【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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ほんとに?



96:ダチョウのできるかな?

 

「会談ねぇ……。どう思う、ルチヤ?」

 

「ちょっと判断に困りますね。“非公式”な理由も解るのですが、受けるメリットとデメリットが同じくらいと言いますか、まだ情報が足りてないと言いますか……。」

 

「むずかち?」

 

 

むずかちだねぇ、デレ。

 

さっきの案件。獣王国の北東に位置するタンタ公国から非公式の会談の要請を受け取った私たちは、それを伝えてくれた文官さんに下がってもらった後。3人で頭を捻っていた。いやまぁ急に宣戦布告して来るよりは大分いいんだけどね? ルチヤの言う通り、素人の私から見てもちょっと受けていいのか解んないのよ。

 

 

(そもそもの話、“非公式”って概念が私達と相性悪すぎるんだよなぁ。)

 

 

非公式ってことは、他国にバレないようこそこそとお話ししたいってことだ。けれどそんなものダチョウからすれば程遠すぎる概念。何せ私たちは一塊でしか動けないし、一塊じゃなきゃエグイことになってしまう。多少おつむが向上したとは言え、まだまだ成長途中のこの子たち。あちらさんの要求に応え、非公式の条件に当てはまる様に私一人で呼び出しに応じた場合……。

 

うん、確実に暴走する。

 

先日の音楽家ちゃんの脱走。あの後エウラリアに聞いたのだが、発見時彼女たちは私を探して走り回っていたそうだ。つまり今この段階で私が彼女たちの目の前から姿を消した瞬間、一斉にダチョウたちが捜索を始め四方八方に走り去ってしまう可能性が高い。いくらデレでもそれを止めることは不可能。というかデレが率先して探し始めてしまう可能性しかない。

 

 

「気持ちはありがたいんだけどねぇ?」

 

「うにゅ?」

 

「ママ大好きでいてくれてありがとう、って話。」

 

 

そう言いながら頭を撫でると『エヘ―!』と嬉しそうに返してくれるデレ。

 

まぁつまり、私達が行動するには一塊になって動くしかないんだけど、そうなると確実に余所の国に発見されて、“非公式”が“公式”になってしまうというわけだ。国家間の話し合いとなるとその辺りを守らなければ面倒なことになるのは必須。最悪『お主約束破ったでごわすな! 信用に値せず! ちぇすとぉ!』みたいなことに成り兼ねない。実際それしてきそうな国いっこ知ってるし……。

 

 

(エウラリアの元母国とか、確実にしてきそうだしなぁ……。というか一回殴った後大人しくなったらしいけど、今あっち何してんだろ? なんかもっかい猿叫上げながら突撃して来そうで怖いんだよな。)

 

「ママ?」

 

「っと、ごめんごめん。それでどこまで話したっけ?」

 

 

呼びかけてくれたルチヤにそう返しながら、脱線してしまった思考を元に戻していく。

 

私達が今いる国。形だけだけど私が治めていることになっている獣王国は、実質的にお隣のヒード王国に従属している形になっている。けれどそんなヒード王国のトップであるルチヤは私の娘で、彼女は私が拒否していなければ確実に玉座をプレゼントしに来るような子だ。でも、『国』の力関係は変わっていない。

 

 

(おそらくだけど、この事実は他国も把握済み。つまり獣王国に話を持って行きたいのであれば獣王国にではなく、その上司であるヒード王国に連絡を付けるはず。)

 

 

ただでさえ最近の世界情勢はややこしいことになっているのだ。そんな時に、私達連合国側の国に対して、包囲網を形成している国へ“非公式”のお話を飛ばしてくるあたり……。あちらさんが何か企んでいるのは確実。それが『ちょっと包囲網側めんどいんでそっちに入れてくれない?』だったらいいのだが、『獣王国ちゃんさ、連合国抜け出して包囲網入らね?』だともっと面倒なことになる。

 

こういう離反の策って、誰かが断ったら対象が変わるだけだからね……。それに、今の獣王国は私がトップに変わったばっかりの変革期だ。この前喧嘩を売って来た雑魚獅子のこともあるし、後者の場合だと会談を蹴って自陣営の中で相手と接触してた奴を洗い出さなきゃならない。

 

ダチョウに手伝えることは皆無だけど……、考えるだけで頭が痛くなって来るね。

 

 

「文官の話では、単に『新たな獣王国の王に挨拶を行いたい』というものでした。事実以前までの獣王国と公国は友好関係を築いてきた。いくら敵対する包囲網側に付いたと言えどある程度のラインを確保しておきたいというのは理解できます。」

 

「そうなの?」

 

「はい。私も隣国ではなかったタンタ公国のことはそこまで詳しくないのですが……。あの国の国土は殆どが砂漠。農業には向かない土地です。故に農業生産量の多い獣王国から大量の穀物を購入し、民の腹を満たしていました。」

 

 

ルチヤが言うには、実権が前の獣王から私達に移った後はその交易量を絞り始め、公国が包囲網側に回った瞬間に完全にカットしたのだという。

 

無論国土の大半が砂漠と言えど、多少農業に適した土地や砂漠でも栽培可能な植物や畜産物は存在しているはずだ。完全に食を他国に頼り切りだった、ということはないだろう。友好関係にあったとはいえ、背中を合わせてともに戦う、ってレベルまで仲良しじゃなかったみたいだし。

 

つまり『お腹ペコちゃんだからごはんちょうだい!』という感じで突っ込んできた可能性は少ないようだが……。

 

 

「ママもご存じかと思いますが、獣王国の麦はかなり良質です。さらに大河と獣人という労働力のおかげで生産量も多く、栄養価も高い。過去の資料を見る限りかなりの量が流れていたようですし、それが全く入ってこなくなればそれ相応の混乱が起きるでしょう。そしてその混乱を収めるために公国は『これまで通り貿易を続ける』か『殺してでも奪い取る』の2択に迫られるわけです。」

 

「……たしか、一番強い特記戦力がいるんだっけ?」

 

 

思い出すのは、私がこっちに来てから初めて戦った強敵ともいえる存在。獣王。まぁ今私が獣王になっちゃったから元獣王って感じだけど。あのライオンの彼だ。今思い出してもかなり強い方だったと思うんだけど、そんな彼を軽く捻り倒せるような存在が、タンタ公国にいるらしい。

 

近接攻撃タイプみたいだから遠距離からちくちくしてたら勝てるかもしれんけど、確実に高原上位層レベルの存在だろうから、クソ強いんだろうねぇ……。

 

そんなことを考えていると、ルチヤが近くに置いてあった紙を拾い、軽く周辺の地図を描いてくれる。映し出されるのは3つの国で、一番下にあるのが獣王国、真ん中がタンタ公国、そして一番上が帝国。これを見る限り、どうやら公国は二つしか国境線を持たない国みたいだね。

 

 

「公国としてはこれまで気にしなくてよかった南方面に新たな敵が出来るわけです。故に私としてもそう簡単に戦端を開いてくるとは思わないのですが……。」

 

「あってもおかしくない、と?」

 

「はい。なにせあの『帝国』から延々と攻められているというのに成立以後一度も国土を奪われていないどころか削り取っているのが公国です。今の帝国が外征を控え内政に努めているのを見ると、公国への攻撃も弱まっている可能性が高いです。これにより戦力をこちらに向け、対帝国決戦のためこちらの穀倉地帯を落し、食料と後方の敵を消すことで後顧の憂いを払いに来てもおかしくないかと。」

 

 

北大陸の覇者であり、私達がいる南大陸にも多大な影響を及ぼしているのが『帝国』。大量の特記戦力と練度フルMAXの軍団を大量に持っているらしい彼らに対し、唯一黒星を叩きつけているのが『タンタ公国』のようだ。ルチヤによると元々は帝国の一領主だったようだが、当時の皇帝が失策を繰り返したことに対して離反し独立。そのせいかずっと反帝国国家として有名らしい。

 

そんな公国を抑えていた帝国が外部への侵攻を弱めている以上。『テイコクブッコロシテヤル!』な公国がこちらに攻め込んでくるのは普通にあり得る話だ。そうなると私が出る必要があるんだけど……。

 

 

(こっちには『不死』のエウラリアがいる。彼女がいるおかげで私も子供たちも死ぬ可能性が限りなく0に近くなったわけだけど、体が増やせるわけじゃない。公国が攻め込めば他の包囲網が確実に動き出して、大戦争になるわけか。)

 

 

特記戦力を止められるのは特記戦力だけ。他国の上位を止めるには私が出ないといけないけれど、そんな私は公国相手に戦闘中となれば攻められ放題。かといって私と群れはセット運用が前提だし、新加入のエウラリアは“死なない”だけで強さはそこそこ。相性によっては足止めすらできない可能性がある。一応軍師もいるけど、アイツは自国のことで忙しいから動かせない。

 

……うーん、つまり公国に宣戦布告されれば終わりってこと?

 

 

「そうなります。ある程度戦えはするでしょうが、確実に不利で勝算は薄いです。我らヒードはそもそも小国で戦力に乏しいですし、ナガンは先のアンデッド騒ぎで物資不足、獣王国は先の戦争で本隊を失っています。」

 

「特記戦力を止めようにも、数が足りない感じか……。」

 

 

ルチヤの言う通り、ヒード王国はそもそも小国で自国を何とか守る程度の戦力しか持っておらず、ナガンはこの前の死霊術師のせいで死者はそこまででもないけど王都が落ちたから物資不足であんま役に立たない。獣王国は私が軍勢を消し飛ばした傷が治りきっていないわけだ。

 

確かに獣王国の市民を無理矢理徴兵して、エウラリアに頑張ってもらうことで『不死』の軍勢にすることで防衛するっていう手もあるが、流石に倫理が終わり過ぎている作戦なので採用できない。

 

 

(特記戦力は大体各国に一人、現在判明しているだけでも敵方には4名。対してこっちは私達ダチョウと、軍師と、エウラリア。まだ何とかなりそうな数ではあるけど、軍師もエウラリアも正面切って戦えるタイプじゃない。)

 

 

となるとこちら側が切れるワイルドカード、全部ひっくり返せて相手のワイルドカードを無効化できるカードは1枚だけ。それ以外の手札も弱いとなれば、状況はかなり難しいと言えるだろう。その辺りを埋めるために、ルチヤや軍師が頑張ってくれていたみたいだけど……。この会談をミスれば用意が整う前に戦端が開くわけか。

 

それこそ公国が敵対しないと確信できれば、包囲網側が持つカードの中で一番強い相手が不参戦or味方化してくれれば大分話が変わってくるんだけど……。それを為すためには、やっぱり“お話し合い”しなくちゃならない。

 

 

「幸いなことに、帝国側も国境線に敵主力がいないと理解すると攻め込むはずです。公国としてもそれは理解していると思いますので、攻め込まずに以前の獣王国同様、友好関係を結びたい……。と考えることもできます。けれど判断するための情報を得ようにも……。」

 

 

少し表情を顰めながら、そう言うルチヤ。

 

ヒード王国は元々小さな国だし、西にナガン、東に獣王国という敵対国があった。今は同盟国だけど、ちょっと前までは敵でその対応の為にマンパワーを使わなくちゃいけなかった。つまりより離れたタンタ公国から情報を引き抜くための伝手はないし、獣王国自体も新体制に変わったせいでそのあたりがふわふわしているとのこと。

 

まだ公国が『なかよし』か『ぶっころ』で動くか解らない以上、下手な行動は避けながら『こちらには話し合いの意思がある』と伝える必要がありそうだね。

 

 

「その通りかと。とりあえず公国にいる獣王国の外交官を通じてもう少し情報を集め、あちらの出方を窺います。ここからは外交の話になるので私に一任してほしいのですが、やはり最終的にはママに出てもらう必要があるので……。」

 

「……そうなると、やっぱりお留守番の練習しなきゃいけない奴?」

 

「おそらくですが……、国境線に転移の魔法陣を設置できたとしても会談に数時間。その間にこの王宮からママたちが消えていたとなると……。諜報対策は行っていますが、万全とは言い切れません。最悪どこかに流れ、『公国が獣王を抑えている、今が好機!』として戦端が開かれる可能性があります。」

 

 

そ、そっか……。

 

私は全然気にしてなかったけど、普通に諜報戦もあるんだよね、この世界。かといって暴力の世界で生きて来た私に防諜なんてできないし、子供たちはそも意味が理解できないだろうし……。ルチヤの反応を見る限り、獣王国に関してはかなり後手後手に回っているのだろう。ある程度“情報を抜かれる”前提で動かなければならないようだ。

 

 

「ママお一人でしたら、王宮内での執務など色々と言い訳が利きます。けれどお姉様方全員を連れて移動すれば、露見する可能性は高いでしょう。」

 

 

ルチヤが言うには、もし会談が開かれるとすれば場所は国境線の可能性が高いという。大陸情勢が2分されている以上、同盟国でもない他国の王を自国に迎え入れるのはリスクが高すぎる上に、私が特記戦力でもあるため公国としてはあまり自国領に入って欲しくない。

 

だが国境線となれば、各陣営の諜報員が数多く流れ込んでいる場所でもある。何せこの世界にはセンサーとか人工衛星とかそんな便利なものはないのだ。人の眼で確認して、情報を伝える必要がある以上、確実に各国の諜報員が大量に配置されている。そんな場所に群れごと移動すれば、一発で露見するわけだ。

 

 

「もしそうなったら……。軍師の所、ナガンがヤバい感じ?」

 

「はい。我ら連合国の西を受け持つあの国は、三つの国と国境を接しています。情報伝達の速度がそこまで早いかは確認できないのですが、もしあちらが私達と同じような高速伝達方法。通信機の魔道具を持っていた場合、流石の軍師でも押し込まれ崩壊するでしょう。」

 

 

アイツが負けるなどあまり考えられないが、幾ら軍師でも数の差はひっくり返せないかもしれない。それに一度殴ったエウラリアの母国ことトラム共和国が『あ、ナガンやられてるじゃん。なら混ぜてもらお! きぃぇぇぇ!』になる可能性が高い。

 

となると待っているのはナガン崩壊からの、それを為した敵集団のヒードへの流れ込み。3国分の敵で特記戦力も持ち込まれたとなれば私が出なきゃならないんだけど、そうなると獣王国側の守りが薄くなって攻め込まれてしまう。

 

そしてそうなればもし公国が『なかよし』路線で近づいて来ていたとしても『なんか滅びそうだし、今のうちに攻め込んでパイの取り分確保しとくか……!』になる可能性が高い。というかもしそこまで追い込まれれば、私達ダチョウが生存の為にヒードを捨てる選択肢を考え始めなきゃならなくなる。

 

流石に仲のいい友人であるアメリアさんやマティルデ、娘になったルチヤ辺りは回収するが、それ以外は全部捨てて一旦高原に逃げ帰るみたいなことに成り兼ねない。

 

つまりどっちみち攻め込まれたら終わりで、全てが露見しないように私一人で出向く必要があるわけ。

 

けどそうなると、うちの子たちにアレをお願いしなきゃいけなくなるわけで……。

 

 

「あのさ、デレ……。“おるすばん”できそう? ママお仕事でちょっとお出かけしなくちゃならないみたいで……。」

 

「おる、すばん?」

 

「そうそう。……ママいなくてもみんなでじっと出来そう?」

 

「…………やだっ!!!」

 

 

返って来るのは強い否定。

 

だ、だよね……。

 

 

「と、とりあえずルチヤ? 悪いけど公国さんが何考えてるか調べてもらっていい? ちょっとアイツを信用しすぎるのも不味そうだけど、軍師に相談したらある程度は助けになると思うし。……あ、なんかあっちが渋ったら『わたしへの借りはいつ返すつもりなの?』って言えば口開くはずだから。」

 

「了解です! 早速あっちと通信してみますね! それと、私も留守番無しの方向で何とかならないか色々考えてみます!」

 

 

悪いね、本当に。

 

さて……、私は私で、留守番不可避になった時の為に色々と頑張らせて頂きますか。

 

ダチョウのお留守番大作戦、いけるか……!?

 

 

 

 






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