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記念すべき10話として真面目な主人公を書こうかと思って仕上げました。
アストレア・レコードを全て書こうとするとちょっと洒落にならない話数になるので、だいぶはしょっています。
内容が気になった方はなんと!ダンメモをインストールするとストーリー回想から無料でエピソードを読めちまうので、そちらをご覧ください。
七年前。
それはかつて、悪が幅を利かせていた時代。
多くの者が犠牲になった。
多くの者が戦った。
多くの者が哭いた。
時代はまさに悪の最盛期。
そんな時代においても、ナズナは変わらずタンクをやっていた。
●
嵌められた、とその作戦に参加した冒険者全員が悟った。
作戦は磐石ではないが、勝機は確かに見えていたはずだった。
発見した敵の拠点に攻め入り、同時に罠の可能性も考慮して街にも戦力を残す。
あとは当たって砕けるか、食い破るか。
それでも全員が全力で挑めば、都市に平和をもたらせると誰もが信じていた。
だが。
ああ、だが。
悪はいつだって姑息で、卑怯で、悪辣だ。
「───かみさま」
自爆。
敵意も殺意もなく、正義も悪もなく。
幼子が装置と共に爆ぜた。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
絶望を後押しする悪の嘲笑は止まらない。
爆発は止まらない。
死兵が都市へと溢れかえる。
誰かは言った。
『黒く、厚い雲に覆われて星など見えない』と。
見えていたはずの勝機は幻だった。
悪によって、希望は絶望へと塗りつぶされる。
崩壊の音に、凶悪な土砂の旋律。
爆発が連鎖し、都市を燃やす。
地獄の釜が蓋を開けたように、おどろおどろしい爆炎の色に彩られる。
そんな状況を目の当たりにして、一番最初に動いたのはナズナだ。
彼は都市の誰よりも、今何が必要か理解していた。
同時に、間もなく悪の本命が来るという確信があった。
「ガレス、投げろ。行き先はバベルだ」
「あい分かった───ッ!」
決断は迅速。
返事は一つ。
「【吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ】」
だが、行動したのは二人だ。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
ナズナが背負う大盾に、速度重視で放たれた魔法が衝突。
ガレスに投げられた勢いを後押しして、小さな体をロケットのように吹き飛ばす。
行き先はバベル。
全てを終わらせることのできる女神のもとへ、最硬は着弾した。
「───神フレイヤっ!やるか、やらないか!どっちだッ!」
言葉は少ない。
説得に時間をかけてる暇はない。
だから委ねる。
主神ですらなく、普段から苦手だと公言して憚らない相手に対して、自分達の実力不足に本気の歯軋りをしながら。
「終わらせてくれとは言わねぇ!奴等の本命が来る前に!一瞬の足止めを!」
フレイヤは見た。
その魂の輝きを。
自分の愛しい子供たちに負けずとも劣らない、鮮烈な輝きを。
「───あんたは、あんたの眷族に代わって俺が守る!命に替えても、絶対にだ!」
「いいわ。行きましょう」
美の女神は微笑んだ。
果たして勝利の女神が微笑むかは、神ですらわからない。
●
『都市を襲う理由は、ただの失望の延長だ』
『失望こそが我々を再び英雄の都へと誘い、争乱を呼んだ』
『世界は雑音が多すぎる。ならば間引くしかあるまい』
『俺に喰われたくなければ、来い』
『神時代はもう終わる』
『故に果てろ、冒険者』
戦場という危険地帯で、美の女神として全力を遺憾なく力を発揮できたわけではないが、幹部クラス以外の闇派閥たちはすべて停止した。
美の女神が出てきた瞬間仕留めるつもりでバベルを狙っていた闇派閥からナズナは完璧に守って見せた。
鞍替えさせるほどではない、伝達速度重視の魅了だが、それでも都市を一つ沈黙させるのはさすがの一言だ。
そして、求められた仕事を完璧にこなしたフレイヤは傷はひとつつくことなく、再び安全な場所へといずれ都市最速となる猫人に連れられて移動した。
だが、その女神を守りきったナズナはもうボロボロだった。
「ぐぅぅぅぁぁぁぁぁああああ!」
それは一方的な蹂躙だった。
不条理で、暴虐で、絶望で、死そのものだった。
当たり前だ。
彼はまだレベル5。
頂点にはまだ遠い。
戦場のほとんどが敗北した。
ゼウス・ファミリアのザルドに。
ヘラ・ファミリアのアルフィアに。
闇派閥の妖魔に、殺帝に、神官に。
オラリオは致命的な敗北を喫した。
現オラリオ最強が、ハイエルフが、ドワーフが、白黒妖精が、正義の使者たちが敗北した。
「ナメんじゃねええええええええぞこの野郎!勝ち誇った顔で見下しやがって!」
それでも。
追い討ちをかけるように避難先の協会の上空に出現した三つの魔法を。
才禍の化物による暴虐を。
悪食なレベル7の不条理を。
ナズナはたった一人で引き受けていた。
守護妖精は倒れない。
オッタルがザルドに何度も敗北を繰り返し泥に沈んだように、ナズナもまた敗北を繰り返してきた。
それこそ静寂を相手に。
何度も、何度だって。
だから彼にとって、これはいつものことだ。
「英雄が、失望が、なんだって!?聞こえねぇなぁ!」
岩の鎧はすでに砕け、もはや残るはその小さな体躯のみ。
「チッ…これだからこのガキは!」
「こいつは喰いがいがありそうだ」
悪態をつく覇者を前に、ナズナは吠える。
石を食らい活力を取り戻したナズナが、限界を越える。
静寂の右腕から放たれる音の魔力を、オッタルをも吹き飛ばした大剣を。
その全てを受け止める。
もはや限界どころではなく、理屈を越えていた。
その場限りの大咆哮をあげる番犬が、
それは、意味のないただの時間稼ぎ。
敗北の先延ばしでしかない。
それでも───
「オラリオは負けねぇ!例え今日全員が膝をついても!」
戦場に、活力が戻る。
悪の嘲笑が鳴りを潜める。
「次は勝つ」
ただそれだけ。
敗北という結末は変わらない。
女神フレイヤが戦場に出たことで避難先は守られ、恩恵を失った冒険者たちが逃げる時間を得てなお、数多くの命が失われた。
───妖精は二人の絶対悪によって、ゴミのように吹き飛ばされた。
●
「まったく、ナズナの無茶にはいつも驚かされてばかりだ」
「良くも悪くもな」
あの敗北の日。
ナズナはオラリオの冒険者として意地を見せた。
自分達は抗えると、そう希望を見せた。
フレイヤの魅了による足止め、フレイヤの完璧な守護、避難所を襲おうとした魔法の妨害、士気のぶり返し。
彼の功績は計り知れない。
だが、ある意味で彼は頑張りすぎた。
戦えない生き残りの数が多すぎたのだ。
それこそもはや、いつ爆発してもおかしくないほどの数がオラリオという都市に閉じ込められていた。
闇派閥は現在わざとなにもしていない。
オラリオを包囲し、市壁の上に陣取り民衆へとプレッシャーを与え続けている。
そうなればどうなるか。
答えは簡単だ。
『何とかしなさいよ!あんたたち冒険者でしょう!?』
『みんな死んじまった!ふざけんな!』
『どうして俺たちだけこんな目に遭わないといけないんだ!』
感情は冒険者へと向けられる。
戦ってくれた、庇ってくれた相手を罵倒し、石を投げる民衆に、正義の使者たちは歯を喰い縛り、自分の子供を失った神々は鬱憤を募らせる。
「ハハハ!カスどもが騒いでやがる!狙い通り過ぎて笑えてくるぜ!」
冒険者へと当たり散らす民衆を見てヴァレッタは笑い転げる。
「民衆には、せいぜい冒険者達の足を引っ張って貰わねぇとなぁ~」
悪意は止まらない。
───次は勝つ
だが、まだ誰も諦めていなかった。
●
「殺せ!今すぐやつを仕留めろ!」
「む、無理です!止められない!あんなもの、誰にも───!」
オッタルは目を覚ました瞬間から、衝動の言いなりになっていた。
出くわす闇派閥の部隊を根こそぎ壊滅させる姿は、まさに手負いの獣。
その猛る姿は、敗北を喫したはずなのに悪を震えさせるだけの威容を持っていた。
「やられた腹いせに雑魚を甚振る。……情けねぇ、反吐が出るぜ」
そんな姿を傍観していた影が、戦闘に一段落ついたのを見計らってオッタルの前に現れる。
「アレン……!」
「仇敵だがなんだか知らねぇが本当にただの猪になるつもりか?」
「失せろっ!今の俺に余裕はないっ」
「だろうな。……お前が吹き飛んだ一撃に、お前よりも雑魚のはずのチビエルフは耐えきってやがった。フレイヤ様に傷ひとつつけなかった。俺だったら情けなくて死んでるぜ」
「なに───?」
それは王者のプライドか。
あるいは好敵手への驚愕か。
オッタルの脳裏に、山吹色のエルフの憎たらしい笑顔が浮かび上がる。
───あれあれ?おやおや?オッタルさんってば一撃でノックアウトですかそうですか!これは都市最強の座は俺のもんかなー?んー?
ぐ、と歯噛みするオッタルの前に
「無様だなオッタル」
「滑稽すぎて笑えもしない」
「だが、それはこちらも同じ」
「無様に敗北した僕たちを殺す。そして闇派閥の屑共を殺すための、より強い勇士となって甦る」
小人族の四兄弟が。
「闇派閥は必ず滅ぼす。あの愚劣極まる姉妹もろとも」
「オッタル…今までも本気だったけど、今日は『全力』だ」
白と黒の妖精魔法剣士が。
完全武装した状態で、オッタルの前で武器を構える。
「作戦ならあのいけ好かねぇ『勇者』が立てるだろう。その日まで俺達は殺し合う」
「!!」
「ここがもう一つの『
『戦いの野』。
それはフレイヤファミリアの眷族たちが日夜殺し合いを繰り広げる戦士達の聖域。
それを今、アレンたちは生み出そうというのだ。
『最強』に至るために。
オッタルは少しだけ感動してアレンへの感謝の言葉が溢れる。
「アレン、まさか…俺のために…?」
「ふざけんな!なにがてめえのためだ勘違いするんじゃねえ。全て『女神の意思』だ」
『次代の【英雄】を用意してちょうだい。ゼウスとヘラに借りを返しにいくわ』
オッタルの目が見開かれる。
『それとも、守護妖精の真似は難しいかしら───?』
そして、岩のような拳が有らん限りに握りしめられた。
「構えろ。吠えやがれ!行くぞ───ッ!」
「おおおおおおおおおおおおッ!」
剣撃と槍撃、無限の連携と白黒の魔法。
戦うことしかできない者達の遠吠えが、空を震わせた。
●
「敵の首魁捜索と並行して、廃墟から物資を確保します。食料、装備、なんでもいい!」
団長の死後、新たな団長を任された
「敵は都市を包囲するため、一度制圧した中央広場から撤退した。繁華街を中心に物資の収集を!これが後の命綱になる」
纏まらない思考を無理矢理落ち着かせ、出来ることと出来ないことを分別する。
「護衛は必須です。各隊四人一組でそれぞれの区画に散ってください!」
重圧に抗い、巡る意思へと手を伸ばす少女の声に従って冒険者たちは未来を手繰り寄せるために奔走する。
●
『俺達は負けない!』
『なぁに、ただの偽善者さ』
『止血を!早く!服でもなんでも構わない!清潔な布を!』
『巡り、受け継がれる英雄神話だけは途切れさせてはならん』
『つらくても恥ずかしくても、貴方にもできる正義がある。それを忘れないで』
「───音が聞こえる」
巨大な闇に身を委ねながら。
悪は静かに囁いた。
「あがく音だ」
唇に笑みを刻み、エレボスは噛み締めるように告げる。
「潰されまいと虫のようにもがき続ける───『正義』の音色」
───次は勝つ
───オラリオは負けねぇ!
ほんの少しだ。
本当にごく僅か。
彼がいなくてもオラリオは息を吹き返した。
だが。
少年の咆哮が、冒険者たちの背中を少しだけ早く前へと進めたのは間違いない。
「さぁ、産声をあげましょう!」
「今、ここで!都市のみんなにも聞かせてあげるの!」
「絶望を切り裂く光の歌を!」
「希望をもたらす、『正義』の雄叫びを!」
「───使命を果たせ!天秤を正せ!いつか星となるその日まで!」
「秩序の砦、清廉の王冠、破邪の灯火!友を守り、希望を繋げ、願いを託せ!正義は巡る!」
「たとえ闇が空を塞ごうとも、忘れるな!星光は常に天上に在ることを!」
「女神の名のもとに!天空を駆けるが如く、この大地に星の足跡を綴る!」
『正義と剣と翼に誓って!』
正義の讃歌を歌う少女たち。
重なる声が都市を震わせる。
人々が上げる希望への歓声は、どこまでも鳴り響いていた。
『おはよう世界。体がクソ痛ぇ以外は素晴らしい目覚めだ』
『それで、なぁんで誰もいないんですかね』
『普通こういう時ってベットサイドに俺の手を握ったまま寝てる女の子とかいるもんじゃないの?つーか医者は?』
『あぁ?神フレイヤからの差し入れ?…って媚薬じゃねえか!要らねぇよ!あと誰だ!俺の枕元に鉢植えおいてるやつは!なめてんのか!?』
同時に、バカも目覚めた。
そして、その日の夜、新たなレベル6が産声を上げた。
───大抗争と呼ばれる物語は、最後は正義が勝利して終わる。
文章にしてしまえば、たったそれだけ。
絶対悪として君臨することを選んだ英雄と神がいた。
正義は巡ると信じた正義の使者達がいた。
次代の英雄になると宣言した勇者がいた。
彼らはきっと全員が星だった。
語り継がれるその戦いの名は『正邪決戦』。
未来への意思は確かに引き継がれた。
冒険者は進む。
『黒き終末』を乗り越えるために。
未来を掴むために。
正義は未だ理想に至ってはいない。
それでも。
星々は、今なお空に輝いている────
今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
投稿開始してから一週間、無事毎日投稿することが出来ました。
ここまで頑張れたのは読んでくださっている皆様のお陰です。
正直ここまでの方に読んで頂けるとは想像もしていませんでした。
投稿した次の日の朝には感想がある、評価してもらえる、自分で気に入っているところにここすきが貰えるというのがとても嬉しかったです。
そして、キリがいいので数日休んでからまた投稿を再開させて頂こうと考えています。
忘れられないうちに戻ってきます。
本当にありがとうございました。