悲劇を少なめに、たまにダンメモやドラマCDのイベントを挟みながら進行できたらなと考えています。
拙い文章ですが、どうか暇つぶし程度にお楽しみください。
第一話。冒険者
度重なる咆哮が轟いていた。
地響きを伴う足音を立てる山羊のような角を持つモンスター───『フォモール』の大群が、怪物と称するにふさわしい巨躯を進撃させる。
「かかってこいやぁぁぁぁああああ!」
それに真っ向からぶつかるように、岩の巨人のような見た目をした何者かが群れの前に飛び出していく。
巨人とはいえ、その大きさは約3M。
一本の草木もない荒れ果てた大地を踏み荒らすモンスターの津波に飛び込むには少し心許ない。
だが、そんなことは関係ないと岩の巨人は大群に向かって巨石のようなタワーシールドを構えて殴りかかる。
「───ッ!」
無謀な突撃はモンスターたちに踏み潰され、その命を無為に散らす。
なにも知らない誰かが見ていれば想像したであろうそんな未来は訪れない。
「ふんぬ、ぎぎぎぎ…!」
驚くべきことに、その巨人は途切れることなく押し寄せ、立ち塞がる全てを押し流そうとするモンスターたちを真正面から受け止めていた。
さらに、彼の背後に控える仲間たちの方に向かってまっすぐ突進していた筈のモンスターたちが、急に足を止めて、まるで親の仇のように岩の巨人を狙い始める。
波がうねり、たった一つの岩に塞き止められているかのような光景を前に、彼の背後から見据えていた
「前衛、密集陣形を崩すな!後衛組は攻撃を続行!盾も緩めるな!何匹かは抜けてくるぞ!」
敵を受け止める仲間ごと攻撃する指示に対して、誰もが躊躇うことなく行っていく。
「お前らあとで覚えてろよなー!?」
不思議なことに、モンスターに降り注ぐ矢や魔法は巨人を傷つけない。
それはそれとして自分に向かって背中から攻撃されることに文句を言う姿は、まさに道化。
というか、仲間からの容赦のない攻撃に、若干嬉しそうと言うか、テンションを上げているのはなんなのか。
ある意味で彼が契りを結んだ道化師の神にふさわしいと言えるだろう。
───いやいや。うちのは
という関西弁の神のツッコミが聞こえた気がするが、どうせ幻聴だ。
なにせここは何十もの階層を積み重ねた地底深く───『ダンジョン』なのだから。
それに彼らの主神は関西弁なだけで、極東の関西出身な訳ではないから、お好み焼きともんじゃ焼きの違いをたぶん知らない。
「ベート、ティオナ、ティオネ!左右から『ナズナ』を支援しろ!」
「援護の指示がおせーよ!俺を過労死させるつもりか!?」
モンスターにタコ殴りにされ、仲間からもバカスカ撃たれてなぜか少し嬉しそうな巨人の名前はナズナ・スカディ。
敵をスキルによって強制的に引き付け、仲間よりも前に出て攻撃を引き受ける絶対守護の盾。
ダンジョンに挑む冒険者たちの中でも、上澄みの上澄みであるレベル7であり、ちょっとあまりかっこよくない経験によってランクアップした、エルフのガチタンクである。
実は正式なファミリーネームは存在せず、ただのナズナではあるのだが、名字がない方が不便だとしてこの名前を名乗っていた。
スカディ。
意味は『傷付ける者』。
忌み嫌われる存在の蔑称として一族全体につけられたものではあるのだが、ナズナは過去に一族が受けた所業に対して特に思うところはない。
だが、これを名乗るたびに約1名物凄い勢いで顔を曇らせる誰かがいるから、わざわざ名乗りで口には出さないという本末転倒じみたことになっているので失敗したかなと反省はしている。
「あ~んっ、もう体がいくつあっても足りなーいっ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」
「くっちゃべってんじゃネェぞ、バカゾネス共!」
指示を受けたアマゾネスの姉妹と、
だが、ダンジョンから産み出され続けるモンスターの群れは一向に減る気配がない。
て言うか増える一方だ。
───ダンジョンは生きている、という言葉がある。
その言葉が真実なのなら、確かに今ダンジョンは明確な意思を持って彼らを殺そうとしているのだろう。
だが、それに抗うのが冒険者という生き物だ。
この場にいる誰一人、諦めるつもりはない。
「リヴェリア~ッ、まだぁー!?」
その悪夢のような光景を前にして、アマゾネスの姉妹の片割れ──ティオナが、陣営の中心で玲瓏な声で呪文を紡ぐ一人の美しいエルフに向かって助けを求める。
「【間もなく焰は放たれる】」
「そうだそうだ!早くしろばーさん!そんなんだから婚期も逃すんだよ!」
ティオナの声に便乗するように、とてもエルフとは思えない下品な野次をナズナが飛ばす。
瞬間的に、リヴェリアの傍に控えているエルフの魔道士たちからの魔法攻撃が殺到した。
「口を慎めこの不敬者!」
「呪われてあれ!呪われてあれ!」
「うるせー!売れ残り共!エルフなんて生娘気取ってるくせに50、40が当たり前の種族じゃねーか!全員じじいばばあだよ!高齢化社会まっしぐらの美男美女詐欺種族が!」
「言ってはならないことおおおおおお!」
「なんならあんたが私を嫁にとりなさいよ!」
『誤射ですが何か?』という澄まし顔で魔法を直に放つエルフもいれば、鬼のような形相で魔法を連射するエルフもいる。
そんな魔道士たちに対して、とあるスキルのお陰で無傷なナズナは元気よく中指を立て爆笑する。
「やれやれ…相変わらずベートと違う方面で口が悪い」
「構ってちゃんじゃからのう…」
団長として足並みを乱す言動に文句のひとつでも言おうかと思ったフィンは、モンスターの殲滅速度が上がったのを確認して一つの溜め息と共に諦める。
「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」
絶世の美貌を持つエルフは、バカの下品な野次とそれに引きずられて瞬間的に知能指数が下がっていく周りのエルフたちの会話に、その柳眉を逆立てながら、それでも力強く流麗な旋律を紡いでいく。
「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」
ナズナはあとでしばく。
そんな思いが強くこもった魔法が間もなく放たれると言うその直前。
『───オオオオオオオオオオオオオオオオオゥッッ!』
フォモールが命の危機を感じたのか、渾身のシャウトと共に仲間をも蹴散らしながら驀進し、盾を構える前衛を吹き飛ばした。
「ベート!」
「ちッ、何やってやがる!?」
フォモールによる決死の突撃によってこじ開けられた防衛線から、数匹のモンスターが侵入する。
それまで前衛に守られていた魔導士たちが青ざめるのと同時に、そのうちの一人のエルフの少女に向かって鈍器が振り下ろされる。
「レフィーヤ!?」
「───ぁ」
仲間の一人が彼女の名前を呼ぶも、少女は自身を見下ろす赤い目玉に射竦められ、回避が遅れる。
怪物が振り下ろす鈍器が、可憐な乙女の脳髄をぶちまけるその直前。
硬直したレフィーヤの目の前に迫るフォモールが、飛んできた巨石…もとい、大盾の一撃で逆にミンチになる。
まさに改心の一撃。
SMAAAASH!!という効果音がふさわしいその一撃は、臓物やらなんやらを撒き散らし、レフィーヤを血飛沫で真っ赤に染め上げる。
「はは…なんですかこれ?ダンジョンって赤い雨なんか降るんですねー…」
乙女に対するあまりにもあんまりな所業に、思わず助けに入ろうとしていたアイズさえもぎょっとした顔で立ち止まる。
「レ、レフィーヤ…?」
「うぼぁ…」
現実逃避に失敗したエルフの口から、諦観のこもった悲鳴が漏れる。
一瞬にしてレフィーヤの目から光が消えたが、くくりつけられていた鎖を引っ張ることで盾を自分の手元に戻した下手人は、『感謝しろよ!』と背中越しにサムズアップしているのが始末に負えない。
「兄さんのバカぁぁぁぁああああ!」
「【レア・ラーヴァテイン】!!」
少女の絶叫に重なるようにして、完成した広範囲殲滅魔法が、五十をも越すモンスターの大群とともにナズナを呑み込む。
無数の炎柱がフォモールたちを一掃し、世界を灼熱に包み込んだ。
「相変わらずバカみてぇな威力だ…」
魔法に巻き込まれておいて無傷。
どころか、暢気にこわ、と自分の肩を抱き寄せる岩の巨人を見て、冒険者たちは戦いの終わりを確信し、武器を静かに下ろすのだった。
「………ナズナ、話がある」
「あ、やっべ」
同時にこのあとのナズナの未来が暗いことを、ファミリアの副首領から放たれる漆黒の覇気を感じて確信した彼らは、功労者である彼へのお礼もそこそこに、首領であるフィンの指示にしたがって移動の準備を始めるのだった。
「あ、お前ら逃げるな!俺を助けろ!」
「ひぃ、巻き込まないでほしいッス!?」
「全員速やかに進軍!一気に50階層への連絡路まで走り抜ける!」
「我が名はアールヴ!」
「はいバリアー!味方からの攻撃はスキルで無効でぇぇぇす!」
「お主らも遊んでないで早くいかんか!」
───これは数多の英雄譚たちの横で繰り広げられる道化芝居。
タンクとか言う地味な役割のせいで見せ場の少ない、起伏の少ない物語である。
最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
たぶんソード・オラトリアの4巻までは行きます。