今日も僕は女騎士とラブコメを語る   作:名切 陽

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11 今日もアタシは異世界で魔物を狩る

 アタシの名前はザーディ=ドラニカ=ルードヴィッヒ。長ったらしい名前だから、誰かから呼ばれる時にはドラニカと呼ばせている。

 

 レガリア大陸辺境の小さな国、イリア公国の騎士団長であり、度重なる魔物の被害を食い止めるため、レガリア大陸で結成された魔物討伐隊の総責任者だ。

 

 魔物は海を渡らないため、大陸ごとに騎士団を作っている。

 

 責任者というガラではないが、まあアタシより強いやつがいないからしょうがない。

 

 

 

 アタシは剣を振るってきたらいつの間にかその役職についていただけで正直自覚はなかった。

 

 ……とはいえ、魔物を追ってよくわからない穴に飛び込んだのは早計だったと今は思う。

 

 魔物を追っていたアタシは、その勢いのまま穴に飛び込んで、無我夢中で魔物を倒した。

 

 そうしてアタシは気づいたら…………知らない世界にいた。

 

 

 

 =======================

 

 

 

「弁当は僕の部屋に置いてあるから。何かあったらスマホで連絡してね。…………まあ、できたらでいいから。」

 

「おう!まあ多分無理だな!使い方がさっぱりわかんねえ。」

 

「だよね……。僕もあの道を通ったら連絡するね。じゃ、行ってくる!」

 

 そう言ってユーキは学校に向かっていった。

 

 

 

 ユーキを見送ったアタシが部屋に戻ると、言われた通り机の上に弁当が置かれていた。

 

 アタシが気に入ったのがわかったのか、ユーキはたまに弁当を作ってくれる。しかもありがたいことに、アタシが魔物を討伐しに行く日は必ず作ってくれている気がする。

 

 アタシはユーキが作った弁当が好きだ。ユーキに出会う前は、魔物を無理やり魔法で調理していたが、食べられるだけで美味しくはない。

 

 いつもなら意気揚々とその弁当を持って偵察に出かける……のだが、今日は妙に気分が上がらない。

 

 

 

 いや、今日だけじゃない。ユーキと一緒に文化祭に行ってから、ずっとだ。何か心にもやが残っているというか……

 

「だーーー!なにうじうじしてんだアタシ!!!!」

 

 誰もいない家で1人叫ぶ。ユーキの両親は仕事でいないから大丈夫、なはずだ。

 

「魔物は狩らなきゃなんねえ。それだけは間違いねえはずだ。」

 

 日課である武器の手入れをしつつ、アタシはひとり呟く。

 

 

 

 世界が違うとはいえ、そこには生きている人達がいる。こちらの世界の魔物によって被害を出すわけにはいかない。

 

 これはアタシの騎士としての誓いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 昼前に家を出たアタシは、感知魔法に反応があった場所まで来ていた。

 

 「はぁ……やっぱアタシがいるとダメか。」

 

 とりあえずやみくもに走ってみたが魔物の姿どころか痕跡すら見つからないし、対魔物用の鎧はガチャガチャしてうざったい。

 

 これ以上はどれだけ探しても無駄だ。

 

 そう判断したアタシは、諦めてユーキの弁当をつまみつつ状況を分析する。

 

 

 

 感知魔法というのは居るか居ないかがわかるだけで場所は非常にあいまいだ。しかも感知魔法から逃れられる魔物は居ないが、気配を消す、姿を隠すことなら得意な魔物が多いと来た。

 

 あいつらがいれば……。討伐隊の連中を思い出す。

 

 あいつらは男所帯で、アタシにセクハラかましてくるような奴ばかりではあったが、討伐隊としては優秀な連中だった。

 

 専ら魔物を狩るのはアタシだったが、あいつらがいれば魔物を一瞬で見つけ出せただろう。アタシはそういう魔法はさっぱりだった。

 

 

 

「ま、アタシはやれるようにしかやれねえな。」

 

 ここで魔物を見つけられたら楽だったんだが仕方がない。

 

 いつも通り、ユーキに頼ることにしよう。

 

 

 

 

 

「お、来た来た。」

 

 ユーキから指定の場所に行くという連絡が届いた。

 

 ユーキのお陰でスマホをみてユーキからの連絡を確認することはできるようになったのだ。

 

 アタシはさっきまで読んでいた「コイミチ」8巻をカバンにしまった。

 

 遠視魔法で確認すると、ちょうど魔物反応があった場所にユーキが歩いてくるところだった。

 

 自分で使っててナンだが、魔法ってのは便利なもんだ。

 

 魔物に気づかれないぐらい遠くでも、バッチリ、ユーキの後頭部のつむじまで見える。

 

 

 

 ユーキに頼んでいるのは囮役、だ。

 

 こっちの世界に来てからしばらく経って、アタシが近くにいる限り、魔物は姿を現さなくなった。だが、魔物を駆除するためには潜伏をやめさせなければいけない。

 

 そこでユーキだ。なんでかは知らないが、アイツは魔物に好かれている。アイツと出会った時も、警戒心が強いことで有名な魔物が喜々としてユーキを襲っていた。

 

 簡単に言えば、ユーキは魔物に好かれている。

 

 ……だから、アタシはユーキに協力を依頼したんだ。

 

 

 

「ん!?」

 

 ユーキを見ていたアタシは異変に気づいた。

 

 ユーキが通っていった道の後、黒い靄がゆっくりと集まっているのが見えた。

 

 黒い靄は、徐々に1つの蜘蛛を形作る。

 

「……………ッ!」

 

 蜘蛛のシルエットが歪む。黒い霧が濃くなったかと思えば、蜘蛛が2つに増えているのが見えた。

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そこまで見たアタシは魔法を発動させた。

 

 アタシの一番得意な魔法。

 

 それは身体強化の魔法。それを下半身に集中させ、全力でジャンプする……!

 

「ッ…………!」

 

 浮遊感とともに飛び上がる。この距離ならひとっ飛びで魔物のとこまで行けるはずだ。

 

 空中に飛び上がって数秒、もう遠視魔法で見ていた蜘蛛たちが、目視できるところまで近づけていた。

 

 魔物たちは後ろから高速で飛び降りてくるアタシに気づいていない。

 

 これなら後は狩るだけだ。いつもと同じ。問題ない。

 

 

 

 ――だが今日からずっとあった心のもやもやが、ここまで来ても消えてくれない。頭を振ってそれを気にしないようにする。戦う前にいらない思考は消し飛ばさないとマズイ。ここで怪我をしたら元も子もない。

 

 ……ユーキにも心配かけちまうしな。

 

 アタシは持っている剣に力を込めて、着地するついでに蜘蛛の頭を叩き切った。

 

 

 

 =======================

 

 

 

 戦闘前はモヤモヤとした気持ちが振り切れなかったが、実際に戦えばなんということはない。いつも通りに戦えた。

 

 あの魔物は分裂する特性が厄介なだけで1体1体の強さは大したことはない。戦ったことも何度もある魔物だ。

 

 数分戦った後、アタシの周りに蜘蛛の魔物たちだったものが転がっていた。

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」

 

 息を整えようと口を開ける。

 

 顔中にでてきた汗が道にぼたぼたと落ちていく。

 

 魔物を狩っていてここまで消耗したのは久々だ。

 

 文化祭の前に魔物をめちゃめちゃ狩ってたときにもこんなことはなかったんだが……。

 

 どうやら、いつもより気を張っていたらしい。理由はよくわかんねえけど……。

 

 ――そんな事を考えていたら息も落ち着いてきた。

 

「はあ、疲れたしとっとと帰るかね。」

 

 アタシはそう呟いて炎魔法を唱えた。

 

 魔物の残骸が焼ききれて消えていく。

 

 どうしようもなく、ユーキの顔が見たくなっていた。

 

 

 

 

 

「お、ドラニカ!おかえり~」

 

 アタシが部屋に返ってくると、ラブコメ小説を読んでいたユーキが顔を上げた。

 

 ユーキの笑顔を見て、ようやく心から落ちつけた気がする。

 

「今日は魔物を倒したんだよね?僕なんにもしてないけど……。」

 

「おう!ま、ユーキが気づかないのが一番だ。」

 

「ふーん。まあ怪我はないみたいだし、良かったよ。」

 

 そう言ってユーキは微笑んだ。

 

 

 

 アタシのほうがユーキを利用しているようなもんだし、なんだか気恥ずかしい。

 

「よせよ。アタシだって弁当作ってもらってるんだしな。」

 

 そう言ってアタシは空になった弁当箱を渡した。

 

「まあ、それなら良いけど……。じゃあ洗ってくるね。」

 

「おう。じゃあアタシもちょっと屋上まで行ってくるわ。」

 

「いつもの、だね。お疲れ様。」

 

「すぐ終わるから別に疲れねえよ。んじゃ、行ってくる!」 

 

 アタシは浮遊魔法を使いながら窓を飛び出した。ユーキは窓から顔を出しながら手を振っている。

 

 ……それを見てアタシはまた心のもやもやが強まるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 アタシは魔物を借り終わった夜、いつも屋上で感知魔法を使う。そうすれば魔物がどこにいるのかがわかるからだ。

 

 次に狩る魔物をどいつにするか決める必要もある。

 

 だが、アタシは感知魔法を使うか悩んでいた。

 

「はぁ……何やってんだアタシは……。」

 

 理由はもうわかっている。今まで見ようとしていなかった現実。それを直視するのが嫌だったんだ。

 

「くそっ。こんなのアタシらしくもねえ。やるしかねえことを悩んでんじゃねえ!」

 

 そう叫んだアタシは腕を掲げる。感知魔法を発動させ…………現実を目の当たりにした。

 

 念のため何度も魔法を使うが……結果は変わらない。

 

 アタシは意気消沈してため息を付いた。

 

 

 

 こっちの世界にいる魔物は0・体・。アタシの感知魔法はそう告げていた。

 

 アタシの感知魔法は、イリア公国でもトップレベルだった。日本程度の島国なら、すべて覆ってしまうほどに。

 

 魔物は海を渡れない。それはこちらの世界でも変わらない。

 

 つまり、アタシが追っていた、穴を通ってきた魔物は全滅したと判断できた。

 

 

 

 魔物がいなくなるということは喜ばしいはずのことなのに、気分が晴れない。

 

 今思えば、魔物の数が少なくなるたびにモヤモヤする気持ちが高まっていた。

 

 それに目を背けてきたのは、アタシだ。

 

 思わず空を見上げる。

 

 

 

 

 

 ――――アタシがこっちの世界にいる意味は、今日この瞬間、なくなったんだ。

 

 それは任務完了という意味であり、騎士団長としては喜ばしいことだ。

 

 でも、なぜだかアタシは素直に喜ぶ気にはなれなかった。




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