽く一礼しながら、そんな感謝の念を信じる神に送る彼女。たぶんその女神さまはなんとも言えない顔をしながら『あ、うん。良かった……のかな?』と創造神らしくない返答をしてそうですが、エウラリアからすればそんなことは欠片も解りません。聖職者としてお手本にしたいほど綺麗な祈りをささげた彼女は、ゆっくりと立ち上がりながらとある場所へと足を運びます。

 

そうですね、先ほどまで彼女が参加していた。“とある集会”です。

 

 

「皆さまお待たせいたしました。少々お姉様の御子が迷子になってしまっていたようで……。」

 

「御子様が!? 大丈夫なのですか!?」

 

 

部屋に入りながらそう説明したエウラリアに問い返すのは、牛の獣人らしき彼女。その場にいる全員がフードで顔を隠しているせいか詳しいことは解りませんが、胸元や手首に見える装飾品からかなり高位の存在。おそらく草食系獣人の族長に近しい位であることが窺えます。

 

純粋な力や、保有する戦力や物資によって常に“偉さ”が変動する獣王国には存在しませんが……、他国でいうところの『貴族』に位置する女性なのでしょう。つまりとってもえらい。

 

しかしそこの変態は、全く動じず普段通りに言葉を紡ぎます。

 

 

「えぇ。お姉様がすぐに駆け付けて下さり、元居た場所へとお連れになりました。ですが少々『買い食い』を為されたそうで……。」

 

「なんて羨ま……、っと失礼。ですがエウラリア様。この獣王国において“そういった行為”は少々忌避されるものではありますが、全くありえない話ではありませぬ。噂に関しては我々が処理いたしますので、獣王様へと上げる話でもないかと。」

 

 

ドMの言葉にそう返すのは、また別の獣人。声からして男性で、フードの下から見える服装から獣王国政府の中でかなりの高官であることが伺える存在。

 

マゾからすれば本当に言葉通りの意味だったのですが、どうやら彼は別の意味と受け取ったようで……。ダチョウちゃんが迷子のさなか見つけた獣人をモグモグしちゃったと解釈したご様子。まぁ彼の言う通り別に珍しいことではないのですが、普通に殺人行為なので獣王国でも普通に罰せられます。けれどまぁ今回の捕食者は王族、獣王であるレイスママの子供です。

 

法は王が作るものですし、そもそも獣王国は『弱い方が悪いよね、うん』という思考に行きつきやすい国家。適当な噂を流しておけばむしろ『ダチョウ強い! すごい! かっこいいい!』という民意形成が可能であり、よりレイス王の統治が盤石になると彼はエウラリアに説明します。そしてそのような細事であれば、内々で処理すべきであるとも。

 

そんな彼の説明に、どこか“羨ましそう”な声をあげながら、次々と賛同する他の参加者さんたち。

 

 

「そう言うことでしたら、私もお力になれるかも! これでも3区の井戸端では顔が広い方で……。」

「だったらあっしも職人仲間に言いふらしておきますぜ!」

「では自身は軍の方に……。閣下、失礼ですが後日、流す噂の精査をお願いできますか?」

 

「うむ、しかし我らの事情を考えると表で顔を出すのは控えるべきだろう。済まぬがこの後数時間程頂けるだろうか? すぐに最適な話を用意する故に……。」

 

 

 

「……あ、あの。気持ちは解るのですが、普通の『買い食い』でして。はい。」

 

 

 

「「「え?」」」

 

 

どんどんと進んでいく話に、かなり気まずそうに声をあげるエウラリア。

 

確かにここに集まった同好の士たち。いわゆる『被食癖』の者たちの気持ちはMである彼女は強く理解できます。若干方向性が違っているため完全に同意しきることは難しいですが、こう歯を突き立てられる瞬間を想像すると全身がゾクゾクっ♡としてしまうのは滅茶苦茶解るのです。だからそういう方向性に行ってしまうのは理解できたのですが、今回彼女がお願いしようとしていたのは『音楽家ちゃんたちが無銭買い食いしちゃったお店の捜索』です。

 

無駄に位が高かったり権力を持ってる人がいたりするので最適かと思い、相談しようとした変態でしたが……、ちょっと脱線し過ぎちゃったようですね。

 

 

「あ、あぁ! そう言うことでしたのね!」

 

「で、でしたらそれこそ衛兵に指示を出しておきましょう! さすればすぐに発見できるかと!」

 

「わ、私達も探しておきますわ!」

 

「ご理解いただけて何よりです……。」

 

 

少々慌てながらも訂正する参加者の皆さんに、ほっと胸を撫でおろすエウラリア。どうやら無事、音楽家ちゃんたちにノックアウトされちゃった屋台のおじさんの発見が出来そうですね!

 

 

(お姉様に良い報告が出来そうで何よりです。さて、話を中断していましたし、本題の方へ戻って行かねばなりませんね。)

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「えっと。この前の脱走騒ぎの時の領収書がこっちで……。ルチヤー、これも宮廷費扱いでいいのー?」

 

「あ、はいー! 大丈夫です! そのままママの足印押しちゃってください!」

 

「りょうかーい。」

 

 

そう返しながら、大きな朱肉に足を乗せた後。書類に叩きつけていく。

 

音楽家ちゃん……、もう『リズム』呼びにしても反応してくれるようになるかな? とにかく彼女たちが脱走しちゃってから数日後。子供たちはいつも通りの日々を過ごしている。ご飯を食べて遊んで寝る、年齢を考えれば私よりも年上の子がいるのも確かだけど、精神はまだ子供。とってもらしい生活だよね。

 

けれど大人の私が同じような生活をするわけにはいかなくてね? お飾りと言えど一応獣王、細かいことはルチヤや獣王国の文官さんたちがやってくれるから何とかなっているけど、最終的な決済は獣王である私がしなければならない。ま、『この書類の通りに進めていいよー!』って印に足印を押すって作業だ。

 

でも子育ても同時にしなくちゃならないし、私に便利なお手手はない。と言うことで王宮のお庭に敷物引いて大量の書類をズドン。そして私が書類に印をズトン、って感じのお仕事です。

 

……あ、ちゃんと全部目を通してから押してるからね? そこは安心してくださいな。

他が確認してるからええやろ! って現場猫ダメ絶対。

 

 

「にしても、ルチヤありがとうね? わざわざこっちに来て手伝ってもらっちゃってさ。」

 

「いえ気にしないでください! もとはと言えば私がママに獣王をお願いしたせいでもありますから……。」

 

「あーねぇ。……でもま、いい暮らしさせてもらってるし、不満はないよ。」

 

 

元気よく答えてくれるが、すぐにしゅんとしてしまうルチアにそう答える。初めてあった時みたいな思いっきり狂気に浸食されている顔に比べれば大分マシだけど、私の子供を名乗るんだったらもっと底抜けに笑いなさいな。ほらお姉ちゃんたち見てみ? なーんにも考えてない特大の笑み浮かべてるでしょ? ほら、にこー!

 

 

「にこー? にこ!」

「こここ!」

 

「むぅ! デレ、やっ!」

 

「はいはいデレ、気持ちは解るけどお姉ちゃんなんだから。それにママはどこにも行かないでしょう?」

 

 

近くにいたダチョウにそう声をかけてみれば、返って来るいつも通りの反応。けれどデレからすればちょっとまだルチヤとの仲は進展していないようで……。

 

獣王国の一件から、ヒード王国の王様であるルチヤは、私の群れというか末娘として迎え入れている。もっと幼いころに両親を失ってしまったせいで壊れかけちゃった彼女を保護するためにも必要なことではあったんだけどね? 当時から群れで一番頭の良かったデレからすれば、突如として妹が生えてきてそいつが自分よりももっと頭がいいときたもんだ。母親を取られちゃうかも、って不安になるのも仕方ないだろう。

 

ま、敵意マシマシな頃に比べればマシにはなってる。ルチヤが話しかけてもデレが拒否せずに頑張って受け答えしてた所も見たし、ここは時間の問題かなー?

 

 

「あー! お姉様また嫉妬してるんですかー? だったら私、もっと頑張ってママにぎゅーってしてもらいます! 王様のお仕事毎日頑張ってるんです、いいですよねママ!」

 

「むー! むー! るちや、きらい! デレも! デレもする!」

 

「じゃあデレはママと一緒に書類の確認しようね。あとルチヤ? お姉ちゃん揶揄わないの。ほんとに嫌われるよ? いやでしょう?」

 

 

元気よく返事をしながら私の元に走り寄って来るデレを膝に乗せながら座り、ルチヤからの元気な返答を受け入れながら書類に目を落す。さっきまで見てたのが宮廷関連のもので、こっから先が国境線に配置している軍のものになる。お飾りとはいえ獣王、しっかり読み込んどきましょう。

 

……正直な話、自身の獣王への即位と言うのは思いっきり遠慮したかった。何せ子供たちの世話で精いっぱいなのだ。これ以上責任を負わされても担い切れる気がしないのだ。獣王国側からのラブコールがあったのは知っていたが、責任を果たせない存在が上に立つべきではないだろう。

 

けれどまぁ、そうも言ってられなくなってね?

 

 

(周辺国の動きや、獣王国での統治。形だけでも私が立たなきゃ獣王国どころかルチヤのヒード王国すら乱れると聞けば、まぁ受けるしかないよねぇっていう。)

 

 

幸いなことに、ルチヤが色々手を回してくれたおかげで何とかお飾りの王様をやれている。けれどそれで責任を果たしているかと言えばちょっと疑問が残るのも事実。だって実質的にまだ10にもなってない自分の子供に、仕事押し付けてるわけでしょう? いくら幼女王として名をはせたルチヤが優秀だとしても、ヒードと獣王国の2国を統治するのは大変なはずだ。いくら彼女の部下、文官たちのサポートを受けられると言っても……、限度があるだろう。

 

だから私も、お飾りなりに頑張って王様の仕事をできるようになるべきなんだけど……。

 

 

「元一般人、それも高原生活のせいで野蛮人に成り下がった私に出来ることなんてないんだよな。……ごめんルチヤ、ちょっとここの意味わからなくて。教えてくれる?」

 

「あ、はい。確か補給路と方面軍からの申請に対する返信でしたよね? その意図としましては……。」

 

 

流石に知らないままという訳にはいかないだろうと言うことでルチヤに助けを求めると、洪水のように流れ出てくる情報達。補給路の選定の話や、国境線まで経由する都市の経済状況とその地を支配する部族たちとの関係。軍への補給の名目で各地の部族への“支援”を欠かさぬことで獣王と中央政府への忠誠を維持しながら、同時に既に潜り込んでいるだろう各国の諜報員に対応するためのブラフの数々。更にそこから物資が到着した後の国境方面軍に対する“お政治”の話。

 

だ、ダチョウおつむにはむずかち……。

 

けれど自分の子供に時間を割いてもらって解説を受けているのに『欠片も解りません』ではみっともなさすぎる。何とか頭に叩き込み、無理矢理かみ砕いて行く。

 

 

「とまぁこんな感じですね。先の戦争で中央で遊撃兵の役目を受けていた兵団がママに“解体”されちゃいましたからどの方面軍もカツカツですが、事実上ヒードに吸収されたようなものですので一つの方面軍が余った形になります。それで補填したのは良いけれど、ちょっと急な編成だったので少しごたついてるって感じです。」

 

「……将軍とか部隊長が増えちゃって統率がちょっとブレてる感じでいいの? ほら『船頭多くして船山に登る』みたいな。」

 

「船頭……? 多分その理解で大丈夫だと思います。」

 

 

りょーかい。んでその対応策みたいなのがこの書類に書いてあって、後は私が承認すれば動き始めるってコトね。なんとなくだけど理解できたし、ルチヤが私に決済を求めて来たってことはGOサイン出してもいいってことなんでしょう。んじゃ、早速足印を……。あ、そだ。

 

 

「デレ? 印押すの手伝ってくれる? ママの足じゃないとだめだけど、朱肉の場所とか、書類の位置とかママに指示する役目。」

 

「やる!」

 

 

だよね。

 

元気よく返事してくれたデレに、ここに書類を置いてねと指示出しをする。明らかに目が朱肉、足で印を押す作業の方に向いているからそっちを手伝わせてあげたいんだけど、流石にこれ公的文書だからね……。後で遊んでいい紙を用意してもらって自由に遊べるようにするからさ。それまでちょっと待っててねー?

 

 

「うん!」

 

「あ! あ!」

「やりたい!」

「ままー?」

 

「はいはい、みんなもね。……後で色落すの、魔法でなんか出来るかな?」

 

 

ただでさえ朱肉のインクは落としにくいのだ。爪の間とかに入ったらその日はずっと赤くなっちゃう。上手く魔法で洗浄できないかアメリアさん辺りに相談しようと考えていると、王宮の建物の方から文官さんがこちらに走って来るのが見えた。

 

そこまで顔色は悪くないから、他国が攻めて来たとかみたいな緊急性の高い話じゃないだろうけど……。あ、マイチルドレン? その人敵じゃないから変に強く観察しなくていいからね? あとよだれ垂らし始めた子はお口拭いてあげるからこっち来なさい。ついでに羽交い締めして固定ね?

 

 

「陛下! ルチヤ様!」

 

「どした、緊急?」

 

「いえ! ですがすぐにお伝えした方が良いと判断し参りました! 北東の国家、タンタ公国の外交官からの通信です。非公式にはなりますが、あちらの公王が陛下と会談の場を設けたいとのこと……!」

 

 

……ほーん。

 

 

 






〇レイス

ヒード王国でしょ、ナガン王国でしょ、獣王国でしょ? この三つが連合国を作ってて、それ以外の周辺国が全部包囲網を作ってる。でもその一つの国がわざわざ私に話を持ちかけて来たってことは……、そろそろ動くのかな?

あとなんか最近エウラリアが無駄にニコニコしてて怖いんだけどマジで何? よく外出してるみたいだし……。裏切りとかはしないだろうけど、性癖が性癖過ぎて怖いんよ。




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