今日も僕は女騎士とラブコメを語る   作:名切 陽

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あけましておめでとうございます。
ガッツリ体調崩して遅れましたが、今日から通常更新です。


12 僕は女騎士と告白を語る

 色々とあった文化祭から数ヶ月経過し、世の中はクリスマス、そして年越しといった風情になってきた。

 放課後になった教室ではクラスメイトが、デートがどうとか彼氏彼女がどうとか話している。ま、僕には関係ない話だ。

 ラブコメ作品ではとても重要な意味を持つ12月。

 僕はいつも通り、本屋に向かうため、足早に席を立った。

 

 今年の冬は冷えるらしい。

 冷え切った階段を駆け下りながら、僕はコイミチのことを考えていた。

 今、コイミチは10巻まで発売しているが、次の巻が恐らく最終回だ。たしか発売日も決まっている。1月の……いつだったか。月初発売とかだったかな?

 

 そこまで考えて、ふと、家に居候している女騎士のことが頭に浮かぶ。

 ……ドラニカはコイミチをどこまで読み進めただろうか。

 ドラニカは文化祭が終わってからも、引き続き少しづつだけど「コイミチ」を読んでいる。確かもう9巻を読み終えそうなとこだったはずだ。

 

 そんなことを考えていると、受かれていたクラスメイトに感じていた疎外感が消えていく気がした。

 今はとにかく、ドラニカから9巻の感想を聞きたい。ドラニカと話をするのはとても楽しい。

 僕は足取り軽やかに帰り道を駆けていった。

 

 

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「お、ユーキ!帰ったか!」

 僕が自分の部屋に戻ると、ドラニカは読んでいたコイミチをいったん閉じてこちらに手を挙げた。

「うん、ただいま」

 僕はいつも座っている場所、ドラニカの対面に座って落ち着く。

 ドラニカはコイミチの9巻を持っている。どうやら今まで9巻を読んでいたらしい。

「9巻はどう?読み切った?」

 ドラニカの持っている9巻を指さしながら聞く。声が弾んでいるのが自分でも分かった。

「おう!今日読み切ったんだが、さっきまでよかったトコを読み返してたんだ。いい話だったぜ……」

 ドラニカは9巻を見つめながらつぶやいている。

 その表情は晴れやかで、僕は少しほっとした。

 

 文化祭が終わってしばらくしてからだろうか。ドラニカが部屋でボーっとしていることが多くなった。僕が話しかけても上の空というか、心ここにあらずといった感じ。

 普段は騎士らしくきびきびと生活し、暇さえあればコイミチを読むか武器の手入れをしていたドラニカが、何もせずにボーっとしているというのはあまりに違和感があったのを覚えている。

 

 普段と違うドラニカのことを僕はひそかに心配していたんだけれど、今のドラニカはいつも通り、コイミチについて僕と話したくてうずうずしてる感じだ。

 

 よかった。

 正直、怪我だったり病気だったりを隠してないか不安だったのだ。まあ、もし隠していたとして、僕にできることはないかもしれないけど……。

 

「――――オイ!ユーキ!ユーーキー!!聞いてんのか?」

「ん?あぁごめん。ボーっとしてた」

「なんだとー?アタシの話を聞かずにボーっとするたあ、いい度胸だ!」

 

 そう言ってドラニカは、机越しに腕を僕の首に回してきた。

 そのまま僕はドラニカの腕と体に挟まれる格好になる。

 

「そんなヤツにはお仕置きだ!」

「ちょ――――――――」

 

 ドラニカは腕で僕の首を締め上げる。そこまで圧迫感は無いから本気ではない、本気ではないのだが……。

 

 「ま、待って……やばいって……」

 

 ドラニカの腕と体に挟まれるということは、すなわち女性特有の体の柔らかさとか、めっちゃいい匂いとか、そういうのが押し寄せてくるわけで……!

 僕は顔がどんどん熱くなっていくのを自覚した。

 

「おうおう!アタシの前でボケっとしてんのが悪ぃんだぜ?」

 

 ドラニカだって最近ボケーっとしてたじゃん!という反論は届かない。ていうか僕はそれどころじゃない。

 最近のドラニカがボーっとしているときが多いのは確かなのだが、同じ時期から身体的接触……というかボディータッチが妙に増えている気がするのだ。

 

 ドラニカがいたのはこちらで言う体育会系だし、こういうじゃれあいも気にしないのだろう。

 だけど僕はどこまで行ってもオタクのインドア系だ。

 ドラニカとは一緒に生活してきて仲良くなってきた自覚もあるとはいえ、こんな近くに女性がいることはないし、人と触れ合う機会なんかそうそうない。

 つまり、何度こんなことをされても慣れないってことだ。

 

「わかった!ごめん!コイミチの話でしょ?ちゃんと聞くから!!」

「ん?……そうだそうだコイミチの話だった。ちゃんと聞けよー??」

「わかったってば……」

 

 散々僕をいじくりまわした後、ドラニカはどうにか腕を離してくれた。

 気になることはあるけれど、とりあえず目の前で考え事をするのはやめよう……。

 

「えーっと……、さっきボーっとしてたから説得力ないかもだけど、楽しみにしてたからさ、ドラニカの感想。早速だけど、聞かせてよ。」

 

 息を整えつつドラニカに水を向ける。

 

「ったく……調子いいやつだな。ま、言われなくても聞かせてやるよ。」

 

 そう言ってドラニカは机を挟んで僕の対面に座った。

 僕とドラニカがしゃべるときの定位置みたいなものだ。ドラニカもすっかりこの部屋になじんだ気がするなあ。

 

「いやー今回の巻はマジでよかったな……、ついにサクラが告白だもんなあ……。」

「親戚みたいなリアクションだね……。でも僕も最初読んだ時はそんな気持ちになったなあ……。」

 

 ドラニカはだろ?と頷いている。僕も思わず頷き返した。

 

 そう、コイミチ9巻は主人公佐藤と桜による遊園地デートがメインの巻だ。

 それだけでもラブコメ好きとしてはデートシーンににやにやしっぱなしだったが、最後の章、デートのクライマックスであるイルミネーションの告白シーンは、ついにこの時が来たかとファンを歓喜させたのである。

 

「でもよ、アタシはちょっと意外だったぜ。まだまだ告白は先だと思ってたがな……。」

「確かにね……。でもそこはやっぱり菫のせい、というか菫のおかげじゃないかな?」

「スミレ?なんでそこでスミレが出てくるんだよ?今回のデートにスミレは全くノータッチだったよな?」

「確かに菫は参加してないけど……。最後の告白はやっぱり菫の存在が大きいと思うよ。だからこそ桜からの告白になったわけだし……。」

「そう!そうだよ!サクラから告白するってのは意外だったんだよ!」

 

 ドラニカは勢いよく僕を指さした。

 

「アタシの世界では男が告白するのが普通っつーか……。女からの告白なんて正直許されない雰囲気はあったぜ?」

 

 うーんまさに小説とかでよく見かける異世界って感じだ……。男尊女卑がすごい。

 

「ま、まあ僕たちの世界でも男が告白するのが一般的ではあるけど、女性からの告白も珍しいわけじゃないと思うよ」 

「そうなのか?でもサクラってそんなにグイグイする感じじゃなかったというか……。少なくとも告白みたいなことはしないと思ってたんだが……」

「そうだね。だからこそ菫の存在が影響してくるんだ」

 

 僕はそう言ってドラニカの手元にあったコイミチ9巻の第1章を開いた。

 そこには何か決意を固めたような表情をした桜が描かれている。

 

「ドラニカは6巻であった文化祭の回を覚えてる?」

「おう!あれは面白かったなぁ。サトウとサクラがいつも通りイチャイチャしてて、スミレがそれにちょっかいかけて……」

「そう!そこだよ!」

 

 僕はビシっとドラニカを指さす。

 

「桜はそんな菫を見て、佐藤が誰かに取られてしまうんじゃないかって頭によぎるようになるわけだ。佐藤は菫以外にも女性キャラと仲良くしてる描写があるからね」

「なるほど!……いや待てよ。でも佐藤はもともとそんな感じっつーか、モテてなかったか?」

「そう、だからあくまで菫はきっかけ。桜は菫とも仲良しだから菫の良いところも当然知ってる。だからこそ佐藤が菫に惹かれてしまうんじゃないかって不安になるわけだ」

「ふーん……アタシからすりゃ意外だぜ。サトウとサクラには誰も……それこそスミレも入り込めねえっつーか……2人の世界って感じだと思うんだが……」

 

 僕は自分が思わず笑顔になっているのを自覚した。

 ドラニカが的を射た感想を言ってくれたのが嬉しかったのだ。

 

「そう!そこがこの巻の()()なんだよ!」

「うおっ」

 

 僕の大声にドラニカが驚いているが、気にせず続ける。

 

「ここまでずっっと語られてたように、佐藤と桜は周りから見れば付き合ってるんじゃないかってくらいお似合いなんだ。でも桜自身はそれに気づいていないんだ」

「マジかよ……。アタシはこいつらいつ告白すんのかやきもきしてたぐらいなんだがなー」

「それは僕も一緒だけど……。やっぱり当事者の感じ方は違うってことじゃないかな。」

 

 友達から恋人へと変わるために一歩踏み出すというのは、ラブコメにおいてとても大事なことだ。当然コイミチもしっかりと力を入れて描写している。

 だからこそ、桜の告白について僕とドラニカは熱く語れるのだ。

 

「なるほどな!さすがユーキ!サクラの気持ちもばっちり理解してるってわけだ」

 

 ――と、気づいたらドラニカがすごいキラキラした目でこっちを見ていた。

 何かすごい誤解されている気がする……。

 

「い、いや、あくまで僕の想像なだけで本当かはわかんないし……、僕はそもそも女友達すらいないような人間ですので……。」

 

 思わず敬語になってしまう。

 今更だけど僕の解釈をさも真実のようにドラニカに伝えて大丈夫なのだろうか……。

 

「へぇ、そうかぁそうなのか……」

 

 ドラニカは僕の言い訳を聞いてなぜか満足そうに微笑んでいる。

 僕の非リア充自慢の何がそんなに良かったのだろうか……。

 

「ま、まあ僕のことはどうでもいいんだよどうでも!とにかく桜の告白は彼女の葛藤も併せてとってもいいシーンってことだよ!」

 

 僕は少し強引だと自覚しつつも話を締めて、机の上に置かれたお茶を飲んで喉を潤した。

 ドラニカも僕に倣ってかお茶を飲んで一息つく。

 

 これで桜の告白については粗方語り尽くしただろう。

 僕の部屋には、夕方特有のまったりとした空気が流れていた。

 いつも通りなら、僕が母さんから晩御飯に呼ばれるまで、適当な雑談をしたり、コイミチを読み返したりと、思い思いの時間を過ごすところなのだが……。

 今日はいつもと違った。

 

「な、なあ。もうちょっと話してもいいか?」

 

 ドラニカが遠慮がちに僕に提案してきたのだ。

 

「この巻の前半も結構アタシ的には面白くてさ。ほら、一緒にデートするところとか、もうちょい喋りたいっつーか……」

 

 その言葉を聞いて僕は、勢いよく頷いた!

 

「いいよ!全然いいよ!むしろ僕からお願いしたいぐらいだよ!!」

 

 コイミチの9巻はクライマックス直前の大事な巻だ。

 正直前半のデートについても語りたい気持ちはあった。

 ちょっと疲れたし、このまま終わってもよかったのだが、ドラニカがまだ語りたいことがあるなら話は別だ。

 

「そ、そっか……ありがとな……。おし!もうちょい付き合ってもらうぜ?」

 

 ドラニカは僕の反応が良かったのか嬉しそうだ。

 

 ドラニカとの楽しいラブコメ語りはまだ終わらないらしい。

 僕はいつも以上に気合を入れて床に座りなおした。

 

 

 




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