Crime and Punishment   作:アイダカズキ

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断章 凶つ星

 前略 高塔百合子様

 このような形での挨拶となることをお許しください。ご多忙なあなたの時間を奪うのは本意ではありませんので、結論から申し上げます。私はかつての古巣に──〈機関(エンジン)〉に戻ろうと思います。繰り返し考えましたが、それが夫にとっても、龍一にとっても、最善であると考えたからです。

 私のかつての上司や同僚たちが、いわゆる「行きずりの暴力」の犠牲になったことはもうご存知かと思います。ご存知でないはずがありませんね。高塔の家には馴染み深い単語ですから。

 正直なところ、来るべきものが来ただけだ、が私の感想です。

 この地が「未真名」と名付けられる遥かな以前、一面の葦と沼地と、わずかな陸地と、そこにしがみつく官憲の手を逃れてきた何とも説明できない人々が生きる名もなき地であった頃から、この地にはずっと「あれ」が眠っていました。

 あの頃の私たちは若くて、才能に溢れていて、何よりも愚かでした。「あれ」を掘り出すことの意味が、掘り出して起こることの一切の意味が、一つもわかっていませんでした。誰が掘り出してどう使おうと「あれ」は同じ災いを世にもたらす──わかっていたのは一人だけ。あのヨハネス──いずれ〈犯罪者たちの王〉プレスビュテル・ヨハネスと呼ばれることになる、彼ただ一人でした。

 彼は当時からどんな汚らしい手を使ってでも龍一を殺そう、と決めていたに違いありません。それが彼が類を見ない、世界規模の「罪の王国」を築き上げた、ただ一つの理由に他ならないのですから。

 そしてその決意を、決意というよりは妄執に近いそれを、私たちは結局、最後まで理解できていませんでした。私たちは若くて、才能に溢れていて、何よりも愚かで──そしてその愚かさをあの男は看過しませんでした。誰かに人の道を説く人生もまた他人を操作したい、と願う醜い欲望とは無縁でないのと同じように、私たちを突き動かす使命感の根底にも浅ましい功名心があったことを、あの男は見抜いていたに違いありません。さすがは〈犯罪者たちの王〉と讃えるべきでしょうか。

(あなたのお祖父様については──ヨハネスの思惑には気づいていたのでしょうが、おそらく気にも留めなかったものと思います。散々お世話になりながらこのような言い方は気が引けますが、血に飢えた復讐者(リベンジャー)──失礼──というあの方の印象は、当時から今に至るまで変わっていません)

 彼を甘く見た報いを、いずれ私も含め、全員が受けるでしょう。それが夫と龍一にまで及ぶことは、どのような手段を使ってでも阻むつもりです。

〈機関〉は私の復帰を(渋々とですが)認めました。何も不思議ではありません。龍一が物心つくまでの数年間といえ、その間に私が記録し続けたデータは彼らにとっては値千金でしょうから。

 それに伴い、苗字を相良から旧姓に戻します。夫には詳細を省き、ただ事実のみをお伝えください。聡い人ですので、きっと私の意を汲んでくれます。それもまた、渋々とでしょうが。

 最後に、龍一をお願いします。私がわずか数年といえ、母親の真似事ができたことに、自分でも驚いています。

 あの子について考える時は同時に、あの有名な言い回し──「親はあっても子は育つ、親がなければもっと立派に育つ」を思い出すことにします。

 敬具 (しら)()(とう)()

 

「〈黒の騎士〉よ、〈犯罪者たちの王〉の名において命ずる。我が敵を滅せよ」

「御心のままに。我らが王、プレスビュテル・ヨハネス陛下」

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