Suguru May Cry 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
アメリカ、とある街の裏路地にて少年が一人で歩いていた。
土産屋の袋を持ち、キャリーケースを引きずりながら歩く様は正に観光客だ。
「やぁ、少年。こんな路地を1人で観光だなんて不用心すぎだぜ」
優しげな声で語りかける金髪の男。
「観光に来た訳じゃ無くて、探し物をしてるんだ」
「おっと、日本人だし、キョロキョロしてるから観光客だと思ったんだが違うのか?」
「一応、住所はこの辺りなんだけどね。この荷物なら間違われても仕方ないか」
「探し物って言ってたが、手伝おうか?」
「ありがたいが、探し物は見つかったから結構だよ」
少年は男の申し出を断る。そして、お詫びのつもりなのか土産屋の袋を差し出す。
「なんだよ、コレ…………うぁっ!!」
突然手渡された袋を怪訝そうな顔で確認する男。男が覗いた袋の中には、虫のような頭をした奇怪な何かがいた。
突然のことに男は驚き、袋を手放してしまう。
「そう言えば、この辺りに観光客を食いものにする困った奴がいるらしい。怖い話だけど、文字通り’‘食べちゃう‘’んだってさ」
驚く男をよそに、少年は淡々と語る。
「それが視えたって事は、まともな人間じゃないだろ?いい加減猿芝居はやめたらどうだい?」
「くっ………くっくっく…………クァッハハッハッハ‼︎面白え事言うガキがいたもんだ‼︎」
豹変したかのように笑い声を上げたかと思うと、男の体がボコボコと音を立てながら変形していく。
恐怖と嫌悪感が両立したような変わりように、普通の人間ならば足がすくんでしまうか、精神に何かしらの異常をきたすかもしれない。
しかし、少年は普通では無かった。
『ここ最近、噂になってきたせいで飯にありつけなかったからなぁ‼︎ありがたく食わせてもらうぜぇぇぇぇ……………え?』
化け物となった男が大きく口を開け、少年を食らおうとする。
しかし、少年は動じる事なく右手で銃を構えていた。
「期待してたけど………この程度なら術式を使うまでも無いね」
次の瞬間、路地裏に複数の銃声が響いた。
『えぁ?』
「おや、思ってたより丈夫じゃないか。なら、これはオマケだよ」
少年は何処からともなく、左手に銃を握る。そして二つの拳銃を構える。
少年が両手に構えるには、大きく、無骨な形をした拳銃。片方の銃を撃つだけでも反動で吹き飛ぶかもしれない代物なのだが、少年は反動なんて無いような素振りで冷静に引き金を引く。
何発の弾丸を撃ち込んだのだろうか。化け物となった男の断末魔が聞こえなくなるまで只管に撃ち続けた少年は、二つの銃をクルクルと回して弄びながら腰のホルスターへとしまう。
「思ったより頑丈だったし、アメリカで最後の仕事だ。君にも術式を使ってあげるよ」
少年が手を翳すと動かなくなった化け物は少年の手に吸い込まれていく。そして片手で収まる程度の玉へと変化する。
少年はその玉を飲み込む。
「あんな見た目の奴をよく飲み込めるな。もしかして美味かったりするのか?」
少年の様子を見ていたのか、赤いロングコートを羽織った男が少年に声をかける。
「こんなもの美味しい訳が無いだろ。ま、罰ゲームで食わされた君の手料理よりはマシな味さ。良かったら食べてみるかい?ダンテ」
ロングコートの男の名はダンテ。アメリカを拠点にする腕利きのデビルハンターである。
「おいおい、傑……勘弁してくれよ。そんなもん食ったら、暫くはピザもストロベリーサンデーも食べられなくなっちまう」
「一度無理矢理にでも食べさせてみるべきだったな」
少年の名は傑、夏油傑という。特殊な化け物が見えて、戦う才能がある事以外は普通の日本人だった少年だ。
小学校を卒業した後、家族でアメリカに旅行に来ていた際、異形の化け物…………悪魔に襲われ、家族を殺されてしまうも、ダンテに助けられてなんやかんやで中学の3年間をアメリカで過ごす事になったのだ。
その過程で術式に目覚め、武器の扱いを覚え、ダンテのデビルハンターの仕事を手伝うようになった。
「それにしても、日本に帰るってのに、最後の仕事がこんな雑魚ってのは可哀想だな」
ダンテの仕事を手伝う中で、数々の強敵と戦い、生き残ってきた傑は、その道ではそれなりに有名なデビルハンターとなっていた。
その活躍を何処で聞き入れたのか、日本のデビルハンター、呪術師が傑を直々にスカウトに来たのだ。
「折角だ、少し事務所に寄ってけ。今回の報酬とちょっとしたプレゼントを用意してある」
「また、モリソンを使いっ走りにしたのか。モリソンに同情するよ」
「うるせ」
その後、2人して軽口を言い合いながらダンテの事務所へと移動した。
〈Devil May Cry〉。デビルハンター、ダンテの事務所。悪魔絡みの依頼を専門とした便利屋みたいなものだ。
しかし、悪魔絡みの依頼など、そう多くは無いし、基本的にダンテは週休6日を掲げて普通の依頼を受けない為、事務所は閑古鳥が鳴いていた。
ダンテ自身に莫大な借金がある事もあってか、基本的に金欠で光熱費が払えない事も少なくない。
「ダンテ、これは親切心からくる助言だが………これからは悪魔絡み以外も受けた方がいい」
「ほっとけ。んなことより、こいつらを持ってけ。入学祝いだ」
テーブルの上に無造作に置かれる幾つかの武具。
獣のようなデザインで白く光る籠手と具足、コウモリの翼のような鍔にドラゴンの頭部のような意匠が施されている大剣、そして三節に別れたヌンチャク。
「ベオウルフとケルベロスは兎も角、アラストルも良いのかい?これだけの魔具を私に?」
人間界ではおよそ再現する事が出来ないとされている武器の事を指す。悪魔が住むとされる魔界で作成されたものだが、強大な悪魔を認めさせるか屈服させる事で手に入れる事も出来る。
貴重な武具だが、結構な数の魔具を手に入れてきた。しかし、ダンテが金欠であるせいで、その殆どが質屋にいれられ金にされている。
「前にエンツォの店に行った時に、お前がアラストルに触ろうとして刺された時があったろ。あれを見て、こいつはお前に譲るべきって思ったんだ。俺より大事に扱ってくれそうだしな」
大剣の名は魔剣アラストル。雷の力を宿した魔剣で手にしようとする者の心臓を貫き、自分を扱うに相応しいかを試す性質を持つ厄介な魔具だ。
ダンテの魔具は、基本的にエンツォという男の質屋に質草として収められている。
仕事帰りにエンツォの質屋に寄った際、興味を持った傑が手にしようとしたらアラストルが動き出し、傑を貫くという事があった。
当時はエンツォもダンテも大慌てだったが、死の間際にとある技術を手に入れた事で傑は事なきを得たのだった。
「そうか、なら有り難くいただいていくとしよう」
そういうと傑は手を翳す。すると芋虫のような怪物が現れ、魔具を飲み込んでいった。
「それがジュレイって奴か、中々便利なもんだな。見た目は好みじゃねぇがな」
「あぁ、日本ではこの呪霊が沢山いてね。呪術師っていう…………日本版デビルハンターみたいな奴らが倒してるらしい」
「わざわざ日本からスカウトに来るぐらいだ。よっぽど人手が足りねぇんだろうな」
「仕事したがらないダンテには耐えられないだろうね」
「ははっ、違いねぇな」
「さて、名残惜しいがそろそろ行かないと飛行機に間に合わなくなる。ダンテ、風邪は引くなよ。あと、レディ達にもよろしく言っといてくれ」
「あぁ、お前も何かあったら呼んでくれ。観光ついでに会いにいってやるよ」
「またな、ダンテ」
「またな、傑」
手を振り別れを伝え、事務所を出て行く傑。あらかじめ呼んでおいたタクシーに荷物を乗せ、運転手に行き先を伝える。
移動の最中、これまでの思い出を振り返る傑。命懸けの日々だった。思い返しても碌な思い出が無い。だが、それでも悪くない日々だったと思うと笑みが溢れるのだった。
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