Suguru May Cry 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
乙骨憂太は、この日初めて自身の理解の範疇を越える何かに出会った。
少ないキャリアながらも、それなりに任務をこなしてきた。狡猾な呪霊や悪徳に染まった呪詛師とも戦った。
目の前の男、アーカムは姿は人間であるのにも関わらず放っている気配は呪霊のソレである。
人間の見た目であるのに、呪霊のような邪悪な気配に身が竦む乙骨。
「呪術界最強と言われている五条悟と夏油傑の生徒と聞いて期待していたが、準備運動にもならん。お前にも期待は出来んな、乙骨憂太」
「な……………なにを………………」
アーカムの周りに倒れている同級生達に絶句する乙骨。
血溜まりの中に倒れ込んでいる棘、細切れにパンダ。
そして、魔剣スパーダのレプリカに貫かれている真希。
「に……………げ…………ゆ………」
「まだ息があったか。なら、お前を殺すのは乙骨憂太の後にしてやろう」
夥しい程の血を垂れ流しながらも、意識を手放していなかった真希。気力を振り絞り、乙骨を逃そうとする。
アーカムはそんな真希に対し、虫を払うように振り落とす。
それを見た瞬間、乙骨は刀袋に手を掛けていた。同級生達が勝てなかった相手に自分が勝てる訳が無いという事は見た瞬間理解出来ていた。
乙骨の感覚としては悟や傑と同格の強さかもしれないという感覚さえあった。普通なら勝負にすらならない。
理性は全力で逃げろと告げている。しかし、乙骨はその理性を圧倒的な怒りで抑え込み抜刀する。
「来い、里香ァ‼︎」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」
初任務以来の折本里香の完全顕現。乙骨憂太を特級たらしめる呪いの女王が怒りの咆哮をあげた。
その様子を興味深そうに眺めるアーカム。
「現れただけでこの圧力……………良い………素晴らしいぞ、折本里香‼︎」
乙骨と折本里香から溢れ出る禍々しい程の呪力。そこ見えない呪力量とその迫力にアーカムは喜びを隠せないでいた。
「グチャグチャにしてやる」
初めに仕掛けたのは乙骨だった。溢れ出る呪力によって強化された身体能力は常人のそれを遥かに超えていた。圧倒的スピードで刀を構えアーカムへと斬りかかる。しかし、スパーダのレプリカを持つアーカムには通用せず、いとも簡単に受け止められてしまう。
「真正面から突っ込むしか脳が無いとは…………夏油傑も教師としては大した事が無いようだ」
「お前が先生を語るな‼︎」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」
乙骨の攻撃を受け止めたアーカムの死角から折本里香が拳を振り抜く。強力な一撃にアーカムは壁に叩きつけられてしまう。
乙骨はその隙に同級生達を回収し、アーカムから距離を取る。
「絶対に死なせない…………」
乙骨は硝子が行っていた他者への反転術式を見様見真似で行う。
硝子にコツを教わった時は余りにも抽象的で理解出来なかった乙骨だったが、アバウトにでも感覚が掴めたのなら莫大な呪力量で何とか形に出来た。
「現代では家入硝子のみが行える他者への反転術式………………存外に優秀だったか」
「何故攻撃をしてこなかった」
「君はウインドウショッピングをしないのか?折本里香のスペックは不明な点が多い。だから可能な限りの手札を見たいんだ」
「…………………」
「まずは手始めに質よりも量で確認だ」
アーカムが指を鳴らすとアーカムの背後から大量の悪魔が現れる。
「里香、アレをやる」
それらが一斉に乙骨へと襲いかかるが、乙骨が手を翳すと蛇目と牙の刻印がされたメガホンが出現する。
呪術への理解度を深めたアーカムは乙骨の一挙手一投足に興味深そうに観察していた。
「《死ね》」
「ほぉ、これが呪言か…………中々のものだ」
発する言葉に呪いを込める呪言。乙骨の身近な人間で言えば狗巻棘が使い手である。
乙骨は折本里香の特異性を活かして条件を設けずに術式そのものをコピーしたのだ。
スパーダの力を宿しているとはいえ、アーカムに術式を模倣する事は出来ない。
「ならば、次は質の方を見るとしよう。これならどうかな?」
アーカムが両腕を広げると、アーカムの身体から呪力の塊が溶け落ちるかのように落ちていく。
そしてその塊は歪な化け物へと変化する。
「呪術的に言えば極ノ番というらしいね。まぁ、この化け物を見ると昔を思い出すから少しばかり恥ずかしいのだが…………折本里香の性能確認と捕獲の為なら恥を忍ぼうじゃないか」
「安心しなよ、今の貴方もその化け物と大して変わらない」
「今の私はスパーダそのものに限りなく近い。そういう意味で言えば確かに化け物と言えなくもない。ならばこいつの名はスパーダの力を手に入れ制御出来たと勘違いしていた哀れなピエロ。ふむ、《ジェスター・アーカム》とでも呼ぼうか」
「さっきから話が長いよ……………要点を纏めて話せよ、大人だろ」
冷静に啖呵を切って見せる乙骨だが、目の前の化け物、ジェスター・アーカムに冷や汗が止まらなかった。
歪な形でありながら、殺意が溢れている。見ているだけで死を意識してしまうほどである。
仲間がボロボロにされた事による怒りで思考がいっぱいになっていた乙骨だったが、冷や水を浴びせられたかのように冷静さを取り戻した。
「◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」
身体を震わせながら魔弾を撃ち込むジェスターアーカム。折本里香にガードを任せ斬り込むが、ジェスター・アーカムが呼び出したアーカムズレギオンという蛇のような化け物に阻まれる。
反転術式のアウトプットでアーカムズレギオンを纏めて消し去るが、次の瞬間にはジェスター・アーカムの触手が乙骨を捉える。そしてそのまま壁に叩きつけられてしまう。
傷ついた身体を反転術式で治療しながら口元を拭う乙骨を折本里香は心配そうに見つめる。
「大丈夫だよ、里香。少し慣れてきた」
それはジェスター・アーカムの恐怖に対してもだが、それ以上に今の身体の状態に対しての発言だった。
生まれて初めてに近いレベルでの激昂、無限に溢れ出る呪力による身体能力の強化。
普段の訓練や任務では出してなかった出力での呪力の使用に感覚が追いついていなかった。
「合わせろ…………里香」
刀を構え、再度突撃する乙骨。これまでとは段違いの速さ。触手を伸ばし、アーカムズレギオンをけしかけるがそれらを振り切って懐まで潜り込んだ乙骨。
反転術式を刀に纏わせながら全力で刀を振り抜く。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」
悶え苦しむように叫ぶジェスター・アーカム。
アーカムズレギオンに対して反転術式が有効だったことから本体にも効くと判断して乙骨は全力の反転術式をもって斬りつけた。
しかし、瞬間的に莫大な呪力を流し込んだ事で呪力を流し込む器であった刀が乙骨の呪力に耐えきれなくなり、砕けてしまった。
「ふはははは‼︎駄目じゃないか乙骨憂太。そんな程度の武器にそれだけの呪力を一度に流し込んでは耐え切れる訳が無いだろ………う?」
「里香ァ‼︎」
追い討ちとばかりにジェスター・アーカムに拳を叩き込む乙骨と折本里香。
完全に息の合わさった攻撃に黒い火花が散る。
「これが黒閃…………なるほど、これは少々本気を出さないと厳しそうだ」
呪力の運用にも慣れ、黒閃を決めた事で乙骨と折本里香のギアはさらにもう一段上がる事になる。
傑でいう〈極ノ番・うずまき〉と似た技で作り上げたジェスター・アーカム。今のアーカムにとっては遊びに近い感覚で作ったものだが、かなりの数の悪魔と呪霊を注ぎ込んでいる。
折本里香を手に入れる事が出来れば良いとはいえ、手駒を悪戯に消費する訳には行かなかった。
アーカムは苦虫を噛み潰したような表情で掌印を組む。
「「領域展開」」
アーカムが領域を展開するのと同時に乙骨と並ぶようにして現れた傑が領域を展開する。
「随分と遅かったじゃないか、夏油傑」
「道が混んでたんだ………………それよりも、私の生徒が随分とお世話になったようだ」
「ちゃんと躾が行き届いていたよ。おかげでそれなりに楽しめた」
「ならしっかりお礼をしないとな」
軽口を叩き合っているが、アーカムは呪霊や悪魔をかき集めジェスター・アーカムを強化している。
それに対して傑も魔剣を呼び出し備えていた。
「待たせたね、乙骨。ここまでよく耐えた。後は任せなさい」
「先生、あの化け物は僕達がやります。なので先生はあいつをお願いします。僕だって呪術師です、あんなのに僕は負けません」
傑が改めて乙骨を観察すると、黒閃を経験した事で呪力の流れが完全に変わっている事に気がついた。
「分かった。無理だけはしないように」
黒閃を経験し術士として一つ上のステージに来た乙骨であれば勝てると判断した傑はジェスター・アーカムの相手を乙骨に任せ、アーカムへと斬りかかるのだった。
今回登場したジェスター・アーカムはデビルメイクライ3のボスの一体であるアーカムです。
普通にアーカムって名前ですが、この作品においてはジェスター・アーカムと呼称する事にします。
次回は傑がハゲとやり合います。その裏で乙骨君がアーカムをボッコボコにします。
次回からのエピソードどうしますか!?
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呪術廻戦0、乙骨くん編突入!!
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デビルメイクライ4編(悟を出すかは未定)